超ロボット生命体トランスフォーマーMAGUS   作:雑草弁士

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エピローグ: 帰還

 ネギ・スプリングフィールドは、一見して10代後半の若々しい男性だ。しかして彼の中身は、かなりの高齢であるはずである。そうでなくば、麻帆良魔法学校の学校長と、麻帆良学園学園長、そして日本魔法協会理事長の兼任などできるはずも無い。

 彼はこの夜、麻帆良外れの山にある、放棄された地下秘密基地へと足を踏み入れた。ここにはかつて、火星を始めとした太陽系各地に繋がる、スペースブリッジの本体が置かれていたのだ。しかし、今はそれらの設備は撤去され、ただの廃墟に過ぎない。

 

「……懐かしいけれど、寂しいなあ。千雨さん、壊斗さん……。また1人逝きましたよ、龍宮さんが。やはり半魔(ハーフ)では、純正の魔族ほどには長生きできないみたいです……。まるで(クシ)の歯が欠ける様に、1人、また1人と……」

 

ぼむっ!

 

 突然彼の腰に結び付けられていた、一見古めかしい重厚な装丁の魔導書が、煙を上げて1人の少女に化ける。彼女こそ、『生ける新刊魔導書その2』と呼ばれる魔法戦士にしてネギ・スプリングフィールドの『魔法使いの従者(ミニストラ・マギ)』、ノドカ・スプリングフィールドである。名前から判る様に、彼女はネギの細君、妻、奥さんだ。

 

「ネギさん……。大丈夫ですー。わたしは貴方を置いて逝ったりしませんー。そのためこそに……」

「うん。僕もそのためこそに、今の僕になり、今のノドカさんになってもらったんだからね」

 

 そして『生ける新刊魔導書その1』、ネギ・スプリングフィールドは笑う。彼と彼の妻は、彼等の(マスター)アルビレオ・イマ(クウネル・サンダース)が身を賭して己自身を解析し、確立した秘奥義により、自身の魂を魔導書に移し替えたのだ。そして彼等は彼等の(マスター)同様に、『生ける魔導書』として永遠に近い時を生きる事になったのである。

 だけどその理由が、万が一にも自身のつれあいを残して逝く事にはなりたくない、と言うだけの話であったりする。しかも双方共にソレを理由に不死者の道を歩んだのだから、始末に負えない。この壮大壮絶なのろけ話に、彼等の友は皆生暖かい笑顔を送ったとの事だ。

 

「それにー。他にもお義父(とう)さまとお義母(かあ)さまもいらっしゃいますー」

「だけど、あの風船夫婦は今どこに居るかわからないからなあ……。父さんは真祖化しちゃったら、元気いっぱい新しい顔だよアンパ○マン状態で、不死身体質を利用して太陽系中飛び回る様になっちゃったし。

 義母(かあ)さんは、あのヒトはあのヒトで、父さんの重しになるんじゃなく、いっしょに紐に結ばれて飛び回る様になっちゃったからなあ。あれは誤算だった。ほんと、今どこに居るのやら」

 

 ネギは溜息を吐く。

 

「そして千雨さんと壊斗さんは、超さんの子孫、一族に火星を任せると、造った宇宙船……自分たちのボディにドッキングできる様に造った強化パーツ使って、太陽系外への探査航宙に出ちゃったからなあ」

「わたしたちは長生きですけどー……。本体の魔導書が擦り切れる前に、帰って来て欲しいですー……」

 

 ちなみに彼らの本体の魔導書は、最新科学技術と最高レベルの魔法で防護されているので、そうそう破れたり擦り切れたりはしない。

 

「って言うか、僕らより先に太陽系の文明が擦り切れるかもね。なんか少しずつ、少しずつ、人類に元気が無くなってきてる」

「それも心配ですねー……」

「しばらく前までは、戦争とか防ぐために必死に太陽系の各勢力、調整しようと頑張ってたんだけどなあ。ザジさんにまで助力願って。でも今は何処も、戦争する気力も失せてるっぽい」

