古菲を救護室に見舞いに来た千雨と壊斗であったが、古菲は未だ目が覚めていない状況だった。看護師によれば、とりあえず安静にしているが、救急車を呼ぶほどでは無いがタクシーで病院に運ぶ予定だとの事。残念ながら古は二回戦不戦敗となる。
古の枕元で、千雨は壊斗に問いかける。
「……どうだ? わたしにゃ、医学知識はほとんど無いからな」
「そうだ、な。まあきちんと治療を受けて療養すれば、後遺症は無いだろうが……。けっこうなダメージだ」
「そうか……」
「ふむ、ではバレない程度に、そして数時間後ならば派手に動いても大丈夫な程度に、手加減して治療しておきましょうか」
「「ああ、頼む」みます」
「……驚きませんね」
千雨も壊斗も、その突然割り込んで来た第三者に向かって話す。
「いえ、貴方が居らっしゃるのは最初から分かっていましたし。転移してきたのは、誰かに見つかったらどうするのかと思いましたが」
「貴方の外観は、近衛学園長から聞いていた
「コノエモン情報でしたか。それに凄い察知能力ですね。やれやれ、残念です。ここは『何者だ!?』『何が目的だ!?』とか驚いていただけるかと期待していたのですが」
「なにものだー」
「なにがもくてきだー」
「いえ、そんな棒読みで言われましても。思っていたよりも、お茶目な方々ですね」
千雨は肩を竦める。
「いえ、貴方が当初想定していたよりも胡散臭かった事もありまして。心理的な壁を作っておくに越した事は無いかと」
「お茶目なだけでなく、人を見る目もありますねえ」
「……おまけに、懐にその小動物を隠しているのもマイナス点だな。正直なところ、ソレとはもう関わり合いになりたくないのだよ、俺たちは」
壊斗の台詞に反応したか、
「そ、そりゃねえよ! 俺っちは、もう色々と反省して、今も真面目にこのクウネルの旦那の下働きやってんだ! 頼むよ
そこまで言ったところで、元オコジョ妖精にして現オコジョのアルベール・カモミールは忽然とその姿を消す。見ると、
「いや、流石に貴方たちの顔色が不機嫌の限度を超えそうでしたからね。これはまずい、と」
「その判断は、間違っていませんね」
「長谷川さんでしたね? 無理に丁寧な喋り方をする必要はありませんよ。わたしはそんな偉い存在では無いのですからね」
「……わかった。そうさせてもらう。……で、本気であんた、何が目的で来たんだ?」
「これで古菲さんは、数時間もすれば元気に動き回れる様になるでしょう。そしてあと2時間は目覚めません。まあ医者が診たならば、深いけれど一時的なダメージを受けた様に判断するはずです」
「……古の友として、礼は言っておく。ありがとう」
「どういたしまして。でもまあコレは、貴方がたがわたしのお願いを断り辛くするための布石みたいな物ですし」
「自分で言うかよ」
「つまりあんたは、俺たちに何かしら願いがある、と言う事だな。弟子であるネギ少年がらみの事か?」
うさんくさい笑みを浮かべつつ……。いや、そうではないのかも知れない。単にそれは、最初からその形状に作られただけの、笑顔という顔パーツなのかも知れない、と千雨は感じる。
「ネギ君のため、と言えなくもありません。ただ、これはネギ君は間接的に関わる事ですので、違うと言えば違うでしょう。間接的にしては、深く関わってますけれどね。
はっきり言いましょう。貴方がたの科学……。未来なのか宇宙由来なのか、それとももっと何処か別の『場所』から来たのかわかりません。ですがわたしは、そんな貴方がたの科学技術の助力を欲している。……わが友、ナギ・スプリングフィールドのために」
「「!!」」
千雨は精神的に疲弊して、武道会観戦者のための一般席へと戻って来た。当然ながら壊斗も一緒だが、彼もまた難しい顔をしている。
「とんでもねえ男……だったなあ」
「近衛学園長……。アレをネギ君の師匠にしたのは、英断だったのかそれとも……」
そこで千雨が、妙な事に気付く。『まほら武道会』出場選手の高音・D・グッドマンが、放心状態で一般席に居るのである。
「ありゃ? 何でグッドマン先輩が一般席に居るんだ?」
「あ、長谷川さん! えっと、水谷さんも」
「よお佐倉。どうしたんだ?」
「いえ、実は……」
佐倉愛衣の話によると、事は簡単……と言って良いのかわからないが、まあ単純であった。まずは一回戦の第五試合、これは高音と一般格闘家の男子高生アマレスラー星井正兼であった。女子高生に合法的に組み付けるとあって、嬉々としてタックルを仕掛けてきた星井だった。
