超ロボット生命体トランスフォーマーMAGUS   作:雑草弁士

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第015話:鬼神に挑め

 シネマ村での騒動があった日の夕刻、千雨は宿に帰ると瀬流彦先生を探した。彼は先生たちに割り当てられた個室で、何やら報告書を書いている。千雨は声をかけた。

 

「瀬流彦先生。ちょっと今日の事で、お知らせしたい事が」

「あれ? 長谷川君か」

 

 瀬流彦は、最初いつもの『へにゃっ』とした感じの緊張感が無い笑顔を浮かべていた。しかし千雨の厳しい表情に何か感じ取ったのか、『キリッ』とした表情に切り替える。いつもこの表情でいれば、さぞかしモテるだろうに、と千雨は思った。

 

「瀬流彦先生、今日街中で、魔法関係の騒ぎがありました。近衛を狙ってる連中は、手段を選ばなくなってるみたいです。一般人であるいいんちょ……雪広が、妖怪の攻撃で気絶させられました。

 まあ怪我とかはさせない程度に最低限の配慮はしてたみたいですが、魔法の秘匿とやらにとって危険なレベルであった事は間違い無いです。学園長先生に瀬流彦先生から報告していただけませんか?」

「……そうか。学園長先生が、長谷川君には一応の説明とかしてたって言ってたもんね。と言うか、説明しとかないと長谷川君の場合は逆に危ないって……。

 わかった。僕から学園長先生には話を通して置くよ」

「お願いします」

 

 千雨は用が済んだら、さっさと立ち去ろうとする。しかし瀬流彦が、それを呼び止めた。その表情に、悲痛さがある。

 

「あ、長谷川君ちょっと待ってくれ……。

 その、以前の妖怪騒ぎの時は、申し訳なかった。本当に、済まない……。人払いの結界があるからと油断していた僕たちのミスで、君を危険に晒してしまった……。本当に……」

「いえ……。

 大怪我は負いましたが、何とかこうして回復もしましたし。それに学園長先生からも、ちゃんと謝罪していただきましたから。第一わたしの様な特異体質がいるなんて、知らなかったんでしょう?

 何より、もう済んだことです。全く気にされなかったら腹が立ちますが、そこまで気にされるのも逆に気が重いですので」

 

 千雨はふっと柔らかい笑顔を浮かべつつ、瀬流彦に返答する。瀬流彦はまだ若く経験不足だが、きちんと職務をこなそうと言う生真面目な姿勢、そして目下の者にも失態を素直に詫びる善性と柔軟さは、好感が持てた。

 

「そ、そうかい?」

「そうです。じゃあ、学園長先生への連絡はお願いしますね」

「ああ。任せてくれ」

「では失礼します」

 

 今度こそ、千雨は瀬流彦の個室を辞去した。

 

 

 

 風呂上がりの千雨は、班毎に割り当てられた部屋で休息を取っていた。ちなみに気まずいのか、和美は他の部屋に行っている。多分、就寝時間まで戻って来る事は無いだろう。千鶴が少々しょんぼりしているのは申し訳ないと千雨は思うが、彼女にどうにかできる事でもないし、正直どうにかしたくもない。

 と、そのとき壊斗から通信が入った。同時に、ネギに付いて行かせたドロイドから緊急連絡が入る。

 

『ハセガワ、緊急事態らしい』

『今わたしにも連絡が来た!』

『ああ。関西呪術協会の本山が、例の白髪の少年に襲撃を受けた様だな。と言うか、ドロイドも撃破された様だ。今しがた、通信が途絶えた』

『なんか敵は、他者を石化させる術を使うみたいだな。ドロイドはそれに巻き込まれたっぽい』

 

 通信の向こう側で、壊斗が不敵な笑顔を浮かべた雰囲気がした。

 

『……行くんだろう? 関西呪術協会本山の上空で落ち合おう』

『わかった!』

 

 千雨は部屋を出ると、旅館の外へ向かい駆け出す。しかしそこで、長瀬楓、龍宮真名、古菲の3人が旅館を抜け出すのを発見、慌てて物陰に隠れた。

 幸い彼女たちも急いでいたらしく、楓がちょっとばかり千雨の隠れた方を見ただけで、走っていってしまった。それを見送った千雨は即座にロボットモードになり、宇宙戦闘機形態にトランスフォームする。

 

「スーツオン! プリテンダー! トランスフォーム!」

 

 そして千雨が変身したサウザンドレインは、超音速で関西呪術協会の本山、炫毘古社へと向かった。

 

 

 

 関西呪術協会本山の上空で、サイコブラストとサウザンドレインは合流する。

 

