ある日の放課後の事である。千雨は壊斗と共に、学園長室でお茶と茶菓子をご馳走になりつつ、学園長と茶飲み話に付き合っていた。ちなみに彼らは、だいたい週に一回程度学園長とこう言う場を持って、互いの情報交換をしている。
「それで学園長先生。近衛……お孫さんは結局どうするんです?」
「うむ、それなんじゃが。木乃香はどちらを学ぶかと聞いたら、是非とも西洋魔術を学びたいと言っておるんじゃよ。まあ、関西で呪術を学ぶとしたら友達とも離れて西に帰らねばならんしのう。
それに呪術を学んでしまえば、木乃香を次代の関西呪術協会の長にしたいと考える連中に、祭り上げられかねん。そう伝えたら、木乃香は絶対に嫌だと言っておったしの」
「ふむ、それは近衛学園長も望むところでは無いのだろう? そう言えば木乃香嬢はしょっちゅうあんたに見合いをさせられていたと聞くが、それはもしや?」
壊斗の問い掛けに、近右衛門は頷く。
「
じゃが、木乃香が旗色を鮮明にし、西洋魔術師の道を進む事にしたんでな。もう関西呪術協会の長になる事は無いし、そうできんじゃろうて。今後は無理に見合い話を押し付けたりはせんよ。心底残念じゃが」
「血の涙を流しながら、言う事じゃないだろう」
「で、お孫さんに魔法教育を施すのは、やはり学園長ご本人が?」
「いや、ワシじゃと日頃の業務が多過ぎるでな。教えてやりたいのは山々なんじゃが。まあ、木乃香が晴れて魔法使いになれたそのときは、ワシの呪文書を贈るぐらいはしてやりたいと思うがの。
他にもワシ所有の魔法関係の品々、死後に全て木乃香に譲ると遺言書も作りなおして、弁護士に預けてあるわい。その弁護士も、魔法関係者じゃが」
つまり近右衛門は、木乃香に自分の全てを遺すつもりであるのだ。そう考えると、魔法使いとしての近右衛門にもそちら方面での後継者が出来た、と言う事であるので、色々な意味で良かったのかもしれない。千雨はそう思いつつ緑茶を啜り、饅頭をぱくついた。
ここで近衛門が、少々悩んだ顔をする。
「しかし、本当に木乃香の師匠は誰にするべきかのう……。いや、それを言うならばネギ君もじゃて。ネギ君は、自身が『リョウメンスクナノカミ』に太刀打ちできず、『フェイト・アーウェルンクス』もトリックで引っ掛けはしたものの実力的には全く及んでおらなんだ事を、随分気にしておる。それで誰か、魔法と戦闘の師を紹介して欲しいと言われたのじゃがなあ」
「いや、『リョウメンスクナノカミ』は無理でしょう。倒したわたしが言う事じゃないかもですが」
「ふぉ、ふぉ、ふぉ。……しかし、どうするべきか。一般の魔法先生ではネギ君、木乃香、どちらも素質が高すぎて教え導こうにも無理があるわい。ワシからきちんと謝礼を支払うことで、エヴァも考えて見たのじゃが……。どう考えても、他の魔法先生や魔法生徒からの反発が予想される。難しいもんじゃのう、困ったもんじゃて。」
「あ、そう言えば」
千雨が上げた声に、壊斗と近右衛門が怪訝な顔をする。
「どうした、ハセガワ?」
「あ、いや。一昨日ネギ先生が、京都で手に入れたとか言う麻帆良の地図を調べててな。ネギ先生の父親が遺した物らしいんだが。ネギ先生の父親は死んだって聞いてたけど、ネギ先生本人は行方不明ではあるが未だ生きてると確信しているらしいんだ。
それでその地図のうち地下部分に、ネギ先生の父親であるナギ氏の手がかりが隠されていたんだが、何かしらその手掛かりがある場所の前に、番人だか番犬だか猛獣の類が配置されてるみたいでな」