だが高音はこっそりそこはかとなく全身を影の戦闘服で覆っており、その見た目テレフォンパンチ、威力は象の突進レベルの拳を星井に見舞う。星井はにやけたいやらしい笑顔を浮かべたまま、星になった。きらーん☆と。星井に全く同情しなかった全観客からの歓声を浴びて、高音は闘場である舞台を降りる。
まあ、ここまでなら然程問題では無い。問題は次の第六試合であった。そこで登場したのは、田中さんと呼ばれるグラサンの2m級マッチョダンディーと、剣道部の辻部長である。辻部長は当初、果敢に木刀を構え、突進しようとした。
そして田中さんの秘密兵器が発動する。両腕がワイヤー付きロケットパンチとして飛び出し、辻部長の機先を制した。両腕による2連ロケットパンチに驚愕し、必死に防ぐ辻部長。田中さんは機体番号『T-ANK-α3』と言い、工学部で実験中の新型ロボット兵器だったのだ。
そして辻部長はついにロケットパンチに捕まえられ、動きを封じられる。そして田中さんの口が大きく開き、そこにはレンズ状の部品が。田中さんにはビーム兵器も装備されていたのである。まあビームとは言っても、レンズ状部品から発射されるから粒子ビーム兵器ではなさそうだったが。
そして田中さんから、まばゆい光線が発射され、掃射される。それは辻部長に直撃し、その周囲が爆炎に包まれた。そして……。何が起こったかと言うと、どうやらビームはまだ研究中で出力が小さく、辻部長の命には別条無かった。うん、命には。しかし辻部長は、漢として大事な物を失ってしまったのだ。
ビームで武器防具はおろか着衣を全て吹き飛ばされ、全裸を晒した辻部長が、そこに立っていた。
これで戦意喪失した辻部長は試合放棄。田中さんの勝利が決定したのである。そして我らが高音・D・グッドマン女史は、呆然と呟いた。
「あ、つ、次の対戦相手……。わた、し?」
そして今、高音サンは口から魂が出ている状態で呆けているのである。それで彼女の従者と言うか既に世話役な愛衣が、とりあえず自分の居る一般席に連れて来て必死で元気づけようとしていたのだ。
千雨は同じ女として、高音に心から同情した。
その頃、舞台では第七試合が行われ、そして終わっていた。学生格闘家、豪徳寺薫の『遠当て』……
そして一回戦最後の第八試合、舞台に上がった選手は、1人は3D柔術の山下慶一、もう1人はこれも柔術家であり山下慶一の師匠、高田金治62歳である。高田は己と袂を分かち、3D柔術などと妙な流派を起こした元弟子との決着をつけんがために、ここ麻帆良の地へやって来たのだったりする。
だが彼は歳も歳、若さ溢れる山下慶一には勝つ事ができず、敗れ去った。幸いなのは、元弟子が軽佻浮薄な流派におぼれたわけではなく、今なお求道者としての道を真っ直ぐに歩いている事を理解できた事であろう。
そして第一回戦の全ての組み合わせが終了した。一回戦八試合の試合結果が舞台上の立体映像スクリーンで表示され、二回戦開始まで20分の休憩が挟まった。観客たちは、この休みの間に飲み物を買いに行ったり、トイレに走ったり、色々忙しい。
……だが、この時裏で動いていた陰謀に、気付いた者は多くは無かったのである。
麻帆良地下の下水道奥で、その事件は起きた。
「……やれやれ、こんな所まで来てしまたカ」
「「「!」」」
「高畑先生、刹那、それに近衛。悪いが仕事なので、しばらく大人しくしていてもらうよ」
「お嬢様! 下がって!」
刹那は叫び、愛刀を構える。だが彼女が護るべき相手、木乃香が困惑気味に口を開いた。
「い、いやせっちゃん。前は超さん、後ろは龍宮さん。どっちにもぎょうさんの田中さん。どっちに下がればええんや?」
「え……っと」
「……あー、なんと言うか、ネ」
「……刹那。前から思っていたが、お前……。頭の出来、自分の創る式神とどっこいどっこいじゃないのか?」
「た、龍宮!?」
……そして、空気はぐだぐだになったのである。
そして順調に進む『まほら武道会』。魔法使いっポイ選手は全然見えないぞ。高音サンも、パンチ一発で痴漢をふっとばしただけだ!
その裏で、高畑先生と刹那、木乃香のチームが地下深く超の秘密基地に迫る。そして空気は緊迫から一気にぐだぐだに!
でもって、今回の被害者枠は高音さんと辻部長でした。