超ロボット生命体トランスフォーマーMAGUS   作:雑草弁士

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第009話:危うし絡繰茶々丸

 春の日差しが暖かい。本日の授業が全て終わり、開放的な放課後の時間が流れる。そんな中、千雨はネギ、明日菜、それに加えてオコジョ妖精のカモと言う一団を尾行していた。

 

(……あのオコジョめ。帰りのSHR(ショートホームルーム)のとき、ネギ先生の肩の上で何かしらニヤリと笑った気がした。オコジョの表情なんて解りたくもないが……)

 

 そう、千雨はカモのニヤリ笑顔を見た瞬間、第六感がティンと働いたのである。『奴め、何かやらかす!』と。それで彼女は無線通信で壊斗と話し、小鳥型のスパイ用ドロイド2体を借り出してネギたちの位置を特定。その後はドロイドと自身の知覚力を駆使して、ネギたちの後を尾行していたのである。

 ちなみにネギたちはネギたちで、絡繰茶々丸と言う3-Aのクラスメートを尾行している。茶々丸は先日ネギが惨敗した、吸血鬼でもあり3-Aのクラスメートでもある、エヴァンジェリン・アタナシア・キティ・マクダウェルの従者、魔法使いのパートナーであった。

 

(尾行してる相手が相手だ。奴が考えてる事は、大体理解できるな……。たぶん絡繰がマクダウェルと離れたのをいい事に、絡繰を叩こうって腹だろう。戦術としちゃ、間違っちゃいねえ。だが、それが間違ってねえのは、あくまで戦術としてだけ、だ)

 

 千雨は苛立ちを噛み締め抑え込んで、ネギたちを尾行する。ネギたちは、他者を尾行している自分たちが尾行されているなどとは思いもしないのだろう。千雨に気付く事は無かった。

 

 

 

 ネギたちが尾行する茶々丸は、川沿いの桜並木道を歩いていた。ネギたちは灌木の陰からその様子を窺っている。千雨はそのかなり後ろから、小鳥型スパイ用ドロイドの視界を借りて現場の様子を探っていた。

 と、茶々丸は泣いている幼児……女の子と出会う。どうやら幼女は、風船をうっかり手放してしまい、それが桜の木に引っ掛かって取る事ができない模様であった。

 

「うえーん! うえーん! あたしのフーセン、あたしのフーセン!」

「……」

 

 えぐえぐと泣いている幼女を前に、茶々丸は突如背中から飛行用バーニアを展開。その背中のバーニアと足の裏からジェットを噴いて飛翔し、桜の木の高い枝に絡まっていた風船を回収。幼女へと手渡す。

 

「わーーー!! お姉ちゃん、ありがとー!」

 

 ちなみに茶々丸は、風船を回収する際に額を太い枝に思い切りぶつけていたりする。それを灌木の陰から見ていたネギや明日菜は、茶々丸がロボットだと気付き、愕然としていた。そして更にそれを見ていた千雨は、思い切り脱力していたりする。

 

(おい! 絡繰がロボだってのは、見りゃ解んだろが! って言うか、大丈夫なのか麻帆良!? 認識阻害の結界効果で、ちょっとした異常が異常と認識されないのはわかるよ!? でもソレって一般人、神楽坂とかだけじゃなかったのか!? ネギ先生、アンタは魔法使いだろうが! 見習いとは言えども!)

 

 ひとしきり物陰に(うずくま)って、内心だけで色々罵倒してから千雨は起き上がる。

 

(しかし……。今までは特に知ろうと思わなかったけど、絡繰って本質は善良なんだな……。悪の吸血鬼(笑)の(しもべ)だから、よくある冷血、冷徹、冷酷なロボかと思ってたが……。学校では、大人しく礼儀正しく目立たなく振る舞ってたしなあ)

 

 ネギたちは茶々丸の尾行を再開し、千雨もまたその尾行を再開する。次に茶々丸が行き当たったのは、息を切らしつつ歩道橋を渡っている老女であった。茶々丸は当然の様に、その老女を背負って歩道橋を渡る。

 

「いつもありがとうございます、茶々丸さん」

 

 老女の台詞から判る事は、茶々丸は日頃いつもこの様な、奉仕活動じみた行いをしていると言う事だ。更に幼稚園児ほどの子供たちが、茶々丸の周囲で嬉しそうに、楽しそうに、囃し立てる。

 更に茶々丸は、子猫が小さな段ボール箱に入れられたまま、川を流されて行くところに出くわす。周囲の人々は、どうしよう、大変だ、と驚き騒ぐが、どうにも手を出しかねていた。すると茶々丸は躊躇せずに川に入り、濡れるのも(いと)わずに子猫の入った箱を救出して戻って来る。

