この日の放課後、千雨は古菲を伴って、麻帆良にある山中へと足を運んでいた。と言うか、千雨に取っては既に慣れた道である。
「長谷川、こんな山奥に来たのは山籠もりアルか? 明日の授業パスするアル? なら泊りの準備して来るべきだったアルかね?」
「いや、日帰り予定だ。帰りは4WDで送ってもらう。ほら、もう目的地は見えて来た。あそこだ」
「おお! こんな山奥に一軒家アル!」
そう、千雨は古を壊斗の家へ連れて来たのだ。理由は、千雨の胴体に金属が入っているのを見破られてしまった件について、古に最低限の説明をしておく事だった。
家の前では2mを超える、黒の革ジャンに黒の革ズボン、黒の革手袋、黒のブーツと言った黒づくめの青年が、わざわざ出迎えに出ている。
「壊斗、待たせたな」
「いや、それほどでもない。お前さんが古菲か、よく来たな」
「長谷川、こちらは誰アルか?」
「前にも言った、わたしの格闘の師匠だ。そして、わたしの命の恩人でもある」
「その前に、俺がハセガワに命を助けられているんだがな」
「???」
古はちょっと混乱していたが、すぐに立ち直る。
「ナルホド! 命を助け合った朋友アルか!」
ちなみに日本人の『友人』と、中国人の『朋友』はかなりニュアンスが違う。中国語で言う『朋友』は、日本のそれに比して関係がもの凄く濃く強いのだ。日本人は『友人』にはできるだけ迷惑をかけたくない、と遠慮するのが美徳とされていたりする。友人同士での金の貸し借りは、避けたりする。
しかし中国での『朋友』は、互いに迷惑をかけ合ってこそ、と言う面がある。『朋友』が金に困っていたなら大金をポンとある時払いの催促無しで差し出し、そして逆に自分が困ったときはその相手が助けてくれるのは当然、と言った具合だ。まあ、これは国民性の違いと言う物もあるのだろうが……。
千雨は先日に中等部図書館で借り出した書籍にその事情が書いてあったため、そのニュアンスの違いを知っている。古菲もまた日本での生活が2年を超え、日本的な美徳と中国的美徳の違いを肌で記憶するぐらいは日本に慣れていた。それ故、古はあえて『朋友』の言葉を使い、千雨もまた古の言ったニュアンスを正確に理解した。
そして千雨は頷く。
「そう、だな。うん」
「やはりアルか!」
頷き合う少女たちを微笑ましく見ていた壊斗だったが、すぐに扉を開いて家の中へ2人を迎え入れた。応接間では、お茶とお菓子の準備ができている。
「遠慮なく食べてくれ」
「おおー、凄いアルね! 何処で買ったアルか!?」
「いや、俺の手作りだ」
「うぉ、流石壊斗……。くっ、女子力で完全に負けている……」
和気あいあいとしたお茶会のさ中、話を切り出したのはやはり千雨だった。
「なあ、古。前に言ってたよな。わたしの腹の中に金属がある件。秘密がある、って」
「……無理に話さなくても、良いアルよ?」
「いや、やっぱり中途半端にバレてるのは座りが悪い。古が秘密にしてくれるなら、ある程度までは話しちまった方がいい。流石に全部は話せないけどよ」
古は、黙って頷く。千雨は壊斗と目を合わせると、口を開いた。
「わたしが春先の事件で怪我した、ってのは聞いたんだろ?」
「
「実はな、その時の怪我、怪我ってレベルじゃなかったんだ。……ぶっちゃけ死にかけた。春先の事件は、魔法関係の事件だったんだよ。
で、この壊斗は実は凄ぇ科学者でな。わたしを改造して命を助けてくれたんだよ。そんなわけで、わたしの身体には、機械が詰まってる。壊斗の身体も機械が詰まってるけどな」
「!?」
まあ嘘ではない。流石に全部を明かすのは、やはりと言うか
「だけどわたしは超人的な能力は得ても、素人だからな。しかも体質的な問題で、魔法関係の事件には巻き込まれやすい。だもんで、訓練してたわけだ。古との手合わせは、ホントにためになった。
古に『防具』って言ってたのは、わたしの身体に埋め込まれた装甲板そのものだったりする。『防具』ってのも嘘じゃないけど、嘘みたいなもんだよな。済まん」
「凄いアルね……。凄いアルね! 改造人間アルか!
