クルト・ゲーデル、テオドラ皇女、セラス総長、ジャン=リュック・リカードらは、ごく僅かの厳選された秘密を守れる随行員だけを連れて、極秘裏に海洋のただ中にある小島にやって来た。他の『お客』が居るであろう事は予測していた彼等であったが、その客の顔ぶれには多少驚いたり動揺した模様。しかしそれを
ちなみに迎えに出たのは、ジャック・ラカンとその愉快な仲間達である。クルトは先に立って歩くラカンに、不敵な笑みを浮かべて語り掛けた。
「お久しぶりですね、ジャック」
「おう、クルト。ここに来たって事は、俺たちの誘いに乗ったってえ事でいいのか? それとも最終判断は、まだか? ま、来た以上は逃がしゃしねえけどな。色んな意味で」
「それは怖いですね」
ラカンはだが、意味深な笑みを浮かべて言う。
「だがな、これは俺たち不甲斐ない大人が、せめても今回の件で、何がしかでもできる最後のチャンスだ。20年前の因縁を、ほとんどガキどもの世代に解決してもらっちまったんだからな。いい恥晒しだ」
「解決? 何の話をしているのですか?」
「着いたぜ、ここが会議室だ。ここで全部、話を聞きな。俺は結局、雇われ人に過ぎねえからな」
「……」
クルトは、意を決して会議室に入る。そして一瞬驚いた。会議室では、かつて袂を分かった『紅き翼』のリーダー、ナギ・スプリングフィールドが車椅子に座していたからである。他にも千雨、古、ネギ、のどか、小太郎、超、真名、それにナギの付き添いでエヴァンジェリンや茶々丸が居るが、クルトはそれらに注意を払う必要性を感じていなかった。
ちなみに彼の背後では、テオドラ皇女にラカンがちょっかいをかけ、その緊張をほぐさせている声が聞こえている。ラカンの愉快そうな笑声が、ちょっと癇に障った。
リカードは溜息を吐く。会議室で車椅子のナギたちから知らされた話は、以前渡された資料以上にショッキングな話ばかりだった。その結構な部分が、ヘラス帝国やアリアドネーのスキャンダルではある。しかし過半は、メガロメセンブリアの元老院連中の関わる醜聞や汚職、特にテロ組織『
「これを公表すれば、メガロはひっくり返るな……。だが、やらにゃならん。これは全国民に、いや全魔法世界に対する裏切りだ。そんなのを許しておいちゃ……」
「リカード議員。少し待ってくれないか」
「ゲーデル議員?」
クルトがリカードを
「今の段階で、政情不安を煽るのはあまりに危険。しばし様子を見るべきでは?」
「な!? ゲーデル議員! これはそんな悠長な事を言っている場合じゃ無えんだ!」
「私は『今の段階で』と言っています。放置しておくとは言っていませんよ」
「いいや! これこそが、一刻も早くやらにゃならん事だ! そうしなくては、ますますこの癌細胞どもはメガロの……。
クルトのこめかみにも、血管が浮く。何やらイラっと来たらしい。だが彼は自制する。
「落ち着いてください、リカード議員。今は……」
「今は、
「「「「!!」」」」
口を挟んだのは、彼らに資料を配った後は沈黙を守っていた千雨である。クルトの表情が一瞬強張ったが、彼は笑みを浮かべてしらばっくれる。
「何のお話で……」
「しらばっくれなくてもいいネ。メガロメセンブリアでその動きがあるコトは、こちらの諜報網で掴んでるヨ。その様なオオゴトを控えてるのニ、政情不安を煽ってはやっていられない事も、わかるヨ」
超の言葉も、クルトの笑みを崩す事は無い。テオドラとセラス、リカードは厳しい目でクルトを見遣るが、クルトの視線は車椅子のナギを睨み付けていた。どうやらクルトは、ナギがこの場のキーマンだと思ったらしい。
だがナギはニカっと笑う。
「なんだよ、クルト。俺は野郎に色目使われて喜ぶ様な習性は無いんだがよ?」
「ええ、ナギ。わたしもありません」
「ならいいんだ。でもな、クルト。お前は分かっちゃいない。はっきり言ってだな、お前が頑張ってる
「!?」
ナギはやれやれと言う様に首を振る。
「俺たちが何もできないでいる間によ。そこの子供らが、頑張って問題を解決してくれたんだわ。もー、
「正確には、あと1年ほどで完全解決と言ったところですかね。わたしたちが何もしなければ、あと最短9年と半年で
