超ロボット生命体トランスフォーマーMAGUS   作:雑草弁士

52 / 56
第050話:立ち上がれクルト・ゲーデル

 クルト・ゲーデル、テオドラ皇女、セラス総長、ジャン=リュック・リカードらは、ごく僅かの厳選された秘密を守れる随行員だけを連れて、極秘裏に海洋のただ中にある小島にやって来た。他の『お客』が居るであろう事は予測していた彼等であったが、その客の顔ぶれには多少驚いたり動揺した模様。しかしそれを(おもて)にはほとんど出さず、彼等はその小島に建てられた、真新しい建物に迎え入れられる。

 ちなみに迎えに出たのは、ジャック・ラカンとその愉快な仲間達である。クルトは先に立って歩くラカンに、不敵な笑みを浮かべて語り掛けた。

 

「お久しぶりですね、ジャック」

「おう、クルト。ここに来たって事は、俺たちの誘いに乗ったってえ事でいいのか? それとも最終判断は、まだか? ま、来た以上は逃がしゃしねえけどな。色んな意味で」

「それは怖いですね」

 

 ラカンはだが、意味深な笑みを浮かべて言う。

 

「だがな、これは俺たち不甲斐ない大人が、せめても今回の件で、何がしかでもできる最後のチャンスだ。20年前の因縁を、ほとんどガキどもの世代に解決してもらっちまったんだからな。いい恥晒しだ」

「解決? 何の話をしているのですか?」

「着いたぜ、ここが会議室だ。ここで全部、話を聞きな。俺は結局、雇われ人に過ぎねえからな」

「……」

 

 クルトは、意を決して会議室に入る。そして一瞬驚いた。会議室では、かつて袂を分かった『紅き翼』のリーダー、ナギ・スプリングフィールドが車椅子に座していたからである。他にも千雨、古、ネギ、のどか、小太郎、超、真名、それにナギの付き添いでエヴァンジェリンや茶々丸が居るが、クルトはそれらに注意を払う必要性を感じていなかった。

 ちなみに彼の背後では、テオドラ皇女にラカンがちょっかいをかけ、その緊張をほぐさせている声が聞こえている。ラカンの愉快そうな笑声が、ちょっと癇に障った。

 

 

 

 リカードは溜息を吐く。会議室で車椅子のナギたちから知らされた話は、以前渡された資料以上にショッキングな話ばかりだった。その結構な部分が、ヘラス帝国やアリアドネーのスキャンダルではある。しかし過半は、メガロメセンブリアの元老院連中の関わる醜聞や汚職、特にテロ組織『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』との癒着関連の話であった。

 

「これを公表すれば、メガロはひっくり返るな……。だが、やらにゃならん。これは全国民に、いや全魔法世界に対する裏切りだ。そんなのを許しておいちゃ……」

「リカード議員。少し待ってくれないか」

「ゲーデル議員?」

 

 クルトがリカードを制止()める。怪訝な顔をするリカードは、だが次のクルトの台詞に怒りを顕にする。

 

「今の段階で、政情不安を煽るのはあまりに危険。しばし様子を見るべきでは?」

「な!? ゲーデル議員! これはそんな悠長な事を言っている場合じゃ無えんだ!」

「私は『今の段階で』と言っています。放置しておくとは言っていませんよ」

「いいや! これこそが、一刻も早くやらにゃならん事だ! そうしなくては、ますますこの癌細胞どもはメガロの……。魔法世界(ムンドゥス・マギクス)のハラワタを食い散らかすぞ!? あんたも見込まれてここに来たんだろうが! それが何故わからん!」

 

 クルトのこめかみにも、血管が浮く。何やらイラっと来たらしい。だが彼は自制する。

 

「落ち着いてください、リカード議員。今は……」

「今は、魔法世界(ムンドゥス・マギクス)の崩壊に対処する術を……。貴方の立場でしたら、メガロメセンブリアの『人間(ヒューマン)』6,700万人を現実世界(ムンドゥス・ウェトゥス)へ脱出させるとか、ですかね?」

「「「「!!」」」」

 

