ネギ・スプリングフィールドは、一見して10代後半の若々しい男性だ。しかして彼の中身は、かなりの高齢であるはずである。そうでなくば、麻帆良魔法学校の学校長と、麻帆良学園学園長、そして日本魔法協会理事長の兼任などできるはずも無い。
彼はこの夜、麻帆良外れの山にある、放棄された地下秘密基地へと足を踏み入れた。ここにはかつて、火星を始めとした太陽系各地に繋がる、スペースブリッジの本体が置かれていたのだ。しかし、今はそれらの設備は撤去され、ただの廃墟に過ぎない。
「……懐かしいけれど、寂しいなあ。千雨さん、壊斗さん……。また1人逝きましたよ、龍宮さんが。やはり
ぼむっ!
突然彼の腰に結び付けられていた、一見古めかしい重厚な装丁の魔導書が、煙を上げて1人の少女に化ける。彼女こそ、『生ける新刊魔導書その2』と呼ばれる魔法戦士にしてネギ・スプリングフィールドの『
「ネギさん……。大丈夫ですー。わたしは貴方を置いて逝ったりしませんー。そのためこそに……」
「うん。僕もそのためこそに、今の僕になり、今のノドカさんになってもらったんだからね」
そして『生ける新刊魔導書その1』、ネギ・スプリングフィールドは笑う。彼と彼の妻は、彼等の
だけどその理由が、万が一にも自身のつれあいを残して逝く事にはなりたくない、と言うだけの話であったりする。しかも双方共にソレを理由に不死者の道を歩んだのだから、始末に負えない。この壮大壮絶なのろけ話に、彼等の友は皆生暖かい笑顔を送ったとの事だ。
「それにー。他にもお
「だけど、あの風船夫婦は今どこに居るかわからないからなあ……。父さんは真祖化しちゃったら、元気いっぱい新しい顔だよアンパ○マン状態で、不死身体質を利用して太陽系中飛び回る様になっちゃったし。
ネギは溜息を吐く。
「そして千雨さんと壊斗さんは、超さんの子孫、一族に火星を任せると、造った宇宙船……自分たちのボディにドッキングできる様に造った強化パーツ使って、太陽系外への探査航宙に出ちゃったからなあ」
「わたしたちは長生きですけどー……。本体の魔導書が擦り切れる前に、帰って来て欲しいですー……」
ちなみに彼らの本体の魔導書は、最新科学技術と最高レベルの魔法で防護されているので、そうそう破れたり擦り切れたりはしない。
「って言うか、僕らより先に太陽系の文明が擦り切れるかもね。なんか少しずつ、少しずつ、人類に元気が無くなってきてる」
「それも心配ですねー……」
「しばらく前までは、戦争とか防ぐために必死に太陽系の各勢力、調整しようと頑張ってたんだけどなあ。ザジさんにまで助力願って。でも今は何処も、戦争する気力も失せてるっぽい」
そう、ネギたちや魔界の魔族が不安視しているのは、数十年から百数十年程度の間に人類に広がってきた無気力である。彼等は、これが人類の衰退、人類社会の黄昏に繋がるのではないかと恐れているのだ。
「ここいらで一発、大規模なフロンティアでもあれば、人類社会に対するカンフル剤になるんだけれど」
「太陽系内は、今の技術で開発できるところはしちゃいましたからねー」
「あとはちょっと誰も住みたくない様な場所とか、開発しても経済的に割が合わない場所とか。スペースコロニーとかは技術的には可能だけど、それこそ建造しても維持費とか水・空気の費用で採算取れないし……。
……!? これは!?」
「え……。あっ!?」
ネギとノドカは、その超人的な魔法感覚で、『何か』を捉えた。彼等は地脈に乗って、地下深くから一気に地上まで転移する。そこには同じく廃墟になった、かつての壊斗たちの家が建っていた。
「何処だ……。あれか!?」
「あ、あれは……!!」
晴れ渡った星空の彼方から来た2機の宇宙戦闘機が、上空をフライパスする。かと思うとその2機は反転して来て、ネギたちの前に降下して来た。そして響く男女の声。
『『トランスフォーム!!』』
ギゴガゴゴゴッ!! ギゴガゴゴゴッ!!
そして宇宙戦闘機はそれぞれ、10mほどの女性型ロボットと、14mほどの男性型ロボットに
「千雨さん! 壊斗さん!」
「おかえりなさい!」
『ははは、ネギ先生たちか。こっちのステルス
『久々に帰って来たが……。まだこの建物とか残っていたんだな。廃墟同然と言うか、廃墟だが』
2体のロボットは、燐光に包まれて人間に変身した。その姿は、かつての千雨と壊斗そのままである。
「変わりませんねー」
「ええ、本当に」
「そりゃ、変わりようが無いからな」
「無理に変えれば変わるが、大変だし面倒だからなあ」
ネギとノドカは、懐かしい友の帰還に満面の笑顔を浮かべる。
「今日の予定は何かあるんですか?」
「いや、特にはねえな。って言うか、太陽系の基地でまだ稼働してるのを探して、今日はそこに泊まろうかと思ってたんだが」
「ならウチに泊まってくださいですー」
「そうさせてもらうか、千雨。久々だし、土産話が沢山あるからな」
そして千雨と壊斗は何の気無しに、爆弾発言をした。
「いや、太陽系外に移住可能な地球型惑星を、結構な数見つけて来たんだよな」
「そのうちの1つ、大気が無い奴を
「ええっ!?」
「な、なんだ!?」
「何を驚いている?」
ネギとノドカは、一瞬唖然としたが、すぐに我を取り戻す。そして再び満面の笑顔に戻ると、ネギが口を開いた。
「流石ですね……。ちょうどこちらが危惧してた事態を……。お二人は、素晴らしい『
「本当ですー。ふふふ……」
「なんだそりゃ?」
「ははは」
笑いながら、彼等は未来都市に様変わりした、麻帆良の街へと歩き出したのである。
でもって、エピローグ。これにて完結です。これまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
さて、次は何を書こうかなあ……。