超ロボット生命体トランスフォーマーMAGUS   作:雑草弁士

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第016話:さあ、帰ろうか

 旅館に帰った千雨が見た物は、ネギ、明日菜、木乃香、刹那、のどか、夕映たちの身代わりとして創られた式神の、それらが暴走する姿だった。身代わりたちは、送り込んだ関西呪術協会本山の術者たちが石化されたため、スタンドアローンで稼働していたのだが……。スタンドアローンの式神は術者の力量や作るのにかけた手間にもよるが、基本的にちょっとどころじゃなくおバカさんなのである。

 なお、どんな暴走をしているか等は、本人たちの名誉のために触れないで置きたい。決してストリップショーの真似事などをしているとか言ってはいけないのだ。千雨は体内の通信装置で、壊斗に愚痴る。

 

『うわぁ、頭痛え……。どうしたもんだろうな、壊斗……?』

『流石になあ……。いくら俺でも、そこまではどうしようも無い。なる様になるしか無いんじゃないか?』

『だよなあ……』

 

 そこへ村上夏美と那波千鶴がやって来る。

 

「どうしたの、長谷川さん」

「あ、村上か。アレをどうしたもんだろな、と思ってさ」

「……どうしたんだろうねえ」

 

 夏美は溜息交じりに、暴走する式神を見遣る。と言うか、彼女は身代わりの式神を本物だと思っているのだ。本物たちにとっては、エラい風評被害であった。

 千鶴も困った顔をして、頬に手をあてて言葉を紡ぐ。

 

「ネジでも飛んだのかしら」

「あんたもキッツイな、那波……」

 

 結局、口八丁手八丁で瀬流彦先生に頼んで、色々誤魔化すことになった。瀬流彦先生に幸あれ。

 

 

 

 そして昼頃になって、ネギたちの行動が普通に戻った。いや、千雨がセンサーで確認したところ、式神ではなく生身に戻っていたから、おそらくは帰って来た本人たちと入れ替わったのだろう。

 

(……宮崎も、無事に石化解除されたみてえだな。本当に、これで一安心だぜ)

 

 はにかみながらネギや夕映と会話しているのどかを見て、千雨はふっと笑みを漏らす。だが同時に、頭の痛い問題も思い出してしまう。

 

(綾瀬が、魔法の事を知っちまったんだよなあ……。奴の事だから、下手すると自分も魔法使いになりたいとか言ってネギ先生に願い出たりするんじゃねえか? きっちりした覚悟も無しに)

 

 千雨には、その様子が目に見える様だった。ずーん、と肩が重くなる。と、そこへ古菲が声をかけて来た。

 

「どうしたアルか? 何か一身にこの世の不幸をことごとく背負った様な顔してるアルね?」

「いや、古。さすがにそこまでは思ってないからな? まあ、ちょっとばかり不運だとは思わなくも無いが」

 

 自分は関係ない事だ、と無視してしまえれば、どれだけ楽になる事か。いっそそうしてしまおうか、とさえ思わなくも無い。だが現実に問題が発生してしまえば、何故自分は動かなかったのか、と自責の念にかられてしまうだろう事はたぶん間違いが無い事だ。

 しかし今の所は、その様な事は起きてはいないのだし、とりあえず千雨はこの想像を脇に置いておく事にする。そして彼女は古菲に問いかけた。

 

「……そういや古。なんでわたしに話しかけて来た? ああいや、悪いって言ってるわけじゃねえ。ただ、わたしとアンタにはこれまで特に、接点とか無かったからな」

級友(クラスメート)が落ち込んでる顔してるのが気に掛かったのが1つアルね。もう1つは、ちょっと頼みがあるアル」

「あるアルって……。無理に語尾にアルつけなくてもいいんだぞ。それ中国語じゃねえだろ。で、頼みって何だ?」

 

 古菲はにこやかな笑顔を崩さずに、言ってのける。

 

「ただちょっと、手合わせしてみたいと思っただけアルよ。昨日、シネマ村で大立ち回りしたそうアルね? かなりの腕前だったと聞くアルよ」

「……失望させるだけだと思うんだが。わたしは春先から鍛え始めたばかりの付け焼刃で、防具の頑丈さに任せた相打ち戦法だからな」

「それは実際にやってみないとわからないアルね。ケド、たぶん大丈夫アルよ」

「根拠は?」

 

 満面の笑みで、古菲は胸を張る。

 

「ワタシの勘アル!」

 

 あまりの言い草に、千雨は呆気にとられ、そして次の瞬間吹き出してしまう。

 