 口を挟んだのは、彼らに資料を配った後は沈黙を守っていた千雨である。クルトの表情が一瞬強張ったが、彼は笑みを浮かべてしらばっくれる。

 

「何のお話で……」

「しらばっくれなくてもいいネ。メガロメセンブリアでその動きがあるコトは、こちらの諜報網で掴んでるヨ。その様なオオゴトを控えてるのニ、政情不安を煽ってはやっていられない事も、わかるヨ」

 

 超の言葉も、クルトの笑みを崩す事は無い。テオドラとセラス、リカードは厳しい目でクルトを見遣るが、クルトの視線は車椅子のナギを睨み付けていた。どうやらクルトは、ナギがこの場のキーマンだと思ったらしい。

 だがナギはニカっと笑う。

 

「なんだよ、クルト。俺は野郎に色目使われて喜ぶ様な習性は無いんだがよ?」

「ええ、ナギ。わたしもありません」

「ならいいんだ。でもな、クルト。お前は分かっちゃいない。はっきり言ってだな、お前が頑張ってる現実世界(ムンドゥス・ウェトゥス)への脱出計画。もう意味ねえぞ」

「!?」

 

 ナギはやれやれと言う様に首を振る。

 

「俺たちが何もできないでいる間によ。そこの子供らが、頑張って問題を解決してくれたんだわ。もー、(おれ)ら、メンツ丸つぶれだ。あげくに俺まで助けてもらっちまったしなあ」

「正確には、あと1年ほどで完全解決と言ったところですかね。わたしたちが何もしなければ、あと最短9年と半年で魔法世界(ムンドゥス・マギクス)を維持する魔力が尽きて、魔法世界(ムンドゥス・マギクス)は崩壊するはずでした。

 ですが今現在の段階で、30余年の余裕が出来ています。1年後には、魔法世界(ムンドゥス・マギクス)が消費する魔力と得られる魔力との収支は、プラスに転じますね」

 

 クルトは驚愕して、千雨に視線を移す。この場の本当のキーマンが、今まで取るに足らないと考えていた、ナギのアシスタント役でしかないと考えていた、この少女である事にようやく気付いたのだ。

 そして超が、溜息まじりに言葉を紡ぐ。

 

「ソレに、現実の地球に6,700万人を受け入れる余地ハ無いネ。大戦争になりかねないヨ。まあ、如何にしたトコロで、9年半じゃ地球に一定の占領地を得て、ソコに6,700万人を移民させるコトは無理だたと思うケドね」

「な……。どうやったのです! どうやって魔法世界(ムンドゥス・マギクス)の寿命を延ばし……」

「単に、魔法世界(ムンドゥス・マギクス)の依り代になっている現実の火星に、魔力を足しただけです。火星の周辺に多数の真空発電衛星、1機のブラックホール炉衛星、反物質炉発電ステーション1基を置いて。そのエネルギーを魔力に変換して、火星に供給してます。科学の力で。

 今後、それらの発電衛星や発電ステーションは、加速度的にその数を増やします。そうすれば必然的に火星への魔力供給量も増えますからね。1年後には、まあ充分な安全域を確保した上で余裕持って火星への魔力供給が可能に」

 

 会議室のスクリーンに、魔法世界(ムンドゥス・マギクス)と現実の火星、そして火星の周辺に建設中の、様々な衛星やステーションや軌道エレベーターなどの関係性を示した模式図が表示される。クルト、テオドラ、セラス、リカードは食い入るようにそれを見つめた。

 ちなみに、魔法世界のこことは別の基地に設置された、魔法世界の調律、調整を行うための複合コンピューターシステムは、この模式図には描かれていない。まだ彼等4人の信頼度は、全てを明かすには足りないのだ。

 それにそのシステムを手に入れたならば、下手をすれば全魔法世界(ムンドゥス・マギクス)を脅迫するに足る力を手に入れられる。特に今の段階のクルトにそれを知らしめるのは、危険であった。これはクルトを計画に噛ませる事を推薦した高畑ですらも、同意見だったのだ。

 そしてクルトは、力なく椅子に腰を落とす。

 

