超ロボット生命体トランスフォーマーMAGUS   作:雑草弁士

8 / 56
第006話:学園側と話し合おう

 ここは深夜の麻帆良学園女子中等部学園長室。麻帆良学園学園長にして関東魔法協会理事の近衛近右衛門と、魔法先生タカミチ・T・高畑は、忸怩たる思いを抱いていた。

 つい1週間ほど前、妖怪退治の現場に一般女子生徒が紛れ込み、妖怪に攻撃され重傷を負った挙句、突如出現した巨大ロボに連れ去られたのだ。その生徒の名は、長谷川千雨である。

 

「……やはり彼女には、効いておらなんだのじゃろうのう」

「認識阻害や意識誘導を退けるレジスト体質……ですか。しかし人払いの結界までもレジストしてしまうとは……。

 無事で……。いえ、報告された状況では、無事は無理でしょうね……。せめて生きていて欲しいですが……」

「うむ……。

 そして長谷川君を連れ去った、巨大ロボット……。いったい何処の誰が造り、何処のどんな組織が用いているのかすら不明じゃ。そんなロボットが、彼女を連れ去った……。いったい如何なる目的で……」

 

 その時、机上の電話が鳴り響く。電話機の表示は、外線からの着信である事を示している。近右衛門は受話器を取った。

 

「はい、ワシじゃ。学園長じゃ」

『麻帆良学園学園長にして、関東魔法協会理事、近衛近右衛門殿かね?』

「!?」

 

 近右衛門は目を見開き、素早く電話機の外部音声出力をオンにした。その様子を見て高畑も眉を顰め、電話機のスピーカーから流れ出る音声に聞き入る。

 

「うむ、ワシが近衛近右衛門じゃ」

『俺は水谷壊斗と言う。1週間前の事件に出現した、巨大ロボットの関係者だ』

「何じゃと!?」

 

 思わす近右衛門は声を荒げる。だが即座に自分を取り戻して、気を落ち着けた。

 

「い、いや済まんの。続けてくれたまえ」

『今からあの事件の被害者、長谷川千雨を連れて、そちらと面会をしたい。色々と事情を話したいのでな』

「!? ……長谷川君は、無事なのかの?こちらで知る限りでは、かなりの重傷を負ったと報告を受けておるのじゃが」

『無事じゃ無かったが、どうにかなった。いや……どうにかした。

 その件も含め、出来る限り内密に話がしたい。色々とな。もしそちらが良ければ、今から伺いたいが?』

「今から、かの?」

 

 近右衛門と高畑は、素早くアイコンタクト。互いに頷き合う。

 

「……よかろう。何処で会うとしようかの?」

『我々が学園長室まで出向こう』

「だが部外者が学園長室まで来るのは難しかろう。そうじゃの……。迎えを出すとしようかの」

『いや、それには及ばん。今からそちらへ行く』

 

 次の瞬間、学園長室の中心に光が生まれた。

 高畑が近右衛門をかばう位置に瞬時に移動し、近右衛門も身構える。光は2体の人間型を取り、次の瞬間2人の人間として実体化した。

 現れたその人物は、当然と言っては何だが、壊斗と千雨である。

 

「夜分遅く失礼する、近衛学園長。そちらは高畑先生、で良かったかな?俺が水谷壊斗だ。よろしく」

「……今晩は、学園長先生、高畑先生」

「長谷川君! 無事だったのか!」

 

 現れた千雨に、高畑は驚きつつも喜びの声を上げる。しかし千雨は少々複雑そうな曖昧な笑みで、それに応えた。

 

「いえ……。無事じゃありませんでしたけど、壊斗のおかげで命拾いしました。

 大怪我して欠損した身体も、壊斗に造り直してもらいましたし……」

「造り直した……じゃと!?

 い、いや、それに!今の転移魔法は……!媒介を何も使わんじゃと!?

