超ロボット生命体トランスフォーマーMAGUS   作:雑草弁士

49 / 56
第047話:無謀な交渉

 この日、千雨と壊斗は火星から麻帆良に戻って来ていた。理由は、学園長である近右衛門から、ある『頼み』を受けたためである。2人は、学園長室へと向かう。

 

「しかし驚いたなあ。『奴』が、こんな直截的な行動に出るたあ」

「それだけこちらが、『相手』を追い詰めたとも見れる」

「『奴』はどうやって現実世界(ムンドゥス・ウェトゥス)に?」

「壊れかけのゲートで、無理矢理に来たらしい」

 

 彼等は学園長室の扉をノックした。中から声が響く。

 

『入ってくれたまえい』

 

 そして扉を開けて、2人が見た物は……。執務机に着かずに部屋の中央付近に立っている近右衛門、そしてそれを護る様に立つガンドルフィーニ、いつでも支援ができる立ち位置にいる瀬流彦の3人の魔法先生たち。

 だがそれよりも衝撃的なのは、彼等と向き合って立っている、部外者2名の姿である。その部外者とは、なんとテロ組織『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』の構成員、実働部隊であるフェイト・アーウェルンクスとその従者の1人である(シオリ)であった。ちなみに(シオリ)は、千雨たちのセンサー情報によれば、何がしかの人形の身体に入って来ている模様だ。

 近右衛門が千雨と壊斗に向けて言う。

 

「よく来てくれたのう」

「なんでこんな事になったのかね?」

「壊斗殿、実はの……」

「いや、それは僕から話そう」

 

 フェイトが近右衛門を遮って言う。ちょっとガンドルフィーニが嫌な顔をしたが、近右衛門に目配せされて引き下がる。フェイトは言葉を続けた。

 

「僕は軍使だと思ってくれればいい。我々『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』の計画(プラン)は、瓦解一歩手前だ。それ故に上層部……と言うか僕の上役は、なりふり構わなくなっていてね。まあ、常軌を逸しているとは思うんだけど。

 今まで散々敵対してきた麻帆良や、アルビレオ・イマなど『紅き翼』の面々と対話し、可能であれば協力態勢を構築、それが不可能でも……。無理だとは思うけどね。不可能でも、不干渉の中立を確保したいと言う話でね。最終的に神楽坂明日菜嬢(たそがれのひめみこ)を必要とする以上、絶対に無理だろうと何度も進言したんだけど。」

「随分と虫のいい話だな、としか思えないんだが。まあ、アンタも無理だとは思っている様だけどよ」

「確か長谷川、だったかい? 壊斗氏の右腕。仕方ないんだよ、命令だからね」

 

 フェイトはとりあえず、肩を竦めて言う。

 

「まずは上役から仰せつかった交渉を、やってしまいたい。ダメ元でね。上手く継続できるかは不明だが、僕らの計画(プラン)について説明したい」

「「「「「……」」」」」

 

 そしてフェイトは、『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』の計画について語る。それはアルビレオ・イマ(クウネル・サンダース)の口から語られた事と、寸分の違いも無い。

 魔法世界(ムンドゥス・マギクス)全てを『書き換え(リライト)』する事により、その住人全てを永遠の園たる完全なる世界へと送り、そこで個々人にとって計算され尽した『完全なる幸せの夢』を見せつつ、一切の生命活動を行わない眠りにつかせる。

 一切の生命活動が行われないため、太陽から火星に降り注ぐ魔力で充分に、完全なる世界は維持できる。更には完全なる世界では苦痛も無く、何よりも弱き者達が理不尽と不公正、不正義によって、ささやかな幸せを奪われる事も無いのだ。

 

「……そんなもの、例えて言えば麻薬に逃げている様な物じゃないか! それが真の救いになり得るものか!」

 

 ガンドルフィーニは激昂する。そこに今まで黙って見ていた(シオリ)が、初めて口を開いた。

 

「ならば貴方は、奪われた事があるんですか?」

「なっ……」

「世界には、どうしようもない悲劇が何処にでも転がっています。貴方がたは、良き魔法使いと称してそれに対し救済の手を伸ばしている『つもり』でしょう。ですが、救い切れていますか? 無理でしょう?

