超ロボット生命体トランスフォーマーMAGUS   作:雑草弁士

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第051話:2学期スタート

 麻帆良学園は、2学期に入っていた。千雨と壊斗と愉快な仲間たちは、毎週末にスペースブリッジで火星へ赴き、今は自動で稼働している各システムの確認や調整を行っている。

 各種衛星や設備の生産も、それらの軌道上への打ち上げも、地上施設の拡張や整備も、ほぼ全て自動化されている。それらはほぼ人の手が入らずとも、最悪地球からの超高速通信による無線操作でどうにでもなるレベルになっていた。

 まあ、一応人の手もかけた方が安心は安心なので、週末に火星(あちら)まで出向いているのであるが。

 

(って言うか、火星だけじゃ無く月にも第2月基地(ムーンベースβ)第3月基地(ムーンベースγ)第4月基地(ムーンベースδ)まで完成して、第5月基地(ムーンベースε)が今現在建設中だし。火星の基地建設よりも優先度低いのに、いつの間にかだもんなあ。小惑星帯にも幾つか採掘基地あるけどさ)

 

 月や小惑星帯には、資源を射出するマスドライバー施設も存在する。火星の地上からの打ち上げも多いが、そちらから資源を打ち出した方が早い場合も多いのだ。当然火星の衛星軌道上には、マスキャッチャー設備も整備されている。

 

(ほんとはスペースブリッジなりスペースゲートなり、空間転移系技術使って採掘基地とかと火星の軌道上を繋げばいいんだけど、マスドライバーは安いんだよなあ。設備自体も、ランニングコストも)

 

 そこへ教壇のネギから声がかかった。今は英語の授業中であったりする。

 

「長谷川さん、今のところ一段落、和訳してください」

「はい。『待て!』『その瞬間、何処からともなく声がかかった』『アルテアは驚愕する』『力と力のぶつかり合う狭間に、己が醜い欲望を満たさんとする者よ。その行いを恥と知れ』『人、それを外道と言う!』『アルテアは叫んだ』『何奴!?』『そして声は答える』『貴様に名乗る名は無いっ!!』」

「はい、結構です」

 

 ネギはにっこりと笑う。その視線はしかし、ちょこっとだけ疑問符をつけて、こう語っていた。

 

(いや、考え事してたみたいに見えたんですけどね?)

 

 まあ、千雨が考え事していたのは確かだ。しかし彼女は壊斗(サイコブラスト)直伝のマルチタスクで、きちんと授業も聞いていたのである。ちなみに千雨は本気になれば、今のところ最大4つの思考を並列で動かせる。基本疲れるからやりたくないが、今は練習も兼ねて思考を2分割していたのだ。

 

「では続きを……。柿崎さん、一段落ばかり和訳を」

「うえっ!?」

 

ゴゴゴゴゴゴ……。

 

 ネギの背後から、異様な擬音が響き渡る。ネギの表情は笑顔のまま変わらない。だが教室の少女たちは、ネギに怒れる東洋龍(チャイニーズドラゴン)の姿を幻視した。うん、柿崎は椎名と小声でお喋りをしていたので、授業を聞いていなかったのだ。

 

「仕方ないですね。柿崎さんは、宿題です。次回の僕の授業までに、副読本の最後の部分、『史上最大の侵略・前後編』のハワイ版を全文和訳して提出してください。ただし日本版を全部丸写しにしても、分かりますからね? 僕は日本版持ってますから」

「ひいいいぃぃぃ!?」

「あと、笑ってる椎名さんも、柿崎さんとおしゃべりしてましたね。椎名さんの宿題は、『V3から来た男』『栄光は誰のために』ハワイ版の2話和訳です」

「にえええぇぇぇ!?」

 

 まあ、そんなこんなで授業は終わり、ネギは挨拶して教室を去って行った。そして椎名は涙目で語る。

 

「うう、ネギ君最近きびしい……」

「諦めた方いいですー。以前ちょっと聞きましたけどー。ネギ先生(せんせー)は、新田先生(せんせー)をお手本にしてるらしいんですー」

「「うえぇっ!?」」

 

 のどかの言葉に、柿崎と椎名は絶句する。千雨もついでに言ってやった。

 

