超ロボット生命体トランスフォーマーMAGUS   作:雑草弁士

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今回は、ちょっとばかりアンチ・ヘイトと言いますか、あるキャラに関して厳しめ表現があります。


第013話:覆水盆に返らず

 修学旅行2日目、この日は奈良での班別行動である。千雨の班の班員は、比較的常識をわきまえた面々だった事もあり、普通に旅程を終える事ができた。奈良では例の眼鏡のサル女……天ヶ崎千草の襲撃も無く、千雨はほっと一息吐いていたのだ。

 ……まあ、ネギに宮崎のどかが恋の告白をしたりなど、ネギ周辺では何事かあった模様だ。しかしその様な事は千雨にとっては些末事であった。

 

「今日の所は、特に問題なく終える事ができたなあ……。このまま何事も無く、修学旅行終わってくれりゃあなあ……」

 

 千雨は宿の窓から外を眺めつつ、そう思う。しかし彼女は、その考えを即座に棄却する。

 

(……あの敵は、近衛を狙って来た。近衛は東の組織の理事である学園長の孫であり、同時に西の組織の長である詠春氏の一人娘。なおかつ極東で随一の魔力……ネギ先生を超えるかと言う巨大な魔力をその身に秘めている、らしい。

 ネギ先生の持つ親書も狙われそうだが、それ以上に近衛が誘拐の対象になってるってのは、あいつの複雑な背景が絶対に影響してる。まいったな……。ん?)

 

 この修学旅行の大変さにげんなりしている千雨だったが、その時窓の外に魔力の反応を感知する。一瞬ぎょっとした千雨だったが、それがカモの魔力である事を知ると、溜息を吐いた。

 

(ああ、奴の魔力か。ネギ先生に頼まれて、防御の魔法でも施してやがんのか?)

 

 千雨はそう思うと、警戒を解いた。解いてしまった。後々彼女は、この事を後悔する。千雨のセンサーは、魔力の質や詳細な分布などを読み取る事はできるが、術式に関する情報などは千雨自身に知識が無いため、知る事が叶わないのだ。そのため、千雨にはカモが描いている魔法陣の意味は分からなかったのである。

 

 

 

 その晩の事である。昨晩生徒の多数が某眼鏡のサル女によるイタズラで酔いつぶれ、騒げなかった分を取り戻そうと言う勢いで、3-A女生徒たちは思い切り騒ぎまくった。それが新田先生の逆鱗に触れる。

 3-Aの面々に言い渡されたのは、朝までの班部屋からの退出禁止。部屋から出ているのが見つかったら、ロビーで正座と言う物だった。3-Aの面々はブーブー言うが、千雨からすればまだ優しいと思う。

 ここは麻帆良じゃないのだ。麻帆良にいる時と同じノリで騒ぎまくれば、大恥を晒す事になる。下手すれば、新聞沙汰レベルの大恥だ。

 

「……それなのに。なんでこんな事になるんだか」

「行きますわよ、千雨さん」

「那波か村上かザジでいいだろ!? なんでわたしなんだよ、いいんちょ!」

 

 なんと朝倉和美主催の『ネギ先生とラブラブキッス大作戦』とか言う無茶なイベントが勃発したのである。班ごと2名ずつのチームに分かれ、新田先生の監視の目を潜り抜け、ネギと熱いキッスを交わす事ができればそのチームの勝利、だそうだ。なんと能天気な事か。千雨は頭痛を堪える。

 だがそれ以上に問題なのは、3班のチームのメンツとして千雨が強引に出場させられてしまった事だったりする。同じ3班の班長でもあるいいんちょが、無理矢理千雨を引き摺り込んだのだ。抗弁する千雨だったが、いいんちょは言う事を聞かない。

 

「皆さんは遠慮なされたんですもの。千雨さんが最後の砦なんですわ!」

「わたしだって遠慮するよ! それにわたしには……!」

 

 千雨の脳裏に、とある人物の顔が()ぎる。彼女は思わず赤面し、頭をぶんぶんと振った。

 

「と、とにかくネギ先生とキスはしたくねーの! 別な奴誘ってくれよ!」

「往生際が悪いですわよ!? キスはしなくても、いえ、しないでくださいまし! わたくしを援護してくだされば良いんですの!」

「とほほ……」

 

 クラス委員長たる雪広あやかの怒涛の押しに、結局は流されてしまう千雨。彼女は溜息を吐きながら、仕方なしにいいんちょに従って歩き出すのだった。

 

 

 

 千雨は体内のセンサーを最大感度にして、周辺の気配を探りながら廊下を進んで行く。いっその事、センサーで知覚した新田先生にわざと見つかってしまう様なルートを取ってやろうか、とも彼女は思った。だが、やはり嫌々参加させられたゲームで正座の罰をくらうのは、理不尽な気がする。

 

「いいんちょ。やっぱりわたし、帰っちゃだめか?悪い予感がするんだよ」

「駄目ですわ! わたくしたちでネギ先生の唇を、なんとしても守り通すのです!」

「うわぁ……」

 