 『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』の完全なる世界は、それに対する唯一の答えでは無いんでしょうか? 少なくとも、奪われた事の無い、失った事の無い、不幸であった事の無い人に、言われたくは無いです」

「なら、不幸だった……不幸を乗り越えた奴の意見なら、いいんだな?」

「!?」

 

 割って入った千雨の言葉に、(シオリ)は目を見開く。千雨は壊斗に視線を遣る。

 

「詳しい事はプライバシーだ。だから言わねえが、壊斗は尋常じゃない不幸や苦しみを乗り越えて、今ここに居る。つまり壊斗の言う事なら、いいんだろ?」

「ハセガワも、あまり他人(ヒト)の事は言えんだろうに」

「よせやい。不幸自慢したって何にもならねえよ」

 

 そして壊斗は言い放つ。

 

「はっきり言おう。完全なる世界とか言う計画(プラン)では、生産性が全く無く、未来への展望が無い。完全なる世界は、未来が閉じているんだ。『そこに封じられた生命(いのち)』は、『生きていない』。それはある意味、滅びでしか無いな。

 地獄を見て来た者として言おう。悲劇、理不尽、不公平、不公正……。それらを駆逐する事は確かに不可能に等しい。だが、血を吐きながら続ける哀しいマラソンを走り続け、何時か手が届くと信じて手を伸ばし続けるしか無いんだ」

「……! それは、余りに(むご)い言葉、です。『奪われた』わたしたち、に、は……」

「同じく『奪われた』ネギ少年も……。『お前たち(コズモ・エンテレケイア)』に『奪われた』ネギ少年も、俺と同じ事を言っているぞ」

「!!」

 

 崩れ落ちかける(シオリ)を、フェイトが支えた。彼は抑揚に乏しい声で言う。

 

「倒れたら、駄目だ。君はここに来た者の責任として、最後まで耐えて、立ち続けなければならない。厳しいかも知れないけれど……」

「い、いえ。フェイト様、申し訳ありません」

「うん、頑張って」

 

 そしてフェイトは瞑目する。やがて眼を開いた彼は、言葉を発した。

 

「さて……。それじゃあ『完全なる世界(われわれ)』からの譲歩の条件を言っても無駄そうだね。まあ、上役からの命令だから言って置くけど。

 とりあえずは、関東魔法協会と『紅き翼』の面々には、金銭的な物で申し訳ないが、受けた損害に比例して賠償金を支払う準備がある。特にネギ君は、交戦こそしたものの、巻き込まれただけに等しいからね。かなり莫大な額を計上しているよ。まあ、これは枕だけれど」

「……続きを言うてくれい」

「更に『紅き翼』の面々に対しては、『ナギ・スプリングフィールド氏』の『造物主(あるじ)』からの解放も視野に入れている。具体的には、(あるじ)には一時仮死状態になっていただき、ナギ氏の肉体から離れていただく。そして用意した別の肉体に移っていただこうかと……」

 

 近右衛門は唖然とする。他一同も、似た様な物だ。

 

「いや、その別の肉体って、どうやって手に入れるんじゃい。誰かの肉体を奪うのであらば、それこそ不正義、理不尽じゃぞ」

「クローン培養とかで、理想的な物を。まあ、可能になったのは近年の事だけど」

「むむ、そう来たかね。じゃが、それは不可能と言うよりも無意味じゃな」

「どういう意味だい? 近衛学園長」

「いや、の。電話回線を通じてこの部屋の様子は、アル……アルビレオ・イマ(クウネル・サンダース)のところにも繋がっておるんじゃよ。奴の意見も聞きたかったものでの。でもって、今スピーカーモードにするわい」

 

 そして近右衛門は、卓上の電話機をスピーカーモードにする。と、そこから突如、ガキ臭さの残った様な声が響いて来る。

 

『よう、『(テルティウム)』……いや、『フェイト』だったな?』

「その声は……!!」

『そう言うこった。俺、今更ながらに大・復・活!! ま、何もできちゃいないんだが。身体もまだボロボロだし』

 