「ふふ……。はは、は……。わたしは何をして来たんでしょうね。『紅き翼』のやり方では、世界は救えないと見切りをつけて……。よりによってメガロメセンブリアの政治家として権力を求め……。

 なのにアリカ様の不名誉も、未だに打ち払う事ができていない。あの方が国と自身を捨てて護った魔法世界(ムンドゥス・マギクス)も、見捨てて逃げ出す事しか策を考える事ができなかった。それなのに、子供たちが、こんなに簡単に全てを解決……?」

「ド阿呆か、アンタは」

 

 千雨がとうとう敬語を使わずに、ぶっきらぼうに言った。クルトは首を縦に振る。

 

「その通りですね。まさにド阿呆、道化です。ナギもジャックも、いい恥晒しとかメンツ丸つぶれとか言っていましたが、まさにその通りでしょう」

「んな事言ってんじゃねえんだよ。いいか? わたしらには手段が、科学の力があった。協力してくれる科学者(かいと)がいた。運よく、運よくだ。そして立ち位置も、魔法世界(ムンドゥス・マギクス)の外、この手段を取りやすい現実世界(ムンドゥス・ウェトゥス)だった。そして、運よく魔法世界(ムンドゥス・マギクス)の危機的状況を、その周辺条件まで含めて知る事ができた。

 本当はな? わたしらは魔法世界(ムンドゥス・マギクス)を維持できた時点で、あとは放置しようかと思ってたんだよ。わたしらじゃ、手に余る上に、そこまでする義理もなんもない『はず』だったからな」

 

 大きく息を吐き、千雨は言葉を続ける。

 

「けどな? 放置したらネギ先生も嫌だろうし、ナギさんも苦しむだろ。そして魔法世界(ムンドゥス・マギクス)の中での諍いとかが現実世界(ムンドゥス・ウェトゥス)まで影響しかねないだろが。それに無責任だしな。

 けどな、わたしらにゃ政治とか陰謀とかは、わかんねえんだよ。だからいろんな人に話聞いて、あんたら選び出したんだ。アンタらにゃ、アンタにゃ、できる事あるんだよ! てめえ、この世界の人間だろが! 少しは働け! そうしねえと、ただの税金泥棒だぞ!」

「……税金泥棒よばわりは、勘弁ですね。わかりました、少しは働きましょう」

 

 クルトの目に、どうにかこうにか光が戻る。彼は決然と立ち上がった。千雨は更に言い放つ。

 

「この件は、アンタらに全部丸投げだ。嫌とは言わさねえぞ」

「言いませんよ。上手くすればアリカ様の汚名も払拭できる。喜んで、やらせていただきますよ。

 リカード議員! 話を詰めたいのですが!」

「お、おおう? 急にやる気になりやがったな。ヘラスやアリアドネーとも同調して動くべきかと思うが?」

 

 テオドラとセラスは、急に話を振られて慌てて頷く。クルトは悪い笑顔を浮かべつつ口を開く。

 

「くくく、千載一遇の機会が巡ってきましたね。あの老害ども、一人残らず追い落としてくれましょう」

「……このヒト、味方にして良かったのカ?」

「『いどのえにっき』では、大丈夫そうですけれど」

「アイヤー、ちょと不安アル」

「た、タカミチの推薦だし?」

 

 そんな中、エヴァンジェリンがぽつりと呟いた。

 

「まあ、ナギとわたしに悪影響が出なければ、なんでも良かろう」

「ぶれねえな、マクダウェル」

 

 この時から、クルト・ゲーデル元老院議員、テオドラ皇女、セラス総長、ジャン=リュック・リカード元老院議員らの活躍というか、暗闘が始まった。彼等は政敵を蹴散らし蹴落とし、老害らの罪を明らかにし、政権内の粛清を図る事になるのだ。

 まあ千雨たちからすれば、丸投げした事が上手く転がってくれたので、満足と言う物だった。




まあ、後々で世界調律コンピューターシステムの件は、この4人には伝えますけどね。その時の彼等の胃壁や髪の毛の運命が怖い。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。