ネギとガンドルフィーニは一瞬の眩暈を感じた直後、特に何の変化もなく室内に佇んでいる自分たちに気付いた。
「これ……は?」
「ネギ先生、いったい何があったのかね? 君が急に魔力を放出して、部屋に入りかけた犬上小太郎と宮崎君を吹き飛ばしたのは、正直唖然として見ていたんだが」
「まだ僕にも分かりません。ただ、この懐中時計を調べているうちに、これの中で魔力が
そしてネギは周囲を見回す。彼は唇を噛んで、考え込んだ。
「ネギ先生、この懐中時計に何か仕掛けてあったとしても、もしや不発に終わったのでは……」
「いえ、絶対に何かしら発動はしています。思い出してください。あの時僕がのどかさんと小太郎君を吹き飛ばした事を。あのとき扉は開けっ放しでした。ですが、誰かが閉じたわけでも無いのに今は閉じられています。それにのどかさんと小太郎君の、気配がありません」
「!!」
「もしかしたら、転移系の
ガンドルフィーニは一瞬で表情を引き締めると、扉を調べたり、外の気配を探ったり、扉に耳をつけて物音を聞いたりし始める。
「扉に
「了解しました」
そしてネギがいつもの杖を構えたのを確認したガンドルフィーニは、扉を慎重に開ける。
パン!パパン!!
そして破裂音。銃声だと思った2人、特にガンドルフィーニは必死に体を躱す。だがあまりに突然の事で、避けきれるわけが無い。ガンドルフィーニに、ふわりと何かがかかった。
……そう、ガンドルフィーニを襲ったのは、紙テープと紙吹雪であった。
「「……は?」」
「「「「「「お帰りなさい! ネギ先生! ガンドルフィーニ先生!」」」」」」
扉の向こうでは、高畑や瀬流彦を始めとした魔法先生数名や、苦笑顔の高音や心底楽しそうな愛衣などの魔法生徒が数名、鳴らしたばかりのパーティーグッズのクラッカーを構えて立っていたりする。ちなみに今は効果を失ったので理解できるが、彼等がわざわざ気配消しの魔法まで使っていたのが、魔力の残り香から明らかだった。
学園長である近右衛門が、彼等の後ろから出て来ると、2人に語り掛けた。
「よく戻ったのう、ネギ君、ガンドルフィーニ先生」
「「学園長先生!?」」
唖然としたネギとガンドルフィーニは、しかしこれが近右衛門の悪ふざけらしいと判断すると、抗議しようと口を開きかける。だがその瞬間、ネギは魔法生徒たちの後ろから飛び出して来た誰かに、思い切り抱きすくめられていた。
「の、のどかさん!?」
「ネギ
驚いたネギだったが、しかし逃れようとはしなかった。ネギを抱きしめているのどかは、泣いていたからだ。そして同じく魔法生徒たちの後ろから出て来た明日菜と小太郎が、口々に言う。
「ネギ! 本屋ちゃんに優しくしてあげなさい! この一週間、本屋ちゃん本当に立派だったんだから!」
「そやでー。ホントなら、ネギが居のうなって、一番泡食って泣き叫んでもおかしなかったんや。なのに、ネギからの信頼を裏切ったらアカン言うて、気丈に頑張っとったんや」
「え? 一週間? 居なくなった、って僕が?」
そして呆然状態から我に返ったガンドルフィーニ先生が、ネギとのどかの様子に慌てる。
「ね、ネギ先生、宮崎君、ここは神聖な学び舎……」
「ガンドルフィーニ先生、今は大目に見てやりなさい。この一週間、彼女は本当に立派だったんじゃ。ご褒美と思うて、のう?」
「い、一週間とは?」
「ガンドルフィーニ先生の家族も心配しておるでのう。本当ならば、すぐにでも帰してやりたいんじゃが、最低限の説明とカバーストーリーが必要なのでな」
近右衛門が何を言っているのかわからないガンドルフィーニは、目を白黒させる。ネギはネギで、これも理解は追いついていないが、のどかの思うようにさせることにしたのである。
そしてようやくのどかが、ある程度落ち着いたので、ネギとガンドルフィーニは学園長室で、この一週間の説明を受ける事になった。まあ、多少落ち着いたとは言っても、のどかはネギの上着の裾を握って離さなかったが。
「信じられません……。い、いえ。確かにここが一週間後と言いますか、8日後の麻帆良学園だと言うのは理解しました。しかし……。時間移動とは……。
その上、超鈴音が未来での戦争を回避するために、過去である現代に
「僕もです……。オマケに超さんが僕の子孫? もう何が何だか、いっぱいいっぱいです。ですが……。
のどかさん、御免なさい。本当に心配と苦労をかけてしまって……」
「い、いえー。いいんですー、そんな事ー。それに、信じて託してもらえた事が、嬉しいんですー」
