壊斗の火星基地である仮称マースベースαは、既にかなりの拡張が為されていた。以前の南極昭和基地程度だった本部棟はしっかりした建造物になっている。本部棟に隣接する宇宙港や工場棟もほぼ完成、それに基地にエネルギーを供給するマイクロ波受信施設も、基地本体から離れた場所で稼働済みだ。
今なおスペースブリッジからは続々と物資が送り込まれており、更なる基地拡張とロケット建造資材を
本部棟の中枢コンピューター前で、超鈴音が
「一番最初に打ち上げた、試験用真空発電衛星ハそろそろお役御免ネ?」
「そうだな。あくまであれは試験用だったしなあ。延々使ってても、収支は悪いからな」
「長谷川サン、じゃあコレは廃棄と言うコトで、適当な場所に落下させるヨ。今までご苦労さんだたネ、我が習作ヨ」
自身が造った試験用のプロトタイプ真空発電衛星から、量産型の本番用発電衛星にマイクロ波送電元を切り替え処置した超は、少ししんみりとした声音で語ると、プロトタイプを火星の裏側に落下させる操作を行った。
「そう言えば、壊斗殿ハどうしたネ?」
「壊斗は今、テレトラン
「ホホウ! それハ興味深いネ!」
千雨は衛星軌道上で建設中の反物質炉発電ステーションと、静止軌道上に建造中の軌道エレベーター中枢ステーションの進捗を確認する。どちらも工程は順調に進んでいる模様だ。ただし
作業ロボットは頭が固いので、突発的な事態に対処する能力が低い。今のところは大した問題にはなっていないのだが、できれば人間を
「はやく夏休みにならねえかなあ……」
「そうネ、それには完全同意だヨ。わたしたちガ火星に常駐できれバ、作業はもっとはかどるネ」
超の顔には、彼女も意識していないだろうが、焦りが浮かんでいる。千雨は溜息と共に、言葉をかけた。
「ふう、あんまり焦んな。9年半、時間はあるんだ。最悪、崩壊の一歩手前でも計画が完遂できりゃあ、ぎりぎりなんとかなるんだ」
「わかてるヨ……。ケレド、余裕があるに越した事無いヨ。現にわたしの計画は、計算外の要素、事態によて頓挫したネ。この計画モ、計算外の事態に対処する余裕無くバ、もしかしたラ……」
「まあ、そうだな。だが『悲観的に準備し、楽観的に対処せよ』ってぇ言葉もあるんだ。焦んな」
「ん……。ム!!」
超は気合いを入れ直す。それを見た千雨は微笑んで、仕事に戻った。
今、千雨の眼前では葉加瀬が満面の笑みを浮かべ、自慢げにしている。
「ブラックホール炉衛星のガワが設計できましたよ! 前回のアレは、整備性で駄目出しをくらいましたが、今回のはそれにも十分に留意してあります!」
「どれ……。この辺の耐久性は?」
「ソレはこちらの別書面を見てください! 田中さんにもごく少量使われている特殊合金を用いる事で、万全の耐久性を保持しています!」
「うん……。基本はいいよ? だけど設計図としては落第もの」
「ええっ!?」
愕然とする葉加瀬に、千雨は噛んで含める様に言い聞かせる。
「設計図や設計書は、一部のオマエらみたいな天災……もとい天才だけが見るもんじゃ、無えんだよ。もっと分かりやすく、あと詳細を別書面にしてあるなら、それも参照し易い様に。ちゃんと他人にも分かる様に、清書しろ。あとは大丈夫だ」
「はい……」
千雨はしかし、その設計図を見て内心頷く。実際、これはかなりの出来だった。あとは工場棟で部品を作り宇宙に打ち上げたなら、人工ブラックホールを生成してそれを封入する形で衛星を組み上げる。1機でもブラックホール炉衛星が稼働すれば、火星のエネルギー事情は随分と楽になるはずだった。
(あとは
そして千雨は落とした分を上げるべく、葉加瀬に声をかける。
「だけどよ。出来自体はたいしたもんだぜ? 流石だ、葉加瀬。きちんと清書済んだら、再提出しろよ?」
「は、はい! わかりました!」
「終わったら、まだまだやってもらわにゃならん事がたくさんある。その際には、また関連技術の論文を公開してやるからよ。無理の無い程度に、頑張れ」
「はいっ!」
技術論文の公開と言う言葉に、一気にやる気満々になった葉加瀬は、さっそく設計書の清書に入る。千雨はちょっと肩を竦めて、自分の仕事に戻った。
宇宙服を着こんだ千雨は、本部棟から外へと出て
『ネギ先生! 近衛! 作業工程を視察に来たん……何やってんだ、桜咲』
『ど、どうです長谷川さん! こ、これでわたしが機械オンチだなんて言わせませんよ!』
『……いや、機械オンチかどうかは分からんが。お前、自分の身体をコントロールするのは凄え得意なんだろうが、その分
けど
そう、千雨の眼前では今、刹那が
刹那は、先日に
それで刹那は木乃香の声援の元、どうにか