 フェイトは、壊斗に目を遣る。壊斗は頷いた。一見無表情のまま、フェイトはしかし愕然とした様子を隠せずに言葉を吐き出した。

 

「つまり、既にナギ・スプリングフィールドは(ライフメーカー)から解放されていた、のか。(あるじ)は?」

『おう! 大変だったらしいが、何とか勝利して『造物主(ライフメーカー)』を消滅させたって聞いてるぞ』

「そうか……」

 

 瞑目したフェイトは、しかし瞳を再度開く。

 

「これは、難しい事態だね……。デュナミスにどう報告したものか……」

「上役の名前、出してしまっても良いのかの?」

「今更だよ。ナギはデュナミスと面識があるし、デュナミスが生き残っている事は知っている」

 

 そして近右衛門は、断を下す。

 

「やはりお主らの申し出は受け入れられぬ。お主らの計画(プラン)は本当の救いとは、わしらには思えぬ。それが1点。そしてどちらにせよ、お主らの計画(プラン)は既に実現性が薄い事。そして無理に実現しようとするならば、わしらの身内でもある『黄昏の姫巫女』に犠牲を強いる事。これが2点目と3点目。

 そしてそれらが無くともじゃ。お主らの申し出は、致命的に遅すぎる。もっと最初から、魔法世界(ムンドゥス・マギクス)崩壊の危機という事情を説明して協力を求め募る道は無かったのかの?敵対してしまってからでは、互いに多大なる被害を出してからでは、遅すぎるのじゃて」

「その通りで、返す言葉も無いよ。わかった、この交渉は決裂したとデュナミスには伝える」

 

 あまり残念そうには見えないフェイトに向かい、千雨は直球で問いかけた。

 

「あまり残念そうには見えねえな。あんたは……。あんた自身は、今後の方針をどうするつもりなんだ?」

「……できるなら。できるなら、君たちが実行中だと言う、『火星に魔力を注ぎ足す』計画(プラン)だけど。許せる範囲で詳細を教えて欲しい。その実現性と、進捗度合いを。その結果次第では……」

「……結果次第では?」

 

 厳しい目で見遣る千雨を始め、その場の一同の顔をぐるりと見まわしたフェイトは、一見無表情の中に確たる何かを秘めた声で、言い放つ。

 

「僕ら一党は『完全なる世界(そしき)』を離反し、君たちに投降する」

「「「「「!!」」」」」

「僕の従者たちは、ここに居る(シオリ)以外にも全員が、人形の身体に入って壊れかけのゲートでこちらに来ている。僕自身は再度魔法世界(むこう)に報告しに戻らなければならないけれど。壊れかけのゲートでは、それが最後の転移になるだろうね。

 従者の彼女たちは、そのまま投降者として君らに預ける事になる。僕は僕で、おそらく向こうの世界で(おおやけ)からも『完全なる世界(そしき)』からも身を隠さねばならないだろう。けれどこれ以上、見込みの無くなった、そして正当性も否定された計画(プラン)に、彼女たちを付き合わせるわけには行かない。僕は、彼女たちに責任がある」

「フェイト様……」

 

 フェイトの虚ろな、しかしそれでも真摯な物を感じさせる瞳が、一同を見渡す。ガンドルフィーニと瀬流彦は、思わずその瞳に飲まれる。近右衛門は、フェイトを見定めんと鋭い眼光で見遣った。そして千雨と壊斗は、フェイトの固く、堅く、硬い心に、物悲しさを感じていた。




裏にいるデュナミスは、もういっぱいいっぱいの状況です。戦力は足りない。廃都オスティアのゲートは吹っ飛んで、魔力溜まりは急速に雲散霧消中。儀式を発動する手段、なし。(ライフメーカー)の復活可能性、絶望的(ほんとはそれどころか、不可能なんですが)。
あげくに数少ない戦力の『(フェイト)』は、従者たちのために、こっそり裏切りを画策してます。

月詠さん? 今魔法世界(ムンドゥス・マギクス)ですよ? フェイトは彼女にも誘いをかけるか考えました。考えた結果はまあ、そういう事ですね。元から制御不能なところありましたし。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。