夜道を11~12歳程の、1人の少女が走っている。この近隣にある、麻帆良の孤児院に入っている子供たちの1人だ。彼女は必死で、それこそ必死で、時折後ろを振り返りつつ、孤児院目指して疾走していた。
だが少女は、
「……抵抗は無駄だよ。後藤田『
「ひ……」
少年……フェイト・アーウェルンクスは、感情のこもらない声で言葉を続けた。
「君が関係ないと分かれば、記憶を消して帰してあげよう。だが、もし君が『あの』人物であったなら……」
「……! ……!!」
少女……阿須那はいやいやをする様に、
「!!」
「おう、白髪のエロぼーず。嫌がる女の子に、何しようってんだ?」
「今のは……気弾だね。まさか君たち、魔法生徒?」
「なんだ、その麻帆……? 麻帆良の生徒ではあるけどな」
「違うか……」
フェイトは肩を竦めて、闖入者の方に顔を向ける。そこには4人の男が立っていた。1人は大豪院ポチ、以前『まほら武道会』で小太郎に敗れはしたが、一般人としては立派な実力を持つ武道家である。そして1人は中村達也、長瀬楓に敗れはしたものの、恐るべき威力の『気』による『遠当て』の使い手だ。
3人目は『まほら武道会』で準決勝進出を賭けて豪徳寺薫と戦い、惜しくも敗れた山下慶一、3D柔術の使い手である。最後の1人、一番前に立ちはだかっているのは、『まほら武道会』優勝者、喧嘩殺法の豪徳寺薫であった。
豪徳寺はキツい視線でフェイトを睨み付ける。
「か弱い女を
「そうも行かなくてね。僕にも使命がある」
「ち、雇われもんかよ。ますます胡散臭えな」
豪徳寺は、こめかみに汗を浮かべて構えを取った。その様子に、残り3名は怪訝な顔になる。
「……豪徳寺?」
「薫ちん?」
だが豪徳寺は、その呼びかけには応えずに、山下に
「山ちゃん。俺たち3人で、あのガキを
「……!?」
「あのガキ、バケモンだ。勝ち目は無え。犬上小太郎と、どっちが上かわからんって言えば、わかるか?」
「「「!!」」」
山下慶一は、その一言で理解し、頷く。だがどうしても聞きたい事があり、口を開いた。
「なあ、豪徳寺。なんで俺だ?」
「山ちゃんが、一番女受けする顔してるからな」
「な!? そんな理由か!?」
「顔は大事だぞ? あの子はちみっちゃくても女だ。俺や大豪院みたいなゴツいのや、見た目ちょっと頼りない中村よりか、安心してもらえるってもんだ」
「ちょ」
中村達也の抗議には構わず、豪徳寺は叫ぶ。
「いくぞ、お前らぁっ!」
「「「お、応っ!!」」」
「やれやれ……」
フェイトは再度肩を竦めて、4人の武道家を迎え討った。
そして今、フェイトは相手を見誤っていた事に気付いていた。既に大豪院ポチと中村達也は地に伏して気絶している。しかし豪徳寺薫ちゃんはズタボロになりつつも、少女を抱えて逃げた山下慶一を追う余裕をフェイトに与えなかったのだ。
「……謝罪しよう。見くびっていたよ」
「へっ……。だったらさっさと、諦めて帰っちまったらどうだ?白髪のボーズ」
「そうも行かなくてね。本気で倒させてもらうよ」
魔法は使わないけどね、との台詞を口の中だけに留めて、フェイトは豪徳寺に襲いかかる。豪徳寺は防御を捨て、捨て身のカウンターを狙い、『気』のこもった拳をフェイトに叩きつけた。
しかしその拳は、曼陀羅の様な障壁に阻まれてフェイトには届かない。そしてフェイトの拳が、豪徳寺の腹に突き刺さる。
「ごほぉっ……」
「……さて。……!?」
「へ、へへ……。まだだ。山ちゃんは、追わせねえ」