そこへ真名、古、楓、ネギ、小太郎、のどか、明日菜と言った、既に戦力として働けている奴らが戻って来る。
『あ、長谷川さん。とりあえず予定分は完成したので、小休止に戻って来たところです』
『ご苦労さんです、ネギ先生』
『ふう、たまにはこう言う、『撃たない』アルバイトも良いものだな。と言うか、色々な手当て込みで、戦闘ミッションよりも実入りがいいのが少し物悲しいんだが。
ところで、この
『あれ? 刹那はどうしたアルか? どうして刹那の
『えっとー……。もしかしたら、がっかりして
『なるほど、所謂『orz』状態のつもりなのでござるな』
『ええ加減、諦めたらええんやないかな。刹那姉ちゃん、
千雨は刹那のために、身体を動かす要領で使う事のできる、
次に千雨がやって来たのは、工場棟の片隅にある研究施設だ。ここでは壊斗が、例の強力なコンピューター群を製作している。千雨は壊斗に声をかけた。
「ご苦労さん。お茶にしようぜ。とりあえず菓子と飲み物、それにエネルゴンキューブ持って来た」
「ありがとう。悪いな、
「いいんだよ。壊斗は他にも忙しいんだから。ああ、それとジャック・ラカンから連絡入ってたぜ。なんか海洋の真っただ中に、条件に合った島を見つけたらしい。メセンブリーナ連合とも、ヘラス帝国とも離れてて、両方の領土に入って無い土地だとさ。
ちなみに魔獣の巣になってたんで、現在掃討中だと。で、手伝いの戦闘要員を数名雇っていいかって聞いてきたんだが」
壊斗は頷く。
「了承の返事を出しておいてくれ。雇用するための費用も持つ、と返事を。
あとはそこの掃除が済んだら、今作ってるこのコンピューター群を何時そこに設置するかだな。なるべく早く作業して、
「あのオッサンには、貴金属やらダイヤモンドやらを自前で小惑星から掘り出したり合成したりして、極めて安価に手に入ってる事は言わない方いいだろな」
「違いない」
菓子とエネルゴンキューブを齧りながら、壊斗は失笑しつつ言う。まあ自前で入手しているとは言え、それの売却益は多大なる物だ。壊斗も、それの分け前にあずかっている千雨も、今はとんでもない金持ちなのだ。
と、ここで千雨が不穏な話題を出す。
「だけどよ。今は計画順調だけど……。『
「そうか。注意しないといけないな。『
「高畑先生も、それについては何かしら情報を持ってるみたいだけど、沈黙を守ってたな。話したいけれど、決心がつかない、って感じで。でも、あの様子と麻帆良の事を調査した資料から、誰が『黄昏の姫巫女』なのか想像ついちまうのがなあ……。
神楽坂、かあ……。確定じゃねえけど、きっと、だよなあ……」
「彼女の過去の情報は、いくら探っても出てこなかった。しかも高畑先生が保護者をやっている。あげくに学園長とも何がしかの繋がりがあるらしいが、そこらは
そして2人は、溜息を吐くと、ぼやいた。
「「もっと上手く隠せよ」」
壊斗は
「近衛学園長と高畑先生に、地球に帰ったら進言と警告しておこう。『
「まったく、ネギ先生と言い、神楽坂と言い、なんでまた3-Aにはこんな重い事情の奴らが多いんだ。いや、神楽坂はまだ確定じゃないが。それに、いざと言う時に護りやすい様に、3-Aにヤバいのを集めたのかも知らんが」
「まあ、今の段階では考えない様にしておくべきだ。俺たちの手は長いが、さりとて全部に手を伸ばせるほど多くは無い。千手観音じゃないんだからな。任せられる部分は任せよう」
「そうだな。んじゃ、お茶が冷めないうちに飲むか」
そして2人は、お茶を楽しんだ。しかし、彼等も今の段階で、麻帆良に時折フェイト・アーウェルンクスが潜入して調査している事は、知る由も無かった。
フェイトは独り言ちる。
「……6人の候補のうち、3人は『黄昏の姫巫女』では無さそうだったね。偽装している可能性は捨てきれないが、それでも過去の経歴が明らかになった。あれが偽装だったら、たいした物だよ。
残り3人……。全員を攫って確保、直接調べるか? それとも調査を続行して、最後の1人になるまで突き詰めるか?
そして、麻帆良学園に封印されているらしい『
そしてフェイトは、雑踏の中に消えて行った。
せっちゃん、ごめんよ。君はネタにするのに丁度良い立ち位置に居たんだ。
そして古や楓、真名をわざわざ火星に作業員として連れて来たのは、ちょうどある程度魔法側の事情を知っていて、しかも計画推進者とそこそこ近い人物である事、更には最低でも魔法生徒クラスの力量は有るが魔法生徒扱いでは無く、異動させても麻帆良のシフトに影響が少ない事があります。
ちなみに真名は、バイト料が戦闘
そしてフェイト暗躍中。だけどごめんよ、フェイト君。君の『