新オスティア総督にして、メガロメセンブリア元老院議員であるクルト・ゲーデルは、自身の執務室で考えに耽っていた。つい先日に、廃都オスティア最奥部に発生した巨大な……強大な魔力溜まりは、かつて20年前に行われかけた、『
だがメガロメセンブリアやヘラス帝国その他の国々が艦隊を編成している最中に、魔力溜まりは急速にその規模を縮小、消滅した。後日行われた調査では、魔力溜まりの中心であった廃棄ゲートが粉砕され消滅している事が確認される。
考えられる事は2つ。1つは『
「だが、それよりも考えられるのは……」
もう1つ考えられるのは、『
「だが……。誰が?」
一瞬頭に浮かんだのは、彼の剣の師匠でもある近衛詠春もメンバーの1人である、『紅き翼』だ。しかし『紅き翼』はメンバーが散り散りになり、リーダーのナギ・スプリングフィールドは表向き死亡、その実は……。
「それに、生き残って活動しているタカミチすらも、
だが、タカミチに確認を取ろうにも
「ああ、あれは僕じゃないよ。僕も手伝おうかって言ったんだけどね。それより明日菜君を護衛と言う名の見張りしてろってさ」
「!? 誰だ!!」
突然の曲者の台詞に、クルトは手元に刀が無い事に歯噛みをする。そしてカーテンの陰から姿を現したのは、やはりと言うか何と言うか、高畑であった。
「タカミチ……!!」
「久しぶりだな、クルト」
「……全てのゲートが破壊されている今、どうやって
「それは怖い。早々に立ち去るとしよう。……渡す物を渡してからな」
そして高畑は、クルトに書類ケースを放り投げる。クルトは黙ってそれを掴み取った。
「それは写しだから、証拠能力は低い。と言うよりほとんど無いに等しいくらい希薄だ。だがね……。必要とあらばその原本を、お前に渡す用意がある」
「……何の話だ?」
「それを見て、確認してくれてからだな。全てはそれからだ」
「ま、待……。気の早いやつだ」
高畑の姿は、既にその場には無かった。魔力や『気』の気配が無かったため、転移の類だと思わなかったクルト・ゲーデルだが、実は科学の力による空間転移だとは想像できなかったらしい。
彼は心の中で呟く。
(……しかし、タカミチの話が本当だとすれば。廃都オスティアのゲートを破壊し、『
!?)
書類ケースを開けたクルトは、目を見張った。
ほぼ時を同じくして、ヘラス帝国第三皇女テオドラの元にも、予期せぬ客人が現れていた。
「よお、久しぶりだな。じゃじゃ馬第三皇女」
「!! じゃ、ジャック!! ひさしぶりじゃな、この筋肉ダルマ!!」
「おいおい、会って2秒で飛び付いて来るかよ。しかも肩車で。お前、もう三十路だろが」
「む! ヘラスの
「十代いいい~? 十代って言うよりは10歳未満の所業だろ、こう飛び付いて来る……っとっとっと。それは置いといてだ」
突然真顔になったラカンに、テオドラはきょとんとする。ラカンは構わずに左手に持った書類ケースを差し出す。テオドラはラカンの首っ玉に抱き着いたまま、それを受け取った。
「なんじゃこれは?」
「折角の再会に無粋だとは思うけどよ、わりいな。とりあえずソレ見てくれや。急がねえと、誰か人が来るとヤバい」
「そう言えば、ここは
「なんとなくだ!」
「そうか……」
とりあえず、テオドラは書類ケースを開いて中身を確認する。最初はしれっとした風でそれを見ていたが、徐々に眉がつり上がり、怒りの表情になった。
「ジャック、これは本当の事か?」
「たぶんな。それは原本の写しだそうだから、たいして証拠能力はねえらしいが。お前がソレを上手く使えるってんなら原本や、それ以外のイロイロな情報も証拠品付きで進呈するってよ」
「む? お主だれかの考えで動いておるのか?」
「おう。誠実で実直な雇い主って、絶滅危惧種だ。オマケに双方本気じゃないって言っても、俺と真っ向から遣り合える相手よ」
「な!?」
ラカンはテオドラを、そっと自分の肩上から床に降ろす。そしてニヤリと笑って言った。