『遅くなって、ごめん! ちょっと出がけに他の奴らに見つかりそうだったんだ』

『いや、俺も今来た所だ。気にするな』

『ところでサイコブラスト、敵の石化の術の対策はどうする? メカであるドロイドがやられたって事は、下手するとわたしらでも石にされかねないんじゃないか?』

 

 サイコブラストはちょっとばかり考えるが、すぐに答えを返す。

 

『基本的に魔法の類は、フォース・バリアーで防げる事がわかってる。事実、昼間の戦いであの眼鏡のサル女や、白髪の少年の魔法をバリアーで回避したからな。

 一部の特殊な物はともかく、今回はバリアーでなんとかなるだろう』

 

 彼らはロボットモードにトランスフォームし、着陸する。そして人間形態に変わり、西の本山である炫毘古社の中を確認した。

 

「……宮崎が石にされてやがる。だから言ったんだ、ちくしょう! ……あと、以前に資料で見せてもらった西の長、近衛詠春も石化状態か。それにここの人員らしき巫女さんやら何やら。

 ただネギ先生に神楽坂、近衛、桜咲、綾瀬がいない。石にされた奴は、魔法使いたちに任せれば元に戻ると信じたいが……。くそっ!」

「行方が分からん連中についてだが、魔力や気を探るセンサーは、まだ性能がそこまで高く無いからな……。精度はともかく、感知距離はそこまで長くない。そいつらが何処に行ったかを探るには……」

 

 千雨は眉を顰めつつ、首を傾げて問う。

 

「普通の生命反応を探るんじゃ、だめなのか?人間サイズの生命反応を探せば……」

「野生動物を誤認するかもしれんが……。まあ、やってみるか。めぼしい反応の位置を、手分けして当たればいいだろう。

 ……あまり気に病むな。石になった連中からも、生命エネルギーの反応はちゃんと出ている。死んだわけじゃ無い。きっと治る。魔法使い連中で無理だったとしても、その時は俺が治す方法を研究する。時間はかかるだろうが……」

「……ああ。それじゃ、他の奴らを探しに行こう。

 スーツオン! プリテンダー! トランスフォーム!」

「スーツオン! プリテンダー! トランスフォーム!」

 

 そして宇宙戦闘機形態になったサウザンドレインとサイコブラストは、手分けして近場の生命反応の位置を調べるべく、分散して飛び去った。

 

 

 

 サイコブラストからの通信が、サウザンドレインの脳裏に聞こえる。

 

『第1ポイントの反応は、ただの野生動物だった。これより第3ポイントへ向かう』

『そっか。第2ポイントも違った。第4ポイントへ向かうよ』

『……第3ポイントも動物だ。第5ポイントへ向かう』

『第4ポイントも駄目だった。第6ポイントへ……』

 

 ちなみにサイコブラストが奇数番号のポイントを、サウザンドレインが偶数番号のポイントをチェックしている。しかし今のところ、捜索対象は発見できていない。

 だがここで、サイコブラストがようやくの事で、全員ではないにせよ対象者を発見した。

 

『待て、第5ポイントで、2名発見した。3-Aのリストにある神楽坂明日菜と桜咲刹那だ。妖怪らしき大群……100体ほどの鬼に囲まれている。

 あとは……。お前が戦った、月詠とか言う敵が……』

『ち、そいつは厄介だな』

『む、3-Aのリストの龍宮真名と古菲が助けに入ったぞ。ただ、ネギ少年に近衛木乃香、綾瀬夕映が見当たらん』

『長瀬は居ねえのか? たしか旅館を出る時に、龍宮や古といっしょに居たのを見たんだが。……それとも、長瀬は綾瀬かネギ先生の方に回ってるのか?』

 

 サウザンドレインが考えを巡らせている間に、サイコブラストが方針を決定した。彼はサウザンドレインに通信でその方針を伝える。

 

『俺はこのまま介入するから、サウザンドレイン、お前はそのまま捜索を続けてくれ』

『わかった! じゃあわたしは第6から先のポイントを順に回る!』

『了解だ。では介入開始と行くか』

 

 サイコブラストの介入があるならば、あちら側の情勢はおそらく心配はいらないはずである。サウザンドレインは、そのまま調査を続けた。

 

 

 

 ネギは絶望的な局面に居た。敵の魔術師である白髪少年を上手くひっかけて、遅延呪文(デイレイ・スペル)の『戒めの風矢(アエール・カプトウーラエ)』にて捕縛、身動きを取れなくしたまでは良かったのだ。だがしかし、彼は一歩及ばなかった。

