超ロボット生命体トランスフォーマーMAGUS   作:雑草弁士

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第021話:覚悟を決めろ

 爵位級悪魔が、石化の呪弾をその(あぎと)からネギたちに向けて吐き出す。ネギと小太郎には避ける術はない。万事休すか、と思った時であった。

 一条の閃光が(はし)る。石化の呪弾はその閃光と相殺され、撃ち落とされた。爵位級悪魔は急ぎ跳び退(すさ)る。その姿は、老紳士の物へと再度変化していた。悪魔は問う。

 

「……何者かね?」

「ふぉ、ふぉ、ふぉ。それを問われるのは、お主の方じゃて。のう? 不法侵入者よ」

「が、学園長先生!」

「無事かね、ネギ君。いやのう、連絡を受けて慌てて他の手が空いている警備人員を回そうと思ったのじゃがの。なんとまあ、他にも侵入者なりなんなり、色々とあっての。慌ててワシが飛んで来たんじゃよ。

 改めて問おうかの。お主は何者じゃ? そして此度の侵入者などは、お主の手の者かの?」

 

 悪魔はふっと笑い、答える。

 

「これはこれは、近衛学園長とお見受けする。わたしはヴィルヘルム・ヨーゼフ・フォン・ヘルマン伯爵。伯爵などと言っているが、今はしがない没落貴族でね。

 そして、他の侵入者とかは知らないね。おそらくは偶然だと思うのだが。いや本当に」

「ふむ。で、お主このまま素直にワシらの軍門に降るつもりは無いかの? 今なら、そこまでキッツい事にはしないでおいてやるぞい? まあそちらの……」

 

 そう言って近右衛門は、明日菜とのどかが捕らえられている水牢の方に顎をしゃくる。

 

「そちらの女生徒たちを(かどわ)かし、前途ある少年たちを(なぶ)った分の償いは、きっちりしてもらうがの」

「ふむ……。魅力的な申し出だ。だがね……。

 契約に縛られている悪魔は、それに(だく)と言うわけにもいかなくてね」

「ふぉ、ふぉ、ふぉ。それは残念じゃのう。では……始めるとしようか」

 

 近右衛門の言葉に、ファイティングポーズを取りながらヘルマン伯爵は言う。

 

「良いのかね? 貴殿は麻帆良学園最強の魔法使いとは言えど、タイプとしては後衛型だ。その上、歳も歳。前衛無しで、実力を発揮できるのかな?」

「歳の事は、お主に言われたくは無いのう。お互いジジィじゃろうに。それにの……」

 

 そしてその言葉と共に、天空から2人の人影が大地に降り立った。輝くメカニック。まるでパワードスーツか何かを身に纏っている様な姿。当然ながらそれは、バトルスーツ姿のサウザンドレインとサイコブラストだった。

 

「前衛は、ちゃんと居るでのう。舐めるでないぞ?」

「ほう、これは申し訳なかったね」

 

 そして戦いが始まる。

 

 

 

 学園長とその仲間の戦いを見つつ、ネギと小太郎は呆然としていた。ことにネギからすれば、学園長の流れる様な呪文行使と前衛とのコンビネーションは、まさに理想的な砲台型魔法使いの姿に見えた。

 本当は学園長と前衛たちのコンビネーションは、実は即興の物である。しかしそれなのに、阿吽の呼吸で戦いを進められるのは、学園長やサイコブラストの年の功と言えるだろう。サウザンドレイン……千雨はサイコブラストから無線通信で指示を受けていたりするが、ネギたちからはそれは分からない。

 

「……悔しいなあ」

「そうやな……」

 

 ネギと小太郎は、自分たちの力量の無さを悔やむ。うかつに戦闘に手を出せば、学園長たちの邪魔になってしまうのは、目に見えていた。そこへ声がかかる。

 

「悔やんでるヒマがあったら、今の自分たちでもできる事をするアルね」

「古菲さん!?」

「誰や?」

 

 古は、ネギと小太郎を助け起こすと、言葉を続けた。

 

「今のうちに、アスナとのどかを助け出すアル」

「!! は、はい!」

「……そやな。ウダウダ言ってる間に、やれる事やらんとな」

 

 3人は水牢のある場所に走る。ネギが『魔法の射手(サギタ・マギカ)』、小太郎が気弾で水牢を叩き壊した。古菲が、明日菜とのどかの容体を確認する。

 