 

 そう、ネギたちや魔界の魔族が不安視しているのは、数十年から百数十年程度の間に人類に広がってきた無気力である。彼等は、これが人類の衰退、人類社会の黄昏に繋がるのではないかと恐れているのだ。

 

「ここいらで一発、大規模なフロンティアでもあれば、人類社会に対するカンフル剤になるんだけれど」

「太陽系内は、今の技術で開発できるところはしちゃいましたからねー」

「あとはちょっと誰も住みたくない様な場所とか、開発しても経済的に割が合わない場所とか。スペースコロニーとかは技術的には可能だけど、それこそ建造しても維持費とか水・空気の費用で採算取れないし……。

 ……!? これは!?」

「え……。あっ!?」

 

 ネギとノドカは、その超人的な魔法感覚で、『何か』を捉えた。彼等は地脈に乗って、地下深くから一気に地上まで転移する。そこには同じく廃墟になった、かつての壊斗たちの家が建っていた。

 

「何処だ……。あれか!?」

「あ、あれは……!!」

 

 晴れ渡った星空の彼方から来た2機の宇宙戦闘機が、上空をフライパスする。かと思うとその2機は反転して来て、ネギたちの前に降下して来た。そして響く男女の声。

 

『『トランスフォーム!!』』

 

ギゴガゴゴゴッ!! ギゴガゴゴゴッ!!

 

 そして宇宙戦闘機はそれぞれ、10mほどの女性型ロボットと、14mほどの男性型ロボットに変形(トランスフォーム)する。黒のボディに、青と銀のアクセントを入れたカラーリングの女性型。同じく黒のボディに、赤と金のアクセントが入った男性型。ネギとノドカは懐かしさに涙する。

 

「千雨さん! 壊斗さん!」

「おかえりなさい!」

『ははは、ネギ先生たちか。こっちのステルス()いて、誰かがわたしら見つけたから、誰かと思ったよ』

『久々に帰って来たが……。まだこの建物とか残っていたんだな。廃墟同然と言うか、廃墟だが』

 

 2体のロボットは、燐光に包まれて人間に変身した。その姿は、かつての千雨と壊斗そのままである。

 

「変わりませんねー」

「ええ、本当に」

「そりゃ、変わりようが無いからな」

「無理に変えれば変わるが、大変だし面倒だからなあ」

 

 ネギとノドカは、懐かしい友の帰還に満面の笑顔を浮かべる。

 

「今日の予定は何かあるんですか?」

「いや、特にはねえな。って言うか、太陽系の基地でまだ稼働してるのを探して、今日はそこに泊まろうかと思ってたんだが」

「ならウチに泊まってくださいですー」

「そうさせてもらうか、千雨。久々だし、土産話が沢山あるからな」

 

 そして千雨と壊斗は何の気無しに、爆弾発言をした。

 

「いや、太陽系外に移住可能な地球型惑星を、結構な数見つけて来たんだよな」

「そのうちの1つ、大気が無い奴を機械惑星化(サイバーフォーミング)して、開発や開拓の前線基地に使える様にしてある。スペースゲートやスペースブリッジとかの端末も向こうに残して来た。金取って向こうへの移動の請負業でもしようかと思っていたんだがな」

「ええっ!?」

「な、なんだ!?」

「何を驚いている?」

 

 ネギとノドカは、一瞬唖然としたが、すぐに我を取り戻す。そして再び満面の笑顔に戻ると、ネギが口を開いた。

 

「流石ですね……。ちょうどこちらが危惧してた事態を……。お二人は、素晴らしい『機械仕掛けの神々(デウス・エクス・マキナ)』ですよ。まったく」

「本当ですー。ふふふ……」

「なんだそりゃ?」

「ははは」

 

 笑いながら、彼等は未来都市に様変わりした、麻帆良の街へと歩き出したのである。




でもって、エピローグ。これにて完結です。これまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

さて、次は何を書こうかなあ……。

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