「麻帆良学園の地下地図、か。透視や音響探査で俺も麻帆良の地下に巨大な迷宮じみた空間があるのは知っていたが……」
そして千雨は、近右衛門に問いかけた。
「学園長先生、ネギ先生はその事で何か言ってませんでしたか?」
「うむ、言っておったよ。ただ、ワシは行くのを許可せんかった。あそこに居る番犬代わりの
「なるほど」
「いや、待てよ? もしや、あやつなら……? 実力的にも充分……木乃香とネギ君を任せるに足る能力はある……。なれど性格に難が……。ううむ、如何にすべきかのう」
突然近右衛門が考え込み始める。漏らす言葉の内容からして、木乃香とネギの師匠役になる魔法使いに関する事の様だ。だが、実力は確かでも性格に難がある相手だと言う。そんなのを孫娘とその担任教師の、師匠にしても良いのだろうか。千雨は深く深く疑問に思うのだ。
翌日の放課後である。千雨は図書室に寄り道し、本を借り出して寮へと向かっていた。すると前方から、ネギ、明日菜、木乃香、刹那、のどかが歩いて来る。おそらく一度寮に戻って、再度出かけて来たのだろうと、容易に予想は付いた。
「ネギ先生に、神楽坂、近衛、桜咲、宮崎……。どこか行くんですか?」
「あ、長谷川さん」
「そうなんよ。ちょっとおじいちゃんに呼ばれてなあ。図書館島で待ち合わせしとるんよ」
なるほど、この面々は今、妙にしっかりとした装備を整えている。運動するのに都合の良さそうな衣類、軽量のリュックやディパック、のどかは腰にロープ束を携えていた。まあ、木乃香とのどかは、図書館探検部でもあるし。
(って言うか、探検が成立するほどの大規模図書館って何だよ。いや、今更言う事でもないが。
あ、そうか。こいつらは……。神楽坂と宮崎はネギ先生の従者。桜咲は近衛の護衛。そっか、そっか。学園長、こいつらの師匠候補にこいつらを紹介するんだな)
千雨は納得が行った。
「それじゃ、行ってらっしゃい先生方。図書館島、気を付けてくださいね。探検部が2名いますから、言うまでも無いでしょうが」
「はい、ありがとうございます長谷川さん」
「それじゃね」
「ではまたー」
「……」
口々に挨拶やら無言の会釈やらをやって、ネギ先生一同はその場を立ち去る。そしてそれを見送った千雨は、ツカツカと木陰に歩み寄ると、その陰に隠れていた人物に話しかける。
「何やってんだよ、綾瀬」
「は、長谷川さん。いえ、何でもないのです。それでは失礼しますですグェッ」
「いや、完全装備してネギ先生たちの後を尾行して、そりゃねえだろ」
「首が閉まるので襟首を放して欲しいのです」
「手前がネギ先生たちの後を追わないなら、放してやる」
綾瀬夕映は、溜息を吐いて諦める。
「ふう……。皆は行ってしまいましたです。図書館島の何処へ行くのかは知りませんし、もう追いつけませんです……。
長谷川さん、何で邪魔したですか」
「いや、普通だったら邪魔するだろ。何か悪意もって尾行してるみたいだった様に見えるし」
「悪意など……!」
千雨は溜息を吐いた。そして彼女は、夕映に向かい言葉を叩きつける。
「……早乙女や朝倉みたいに見えたぞ」
「な!?」
「仮に悪意が無くても、誰かが内緒でやってる事を暴き立てようってのは、どうなんだ? 誰かが隠してる秘密を無思慮に無遠慮に知ろうってのは、どうなんだ? 必要性も、知る覚悟も無えのに?