 千雨は肩を落として、いいんちょと歩き続けた。

 

 

 

 そして今、千雨の足元には爆発で煤けたいいんちょが横たわっていた。いいんちょは何故か現れたネギの偽物にキスをして、その爆発に巻き込まれたのである。と言うか、何故ネギの偽者が出現したのかが、千雨にはわからない。一応ネギの魔力で顕現した式神の様ではあったのだが。

 

「やれやれ……。ん?」

 

 ロビーまでいいんちょを引き摺って来てソファに寝かせていると、そこへ綾瀬夕映と宮崎のどかがやって来る。夕映は千雨を見ると、のどかをかばって戦闘態勢を取ったが、千雨は両手を上げて戦意が無い事を示す。

 そして旅館の外から、ネギがちょうど帰って来た。そしてネギとのどかは、互いに顔を合わせると赤面する。夕映に目をやった千雨は頷いて苦笑した。一方の夕映は、一瞬目を丸くしたが目礼を返して来る。

 千雨はネギとのどかの邪魔をしない様に、足音を立てずにその場を立ち去った。だがその場を離れて少々、彼女は驚く。

 

(な……!? この魔力の反応は……!! そういや、いいんちょがネギ先生の偽者にキスした時も、なにやら弱いけど似た反応が!)

 

 カモが宿の周辺に敷いた魔法陣と、千雨は知らないが夕映の策略でキスしてしまったネギとのどかの居るあたりから、バリバリと魔力の反応がしている。千雨は内心で毒づいた。

 

(何が……。起きてやがる!? あのオコジョ、何をしやがった!?)

 

 千雨は呆然と立ち尽くす。そして苛立たし気に首を振った。

 

 

 

 新田先生により朝倉和美以下ゲーム参加者がロビーで正座させられた翌朝、和美とカモはネギ一行から注意を受けていた。理由は宮崎のどかとネギの仮契約(パクティオー)を強行した事である。カモが描いた魔法陣の範囲内でネギと口づけをする事により、被施術者であるのどかは強制的に、ネギの『魔法使いの従者(ミニステル・マギ)』にされてしまったのだ。

 ネギたちはのどかに対しては、危険に巻き込むわけにはいかない、という理由でネギの『魔法使いの従者(ミニステル・マギ)』になった事は教えない方針である。まあ当然の事だろう。相手の承諾も無しに、強引にパートナー契約を強行するなど、許される事ではないはずだ。

 

「……」

 

 ネギたちの和美やカモへの注意と、彼等の相談が終わった。彼等はその場から三々五々、解散して行く。と、和美とカモの頭に何やら紙を丸めた紙(つぶて)がぶつかる。怪訝に思った和美とカモが、紙(つぶて)が飛んできた方向を見遣ると、廊下の曲がり角の陰に半身を隠した千雨が手招きをしている。

 

(うぇ!? な、なんか長谷川怒ってる)

(げっ……。長谷川の姐さん……)

 

 1人と1匹は、千雨を無視するわけにもいかず、そちらへと向かった。そして千雨は、和美とカモを白い目で見遣ると、言葉を発する。

 

「おまえら……。話は聞こえてた。えらい事やってくれたなあ……」

「あ、え、ええっ!? ちうちゃ……い、いや長谷川も魔法関係者だったの!?」

「は、長谷川の姐さんっ! バラしちまって、いいんですかい!?」

 

 千雨はフンと鼻を鳴らす。

 

「わたしは魔法関係者じゃない。ちょっと特殊事情があって、魔法使い側の事を幾ばくか知らされてるだけだ。ちなみにネギ先生は、わたしが魔法使い側の事情とか知ってるのを知らないし、お前がネギ先生にバラす事も許さないからな、朝倉。

 それより、宮崎の仮契約(パクティオー)とやらの件だ。手前ら、何考えてやがる。戦う力の無い奴を騙して、無理矢理に『魔法使いの従者(ミニステル・マギ)』にしやがって。……何考えてやがる!」

「ちょ、そんなに怒る事……」

「魔法の世界ってのはな! 危険なんだ! 生きるか死ぬかって事態が、そこいらに転がってるんだよ!」

「長谷川の姐さん、そりゃ大げさ……」

 

 ギロッ!

 

 千雨の一瞥(いちべつ)に、カモの反論が止まる。千雨は大きく深呼吸して、必死に自分を抑えた。

 

「……ふう。……5万オコジョドル、だったか? 仮契約(パクティオー)1回の報奨金。日本円で1万円か。それとトトカルチョの食券分の儲け……。朝倉ぁ……。手前は、たかがそんだけの金で、クラスメートを……宮崎を魔法の世界に売り飛ばしやがったんだ。裏の世界に、な」

「む……。そんな大仰な事かな」

「!! ……そんな大仰な事なんだよ!! ……わかった、もういい。お前らにゃ、何言っても無駄だな」

「「え……」」

 

 千雨は和美とカモを、軽蔑しきった目で見遣ると踵を返す。和美は慌てて呼び止めようと、右手を千雨の肩に伸ばした。

 

ビシッ!