ネギもガンドルフィーニも、頭では理解しても心がなかなか納得できない。特にガンドルフィーニは自分の理解を超える出来事に、頭が飽和状態になっている。そんな彼らに近右衛門は、苦笑しつつ説明を続けた。
「ふぉ、ふぉ、ふぉ。2人はこの一週間、緊急の出張をしていた事になっておる。出先とも折衝し、口裏合わせは済んでおるでのう。ネギ君は受け持っておる生徒が居るし、ガンドルフィーニ先生はそれ以外にも家族がおるからな。
この紙に書いてあるのが、君らがこの一週間、やっておった事になっておる行動じゃ。しっかり覚えておいておくれ」
「「は、はい」」
と、大きく深呼吸をして落ち着いたガンドルフィーニが、近右衛門に問いかける。
「ふうぅ~~~っ。ふう、なんとか納得……しました。ところで超鈴音の件なのですが、彼女たちは罰として、魔法世界の崩壊を防ぐ試みに参加させ、学園長曰く『馬車馬のように』働いてもらうと言う事でしたが」
「うむ。その件で色々と調整しておるのじゃが、まだそれが済んでおらん。とりあえずは猶予期間みたいな形で、普通の生活を送ってもらっておるよ。ただしネギ君が残した罰は、やらせておる。
その罰、正座しての英語本の筆写と和訳じゃが、量が量なのでな。風呂トイレ食事授業などの事も考えると、休み休みでやらせないわけにも行かぬ。毎日放課後から深夜までかけて正座しての書き写しと和訳をやらせて、その後で寮に帰させておるな」
そして近右衛門は、大量のノートや原稿用紙をネギに渡す。
「これが今現在の時点で、終わった和訳じゃな。ちょっと読んでみたがの。龍宮君はフツーに苦労、葉加瀬君は現実の科学とSFの科学の間の差異にそれぞれ苦労しておるな。ただし超君は、最初の頃は葉加瀬君と同じ様な感じで苦労しておったが、そのうち読み物として堪えうる出来になって来たのう。最初の頃の訳文を、書き直したいと言ってもおる。
そう言えば、超君じゃが。罰の題材になったSF小説にインスピレーションを貰ったとかも言っておったな。まあ流石に直接には、SFの技術を実現はできぬ様じゃが。あと、絡繰君だけはなんとか罰の読書感想文を終わらせておる。彼女からすると、感情の表現等々が色々と苦労した模様じゃがの」
「できない事は、無理にやらせませんよ。茶々丸さんならできる事だと思ってましたから。超さんも、そんな感じになってくれるんじゃないかとは思ってましたし。
……さて、じゃあこれを持ち帰ってチェックしないといけませんね」
「うむ、それでは解散するとしようかの。ゆっくり休んでおくれ……いや、ネギ君もチェックは明日以降に回しても良いから、今日はゆっくり休むのじゃぞ?」
ネギとのどか、ガンドルフィーニが、学園長室を出て行く。近右衛門はひと息吐いた。そこへ隣室で待機していた者たちが、学園長室へと入室して来た。高畑、千雨、壊斗の3人である。
「……安心しましたよ。無事にこの世界線へ到着してくれて。大丈夫だとは言われても、やはり不安は不安でしたからね」
「心配性だな、高畑先生。さて、ネギ少年が持って来た、この
「わたしも壊斗に賛成ですね、学園長先生。万一他所に渡って、解析されでもしたら大変です」
「そうじゃの。タカミチ君、やってしまってくれるかの?」
頷いた高畑は、その
「はぁ、やれやれですね。……ところで学園長先生、高畑先生。ちょっと数日、わたしに学校の休みをいただけないでしょうか。ちょっと壊斗と出かけたいんですよ。
本当はネギ先生に言うべきなんでしょうが、ネギ先生はわたしたちの秘密を知らないし、可能であれば今後も秘密を教える人間は少なくしたいですし」
「長谷川君? 何処へ行くんだい? アルのところにも行かないと駄目だろう?」
千雨は笑って言う。
「ちょっと火星へ。
「「火星!?」」
高畑と近右衛門は驚く。千雨はいたずらっぽく笑う。その様子を、壊斗もまた微笑みながら、見ていたのである。
いや、本当はマルペの全巻正座和訳を罰にしようかとも思ったんですがね。マルペとは『ペリー・ローダン』シリーズの事です。ペリー・ローダンの『ペ』を丸で囲んで、マルペです。ドイツ語版だと、巻数が数千冊行ってるトンデモない長編SFでして。
でも、いくらなんでも超ですら、そんなもん終わらないので、やめておきました。
あと、ガンドル先生には魔法世界の崩壊の件、伝えました。巻き込まれ度合いが大きいですからね。その他の魔法先生や魔法生徒の皆さんには、超が時間移動してきた未来人で、未来での悲劇をどうにかしたいと、やむにやまれず此度の行いに及んだ事だけは話してますが、悲劇の内容は教えてません。
ガンドル先生、出番増えるか!?
さて、千雨と壊斗、火星へ行ってきます。学園長も高畑もビックリですね。