 天ヶ崎千草が木乃香の魔力を利用して、千六百年前に打倒されたとの伝説がある巨躯の大鬼『リョウメンスクナノカミ』を召喚したのである。ネギは必死に、自身が現時点で使える最大呪文、『雷の暴風(ヨウイス・テンペスタース・フルグリエンス)』を行使。

 しかし……。ネギが全力を振り絞ったその魔法は、あっさりと『リョウメンスクナノカミ』に(はじ)かれてしまう。ネギを嘲笑い、もう怖い物は無い、東に巣食う西洋魔術師どもに一泡吹かせられると高笑いする天ヶ崎千草。あげくに白髪の少年も、『戒めの風矢(アエール・カプトウーラエ)』を破り戦線に復帰してしまう。

 

「善戦だったけれど……。残念だったね、ネギ君……」

 

 白髪の少年は、全力を出し尽くして身動きの取れないネギに向かい、ゆっくりと歩いて来る。今まさに万事休すか、と思われたその時だった。白髪の少年が、天空を仰ぐ。

 

「!?」

「え……」

 

 一条の閃光が……輝きの巨槍が、超音速で突っ込んで来たのである。その光の槍は、狙い過たず『リョウメンスクナノカミ』の胸元を貫く。『リョウメンスクナノカミ』の胸板に大穴が開き、次の瞬間その全身が衝撃波で爆散した。

 天ヶ崎千草の悲鳴が響く。

 

「あわびゃあああぁぁぁーーー!?」

 

ドッボオオオォォォン……。

 

 千草は『リョウメンスクナノカミ』召喚の儀式場になっていた湖の湖面に落着、派手な水柱を上げた。この騒ぎを引き起こした光の槍は、大きな円弧を描いて上空へと舞い上がって行く。そして響く変形音。

 

ギゴガゴゴゴ……。

 

 そこに存在したのは、黒い女性的なラインのボディ、あちこちに走る青と銀のアクセント模様、そして紫のデストロン軍団のエンブレム……。全高10mばかりのその巨体は、誰あろうサウザンドレインのロボットモードであった。

 そう、サウザンドレインは巨大な化け物……『リョウメンスクナノカミ』が出現したのを察知し、慌ててこの場に急行したのである。そしてネギがピンチになっているのを見て、必殺技で……宇宙戦闘機モードでフォースバリアーを円錐(コーン)状に機体周辺に展開し、超音速マッハ5.2で突っ込むと言う荒業で、『リョウメンスクナノカミ』を撃破したのだ。

 ちなみに千草の事は放っておいたが、木乃香は無事に救出している。木乃香はトラクタービームで捕捉され、今はサウザンドレインの左腕に抱えられていた。サウザンドレインは、ゆっくりと地上へ降りて来る。

 

『大丈夫か?ネ……少年。たしかわたしのデータベースでは、麻帆良学園の名物教師の1人、子供先生ネギ・スプリングフィールドで間違いないかな?』

「え、は、はい! あ、あなたは!?」

『わたしの名はサウザンドレイン。超ロボット生命体トランスフォーマーだ』

「え゛っ……。だ、誰か人が乗ってるんじゃ無いんですか!?」

 

 自己紹介完了。これでサウザンドレインがネギの事をネギ先生と間違って呼んでしまっても、問題ない。ネギも、そして彼の肩にいるカモも、呆然としてサウザンドレインの巨体を見上げた。そしてサウザンドレインは、白髪の少年に向き直る。

 

『……貴様はこの少女を誘拐した一味だな?』

「……まあ、そうだね。ふう……。計算外な事ばかりだな」

 

 白髪の少年は肩を竦めて言う。

 

「残念ながら『リョウメンスクナノカミ』も倒されてしまったし、もはやできる事も無さそうだ」

『……もしかして、今更逃げるって? やった事の責任も取らず、それは虫がいいんじゃないか?』

「そう言われてもね」

「なら、わたしが落とし前をつけさせてやろう」

「!!」

 

 そう言って、白髪の少年の影から『ぬっ』と出現した者が居た。瞬時に対処せんと身構えようとした白髪の少年であったが、それも叶わずに一撃で大空へと打ち上げられる。打撃をくらった瞬間に、曼陀羅状の魔法障壁が展開されていたが、それもあっさりと破壊されていた。

 ネギが驚いて叫ぶ。

 

「エヴァンジェリンさん!」

「フン、情けないぞ坊や。この程度の輩にいい様にされるなど、不甲斐ないにも程がある。いいか? こう言う輩はこうやって……」

 

 そしてその出現した者……エヴァンジェリンの姿は、瞬時に上空に舞い上がっていた。更にエヴァンジェリンはその拳を、自分が宙に打ち上げた白髪の少年に叩きつける。

 