「……眠らされているだけアルね。ちゃんと医者に診せないと分からないアルが、大丈夫そうアル」

「よかった、明日菜さん、のどかさん……」

「お、あっちも勝負付きそうや」

 

 小太郎の言葉に、ネギと古菲は戦いの方を見遣った。

 

 

 

 爵位級悪魔、ヘルマン伯爵が大地に横たわり、苦しい息の下、言葉を紡ぐ。

 

「やれやれ……。報告はできなかったし、任務は失敗かね。……ネギ君、ちょっと良いかね?」

「……」

 

 ネギが一歩、前に出る。

 

「さあ、トドメを刺したまえ。君の事はいくらか調査させてもらったからね。君が日本へ来る前に、戦闘用呪文を9つ習得しているはずだ。その最後の呪文……。上位古代語魔法……。

 わたしの様な高位の魔物、いや……。わたしたちを……。君の生まれ故郷の村を滅ぼした高位の……爵位級の悪魔を滅ぼすための、そのための呪文のはずだぞ? わたしの様な高位の悪魔は、殺されても召還を解かれて自分の国へ帰るだけだ。長い時間の休眠を経て、復活してしまう」

「……」

「その様な魔物を本当の意味で『殺し』、完全に『消滅』させるための上位古代語魔法。君が復讐のため、血のにじむ思いで覚えた呪文のはずだ。さあ、やりたまえ……」

 

 ネギはだが、首を左右に振る。

 

「何故かね?」

「さっきも貴方は言ったじゃないですか。『契約に縛られている悪魔』って。普通、教唆犯と実行犯では、実行犯の方が重い罪になります。けれどそれこそ実行犯とは言え、召喚された悪魔には、逆らう自由なんて無いじゃないですか」

「……君は、甘いなあ」

 

 だがネギは、それにも首を振った。

 

「そうでも無いですよ。僕は師匠(マスター)の教えで、『覚悟』を学ばされました」

「どんな覚悟、かね?」

「……『殺す覚悟』と『殺される覚悟』、そして『生き残る覚悟』です。魔法を使う者としての覚悟……。それが無ければ、少なくとも師匠(マスター)の門下で学ぶ事はさせられないそうです。

 まあ既に僕は魔法使いであるし、木乃香さんは魔法使いにならなければいけない理由があります。ですから、師匠(マスター)は無理矢理にでも覚悟を決めさせると称して……」

 

 ネギはハハハと乾いた笑いを漏らす。その場の全員が、冷や汗を掻いた。ネギは言葉を続ける。

 

「僕は、僕を殺そうと言う敵……。たとえば貴方たちを僕の村に送り込んで来た敵であれば、殺す事を躊躇いません。あのとき、貴方たちは、村人は石化に留めていたけれど、僕の事は躊躇せずに殺しに来てましたよね?」

「……」

「そう言う命令を下す輩に対してならば、僕は躊躇いません。僕と、仲間を護るために……」

 

 ヘルマン伯爵は、いたましい物を見る様に、ネギの顔を見遣る。そして彼は、学園長に向かい言った。

 

「近衛学園長、この子供が……道を誤る事の無い様に。わたしが言う事でも無いだろうが、ね。そして何時か、ネギ君や小太郎君と再会したいものだよ……。それを楽しみに、今は去るとしよう……」

「言われるまでも無いわい。さっさと逝かんか」

「ははは、聞いたかねネギ君。悪魔に対しては、このぐらいで充分なのだよ。はははははは……」

 

 そしてヘルマン伯爵は、煙になって消滅していった。

 

 

 

 あくる日の事、千雨と壊斗はまた学園長室で、お茶と茶菓子をご馳走になっていた。

 

「そう言えば、ネギ先生たちを師匠役のところに連れて行ったのは学園長先生ですよね? ネギ先生や近衛……お孫さんは、凄絶な覚悟を決めさせられたみたいですが……」

「うむ、アル……アルビレオと言うんじゃがの。いや、クウネル・サンダースと言う偽名を名乗っておるが。アルの奴め……。

 いや、言っておる事は分かるし、正論なのじゃ。腹は立ったが、口は挟めなんだわい。もっとソフトな手段を取ってくれとは思ったが……。ただ、奴め……。面白がってやっておるんじゃなかろうのう?」

 

 近右衛門は、溜息を吐く。

 