「ああ、ただネギ先生は厳しいだけじゃなく、新田先生の優しさも真似してるからなあ」

「はいー。そうですねー」

「えー。新田、優しい?」

 

 千雨とのどかは頷く。千雨は続けた。

 

「優しいぜ? 気付いてなかったか? 新田先生、こっちに事情があったりするときは、騒ぎを注意しに来る直前で、何かしらで立ち止まったりして、わざとこっちに見つかってくれるんだ。まあだからと言って、その優しさに甘えようと考える奴には結局は雷落とすけどな」

「「「「「「……」」」」」」

「他にも色々、生徒のためなら陰で骨折りしてくれるし。甘くは無いけど、厳しいだけじゃねえんだ。ネギ先生は、そう言うところ見て、ああいう大人になりたいって思ったみたいだな」

 

 のどかも笑みを浮かべて言う。

 

「ですー。それにネギ先生(せんせー)言ってました。日本版を全部丸写しにしても分かる、ってー。つまり丸写しじゃなく、参考にするならかまわないって事ですー。」

「新田先生の分かり難い優しさ、しっかり身に着けてるっぽいな」

「やれやれ、しっかりやるしか無いかー」

「うう、でもネギ君きびしい……」

 

 諦めた柿崎と、涙する椎名を見つつ、千雨は笑った。

 

 

 

 放課後、千雨は壊斗の家で古と組手をしていた。ちなみに楓や刹那も共に来ることは多いのだが、今日は来ていなかった。なお刹那が来る時は、木乃香が治療役として一緒に来てくれるので、ありがたいのだが。

 

「むう、古の化勁はやっぱ面倒だな。わたしの技量だと破るのは難しい」

「そうは言っても、長谷川の拳は重すぎて捌くの大変アル。化勁に失敗したら大ダメージ必至アルよ」

「おおい、お前らお茶の準備ができたぞ」

 

 壊斗の言葉に、千雨と古は更にギアを一段上げる。

 

「んじゃ、とりあえず……」

「これで(シメ)アルね……」

 

 2人の拳が交錯する。そして千雨の拳はぎりぎり逸らされ、古の拳が千雨の胸元に決まる。今日の手合わせは、かろうじて古に軍配が上がった。ただし単純なダメージ量は古の受けた物の方が大きい。まあそれはそうだ。元からの防御力が違い過ぎる上、千雨は『気』を防御に用いていたからだ。

 そして2人は、壊斗の家に入って行く。とりあえず古の手当てをし、千雨は千雨でダメージを自己修復したら、壊斗謹製のお菓子でお茶にするのだ。

 

 

 

 古は今日のお茶請けであるキウイのショートケーキを食べながら、首を傾げていた。

 

「う~ん?」

「どうした? 口に合わなかったか?」

「あ、イヤ。違うアルよ。ちょっと今度の秋口の体育祭でやる、格闘大会ウルティマホラの件アルね。出場するか悩んでるアル」

「どうした古」

 

 千雨の問い掛けに、古は答える。

 

「なんと言うかアル……。本気を出さないと相手に失礼アルが……。手加減しないと相手が死ぬアル。最近も、街中でかかって来る相手をマズい事にしない様に困ってるアルね」

「「あー……」」

 

 千雨は腕を組んで考えつつ言った。

 

「そう言や、こないだ会った時、豪徳寺の奴も似た様な事を言ってたなあ。最近まともに相手できるのが、大豪院、中村、山下だけらしい。しかもそいつらとも実力に開きが出てきてて、そいつら自身豪徳寺と本気でやって死なないだろうってレベルが精一杯っぽいな」

「そいつらには、豪徳寺が『気』について多少教えたみたいだがな」

 

 その言葉に、古は疑問符を頭に浮かべる。古は豪徳寺の事を知らない様だ。『まほら武道会』の優勝者なのだが。

 

「豪徳寺、アルか?」

「ああ、古は知らんのか?リーゼントの学ラン格闘家。わたしと壊斗が『気』についてちょっとばかりレクチャーしたら、伸びる伸びる。一応ウルティマホラには出るらしいが」

「オオ!以前はしょっちゅうストリートファイトを挑んできてたアルね。けれど最近はとんと来ないアル。それ程の使い手ならば、わたしもやっぱり出て見ようアル」

「そっか。まああいつも無駄に戦いを挑んで回るのは、控えたみたいだな。ウルティマホラは古と豪徳寺の対戦だけでも、観戦に行くかね。……でも、どっち応援しようか悩むな」