ですが今現在の段階で、30余年の余裕が出来ています。1年後には、
クルトは驚愕して、千雨に視線を移す。この場の本当のキーマンが、今まで取るに足らないと考えていた、ナギのアシスタント役でしかないと考えていた、この少女である事にようやく気付いたのだ。
そして超が、溜息まじりに言葉を紡ぐ。
「ソレに、現実の地球に6,700万人を受け入れる余地ハ無いネ。大戦争になりかねないヨ。まあ、如何にしたトコロで、9年半じゃ地球に一定の占領地を得て、ソコに6,700万人を移民させるコトは無理だたと思うケドね」
「な……。どうやったのです! どうやって
「単に、
今後、それらの発電衛星や発電ステーションは、加速度的にその数を増やします。そうすれば必然的に火星への魔力供給量も増えますからね。1年後には、まあ充分な安全域を確保した上で余裕持って火星への魔力供給が可能に」
会議室のスクリーンに、
ちなみに、魔法世界のこことは別の基地に設置された、魔法世界の調律、調整を行うための複合コンピューターシステムは、この模式図には描かれていない。まだ彼等4人の信頼度は、全てを明かすには足りないのだ。
それにそのシステムを手に入れたならば、下手をすれば全
そしてクルトは、力なく椅子に腰を落とす。
「ふふ……。はは、は……。わたしは何をして来たんでしょうね。『紅き翼』のやり方では、世界は救えないと見切りをつけて……。よりによってメガロメセンブリアの政治家として権力を求め……。
なのにアリカ様の不名誉も、未だに打ち払う事ができていない。あの方が国と自身を捨てて護った
「ド阿呆か、アンタは」
千雨がとうとう敬語を使わずに、ぶっきらぼうに言った。クルトは首を縦に振る。
「その通りですね。まさにド阿呆、道化です。ナギもジャックも、いい恥晒しとかメンツ丸つぶれとか言っていましたが、まさにその通りでしょう」
「んな事言ってんじゃねえんだよ。いいか? わたしらには手段が、科学の力があった。協力してくれる
本当はな? わたしらは
大きく息を吐き、千雨は言葉を続ける。
「けどな? 放置したらネギ先生も嫌だろうし、ナギさんも苦しむだろ。そして
けどな、わたしらにゃ政治とか陰謀とかは、わかんねえんだよ。だからいろんな人に話聞いて、あんたら選び出したんだ。アンタらにゃ、アンタにゃ、できる事あるんだよ! てめえ、この世界の人間だろが! 少しは働け! そうしねえと、ただの税金泥棒だぞ!」
「……税金泥棒よばわりは、勘弁ですね。わかりました、少しは働きましょう」
クルトの目に、どうにかこうにか光が戻る。彼は決然と立ち上がった。千雨は更に言い放つ。
「この件は、アンタらに全部丸投げだ。嫌とは言わさねえぞ」
「言いませんよ。上手くすればアリカ様の汚名も払拭できる。喜んで、やらせていただきますよ。
リカード議員! 話を詰めたいのですが!」
「お、おおう? 急にやる気になりやがったな。ヘラスやアリアドネーとも同調して動くべきかと思うが?」
テオドラとセラスは、急に話を振られて慌てて頷く。クルトは悪い笑顔を浮かべつつ口を開く。
「くくく、千載一遇の機会が巡ってきましたね。あの老害ども、一人残らず追い落としてくれましょう」
「……このヒト、味方にして良かったのカ?」
「『いどのえにっき』では、大丈夫そうですけれど」
「アイヤー、ちょと不安アル」
「た、タカミチの推薦だし?」
そんな中、エヴァンジェリンがぽつりと呟いた。
「まあ、ナギとわたしに悪影響が出なければ、なんでも良かろう」
「ぶれねえな、マクダウェル」
この時から、クルト・ゲーデル元老院議員、テオドラ皇女、セラス総長、ジャン=リュック・リカード元老院議員らの活躍というか、暗闘が始まった。彼等は政敵を蹴散らし蹴落とし、老害らの罪を明らかにし、政権内の粛清を図る事になるのだ。
まあ千雨たちからすれば、丸投げした事が上手く転がってくれたので、満足と言う物だった。
まあ、後々で世界調律コンピューターシステムの件は、この4人には伝えますけどね。その時の彼等の胃壁や髪の毛の運命が怖い。