「そろそろ時間だ。その書類の中に、日時と場所が書いてあるからよ。帝国を大掃除する気があんなら、来い」
「ちょ、ジャック!」
「んじゃ、またな」
そしてラカンの姿が、ほのかな燐光に包まれて消えた。しかし魔力の気配や『気』の気配は全くない。転移魔法の類でない事は、確かであった。テオドラ皇女は、呆然状態である。
しかしこれが夢や幻でない証拠に、彼女の手には書類ケースとそれから出した書類束が、しっかりと握られていた。
不躾な来訪者から渡された書類を食い入るように見つめながら、アリアドネー魔法騎士団候補学校総長セラスは、歯ぎしりを堪えるのに必死であった。
「これが本当なら……。アリアドネー内で起こった不審な事件や事故、決算報告での使途不明金の多くに説明がつく。ついてしまうわ……」
「わたしたちは、セラス総長のお人柄を見込み、その情報を提供させていただきました。それは原本の複写ですので、証拠能力は低いです。ですが信じていただけるのであらば……。
原本他の証拠品を……。お譲りいたします」
「貴女、チサメ・ハセガワだったかしら? いえ、
「はい」
セラスは厳しい目で千雨を睨む。
「貴女の目的は、何かしら?」
「信じていただけるか分かりませんが、『
だーーーっ!! よく考えると、なんでわたしがこんな、しちメンドクサイ事しなきゃならねーんだ!
「!?」
「あ、いえ。失礼しました。取り乱しました。気にしないでください」
セラスは目を丸くしていた。しかし溜息を吐いて、同情的な視線で千雨を見遣る。
「いえ、気にしないでって言われてもね。これでも生徒たちを預かっている身だし。貴女の
「すいません。ほんとに失礼いたしまして……。とりあえず今日のところは、これで失礼いたします」
「そう。お構いもしないで御免なさいね」
「いえ、では」
そして千雨は、燐光に包まれたかと思うと姿を消す。そして爆音が響いた。セラスは急ぎ窓際に寄ると、窓を開けて夜の空を見上げた。
そこには西の空へ向かい、機体の後部から炎を噴いて飛ぶ、2つの見慣れないタイプの飛空船があった。その飛空船は、通常の飛空船とは格が違う推力で猛加速し、あっと言う間に視界から姿を消した。
セラスは窓を閉じ、そして千雨が持って来た書類を再度じっくりと読む。そして彼女は溜息を吐いた。
「……まだ子供だったわね。あんな子供の背に重い荷物を背負わせて、冗談じゃないわ。せめて見込まれて頼まれた事ぐらいは……!!」
セラスは拳を握りしめた。
メガロメセンブリア元老院議員にして主席外交官、ジャン=リュック・リカードは、表面は平静を保っていたが、内心で激怒していた。今しがたカーテンの陰に消えた車椅子の男、ナギ・スプリングフィールドとその車椅子を押す幼い少女がもたらした書類の内容に、彼は本気で激怒していたのだ。
(冗談じゃねえ……。俺も元老院議員だが、本気で嫌になってきたぜ。こんなのは、ナギたちに対する攻撃とかだけじゃねえ。メガロの国民……全国民に対する、裏切りだろうがよ。
これを何とかするには……。ちくしょう、殴ったり艦砲で撃ったりで済むんなら、話は簡単なんだが。ちくしょう、俺ぁ政治屋なんざやってるが、こう言う戦いはなあ……)
パン!
そして彼は、右拳を左掌に音を立てて打ち付けた。こめかみに、血管が浮く。
「……苦手だ、なんて言っちゃいられんなあ」
彼はとりあえず、自分の予定を確認する。書類の最後に入っていた1枚の紙葉に書かれていた日時と場所での会合に、なんとしてでも出向かなければならない。しかも極秘裏に。
上手く行けば英雄、失敗すれば大逆人にされるやも知れない。しかしその様な事は些事だ。メガロメセンブリアの全国民のため、内憂は取り除かねばならない。リカードは、人知れず決意を固めたのである。
とりあえず4人様、陰謀グループへご案内です。と言うか、陰謀面で頼りになる人って、良くて超鈴音ぐらい? 近右衛門もできるか?
いや、ラカンは別な意味で発言力ありますか。