「ふう……。いや、の。ネギ君が言っておった通り、『殺し殺される』様な覚悟を決めさせられたんじゃよ。幻を見せられて、の。実際にどの様な幻を見せられたかは、わしも知らん。じゃが……。半泣きどころか全泣きで失禁までして、それでも耐えきったんじゃよ、ネギ君、木乃香、宮崎君はの……」

「宮崎まで、ですか?」

「うむ。彼女は自分がネギ君の従者でありたいが、自身にはあまりに力が無さ過ぎると、彼女自身でアルに弟子入りを願い出たんじゃ。で、一緒に幻覚地獄に落とされての……」

「……分らんでもないな。」

 

 壊斗が呟く。近右衛門と千雨は、そちらを見遣った。

 

「魔法は、俺が調べたり近衛学園長や高畑教諭に聞いた限りでは、幻想的(ファンタジック)な夢の力なんかじゃない。これ以上無いほどに現実的な、ただの暴力装置だ。第一、そうでないと言うならば何故に基本の最低位呪文に、『魔法の射手(サギタ・マギカ)』などと言う殺傷能力のある呪文が存在する?」

「確かに……」

「しかもちょっとした杖、指輪、腕輪などの発動体と呪文だけで、下手な拳銃程度の威力が与えられる。銃器であるならば法律などで規制できるが、魔法はどのようにして規制すればいい? できるわけが無い。それを制するのは、魔法使い本人の意識だけだ。

 で、あるならばそれを学び習おうとする者に、相応の覚悟を求める姿勢は、師として信頼できるだろう。たとえ過程を面白がっていたとしても、少なくとも根底の意識と言う面で」

 

 そして壊斗は千雨に顔を向ける。千雨もまた、真顔になってそれに向き合った。

 

「ハセガワ、俺はお前が将来的に色々な危難に巻き込まれるであろう事を懸念して、戦闘能力のあるボディを与えた。だが、それは扱い方を誤れば酷い事になる。わかるな?」

「……ああ。少なくとも、理性では理解しているつもりだ。あの『リョウメンスクナノカミ』をぶっ潰したパワーを地上の建物とかに向けてしまえば……。そう思うと、怖気(おぞけ)が走る」

「……ハセガワ、ゆっくりで良い。覚悟を持ってくれ。『撃つ覚悟』と『撃たれる覚悟』、そして殺してでも『生き残る覚悟』を。俺が共にあるならば、お前が間違えた時、身を挺してでも制止()めてやる。けれどもし、俺が居ない時……。確たる覚悟を持って、進むと約束してくれ」

 

 千雨は頷く。壊斗の表情も硬い。近右衛門はその様子を見遣りつつ、なんでこんな子供らが、こんなに難儀な目に遭わねばならんのか、と嘆息した。魔法の世界は業が深いのだ。

 

 

 

 千雨と壊斗は、学園長室から退出する。彼女らは、これから壊斗の家へ向かい、その地下にある秘密基地で千雨の体内のセンサー系をバージョンアップする予定なのだ。と、その途中で彼女らは寮へ帰宅途中の古菲と出会う。

 

「よう、今日は中武研無いのか?」

「無いアルよ。これから帰って自主鍛錬アル。ところでアスナが言ってたアルが、ネギ坊主の話を聞いたアルか?」

「何の話だ? って言うか、わたしが魔法関係に関わってる事は、ネギ先生たち知らされて無えんだ。お前も言うなよ? まあ、だからネギ先生周りの魔法関係の話は、こっちまで来ねえんだよ」

 

 古は声を潜めて言う。

 

「いや、ネギ坊主だけど、先日のコタローと仮契約(パクティオー)したそうアルよ」

「ブッ!!」

 

 千雨は吹いた。千雨が知る限りでは、仮契約(パクティオー)の儀式は接吻、キス、口づけである。壊斗も、酢を飲んだ様な顔になった。

 

「ああ、イヤ、なんかネギ坊主の師匠(マスター)が描いた魔法陣で、キスじゃなく長時間の儀式魔法で仮契約(パクティオー)結んだらしいアルね」

「……ああ、驚いたぜ」

「最初はワタシも驚いたアルよ……」

 

 何にせよ、ネギに取っては良い事だろう。特に小太郎との仮契約(パクティオー)時に、あのオコジョがオコジョ妖精で無かった事は、非常に喜ばしい事だった。




なお壊斗は、アルビレオ・イマ(クウネル・サンダース)氏についておもいっきり誤解してます。彼の中では、ちょっとばかり稚気はあるが、厳しく思慮深い師匠になっちゃってます。なんてこったい。
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