「ぷっ……。あはは、なるほどな。勘、か。勘働きってのは、大事にすべきだよな」

「む。可笑しく無いアルね」

「悪い。けど面白かったのは確かだが、馬鹿にして笑ったわけじゃねえ。勘ってのは、そいつが今まで生きて来た間の経験則とかの集積物だからな。決して馬鹿にできたもんじゃねえんだ。

 そっか、勘、か。となるとわたしの普段の身ごなしとかに、わたしの格闘の師匠の教えとかが、僅かなりとにじみ出てたのかも知らんな。その教えが、僅かなりとわたしに息づいてたなら、嬉しい事だが」

「……そうアルね。で?」

 

 急に真面目な顔になる古に、千雨は難しい顔を見せる。その表情には、陰が差していた。

 

「……どうしたもんかな。実はな? シネマ村での一件では、ドーピングじみた事やった上での戦闘力なんだよ。わたしの身体に害は無いんだがな。だけどオマエみたいな真っ当な武闘家と遣り合うのに、ドーピングは卑怯だろ?

 それにわたしの技は、ドーピングを前提にした技が多いって言うか、ソレしか無いんだよな。そう言う流派だと思ってくれりゃ、いい。本来なら、表にさらけ出せるもんじゃ無いんだ。だけど前回シネマ村では、緊急事態だったからな……」

「……なるほどアル。うん、それでもかまわないアルね」

「え?」

「故国の拳法にも、毒手拳とかあるアル。人体改造じみた行いをする流派も珍しくないアルね。長谷川、あらためてお願いするアルよ。ドーピング付きで良いアルから、わたしと戦って欲しいアル」

 

 このとき『人体改造』と言う言葉を聞いて、千雨は内心で焦る。この古菲(バカイエロー)、勉強ができないだけで実はとんでもなく鋭いのではないだろうか。まあ千雨は改造どころか、生まれ変わらされた様な物なのだが。

 

「どうしたアルか?」

「あ、いや……。わかった、他人との手合わせの必要性は、わたしも感じてたんだ。こないだのシネマ村の件では何とかなりはしたけど……。不要な攻撃を防具の上からとは言え、何度も受けちまったからなあ。万一相手がこちらの防具を貫ける攻撃してきたら、と考えるとな……。

 わたしも経験を積んでおく必要があるのは間違い無いんだ。古が手合わせしてくれるんなら、ありがたい。ただ、見世物じゃないから……。古がいつもやってるみたいに、衆人環視の中で戦うのは勘弁してくれ。麻帆良に帰ってから、古と2人きりって事で、なんとか頼む」

「了解アルよ!」

 

 本当であれば、千雨は戦いは好きではない。誰かとの手合わせだって、できるなら遠慮したいのが本音だ。だがしかし、自分の置かれている立場の不安定さを、彼女は重々理解している。起こるかもしれない戦いに、備えて置く必要は絶対にあるのだ。

 そう言う見地からすれば、古菲の申し出はありがたい事である。古はストリートファイトなりなんなりで、多くの対人戦闘の経験を持っているのだ。その技術を幾ばくかなりとても盗む事ができれば、非常に助かると言う物であった。

 

 

 

 小鳥型ドロイドで、千雨はネギたち一行の様子を窺っていた。まあ、天ヶ崎千草が捕まって白髪の少年が逃げた事で、これ以上の事件は起こらないだろうと思われる。しかしやはり、用心に越したことは無い。

 そしてネギたちは、関西呪術協会の長である近衛詠春と落ち合った。千雨はそれを、小鳥型ドロイドとの視覚聴覚共有で観察する。無論の事ながら、この情報は壊斗にも送られているのだが。

 詠春は、事件の事後処理についてネギたちに語った。まずは『リョウメンスクナノカミ』についてである。『リョウメンスクナノカミ』は、活動不能にこそなってはいたものの、死んでは……つまり鬼たちの世界に『還って』はいなかったらしい。だが今後数百年から千年以上に渡って活動不能になるほどのダメージを受けていたため、非常に楽に再封印ができた、との事であった。

 

『お前の必殺技を受けても、完全に倒す事は不可能だったか。やはり超常の生き物と言うのは油断ならんな』

『そうだな……。あれで死なないってのは、とんでもねえなあ……』

 

 千雨は壊斗と通信装置で話し合う。だが詠春の話が続いていたので、千雨たちは改めて『耳』を澄ませた。

 詠春の話によると、『リョウメンスクナノカミ』討伐後に現れた犬上小太郎は、どうやらきっちりと降参して帰順したらしい。彼の場合、利用された様な側面もあるのでそこまで重い罰は受けないらしいが、それでもちゃんと処罰があるそうだ。