「……こうしてしまえば良いのだ!」

「……!!」

「「『いや、無理でしょ』」」

 

 ネギの前に落着し叩きつけられた白髪の少年は、バシャッと水滴になって飛び散る。エヴァンジェリンは不機嫌そうに言葉を吐き捨てた。

 

「フン、根性なしめ。幻像(イリュージョン)を使い逃げたか。……奴め、人間ではないな。人形か、あるいは……。ん?」

「お嬢様ーーー!!」

 

 その時、空からもう1体の巨大ロボットが降りて来る。言うまでもない、サイコブラストのロボットモードだ。彼は両腕に、明日菜、刹那、それに龍宮真名、古菲の4人を抱えていた。

 刹那は、サウザンドレインの左手に木乃香が抱えられているのを見ると、慌てて10m近い高さのサイコブラストの腕から飛び降り、木乃香の名を叫びながらサウザンドレインに駆け寄る。サウザンドレインは失笑しつつ言った。

 

『ふふ、大丈夫だ。気絶しているだけで、傷一つ無い』

 

 そして彼女はそっと、木乃香を刹那へと渡してやる。必死で木乃香を抱き取った刹那は、安堵の余り落涙した。

 

「お、お嬢様……。よか、った……」

「ん……。む……? あ、せ、っちゃ、ん?」

「このちゃん……。よかったぁ……」

「えへ……。せっちゃん、泣き虫さんやなあ……」

「このちゃんこそ……」

 

 その場の全員が、微笑ましい気分になった。だがそんな空気も、数分で吹き飛ぶ。ネギでは無いが、ネギと同程度の少年の声が、あたり一面に響いたからである。

 

「う、うわぁっ!? な、なんやこの巨大ロボは!! すげー、すげぇ、すっげぇやんか!!」

「こ、小太郎君!?」

「あー、小太郎。少し静かにするでござるよ。……ではあるが、確かに凄いでござるなあ」

「これは、麻帆良大学部か麻帆良工科大が造ったのでしょうか。いえ、もしかして超さんや葉加瀬さんとロボ工研が? なれどこの様な物を隠れて造ることなどできるのでしょうか。いえ、目の前に存在しているのです。認めがたくても、認めねばなりません。ああしかし……」

「あ、長瀬さん! 綾瀬さんも!」

 

 何で敵対していたはずの犬上小太郎が、友好的な雰囲気でこの場にいるのか、それについてはサウザンドレインにもサイコブラストにも全く分からない。まあしかし、小太郎とネギが戦ったのを知ったのは直接ではなく、ドロイドでの偵察による遠隔情報である。細かい事情など察する事はどうせ出来ないと、2人はあっさり諦めた。

 そう言えば、エヴァンジェリンは呪われて麻帆良に封じられているはずなのに、何故京都に来られたのか。その理由もまったく分からない。しかしどうせ後で、学園長近衛近右衛門に訊ねればいい話である。ふとサウザンドレインが見遣ると、気絶した天ヶ崎千草を茶々丸と何やら小さな少女人形が捕まえていた。

 

『……さて、それでは俺たちはこの辺で失礼させてもらうか』

『だな。じゃあな、あんたら』

「あ、ちょ……」

『『トランスフォーム!』』

 

ギゴガゴゴゴゴッ!

 

 ネギが呼び止めようとしたが、サウザンドレインとサイコブラストは宇宙戦闘機モードにトランスフォームすると、夜空の彼方へと飛翔した。あっと言う間に、現場だった湖が小さくなり、視界の隅に消える。

 

『……そう言や、あの物騒な月詠とか言う女はどうなったんだ?』

『ああ、あれか。なんかあの龍宮真名とか言う娘に向かって『神鳴流には飛び道具は効きまへんえー』とかほざいてたんでな。本当かどうか試してみた』

『何やったんだ……』

『ミサイル。爆発でかなりの重傷を負ったらしく、必死で逃げてったぞ。そう言うわけで、神鳴流とやらにも飛び道具は効くと言う事が判明した』

『いや無茶だろ。って言うか生きてるだけで凄えな』

 

 サウザンドレインとサイコブラストは、各々が宿泊している旅館のある方角へ向けて飛んだ。サウザンドレインのクラスメート、宮崎のどかが石化したままである等の問題は残っているが、とりあえず事態は一段落したのである。




千雨たちの介入の結果、刹那が妖とのハーフである事を明かさなかったとか、刹那や木乃香が仮契約しなかったとか、エヴァの活躍が半分以上潰れたとか色々ありますが、とりあえず『リョウメンスクナノカミ』戦は終了です。
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