 

 3人は豪徳寺の話を肴に、しばしお茶を楽しんだ。

 

 

 

 ちなみにその頃の豪徳寺薫。

 

「へっくしょん!!」

「あら、お風邪ですの?」

「む、いや。誰かが噂でもしてんのかね。それよりも、中々筋がいいぜ。以前と比べて、見違えるようだ」

「そ、そうですか?」

 

 豪徳寺と共に、正拳突き1,000本をやっているのは、高音・D・グッドマンである。ちなみに1,000本と言う数は、豪徳寺からすればかなり手加減した数だ。

 豪徳寺は高音の様子を見つつ、思う。

 

(まあ、あの『まほら武道会』での戦いからして、身体能力よりかは技術を叩き込んだ方がいいだろ。あんときゃパワーとスピードは物凄かった。だが技術が無かったから、こちらに全然攻撃があたらんかったしな)

 

 なんで高音が豪徳寺と共に鍛錬しているかと言うと、高音から豪徳寺に格闘技を教えて欲しいと頼み込んだからである。豪徳寺は快諾し、高音に喧嘩殺法の基礎を教え込んでいたのだ。

 なおその様子を、中村、大豪院、山下が物陰から見ていたりする。

 

「うーむ、薫ちんナンパかと思ったが、なんかさにあらず。色気なんか何も無く、きっちり教えてんなあ」

「うむ、それでこそだ、豪徳寺。一瞬見損なったと思ったぞ」

「いや、いい加減薫ちゃんにも春が来てもいい頃だと思ったんだが、見込み違いか?」

 

 そんなこんなで、豪徳寺と高音は今日の鍛錬を終える。いや、豪徳寺はこの後も自身の鍛錬を行うのだが。禁欲的(ストイック)に。ひたむきに。

 そして高音なのだが帰途に着きつつも、内心少々だけ落ち込みながら考え込んでいた。

 

(どうしたら良いのでしょうか……。出来得る物なら豪徳寺さんに、共に正義のため戦ってくださいとお願いしたい。わたしも愛衣も、前衛はできなくもないだけで、基本中衛から後衛タイプ。豪徳寺さんがもしも『魔法使いの従者(ミニステル・マギ)』になってくださったら……。そして何時かは……。

 い、いえいえいえ。あの様な高潔な武闘家の方に、そのような想いを抱く事など失礼ですわ!ああ、だけど何時かは……。ガンドルフィーニ先生や葛葉先生は、一般人の方の奥さんや恋人さんがいらっしゃるご様子。何か参考になる様な事は聞けないかしら……。い、いえいえいえ!!)

 

 流石3D柔術の山下慶一、勘は鋭いのである。顔が良いだけの事はあると言う物だった。

 

 

 

 手合わせとお茶会が終わった後、壊斗は4WDで麻帆良市街まで千雨と古を送ってくれた。2人は軽く礼を言うと、4WDから降りる。と、壊斗が何かに気付いた。

 

「む? あれはエヴァンジェリン・アタナシア・キティ・マクダウェル。従者の絡繰茶々丸も居るな」

「あ、こっちに気付いた」

 

 古が手を振ると、相手は一見嫌々そうな表情で、千雨たちの方へ向かって来る。まあ、さほど嫌々では無いのだろう。もしそうならば、エヴァンジェリンの事だから完全無視を決め込むはずだ。

 

「誰かと思えば、貴様らか」

「たいした荷物だな。買い出しか?」

 

 そう、エヴァンジェリンも茶々丸も、業務用スーパーの買い物袋を山ほど抱えていたのである。エヴァンジェリンは眉を顰めながら言う。

 

「あの古本め。奴の分も作ってやらねば、ナギの飯をつまみ食いするのでな。腹立たしいが」

「あのオッサンも、ナギさんが解放された上、ナギさんの懸念が解決したり解決に向かってる事で、嬉しいんだろ」

「それで、はっちゃけてるとでも? それは勘違いだ、長谷川千雨。あれは奴の地だ」

 

 そんなもんか、と千雨は思う。そして以前から疑問に思っていた事を、エヴァンジェリンに訊ねた。

 