 そして主犯の天ヶ崎千草だが、こちらについては『まあその辺りは私達にお任せください』と言葉を濁していたが、なんらかの処罰がある事は間違いなさそうだ。もしかしたら、子供たちに聞かせるのを(はばか)って言葉を濁したとすると、千草の行く末は暗いのかも知れない。思い切り。

 エヴァンジェリンが詠春に語り掛ける。

 

「それより問題は、あの白髪のガキか」

「現在調査中です。今の所、彼が自ら名乗った名が『フェイト・アーウェルンクス』であることと……。一か月前にイスタンブールの魔法協会から日本へ研修として派遣されたということしか……」

『嘘、だな』

『え?』

 

 壊斗は詠春の言葉に、嘘がある事を見抜く。

 

『今の台詞だが、音声を解析したところ、若干……。人間の耳では聞き取れない程度のうわずりが。それと近衛詠春本人に若干の発汗、心拍数の微妙な変動、その他諸々があった。おそらく、『~ということしか』分かっていないと言う部分が嘘だ』

『凄えな、壊斗』

『つまりは子供たちに余計な負担、不安を与えないために隠したんだろうが、たぶん近衛詠春はもっと多くの事を知っている。おそらくエヴァンジェリンあたりはそれに気付いているが、問い詰める様子はないな。

 子供たちの前だからなのか、本質的に興味を持っていないのか、その辺は分からんがな』

 

 その後詠春とネギたちは、ネギの父親であるナギ・スプリングフィールドの別荘へ向かう。そちら関係の話を盗み聞きするのは無粋だと思った千雨や壊斗は、ネギたちから小鳥型ドロイドを離し、周辺警戒に集中させたのだった。

 まあ、何も事件は無かったのであるが。

 

 

 

 翌日、東京駅へ向かう新幹線の中で、千雨は窓際の席で飛ぶ様に流れる外の風景を眺めていた。

 

『このまま麻帆良まで帰りつければ、お役御免だな』

『と言うか、わたしたち働き過ぎじゃね?』

『それには完全に同意だ。近衛学園長に、報酬の増額を要求しよう』

 

 新幹線の上空を飛ぶ、宇宙戦闘機モードのサイコブラストと雑談をしながら、千雨は修学旅行の色々な事を思い返す。そして彼女は、頭を抱えた。問題が多かったと言うより、問題しか無い。朝倉和美とカモの事は彼女としてはもうどうでも良いが、他にも魔法関係者以外に魔法の事がバレてしまっている。具体的に言えば、古菲と綾瀬夕映だ。

 それに表向きは魔法の事を知らない事になっている、神楽坂明日菜と長瀬楓の件もある。彼女らは、ネギに同情して魔法の事を黙ってくれてはいる。しかし今回の事で、彼女らは前線に立って戦った。戦ってしまった。このまま『え~? わたしたち魔法の事なんか知りませんよ~』『そうでござるよ~。魔法って何でござるか?』と言うわけには絶対にいかないだろう。

 

『ま、近衛に魔法がバレちまったのは、逆に良い事とも言えるがな』

『そうだな』

『桜咲との仲も改善したし。それに、近衛みたいな才能持ちが魔法に関わらないで生きていくってのは、無理があるんだよな。と言うか、ちょっと前までのわたしみたく、魔法関係に巻き込まれて死にかける事だって無くは無い……。いや、確実にあるだろ』

『実際、今回の件なんかはソレそのものだったろうに』

 

 ここで、車内を巡回していたしずな先生が声をかけて来る。

 

「長谷川さんは起きてるのね」

「いえ、眼が冴えてしまって」

「何なら、毛布いるかしら?」

「いえ。大丈夫です」

 

 しずな先生は、ふっと笑う。

 

「けれどホント、静かねえ」

「あれだけ騒ぎっぱなしなら、仕方ないと思いますが」

「そうねえ……。じゃ、わたしは行くわね」

 

 しずな先生は明日菜とネギが眠っている席へと、新田先生と共に移動する。そしてそこで何やら新田先生と話している様だ。2人の先生は、微笑ましい物を見たかの様に頬が緩んでいた。遅れて瀬流彦先生がそちらへ出向き、運んでいた毛布をかけてやっているらしい。

 千雨は、笑みを漏らした。脳裏にサイコブラストが微笑んだ様子が伝わって来る。

 

 

 

 こうして修学旅行は終わりを迎え、千雨を含めた3-Aの一同は麻帆良へと帰還したのである。




修学旅行編、なんとか終了いたしました。朝倉和美やカモとの仲が致命的に壊れたりとか、色々ありましたが。それと、古菲との手合わせフラグが立ちました。近いうちに、その描写が文中に入るかと思います。
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