 見ていた人々は茶々丸を褒め称え、茶々丸を囃し立てていた子供らは嬉しそうに茶々丸に駆け寄って行った。ネギたちも、その茶々丸の善良さに驚いている。千雨は内心独り言ちた。

 

(め、滅茶苦茶いい奴……。けど、おかげで方針は立ったな。どうやって『戦術としては間違っちゃいない』けれど『それより大きいところで間違っている』絡繰退治を諦めさせるか、悩んでたんだが……)

 

 夕刻になり、近場の麻帆良学園都市のどこかの学校で、時計塔のチャイムが鳴る。茶々丸は一時時計塔に注意を向けると、何処かへと歩き出した。ネギ一党がそれを尾行し、更にそれを千雨が追う。

 そして人気のないとある街角の広場で、茶々丸は手に持っていたレジ袋から、餌皿と猫缶を取り出すと、集まって来た野良猫たちに餌を与え始める。茶々丸の顔には、自身で意識しているかどうかは分からないが、わずかに微笑みが浮かんでいた。

 ネギと明日菜は、感動のあまりに涙を浮かべ呟く。

 

「……」

「いい人だ……」

「ちょっ……!? 待ってくだ……」

「さっきから見てましたが、ネギ先生たち何やってんです?」

 

 カモがネギたちの様子に危惧を覚えて何かしら言おうとした矢先、千雨はそれを見計らって声をかけた。カモは硬直して黙りこくる。

 

「あ、は、は、長谷川さん!?」

「長谷川!?」

「……なんか挙動不審で、絡繰の後を()けてるから、ちょっと不安になりましてね。ネギ先生と、絡繰の主人であるマクダウェル。なんかトラブってるのは噂で小耳に挟んでます。

 ……ネギ先生、もしかしてマクダウェルが居ないうちに、絡繰をやっつけちゃおうとか思ってました?」

 

 その言葉に、ネギと明日菜は硬直する。わかりやすい奴らだ、と千雨は内心溜息を吐く。

 

「まあ、戦術的にはそれは間違ってませんね」

「え……」

「ただし間違っていないのは、単に『戦術的に』、ですけれど。」

 

 千雨は目に力を込めて言う。

 

「ネギ先生、そのやり方は……。『先生として』正しいですか?」

「「!!」」

「まあ『先生』は暴力を振るっちゃマズいとか色々な論はありますけれど。でもぶつからなきゃいけない時は、ぶつかるのも仕方ないとは思います。けれど、卑怯なやり方で『生徒』をやっつけるのは、どうなんです?

 それに絡繰はロボットです。普通なら、命令されたからって悪事に手を染めるのは、駄目な事ですよ。でも絡繰はロボット、マクダウェルの命令に従わなかったり逆らったりと言うのは、『物理的に』不可能なんです。いえ、逆らおうとさえ『思えない』でしょう。不可能なんですよ。

 マクダウェルの命令が無いところでは、絡繰の奴がどんな善良で優しい奴かってのは、見て来たでしょう? ああ言う奴を、マクダウェルの居ないところでやっつけちまうのは、どうなんでしょうね」

 

 そして千雨は、決定的な言葉を叩きつけた。

 

「少なくともわたしは、そんな『先生』に教えられたり、担任になられたりするのは、嫌です」

「……!!」

「ネギ先生……。『先生』って言うのは、難しいですよ。厳しいですよ。単に勉強を教えるだけじゃあ、いけないんです。生徒たちの『先に立って生きざまを示し』て、教え導かなきゃならないんです。ネギ先生だったら、どうですか?勉強が出来て、知識は山の様にあっても、卑怯で不実な人間を、師として仰ぎたいと思いますか?」

「……いえ。長谷川さんの言う通りです。僕が間違っていました。僕は多分、今までは、『先生』は勉強を教えればいい、程度にしか思っていなかったのかも知れません。でも、それじゃいけないんです。

 ……ちょっと行ってきます。」

 

 そしてネギは、隠れていた物陰から出て行く。その行く手には、猫に餌をやっている茶々丸がいる。そして茶々丸が、立ち上がった。

 

「こんにちは、ネギ先生……。油断しました……。でもお相手は……え?」

「茶々丸さん、申し訳ありませんでした」

「え……?」

 

 ネギは深々と、茶々丸に頭を下げる。茶々丸はわずかに目を見開いた。

 

「僕は、茶々丸さんの後を()けて、1人になったらやっつけてしまおう、そう思っていたんです。でも、ある人に言われました。『戦術的には』正しいけれど、『先生として』間違ってる、って」

「……」

「僕は馬鹿でした。そんな事になったら、『先生』失格になったら、僕の『修行』も成果を出せないで終わってしまう……。いえ、『先生』ってのは『修行』の片手間でできるほど甘い物じゃなかったんです。多分……それだけ厳しい物だから、『修行』のテーマとして選ばれたんでしょうけれどね。