瀕死の豪徳寺が立ち上がる。口からは血反吐を吐き、学ランはところどころ破れ、自慢のリーゼントもざんばらに乱れている。しかしそれでも立ち上がった。フェイトは無表情に語る。
「……これ以上、時間をかけていられないね。仕方が……!?」
「!!」
その瞬間、地面に『気』の弾丸が突き刺さる。跳び退いたフェイトに、小鳥、野ネズミ、飛蝗、その他諸々が一斉に飛び掛かった。しかしそれらはフェイトの曼陀羅障壁に阻まれる。フェイトがそれらを打ち払うと、機械部品が散らばった。それらの小動物などは、機械仕掛け……ドロイドだったのである。
「……君らは」
「し……師匠たち!!」
「頑張ったな、豪徳寺」
「わたしたちも、そいつを警戒してたんだよ。ただ、麻帆良は広くてなあ……」
いつの間にか、フェイトを挟んで豪徳寺の反対側に、2人の男女が立っていた。当然と言って良いのか悪いのか、それは千雨と壊斗だった。
「やれやれ、厄日だね」
「そいつは、手前が言う事じゃねえぞ。手前が先日に
「彼女は記憶を消して、無事に帰したはずだけどね」
「阿呆。彼女の過去が不明だったから、これはと思って誘拐して確かめたんだろうけどよ。彼女の過去が不明なのはな! 犯罪被害者救済プログラムで、過去を消したからだ!
手前は記憶消してそれで良しとしたのかもしれねえがな! ぽっかりと数日記憶を消したせいで、その間何があったのか恐怖に襲われて! 手前は馬鹿か! 記憶消した事で、アフターケアしたつもりか!? このド阿呆!」
千雨の言葉に、フェイトはしばし黙ったままだった。だがやがて、重い口を開く。先ほどまで何の感情も浮かんでいなかったその瞳は、しかし硬い、堅い、固い覚悟に燃えていた。
「……申し訳ないと、思う。全てが終わったら、必ずや償いをしよう。だが、今は駄目だ。急がなくてはならない。さなくば、12億の人の明日が奪われてしまうんだ」
「手前……。覚悟も無しに悪事を働くのは許せねえが、覚悟があれば何やったっていいわけじゃ無いんだぞ!? 今回のあの娘も、同じだ! 犯罪被害者救済プログラムで、過去消してるから、過去が不明なんだよ! それを無理矢理土足で踏み込みやがって……」
「……どうやら貴様との道は、交わらん様だな。ハセガワのためにも、そこの我が弟子たる豪徳寺のためにも、貴様を叩こう」
そして壊斗が前に出る。千雨もまた、構えを取った。
壮絶な戦いだった。だが一方で、どこか妙な戦いでもあった。フェイトの拳はときおり壊斗や千雨の身体に叩き込まれる。しかし千雨も壊斗も、なんら痛手を負った様子は無い。
一方で、千雨と壊斗の拳もフェイトに叩き込まれるが、こちらはこちらで曼陀羅の障壁によって、フェイトにダメージを与えられていないのだ。
「く……。なんとかして師匠たちの援護を……」
豪徳寺は焦る。と、その豪徳寺の耳に、千雨の声が響いた。豪徳寺がそちらを見ると、彼の肩にいつの間にか小鳥がとまっている。おそらくは機械仕掛けなのであろうことは、彼にも理解できた。
『豪徳寺、あんたアイツに一発くらわしてやりたいだろ?』
「あ、ああ。長谷川師匠……」
『だったら少し待ってろよ。今、わたしらがアイツに隙を作ってやる』
豪徳寺は、小さく頷く。そして呼吸を整えた。やがて、その時がやって来る。壊斗が、毎回の通りに効果の無い右拳撃をフェイトに命中させた。しかし曼陀羅の障壁が、それを防御する。
その時壊斗の左手は、自身のベルトのバックルに、何やらバーコード状の模様のついたカードキーの様な物を差し込んでいた。ベルトのバックルから光が走り、その光は脇腹を通って壊斗の右手に着用されている、黒革の指ぬき手袋へと伝わって、そこで炸裂する。次の瞬間、フェイトの曼陀羅障壁は粉々に砕け散った。