「ところでマクダウェル。火星や魔法世界に姿を見せてたって事は、例の呪いとやらは解けたんだろう?」

「ああ、『登校地獄(インフェルヌス・スコラスティクス)』なら、ナギがある程度回復した時点で解いてくれたな」

「でもってナギさんが車椅子状態で動きが取れないうちは、麻帆良におまえも留まるんだろうけどよ。やっぱりその後は?」

 

 エヴァンジェリンは失笑した。そして彼女は口を開く。

 

「いや。ナギの奴はまだまだ完治には時間がかかりそうだからな。だから中学を卒業したら高校……まほ高にでも通ってみるかと考えている。これもナギ次第だが、まほ大まで行って見ても良いかもな」

「あれ? ナギさんそんなに具合悪かったか?」

「いや、まだしばらく車椅子だが、リハビリをきちんとやればわたしの高卒頃には、全盛期の力を取り戻せそうだ。あいつにきちんとリハビリさせるのは、かなりな難事なのだがな。

 ただナギの奴は、ちょっとこれまでの自分に対し、色々思うところがあったらしい。何時までかは分からんが、しばらく麻帆良地下に留まって考えたいそうだ。まあ、風船みたいな男だからな。そのうちフワフワし始めるかも知らんが」

「楽しそうだな、マクダウェル」

「そうアルね」

 

 千雨と古の言葉に、エヴァンジェリンは珍しく素直に頷く。

 

「そうだな。楽しいよ。ことに長谷川、貴様とそちらの水谷壊斗には、感謝しか無いな。わたしでは手の届かなかったナギを、救ってくれて感謝する」

「よせやい。背中が痒くなる」

「わかった」

 

 エヴァンジェリンはそして、ほころぶ様に笑うと、挨拶もせずに歩き出す。

 

「行くぞ、茶々丸。晩飯の準備が間に合わなくなる」

「はい。では長谷川さん、古さん、壊斗さん。これにて失礼します」

「ああ、また明日な」

「またアル」

「それじゃあな」

 

 やがてエヴァンジェリンたちの姿は、街角を曲がって見えなくなった。

 

 

 

 寮の自室で千雨は、『ちうのホームページ』の更新作業をしていた。『ちうのホームページ』は、以前と異なり規模を大幅に縮小し、彼女のコスプレ写真を掲載するだけの物になっている。掲示板やチャットは、撤去されていた。

 表向きの理由は、学業が忙しくなったための規模縮小である。だが実のところは、今の千雨にとってネット民(ふとくていたすう)からの賛辞が必要不可欠では無くなった事が大きい。

 千雨はコスプレを捨てるつもりは無い。だがだからと言って、ネットアイドルランキングのトップを狙う様な、自己顕示欲は薄れていた。彼女にはそれ以外の面で、自己を承認してくれる仲間や友、そしてもしかしたら恋人かもしれない相手が居たからである。

 

「さて、と。こんなもんか」

「……」

「ん? なんだザジか。帰ってたんなら、声ぐらいかけろよ」

「いえ、以前はそのHP作業を必死で隠していらしたので。声をかけるのも、と」

 

 なんだ、こいつ(ザジ)に気付かれてたのか、と千雨は内心溜息を吐く。そして彼女はパソコンデスクのデスクチェアを回して、ザジに向き合った。ザジは本来ならば、千雨の同室である。しかし部活で使っているテントに泊まり込みをして、なかなか戻って来る事は無い。

 

「んで、何だ? 普段はほとんど戻って来ない上に、挨拶も頭下げるぐらいで、だんまり決め込んでたろ?」

「……実は、わたしの姉が、千雨さんたちとお話をしたいそうなので」

「へえ。魔族の、それもその内包魔力量からして相当な高位の、その更に姉か。わかった、仲間に話を通しとく」

 

 面食らった表情を見せるザジに、なんとなく『してやったり』と言う感慨を抱く千雨だった。




ネギ君は、いったいナニを授業の教材に使っているのか(笑)。と言うか、教科書も酷え(笑)。
まあでも、ネギ君が先生としての見本を新田先生に求めたのは、大変ですけど正解かと思いますね。新田先生は、教師の鑑ですからねー。

そして高音嬢に春が? 相手が朴念仁なので、ちょっと大変(笑)。
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