「おまえな……。わたしの
古は千雨が某特撮ヒーローであるかの様に熱く語る。しかし千雨は、古の心拍数や発汗が増し、彼女が動揺している事を知覚していた。古は、だがそれでも秘事を明かしてくれた千雨のために、あえておどけた演技をしてくれていたのである。
千雨は、ニカっと笑って見せた。古も一瞬目を見開くが、すぐにニパっと笑う。
「デハ、これはわたし秘密にすれば良いアルね?」
「ああ、頼む。それと、ときどきでいいから、わたしと手合わせしてくれると嬉しい。わたしはまだまだ訓練不足なんだよ。壊斗とだけ組手とかしてると、ワンパターンになるしな」
「喜んでお相手させてもらうアルよ。……ところで、そちらの壊斗殿と、ちょっとだけで良いから、手合わせ願えないアルか?」
その申し出を快く承知した壊斗との手合わせで、手を抜かれたわけでは無いが手も無くひねられた古は、しかし腐る事無く逆に感服した態度を示す。壊斗は感じ入った様子で言ったものだ。『流石ハセガワの友だな』と。千雨は、何故自分が照れなければならんのだ、と思いつつも、何とはなしに照れた。
その後、千雨と古は壊斗の4WDで麻帆良中心部の女子寮近くまで送ってもらった。ちなみに壊斗は運転免許をきちんと持っている。戸籍や住民票をちゃんと造ったので、運転免許を取得する事も可能なのだ。
もう既に、辺りは暗くなっている。おまけに雨も降っていた。
「いや、送ってもらってありがとうアル」
「サンキュ、壊斗。雨が降って来やがったし、助かったよ」
「どういたしまして、だな。……?」
その時、壊斗が怪訝そうな顔をする。
「どうした、壊斗?」
「女子寮の中で、魔力の反応が……。いや、ネギ少年じゃない。未登録反応だ。それと、空間転移現象に伴う空間の歪みが検出された」
「何!? わたしの方のセンサーには何も……」
「いや、今日の昼間、俺の方はセンサーをバージョンアップしたんだ。ハセガワも明日にでもやってやるけど、それで感知力に差が出ただけだ」
古はなんだか分からない顔をしている。千雨が、分かりやすく説明してやった。
「あー、つまりだ古。女子寮になんか怪しい奴の気配があった。だけどもう逃げたッポイって話だ」
「それは一大事アル!」
「とりあえず、学園側に通報して置くべきだな」
壊斗は携帯電話を取り出し、学園長へと電話をかける。その表情は、厳しく顰められていた。
ネギは敵を攻めあぐねていた。彼は彼を助けに来たと言う犬上小太郎と共に、寮から誘拐された明日菜とのどかを追って、学園中央の世界樹前ステージまでやって来たのだ。しかしながら、相手は彼の生まれ故郷の村を滅ぼした爵位級悪魔1体とその僕たるスライム3体。
ネギたちの側は数で劣っている。明日菜とのどかは眠らされ、水牢に押し込められていた。
「ち、邪魔や! この軟体動物ども!」
「
「ネギ!」
今も小太郎の攻撃を潜り抜けて来たスライムが、ネギの呪文詠唱を邪魔する。ネギは歯噛みした。
(く、万が一に備えて木乃香さんの守護を考えて、刹那さんには木乃香さんに付いててもらった判断が、間違ってたとは思わない。だけど、せめてもう1人前衛役がいれば!)
