火星の衛星軌道上に、サウザンドレインとサイコブラストは、小型の人工衛星を多数ばら撒く。低軌道にも、中軌道にも、高軌道にも、それぞれに適した機能の衛星を配置。作業が終わった2人は、火星の大地へ向かい大気圏へ突入して行く。
やがて彼らは、荒涼とした荒涼とした火星の大地に、ロボットモードで降り立った。
『ついに来ちまったなあ……。火星かあ……』
『全部仕事や懸念が片付いてヒマになったら、太陽系一周の旅行にでも行ってみるか?』
『それいいな。木星の大赤斑とか、土星の輪とか、楽しそうだ』
サウザンドレインとサイコブラストは、とりあえず胴体下や翼下に懸下してきた荷物を展開する。軌道上で放出した人工衛星等といっしょに持って来たこれは、人間サイズのシェルターじみた基地ユニットである。南極昭和基地を更にSF的に進化させたと考えてもらえば良いだろう。
2人は
「どうだ?」
「今の所、順調だな。全偵察衛星の全センサー系は、正常に働いている。このパラメーターが、火星に太陽から降り注いでいる魔力量。こちらが火星に積もり積もった魔力の量。
そしてこれが……。異次元の位相空間内にあるコレが……。魔法使いたちの言う
「ちょっと待て。わたしの計算が正しければ……。高畑先生は、あと数十年は保つ様な事、言って無かったか!? だけどコレって……!!」
顔色を無くした千雨に、壊斗はこれも深刻そうな表情で答える。
「たしかに……。ハセガワ、これはのんびり構えている場合じゃなさそうだな。いや俺たちには直接は影響はしないが、近衛学園長や高畑先生たちに取っては他人事じゃないだろう。
それに
「超は正確な記録は残って無かったとか、喪失してるとか言ってたらしいけどよ。たしか
「何にせよ、残り時間は最短であと10年足らず……。
千雨と壊斗は、急ぎ可能な限りのデータを収集し、それを整理する。近右衛門や高畑たちは、
2人はこの情報をもって、急ぎ地球へ戻る予定だ。この事を一刻も早く、近右衛門や高畑に報せなければならない。ただ、壊斗はここで呟く様に言う。
「もしかしたら……。
「確かに……。なんか怪しげだったもんなあ」
「他にも色々やりたい事はあったんだが、今回は急いで帰ろう。ただし、スペースブリッジ設営だけはやっておかないといけない。何時でも来れる様にな」
そう、千雨と壊斗がわざわざ火星にまでやって来たのは火星と、それを依り代にして存在を維持している
スペースブリッジとは、単純に言えば2点間のワープ装置である。惑星間から数百光年、下手をすれば数百万光年を一瞬で飛び越える事が可能だ。デストロン軍団の開発した軍事技術であり、後にはサイバトロン軍団にも使われる様になった、非常に有意なシステムであった。
「じゃあ、スペースブリッジ作っちまおうぜ。スーツオン! プリテンダー!」
「ああ。急ごう。スーツオン! プリテンダー!」
2人は急ぎ、ロボットモードに変身して基地の外で作業に入る。流石にスペースブリッジ設備が出来上がるまでは、けっこうな時間がかかりそうだ。しかし一刻も早く、彼等は地球に戻ってこの件を関係者に説明しなければならない。
と言うわけで、千雨と壊斗は地球へと帰って来た。スペースブリッジさえ設置してしまえば、壊斗の地下基地へ帰って来るのは一瞬で済む。なんと言っても、スペースブリッジの本体は壊斗の地下基地にあるのだ。千雨たちは資料の山を持って、近右衛門と高畑に報告に行った。
「なんだって!?」
「むう……。まさか……」
「学園長先生、高畑先生。わたしたちはこれから、
「せめて長谷川君が言い淀んだ最後の選択肢は、無いと思いたいのう……。アルが
「まあ、それは10%も確率は無いだろうな。ただし完全に無いと言い切れないのは、どうあっても救えそうに無いと思い切り、
ここで、叫んだっきり黙りこくっていた高畑が、言葉を挟む。
「……長谷川君、壊斗君。頼みがある。君たちがアルに会いに行くのに、僕も付いて行かせてくれないか?」
「……いいよな? 壊斗」
「ああ、構わん」
「それならば、壊斗殿、長谷川君。もう1人……になるかは分からぬが、エヴァンジェリンも連れて行ってくれぬかの?」
「「!?」」
近右衛門の台詞に、一瞬千雨も壊斗も困惑する。エヴァンジェリンを連れて行くと言う事は、ある程度千雨や壊斗の秘密をエヴァンジェリンに開示する可能性もあると言う事だ。近右衛門はちょっと慌てて言った。
「いや、の。エヴァは別口でアルに招待されておるのじゃて。そしてアルから君たちについて、エヴァに対し情報漏洩がなされんとも限らん。面白半分での。君らがアルと会った際の状況では、アルは君らの事情に気付いているフシがあるんじゃろ?