 

 そして千雨の右手が一閃し、和美の手が振り払われる。

 

「……!!」

「……触るな。吐き気がする」

「な、そんな言い方……ヒ!?」

 

 和美は、千雨の殺気が込められた視線に後ずさる。そして千雨はスタスタと早足で立ち去った。和美とカモは、呆然としている。

 

「……何なんだよ。あの態度」

「魔法の世界っつったって、まあ多少は危険かもしれねえが、そうそう命が危うい事なんてねえだろに」

「……わかって無いですね」

「「え゛」」

 

 千雨が立ち去った方の廊下の曲がり角から現れたのは、桜咲刹那だ。刹那は眉を顰め、和美とカモを見つめる。

 

「あなた達がまだちょっとわかって無いんじゃないかと思ったので、苦言を呈しに来たのですが……。まだ見習いのネギ先生の前で、あまり厳しい事を言うのも何かと思いましたし。

 けれど、ここまで理解してなかったとは。ことにカモさん、あなたは魔法の世界にもある程度の知識がある。けれどそれ故に、魔法の世界を見くびってますね」

「「……」」

「長谷川さんがわたしとすれ違う際に、『もうあいつらと話したくねえから、頼む。わたしの事は知らされてんだろ?』と仰ってましたから。話させてもらいます。

 長谷川さんは、春先に魔法関係の事件に巻き込まれて、死にかけたんです。だから魔法関係にまつわる危険には、過敏になってるんですよ」

「「!!」」

 

 和美とカモは、驚く。カモはだが、叫んだ。

 

「だ、だけどよ! 死にかけたって言っても大したこと無かったんじゃねえのかよ!? 見たとこ五体満足で……」

「それは治療が奇跡的に功を奏したからだ、と上からは聞かされてます。……聞かされた話では、長谷川さんは片脚を斬り飛ばされた上に、火炎放射器の様な炎で全身を焼かれたそうです。実際、麻帆良の魔法使いたちは長谷川さんの片脚を確保してます。

 いいですか? 長谷川さんは本気で死にかけたんです。少なくとも、片脚は『くろーん培養』でしたか? それか何かで、作りなおされた物のはずです。それに全身の皮膚も。そんな大怪我を負って、殺されかけたんです。

 魔法の世界ってのは、危険なんですよ。それをあなたたちは軽く、どころか甘く見て……」

「……! は、長谷川!」

「何処へ行くんです」

 

 小走りで千雨の後を追おうとした和美の片腕を、刹那が掴まえる。

 

「はなしてよ! 長谷川に謝らないと……」

「手遅れですよ」

 

 刹那は冷たく言う。和美は凍り付いた。

 

「!」

「それに長谷川さんでしたら、『謝る相手が違う』と仰るでしょうね」

 

 深々と溜息を吐くと、刹那は言葉を続ける。

 

「あなたたちは、やってはいけない事をしてしまった。分かりやすく言えば、宮崎さんをヤクザに紹介した様な物です。ヤクザにも、古き良き任侠とかは居るかも知れません。ですが、そんな人たちでもヤクザ同士の抗争はあるでしょう。

 少なくとも、身を護る術も無い中学生の女の子が、銃撃戦に巻き込まれると同じ程度、死の危険にさらされる恐れは、現実問題としてあるんです。……それが魔法の世界、です。カモさんは、ぬるま湯レベルの魔法世界のうわっつらに浸り過ぎてて、わかってなかった模様ですけど」

「あ、あ……」

「お、俺っちは……」

 

 そして刹那は、カモを清冽な瞳で見つめる。

 

「カモさん。今後、よけいな事はしないでください。二度と。二度としないでください。あなたがまた何かやったなら……。

 あなたを人に(あだ)なす妖物として、討ちます。神鳴流剣士として、あなたを討ちます。……覚えておいてください」

 

 そう言って刹那もまた、その場を立ち去る。後に残された和美とカモは、深い悔恨に包まれて立ち尽くすだけだった。




今回千雨が切れたのは、やはり彼女もまだ所詮年若い少女でしかないからですねー。そうそう相手を思いやってと言うか、言ってわからない相手に対し落ち着いて相手をするのは難しいんですよね。
ちなみに刹那も、魔法の世界の危険さについては千雨の事件が起きた際に、麻帆良での上役などから改めて訓示されたりしてます。その事もあって、原作本編ではなあなあで済ませていた和美とカモの行いについて、改めて言い諭しに来たわけですね。

ちなみにこの話、何度か書き直しました。カモと和美に対して、過剰にヘイトになっていないかと悩みまして。ソフトにしようと頑張って見たのですが、本作の千雨の立ち位置からすると、これ以上ソフトにするのは難しかったです……。
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