そして老人姿に擬態した悪魔が、
「くそ! 俺、大口叩いといて、自分が情けないわ! せめてあん時に、奴から封魔の瓶とか言うのを奪えとったらなあ……」
「愚痴を言ってても仕方ないよ小太郎君!」
ネギの脳裏に、先日師匠になったばかりの人物の言葉が思い起こされる。
(単に、短期間に強くなろうと思うのであれば、魔法戦士よりも砲台型魔法使いの方がいいですね。白兵戦闘力に問題は抱えていますが、それでもとことんまで鍛え上げれば魔法戦士も砲台型魔法使いも、差は無いですし。事実わたしは砲台型ですが、古今東西の武術も修めていますからねえ。
ですが、砲台型魔法使いを選ぶのは、ネギ君にとっては厳しいかも知れません。砲台型は、同時に全体の司令塔でもありますし。……砲台型魔法使いは、最後衛に位置して仲間に護られます。仲間が傷付き倒れても、それを我慢して仲間を信じ抜き、最後に大きな魔法で局面をひっくり返す。
ネギ君にできますか? 自分が傷つくのは我慢できるかも知れません。でも、仲間が自分の盾になって、傷付き倒れて行くのを、ネギ君は我慢できますか? 自分だけダメージを受けず、仲間が血まみれになるのを我慢できますか? 仲間がやられない事を、仲間を信じ抜く事が、できますか?
仲間を信じる、と言うのが本当に試されるのが、砲台型魔法使いなのです)
実際ネギにできるのは、今現在は砲台型魔法使いとして働く事だけだ。彼は白兵戦闘や格闘戦闘の訓練は、ほとんど受けていない。
「……小太郎君! 大きな魔法を使う! ちょっとの間、何が何でも、敵を通さないで!」
「……応!!」
「ラ・ステル・マ・スキル・マギステル!
そしてスライム連中が襲いかかる。
「そうはさせナイのナ」
「キャハハハ!」
「通すか、この……!!」
そしてネギの魔法が完成した。
「……
「「「!!」」」
「ほう……」
「な!?」
その瞬間、3体のスライムたちは薄い膜状に広がる。そしてネギの放った『雷の暴風』の魔法を包み込む様に抑え込んだ。無論、その程度でネギの魔法は
「
「うぁっ!!」
「がぁっ!!」
スライム3体は消滅したものの、威力が減免された魔法を耐えきった悪魔はすかさず連打で
ダメージに身動きできない2人の少年に、ゆっくりと悪魔は近寄って行く。
「……流石の威力だね、ネギ君。あの子たちを犠牲にした上で、相当なダメージを受けたよ。そして即席のコンビネーションも見事にこなす。素晴らしいよ、
オマケ扱いの任務とはとても思えないほど、楽しめたよ」
「な……。オマケ、や、て?」
「うむ。本来の任務は、麻帆良学園の調査でね? 依頼主からは、あくまでそのオマケ程度に、とネギ君に関する調査を依頼されていたのだよ。
まあ、倒してしまっても良いとは言われていたがね」
「く……」
そして悪魔は老人の姿から、本性である悪魔姿に戻ると、その顎に石化の呪弾を生成する。
『まあ、死にはしないから安心したまえ。永遠に石になるだけで、ね?』
そして、石化の呪弾がネギと小太郎を目掛け、発射された。
まあ、この襲撃の裏には例の『3』が居ます。ですが彼はネギ君に、遅延呪文の戒めの風矢でしてやられはしましたが、ネギ君に直接拳で殴られてはいません。なので原作本編と違い『ちょっと興味はある』程度なので、伯爵にあくまで『オマケ』任務としてネギ君について依頼してます。まあ、明日菜の
でもってバタフライ効果的に、コタ君も封魔の瓶を奪いそこねた代わりに、記憶喪失にはなっていません。