じゃから、アルとエヴァが会う席に君らも同席する事で、上手くすればその状況を制御できるやも知れぬと思ってのう」
「そう言う事ですか……。了解です、マクダウェルと一緒に行きましょう」
「俺もわかった。ではエヴァンジェリンが合流しだい、図書館島地下へ向かおう」
頷いた近右衛門は、エヴァンジェリンの従者である茶々丸への電話を掛けた。
そして今、近右衛門の代わりにエヴァンジェリンと茶々丸を加えた一行は、図書館島の地下を進んでいた。エヴァンジェリンはブツクサ文句を言っている。
「まったく、あの
「マスター、ですがその詫びとして純米大吟醸『亜華武』一升瓶1ダースは、搾り取り過ぎかと思われますが」
「まだ足りんわ! ……何を妙な顔をしている、長谷川千雨」
エヴァンジェリンの矛先が千雨を向いた。千雨は溜息を吐く。溜息自体は小さな頃から数え切れず吐いて来たが、魔法の世界に関わる様になってから、格段に増えた気がする……と、千雨はその件でまた溜息を吐く。
「なんだその溜息は! しかも二度かっ!?」
「いや、マクダウェルってこんな愉快な奴だったんだな、と思って」
「愉快とはなんだ!」
「いや、人目もはばからずグダグダ、ウダウダと愚痴を吐きながら道を歩いてるのは、変な奴と言われても仕方ない所業だと思わないか?」
「むぐ……」
絶句するエヴァンジェリンだったが、しばし口を閉じてから、やがてまた言葉を放つ。
「……たしか通達が回って来ていたな。長谷川千雨は特異体質で、人払いの結界や意識誘導の効果が無いに等しい。それ故、妖怪退治や魔法戦闘の場に意図せず紛れ込む可能性があるから、充分に注意すべし、とな。それと事故防止のため、幾ばくか魔法
「まあな」
「で、それが今回の図書館島地下への訪問に、何の関係があるのだ?」
「……」
千雨は壊斗に視線を遣る。壊斗は無言で頷いた。
「それはこの壊斗が関係している。わたし自身はオマケだ。壊斗は優秀な科学者でな。
「なるほどな。春先に貴様が瀕死の重傷を負ったとき、それを連れ去って治療した謎の巨大ロボットの関係者と言う事か」
「……」
「何を間抜け面を晒している。愉快な奴め」
エヴァンジェリンの先ほどの意趣返しがこもった言葉に、千雨はまた溜息を吐いた。
「さすが600歳余。あれだけ情報があれば、その推論を組み立てるのも容易、か。……あんま吹聴すんなよ?」
「安心しろ。わたしの様な悪の吸血鬼が何を言ったところで、そうそう誰も信じはせん。……と言うか、貴様は私の事まで情報を与えられていたのか?」
「ヒネんな、ますます可愛くねえぞ」
「可愛くないとは何だ!」
「あー、あー。可愛い可愛い。だから大人しく歩いてろよ」
物凄い目で千雨を睨むエヴァンジェリンだった。高畑が、苦笑気味に止めに入る。
「エヴァ、長谷川君の冗談だから気にしない方が……」
「タカミチ、貴様も貴様だ! こいつの元担任だろうが! 年長者に敬意を払うように……」
「とかなんとか言って、高畑先生が必死の面持ちで思い詰めた様な顔をしてたから、わざと道化を装って気を紛らわせようとしてたんだろ? マクダウェル」
「違うわっ!!」
ぜーは、ぜーはと息を吐いて、エヴァンジェリンは千雨を睨み付ける。そして彼女は問う。
「長谷川、貴様何があった? ああ、いや。死に至るほどの重傷を負ったのだったな。しかしそれならば、逆に全てに対し萎縮してしまっても、不思議ではない。だが今の貴様は、何と言うか……。
貴様は『全ての事柄に対し』『無駄に頑丈に』なっているな。鈍感になったわけでも無い。頭が悪くなって理解していないのでもない。何かしら理解した上で、そう言う反応。その根底の部分が無駄に頑丈になっているのだ」
「骨折した部分の骨が、くっつく時にその部分が太くなるような物だ。死にかけたって経験は、ある意味で糧になったよ」
「……フン、そう言う事にしておこう」
エヴァンジェリンは、そこで言葉を
壊斗とエヴァンジェリンが、持っていた招待状を見せると
巨大な地下の空洞に幾つかの橋とその中央に塔が存在し、周囲には幾つもの滝が橋の下の地底湖へと流れ込んでいる。一同は、その塔へと向かった。やがて
「ようこそ、皆さん。わたしの塔へ。
胡散臭い笑顔で一同を迎える
と、こんなわけで
そして火星にスペースブリッジ端末の設置。これで火星と地球の行き来が容易になります。まあ今後も、色々火星でやる事ありますし。
更には