千雨の意識は、暗い空間を漂っていた。彼女は思う。
(……これ、夢……か? あー、なんでこんな……)
その瞬間、目の前を真っ赤な炎の幻影が
(そう、だ。わたし、は、あの
『いや、まだ生きている! まだハセガワは死んじゃいない!』
(!! その声、壊斗!?)
『今はロボットモードだから、サイコブラストと呼んでくれ。……お前はまだ生きている。まだ、死んじゃいない』
壊斗……サイコブラストの声は、だが苦し気な、悲し気な物だった。まるで重い悔恨に
そして千雨は、その事について問うた。訊ねて、しまった。
(なあ……サイコブラスト。わたしは、あとどれぐらい保つんだ?)
『!!』
(遠慮しないで、言ってくれないか?)
サイコブラストはしばし
『……最長に見積もって、36時間37分と少し。短ければ、あと12時間04分と少し、だ』
(そ……っか。あと半日から1日半、か)
『済まない……。助けるのが、遅かった……。借りを返すどころか……。自分が情けない』
サイコブラストの声は、悄然として今にも消え入りそうだ。千雨は慌てて、サイコブラストを慰める。
(ま、待て待て待て! それを言うなら、わたしが救助を求めるのが遅すぎたんだ! いくらなんでも目の前に炎が迫ってから呼んだんじゃ、どうにもこうにも……)
『だが……』
(だからそんな、気にすんなって! それに、助けに来てくれただけでも嬉しいからさ。うん、こうやって最後に……。最期に……。1人きりじゃ無いんだ。マシな死に方、だ……。
うっ……。うぐぅっ……。
ひくっ、ひぐぅっ……。
死ぬ、のって……。苦しいのか、な? それとも、何も無くなって電気切るみたいに全部消える、のかな?ぐすっ……。)
だが結局、千雨の精神は先月14歳になったばかりの、子供の物でしかない。やはり間近に迫った自身の死と言う現実を受け入れるだけの、桁外れの頑健さは望むべくも無かった。
『ハセガワ……。もしも、もしもだ。お前が人間じゃ無くなってでも、生きていたい……。そう願うならば。
……方法は、ある』
(え……。)
『最初から、それを提案しようと思っていた。だが、それでもこのまま人間の……地球人のまま、死んだ方がもしかしたら幸せなのかも知れない、そう思うと……。踏ん切りが付けられなかった』
千雨はごくり、と唾を飲み込む。いや、彼女の肉体はその様な事ができる状態では無いのだから、あくまでそんな風に意識した、というだけなのだが。
『かつて俺が居た世界……。お前からすれば異世界の地球での話だ。サイバトロン軍団の協力者だった地球人、スパイクと言う名の少年だったが、そいつがデストロン軍団との戦闘に巻き込まれて重傷を負い、重体になった。
サイバトロン軍団では、スパイク少年の精神と肉体を切り離し、精神を一時的にサイバトロン戦士の予備ボディに移殖して生きながらえさせた。その間に、精神の無くなったスパイク少年の肉体を徹底的な大手術を行って復元し、その後に精神を人間の肉体に戻したんだ』
(そ、それで?)
『その際の、精神を機械のボディに移殖する施術データを、デストロン軍団が他のデータを盗む時に、一緒に盗み出した。そのデータを手に入れた俺は、その技術を発展させ完成させた。
超ロボット生命体には、普通の知的生命体で言う魂ってのは存在しない。だがそれと等価な『スパーク』というエネルギー体がボディに宿っている。俺が完成させた技術ってのは、知的生命体の魂をトランスフォーマーのスパークに変換し、他の種類の知的生命体をトランスフォーマーに不可逆変化させる技術なんだ』
そこまで言われれば、千雨にもサイコブラストが何を言っているのかは見当がつく。サイコブラストは、千雨の魂を超ロボット生命体のスパークに変換し、千雨をトランスフォーマーとして蘇らせよう、としているのだ。
サイコブラストはだが、沈痛な声で語る。
『ハセガワが人間を辞める覚悟があるならば、俺と同じような機械の身体で……トランスフォーマーとして生き延びる事が可能かもしれん。それが成功したならば、姿だけで良ければ俺同様にプリテンダーとして、人間の姿にもなれる。
……本当の姿は、ロボットモードだがな』
(……。)
『人間のお前には、とてもつらい一生になるかもしれん。寿命も桁外れに長いから、友人や親族などもまず間違いなく先に逝くことになる。
それに人間の魂をトランスフォーマーのスパークに転換するのは、成功率は低くもないが決して高くもない。機材も基地が建設中で、実験用の物しかないから、なおさらだ。失敗すれば、その時も死ぬ。
……このまま普通に死ぬのを選ぶこともできる。もしかしたら、そちらの方がお前にとって幸せかもしれん』
(……そっか。なあ、サイコブラスト)
『む?』
千雨はゆっくりと言葉を発する。いつの間にか、死に怯えた恐怖は何処かへ消え去っている。『生き延びられる可能性が出て来たとは言え、我ながら現金なものだ』と彼女は内心失笑した。
(……決めたよ。
わたしはトランスフォーマーになる。超ロボット生命体に。やっぱり死ぬのは怖い。恐ろしい。だから、生き延びるチャンスがあるなら、それに噛り付いて生き延びてやる!
後から後悔するかもしれないけれど、それだって生きていてこそだ!)
『……そ、っか。……そう、か。
分かった。既に準備だけはしてある。長谷川がどちらを選んでもいいようにな。あと、やるならば1分1秒でも早い方が、成功率は高い。
……今すぐ始めよう。たぶん死ぬほど痛いぞ。覚悟はいいな?』
(え゛。あ、ああ!)