 僕は……」

 

 茶々丸はその時、我知らず微笑みを浮かべていた。彼女は言う。

 

「ネギ先生……。一緒に、猫に餌をやってみませんか?」

「え。……はい!」

 

 2人はその場にしゃがんで、一緒に猫に餌を与え始める。

 

「茶々丸さん。僕はエヴァンジェリンさんに、真正面からぶつかってみようと思います。後日改めて、宣戦布告にお伺いするので、エヴァンジェリンさんにお伝え願えますか?」

「はい、その旨マスターに伝えておきます」

「お願いします」

 

 ネギと茶々丸の様子を物陰から見つめつつ、明日菜はほろりと目を潤ませる。彼女は千雨とカモが、いつの間にかその場から居なくなっている事に、気付かなかった。

 

 

 

 夕闇の中、千雨はのんびりと女子寮に向かい、歩いていた。そしてふと、足を止める。

 

「……おい。いつまで付いてきやがる」

「……長谷川の姉ちゃんよ。なんで邪魔をしやがったんでい!」

 

 千雨の後を付いて来ていたのは、誰あろうカモであった。千雨は鼻を鳴らす。

 

「フン、言った通りだ。『戦術的には』正しいが、ネギ先生の目的は『先生として』の修行を完遂し、『偉大な魔法使い(マギステル・マギ)』とやらになる事なんだろ?けれどあそこで絡繰の奴を倒して……破壊してしまえば、『戦術的』には楽になるかもしれんが、『先生として』失格だ。つまりネギ先生的には『戦略的に』敗北となる。

 なんたって、自分から『偉大な魔法使い(マギステル・マギ)』になる道を閉ざしてしまうんだからな。入れ知恵したのはお前か? 『先生』ってのはな、そんな簡単なもんじゃねえんだよ」

「……!! だ、だけどよ! 兄貴はエヴァンジェリンに命を狙われてんだろ!? 死んじまったらお終いじゃねえか!」

「わかんねえ奴だな。死ななくても、あそこで絡繰を殺しちまったりしたら、ネギ先生的には『お終い』なんだよ」

 

 しかしカモは、それでも食い下がる。

 

「そんなの、あんたやアスナの姐さんが黙っててくれりゃ、いいじゃねえかよ! そうすりゃ残るは状況証拠だけだろ!? 言い逃れる事は不可能じゃねえ!」

「そしたら、ネギ先生は……。手前の言う『ネギの兄貴』は死ぬ。お前が殺す事になるんだ」

「!? そ、そりゃどう言う……」

 

 千雨はいい加減、疲れて来た。だがまあ、乗りかかった船だ。溜息と共に言葉を紡ぐ。

 

「はぁ……。手前がネギ先生の事を、兄貴と慕う様になったのは。お前を尋問した学園長からの又聞き、伝聞情報だけどよ。罠にかかった手前を、幼児だったネギ先生が狩人に怒られるのも構わずに、罠から放してくれたからなんだろ?狩人にポカリと一発やられても、言い訳ひとつせずに」

「お……おう! あれこそ漢の中の漢よ! だから俺っちは、あの人のために……」

「けどな。ネギ先生が絡繰を倒してしまって、その事を誤魔化して生きる様になったら……。人間てのはな、流されやすいんだよ。子供だったら猶更だ。

 間違いなく、これから後もネギ先生は易きに流れ、自分と他人に言い訳をして生きる様な大人に成長しちまう。罠にかかった手前を見捨てて、狩人に(おもね)る様な、な。

 ……手前が、そんな『ネギ先生』を『作る』んだ。手前の言う、『漢の中の漢』って言う、『ネギの兄貴を殺しちまって』な」

「!?」

 

 がびーん、とカモはショックを受け、項垂れる。千雨はその様子を白い目で見遣った。やがてカモは、口を開く。

 

「そ、そっか……。俺っちが、間違って、いた……!!」

「わかりゃ、いいんだ。ネギ先生の参謀を気取るんなら、ネギ先生が『先生』としての道を……『漢の中の漢』の道を踏み外さずに、勝利を掴める様な道を献策しやがれ。難しいのはわかるぜ? けど、戦術的勝利と戦略的勝利を取り違える真似は、もうすんじゃねえ」

「へ、へいっ! 肝に命じまして! 長谷川の姐さん!」

「ちょ、待て。なんだその姐さんってのは」

 

 だがカモは、既に走り去っている。千雨はやれやれと、肩を竦めた。




今回はネギ君とカモに、ちょっと色々反省してもらいました。特にカモ。やはりカモ。なんと言ってもカモ。

カモって、困ったもんですよね(笑)。
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