「!? 障壁が!?」
「今だ、豪徳寺いいいぃぃぃっ!!」
「おおおぉぉぉーーー!!」
豪徳寺の身体から、渾身の『気』が吹きあがり、右拳を伝って射出される。
通常の『
そしてそれが障壁を失ったフェイトの脇腹に直撃する。フェイトは吹き飛んだ。
「ぐうっ!?……く、やむを得ない。ここまでだ」
「な、何っ!? 水に巻かれて……消えた!?」
(あの阿呆……。逸般人気味だとは言え、一般人の前で魔法使って逃げやがって。いや、一般人の前で曼陀羅障壁みたいな目に見える障壁使ってたのもそうだし)
千雨は思わず脱力した模様。その肩を、壊斗がぽんぽんと叩いて慰める。何にせよフェイトは今回、目的を達する事なく去ったのだ。助けが入ったとは言え、豪徳寺薫たちの勝利であった。
ちなみに山下慶一は、今回の被害者である後藤田
千雨と壊斗はとりあえず倒れた中村達也と大豪院ポチ、そして殊勲者である豪徳寺薫ちゃんを手当てすると、豪徳寺に口止めしてその場を立ち去った。
「まったく、奴のおかげで今週は火星に行けなかったな。ネギ先生たちと超たちだけで、大丈夫かよ」
「まあ、あんまりヤバい所は計画の予定表、工程表からしてしばらく無い予定だ。まあまあ大丈夫だろう」
そう、彼等はジャック・ラカンから伝えられた『
そんなの魔法先生や魔法生徒に任せろよ、と言う話もあったのだが。だが実際のところ、魔法使いと言うのはそこまで数多く無い。少ないわけでは無いのだが、流石に警官の如くパトロールさせるだけの数は居ない。と言うか、魔法先生や魔法生徒などは先生や生徒との二重生活をやっている。それに警官の真似事までさせたらパンクすると言う物だ。
これは明日菜が狙われているのでは? と言う疑念もあったにせよ、そう断定するのも今の段階では難しい。もしかしたら、単なる……単なると言っていいのかも分からないが、魔法犯罪なのかも知れないし。麻帆良結界は、既になんらかの手段で内部に入り込んでしまった敵には、けっこうザルだったりする。
近右衛門は、いっその事一時的にでも魔法先生や魔法生徒を動員し、魔法による捜査態勢を……と考えていた様だった。普通であれば、そうするのが次善の策だ。しかしここで、見るに見かねた千雨と壊斗が、今は殆ど使っていないドロイド群を提供する、と申し出たのだ。
それで千雨と壊斗は、豪徳寺たちのピンチに介入できたのである。しかもコレが『
「とりあえず、夏休みになれば神楽坂を火星に連れてって、しばらく地球に帰さない事もできるんだが」
「まだ夏休みまではあるからなあ。そう言えば、期末テストがその前にあるんだったか。大丈夫か?」
「暗記物と計算問題は大丈夫だ。応用問題の類や国語の読解問題とかは、まあまあかな? 以前から不得意じゃなかったが、今の身体になってからけっこう頭回るんでな」
これから2人は、学園長に事の次第を報告し、その善後策を練る事になっている。一応電話であらかじめ簡単に報告したが、流石に電話だけで済む問題では無い。千雨と壊斗は、とりあえず壊斗の4WDを
豪徳寺薫、今回の主人公です(爆)。
そして山下慶一、美少女抱えて逃げました。結果、ファンが1人付きました。
更に千雨と壊斗の新装備。ベルトのバックルに、圧縮呪文のバーコードを刻んだカードキー(呪文書)を差し込む事で、そこはかとなく魔法の類を発動させる装置(笑)。今回は、障壁破壊の術でした。まあ、壊斗はすっかりヲタなので、そっちからインスピレーションをもらって開発した装備ですね。