『行くぞ!』
(……。
…………。
~~~~~~~~~~~~!?)
たしかに死ぬほど痛かった。だが千雨は、根性で命にしがみつき、その苦痛をなんとか耐えきった。
千雨が目覚めると、そこは何やら金属の壁に囲まれた部屋だった。そしてその部屋の中では、サイコブラストがロボットモードで忙しく働き、その周囲を彼の半分以下の大きさの小型ロボが動き回っていた。
と言うか、千雨の感覚からすると、相対的な大きさが何か違っている。サイコブラストの全高は14mほどあったはずなのだが、今の彼は千雨の感覚で3m程度に見えた。
と、サイコブラストが千雨に向き直る。
『目が覚めたか。なんとか成功したぞ、ハセガワ。
……いや、ロボットモードの時は別の名前で呼んだ方がいいな。他のやつらにバレない様に』
『あ……。そ……っか……。わたし、は……。人間じゃ、なくなったんだな。
……。
覚悟してこうなる事を選んだけれど、やっぱり何かこう……。気持ち的に、何か来るものがあるな、やっぱり……。』
『……だろうな。
あ、それとまだボディは完成してない。今のお前は頭部と心臓部だけの状態だ。だからまだ動けない。
ボディを造るにあたって、何か注文があるなら今の内だぞ』
『えっ!? ど、道理で動けないと思ったよ……』
サイコブラストは、千雨改めサウザンドレインの注文に従い、彼女のボディを組み上げて行く。彼女はサイコブラストと同程度の能力が欲しいと言ったため、彼女のボディはサイコブラスト同様のトリプルチェンジャー兼プリテンダーとなった。
ちなみに彼女は、サイコブラストは宇宙戦闘機に変形するだけだと思っていたりする。そのため彼が宇宙戦車にもトランスフォームできる事を今更ながらに知り、驚いていた。
サイコブラストは
『基本の能力は今言った通りだ。それと瞬間移動能力やバリア発生機構なんかも搭載してるが、それらはエネルギーをかなり食うからな。練習なしでのぶっつけ本番での使用はしないように。練習の時間は、必ず取るから』
『あ、ああ。わかった』
ちなみにサウザンドレインのロボットモードは、彼方此方に付属肢や変形用のパーツが付いている事を除けば、細身で腰がくびれており、女性的な体型をしている。
なおカラーリングは、黒の地に青色と銀でアクセントが入っており、紫のデストロンのエンブレムが各所に装着されていた。黒の地に赤色と金でアクセントが入って、ゴツい感じのサイコブラストとは、好対照である。
サウザンドレインは、付属肢やパーツをもぞもぞと動かす。
『んー、違和感はそんなに無いけど、逆に違和感が無い事が違和感って言うか……』
『人間で言う小脳にあたるパーツに、ボディのデータがきっちり組み込まれてるからな。今は意識しないと動かせない部分も、慣れれば無意識に自然に動かせる様になる。
あと、何時また化け物とかと出会う事が無いとも言えんから、そのボディの戦闘能力を発揮出来るように戦闘訓練は積んでおいた方がいい。練習にはこの基地の設備、自由に使ってかまわんぞ』
『いいのか? 命助けてもらったから、貸し借りもう無しだろ?』
『そうとも言えんさ……。俺にはお前を、ある意味では結局助ける事ができなかったしな。それに新米トランスフォーマーであるお前を、先輩としては放っとくのも寝覚めが悪い。
……やっぱり俺はデストロンっぽく無いよなあ。ははは、はぁ……』
言葉の最後は、溜息で終わった。サウザンドレインは、サイコブラストにも色々悩みがあるんだな、と感慨に浸る。……まあ、その悩みの1つが彼女自身の事ではあるのだが。
その後、サイコブラストとサウザンドレインは壊斗と千雨の姿になって、地下の秘密基地から地上の壊斗の家へと移動した。壊斗は家の書斎兼
「あー……。しばらく放って置いたら、スパイ用ドロイドからの報告書のプリントアウトが、山の様に……」
「ああ、例の麻帆良の裏事情を調べてた、スパイ用ドロイドか」
「うむ。前回ハセガワを救出した時に、俺の姿を魔法使い連中……『魔法先生』『魔法生徒』って呼ばれてるらしいがね。そいつらに見られたからな。それにハセガワも、もしかしたら身元が奴らにバレてるかも分らん。だからその辺、どうなってるのか調査させてたんだが……」
報告書のプリントアウトを覗き込んだ壊斗は、深刻そうな顔をする。千雨は嫌な予感がした。
「お、おい。まさか……」
「最悪だ。巨大ロボに連れ去られて行方不明、生死不明の女子生徒がハセガワだって事が、学園を牛耳ってる魔法使いたちにバレてる。でもって……」
「……でもって?」
沈痛な表情で、壊斗は言った。
「女子寮のハセガワの部屋にも調査が入った。お前の
「……………………。」
「お、おい。ハセガワ? ……ハセガワ、しっかりしろ、ハセガワーーー!?」
自分のHDDの中身が解析されて衆目に晒される。千雨にとって、これほど痛い事は無い。その後どうにか正気を取り戻した彼女は、数時間に渡ってしくしく泣き続けたらしい。
と言う訳で、千雨の魔改造は完了です。いや、長かった(笑)。
でもってオチは、千雨のPCのHDD。わたしも死んだり事故に遭ったりした時の事考えて、家族にHDDの処分をお願いしておこうかなあ。そうしないと死んでも死にきれないよなあ。