この日、千雨と壊斗は火星から麻帆良に戻って来ていた。理由は、学園長である近右衛門から、ある『頼み』を受けたためである。2人は、学園長室へと向かう。
「しかし驚いたなあ。『奴』が、こんな直截的な行動に出るたあ」
「それだけこちらが、『相手』を追い詰めたとも見れる」
「『奴』はどうやって
「壊れかけのゲートで、無理矢理に来たらしい」
彼等は学園長室の扉をノックした。中から声が響く。
『入ってくれたまえい』
そして扉を開けて、2人が見た物は……。執務机に着かずに部屋の中央付近に立っている近右衛門、そしてそれを護る様に立つガンドルフィーニ、いつでも支援ができる立ち位置にいる瀬流彦の3人の魔法先生たち。
だがそれよりも衝撃的なのは、彼等と向き合って立っている、部外者2名の姿である。その部外者とは、なんとテロ組織『
近右衛門が千雨と壊斗に向けて言う。
「よく来てくれたのう」
「なんでこんな事になったのかね?」
「壊斗殿、実はの……」
「いや、それは僕から話そう」
フェイトが近右衛門を遮って言う。ちょっとガンドルフィーニが嫌な顔をしたが、近右衛門に目配せされて引き下がる。フェイトは言葉を続けた。
「僕は軍使だと思ってくれればいい。我々『
今まで散々敵対してきた麻帆良や、アルビレオ・イマなど『紅き翼』の面々と対話し、可能であれば協力態勢を構築、それが不可能でも……。無理だとは思うけどね。不可能でも、不干渉の中立を確保したいと言う話でね。最終的に
「随分と虫のいい話だな、としか思えないんだが。まあ、アンタも無理だとは思っている様だけどよ」
「確か長谷川、だったかい? 壊斗氏の右腕。仕方ないんだよ、命令だからね」
フェイトはとりあえず、肩を竦めて言う。
「まずは上役から仰せつかった交渉を、やってしまいたい。ダメ元でね。上手く継続できるかは不明だが、僕らの
「「「「「……」」」」」
そしてフェイトは、『
一切の生命活動が行われないため、太陽から火星に降り注ぐ魔力で充分に、完全なる世界は維持できる。更には完全なる世界では苦痛も無く、何よりも弱き者達が理不尽と不公正、不正義によって、ささやかな幸せを奪われる事も無いのだ。
「……そんなもの、例えて言えば麻薬に逃げている様な物じゃないか! それが真の救いになり得るものか!」
ガンドルフィーニは激昂する。そこに今まで黙って見ていた
「ならば貴方は、奪われた事があるんですか?」
「なっ……」
「世界には、どうしようもない悲劇が何処にでも転がっています。貴方がたは、良き魔法使いと称してそれに対し救済の手を伸ばしている『つもり』でしょう。ですが、救い切れていますか? 無理でしょう?
『
「なら、不幸だった……不幸を乗り越えた奴の意見なら、いいんだな?」
「!?」
割って入った千雨の言葉に、
「詳しい事はプライバシーだ。だから言わねえが、壊斗は尋常じゃない不幸や苦しみを乗り越えて、今ここに居る。つまり壊斗の言う事なら、いいんだろ?」
「ハセガワも、あまり
「よせやい。不幸自慢したって何にもならねえよ」
そして壊斗は言い放つ。
「はっきり言おう。完全なる世界とか言う
地獄を見て来た者として言おう。悲劇、理不尽、不公平、不公正……。それらを駆逐する事は確かに不可能に等しい。だが、血を吐きながら続ける哀しいマラソンを走り続け、何時か手が届くと信じて手を伸ばし続けるしか無いんだ」
「……! それは、余りに
「同じく『奪われた』ネギ少年も……。『
「!!」
崩れ落ちかける
「倒れたら、駄目だ。君はここに来た者の責任として、最後まで耐えて、立ち続けなければならない。厳しいかも知れないけれど……」
「い、いえ。フェイト様、申し訳ありません」
「うん、頑張って」
そしてフェイトは瞑目する。やがて眼を開いた彼は、言葉を発した。
「さて……。それじゃあ『
とりあえずは、関東魔法協会と『紅き翼』の面々には、金銭的な物で申し訳ないが、受けた損害に比例して賠償金を支払う準備がある。特にネギ君は、交戦こそしたものの、巻き込まれただけに等しいからね。かなり莫大な額を計上しているよ。まあ、これは枕だけれど」
「……続きを言うてくれい」
「更に『紅き翼』の面々に対しては、『ナギ・スプリングフィールド氏』の『
近右衛門は唖然とする。他一同も、似た様な物だ。
「いや、その別の肉体って、どうやって手に入れるんじゃい。誰かの肉体を奪うのであらば、それこそ不正義、理不尽じゃぞ」
「クローン培養とかで、理想的な物を。まあ、可能になったのは近年の事だけど」
「むむ、そう来たかね。じゃが、それは不可能と言うよりも無意味じゃな」
「どういう意味だい? 近衛学園長」
「いや、の。電話回線を通じてこの部屋の様子は、アル……
そして近右衛門は、卓上の電話機をスピーカーモードにする。と、そこから突如、ガキ臭さの残った様な声が響いて来る。
『よう、『
「その声は……!!」
『そう言うこった。俺、今更ながらに大・復・活!! ま、何もできちゃいないんだが。身体もまだボロボロだし』
フェイトは、壊斗に目を遣る。壊斗は頷いた。一見無表情のまま、フェイトはしかし愕然とした様子を隠せずに言葉を吐き出した。
「つまり、既にナギ・スプリングフィールドは
『おう! 大変だったらしいが、何とか勝利して『
「そうか……」
瞑目したフェイトは、しかし瞳を再度開く。
「これは、難しい事態だね……。デュナミスにどう報告したものか……」
「上役の名前、出してしまっても良いのかの?」
「今更だよ。ナギはデュナミスと面識があるし、デュナミスが生き残っている事は知っている」
そして近右衛門は、断を下す。
「やはりお主らの申し出は受け入れられぬ。お主らの
そしてそれらが無くともじゃ。お主らの申し出は、致命的に遅すぎる。もっと最初から、
「その通りで、返す言葉も無いよ。わかった、この交渉は決裂したとデュナミスには伝える」
あまり残念そうには見えないフェイトに向かい、千雨は直球で問いかけた。
「あまり残念そうには見えねえな。あんたは……。あんた自身は、今後の方針をどうするつもりなんだ?」
「……できるなら。できるなら、君たちが実行中だと言う、『火星に魔力を注ぎ足す』
「……結果次第では?」
厳しい目で見遣る千雨を始め、その場の一同の顔をぐるりと見まわしたフェイトは、一見無表情の中に確たる何かを秘めた声で、言い放つ。
「僕ら一党は『
「「「「「!!」」」」」
「僕の従者たちは、ここに居る
従者の彼女たちは、そのまま投降者として君らに預ける事になる。僕は僕で、おそらく向こうの世界で
「フェイト様……」
フェイトの虚ろな、しかしそれでも真摯な物を感じさせる瞳が、一同を見渡す。ガンドルフィーニと瀬流彦は、思わずその瞳に飲まれる。近右衛門は、フェイトを見定めんと鋭い眼光で見遣った。そして千雨と壊斗は、フェイトの固く、堅く、硬い心に、物悲しさを感じていた。
裏にいるデュナミスは、もういっぱいいっぱいの状況です。戦力は足りない。廃都オスティアのゲートは吹っ飛んで、魔力溜まりは急速に雲散霧消中。儀式を発動する手段、なし。
あげくに数少ない戦力の『
月詠さん? 今