お前は違うと言うかも知れないが、
「……!!」
「第一、あいつらは学園長先生に呼ばれて行ったんだ。お前が呼ばれてないってのは、お前が知るべきでは無いって事だろ」
夕映は、顔面蒼白になって必死で自己弁護した。
「わ、わたしがパルや朝倉さんと同類……。い、いえ、そんなはずは……。わたしの知的探求心と、あの人たちの単なる噂好き、享楽的な姿勢が一緒なはずが」
「動揺してるって事は、それを内心で認めてるってこったろ。いや、下手すると欲望丸出しの早乙女よりも、理論武装してる手前の方が始末に悪いかもな」
「!!」
千雨の台詞に、夕映は愕然として崩れ落ちる。大きく溜息を吐いて、千雨は夕映を置いて歩き出した。そして灌木の陰から飛び出しているゴキブリ状の触覚に見えるアホ毛に、ちょっとだけ視線を向けると、彼女はさっさと寮へ帰って行った。
いや、アホ毛の下に早乙女ハルナの身体が続いている事など、千雨には体内のセンサーでわかっていたのだが。おそらくハルナは、ネギたちを尾行する夕映を更に尾行し、のどかと夕映が最近隠している何がしかの事情について知ろうとしていたのだろう。何がしかの事情とは、無論のこと魔法関係についてだ。
(こりゃいよいよマズいかもな……。早乙女が、宮崎と綾瀬を問い詰めでもしたら、あの2人に隠し通せるとは思えねえ……)
千雨は、深く考え込んだ。
麻帆良学園本校女子中等部の女子寮へと歩く、1人の女生徒がいた。名を早乙女ハルナと言う。彼女は残念そうに愚痴を吐いていた。
「いやー、あそこでちうちゃんの邪魔が入るとはねー。のどかと夕映の2人が何か面白い事を隠してるっポイから、現場を捕まえて問いただしてやろうと思ってたんだけどなー」
キイイイィィィイイイン……。
「んー? なんかジェット機でも飛んでる?」
ハルナは上空を仰ぎ見る。そしてその顔が引き攣った。なんか宇宙戦闘機とでも言いたげな形状の飛行機が、なんと彼女目掛けてきりもみしつつ落下して来るのだ。
「なーーー!?」
『と、トランス……フォオオオォォォム!!』
「うわあああぁぁぁっ!?」
ギゴガゴゴゴッ!!
飛行機は墜落する瞬間、何がが軋む様な音を立てて、なんとロボットに変形してハルナの傍らに尻餅を突く様な形で落着した。ちなみにそのロボットは、黒の地に青と銀のカラーでアクセントの入った、10mほどの女性型である。ハルナは腰を抜かした。
「あ、あわわわ……」
『大丈夫か?』
『あ、ああ。済まない』
そこへ今度は14mほどのサイズの、黒の地に赤と金のカラーでアクセントの入った、男性型ロボットが空から降りて来た。男性型ロボットは、女性型ロボットを助け起こす。
『悪い、アクロバット中にバランス崩した』
『気を付けろよ? ……む?』
『な!? まずい、ロボットモードを人間に見られた!』
『いかん、
そして2体の巨大ロボは、燐光に包まれると一瞬で姿を消した。唖然とするハルナ。夢でも見たのかと思ったが、女性型ロボットが不時着した痕跡はたしかに目の前に残っている。ただし、重機が動き回った痕跡にも見えるので、他の人間にこれがロボットの居た証拠だと説明する事は出来そうにないが。
「こ、これは……! 凄い、凄いわ! しかもあのロボット2体、なんかラブ臭を撒き散らしてた!? うーん、創作意欲が湧いてきたわ!」
もはやハルナの頭は、2体のロボットの事でいっぱいになっている。そのため、友人2人が隠し事をしているらしい事は、どこかに行ってしまっていた。
木陰に身を隠してハルナの様子を見つつ、千雨と壊斗は語り合う。
「悪かったな、壊斗。こんな事に協力してもらって」
「いや、構わんさ。あの早乙女とか言うのが魔法関係の事を知ろうとして何かやらかせば、ひいてはお前の身辺まで騒がしくなるかも知れん。
これでしばらくは、あの少女も他の事には気が回らんだろう。あとは俺たちが、ロボットモードをあの少女の前に現さなければいい話だ。ま、一時しのぎでしか無いんだがな」
「そうだよなあ……。やっぱり宮崎と綾瀬は、魔法関係の事を早乙女にバラさずにいられるとは、思えないんだよなあ……」
千雨と壊斗は、その場を立ち去る。千雨の背中は、何とはなしに煤けていた。
そんなわけでして、近衛学園長はネギと木乃香を図書館島の地下深くへ連れて行く事にしました。ネギたちの師匠候補とは、はたして(笑)。
と言うわけで、原作本編と大きくズレが生じました。ただこうなると、エヴァとの縁が薄くなっちゃいますねー。困ったな(笑)。