 それに魔法的防護が何重にもされておるこの部屋に、まともに『(ゲート)』を開けるはずがないんじゃが……?」

「魔法じゃないからな。科学技術の力による、いわゆる『ワープ』とか『テレポーテーション』とか『転送』とか言う類のやつだ。

 魔法については、今はまだ研究中だ。まだあんたらと同じ『魔法』は使えんよ」

 

 その台詞に、近右衛門と高畑は唖然とする。壊斗は苦笑して言った。

 

「まあ、事情は説明するさ。そのために来たんだ」

「う、うむ。

 ではそちらの応接セットのソファに座ってくれるかの? タカミチ君もじゃ。」

「は、はあ」

「わかった。座らせてもらうとしよう、ハセガワ」

「うん」

 

 そして一同は応接セットに座す。壊斗は近右衛門と高畑に、事情を掻い摘んで説明し始めた。

 

「俺は並行異世界からやって来た機械生命体……。超ロボット生命体トランスフォーマーだ。

 ふ、信じられんと言う顔をしているな。見ろ」

 

 壊斗は右肘から先だけの擬態を解く。メギメギゴリゴリと音を立てて、壊斗の右腕が変形した。近右衛門も高畑も、言葉も無い。

 右前腕と右拳だけが巨大ロボットの物になった壊斗の腕という説得力の前に、近右衛門と高畑は呆然とする。壊斗は右腕を人間体に戻し、話を続けた。

 

「俺の本当の名前は、科学参謀サイコブラストと言う。悪の軍団と呼ばれているデストロン軍団を脱走、脱退し、追われる身になって次元転移でこの世界に逃げて来た。しかしそこでエネルギー不足で死にかけてな。

 そこでハセガワがコンセントの電気を提供してくれて、それでなんとか助かった。俺はハセガワに命を救われたんだ。で、彼女にその恩を返すために色々やっていたのだがな。

 その矢先に、ハセガワが窮地に陥った。その辺の事情は、そちらの方が詳しいだろう?」

「うむ……。長谷川君が妖怪退治の現場に紛れ込んでしまったのは、報告を受けている」

「そしてハセガワからの緊急連絡を受けた俺は、急ぎ救援に向かった。……残念ながら、ぎりぎりで俺の救援は間に合わず、彼女は死にかけた。

 ……で、俺の技術を用いてハセガワに機械の身体を与えた、と言うわけだ」

 

 ぎょっとした高畑がソファから腰を浮かし、叫ぶ。

 

「機械の身体だって!?」

「本当ですよ、高畑先生。今の私の身体は、機械で出来てます。下手な病院の精密検査なんかは、平気な顔で潜り抜けられるほどの代物ですけどね。

 それでも機械であることは間違いないです。残っているのは魂だけなんです」

(その魂も、スパークに転換されてるんだけどな)

 

 壊斗の内心の呟きは、近右衛門と高畑には届かない。近右衛門と高畑は、しばし呆然としていた。やがて近右衛門がぽつりと呟く。

 

「なんと……」

「まあ、ざっくりとした事情は今言った通りだ。

 で、あんたらに頼みがある。長谷川の秘密を、可能な限り守って欲しい」

 

 壊斗は真剣な表情で言う。

 

「……機械の身体になったハセガワは、これ以上成長もしないし老化もしない。下手をすると、周囲から化け物扱いを受けかねん。いや、少なくとも人間扱いされない事は確実だろう。……もし、バレれば、だがな。

 そんな残酷な目に遭わせるわけにはいかん。そうだろう?」

「う、うむ……」

「ああ……」

「それにあんたら魔法使いには、ハセガワの人格を尊重し、彼女の人権と心を護る義務があるはずだ。ただでさえ、今まで彼女に重い犠牲を強いてきたんだからな」

 

 その壊斗の台詞に、高畑は驚きの声を上げ、近右衛門は瞑目する。

 

「犠牲だって!?」

「……」

「学園長の方は理解している様だな。」

「うむ……。此度の事で長谷川君の過去の記録も、色々と遡って調査したからのう。」

 

 その台詞で、一瞬自分のPC(パソコン)のHDDが解析に回された事を思い出し、千雨の顔が引き攣る。一方の壊斗は薄ら笑いを浮かべつつ、しかし視線だけは厳しい物にして、言葉を紡いだ。

 

「ハセガワには、ここ麻帆良の学園都市を覆う、精神に影響を与える特殊なエネルギーフィールド……。あんたら魔法使いが言っている認識阻害の結界、とやらの効果が無い事は理解しているだろう?特異体質か何か知らんが。

 ハセガワは、認識阻害や意識誘導と言った魔法とやらの効果を、無意識にレジストしてしまう。その結果、彼女は幼い頃から麻帆良の異常を周囲に指摘し続けた」

「……」

「曰く、世界樹はあまりに巨大すぎる、何故これがニュースにならないのか。

 曰く、人間が3mもの高さに跳躍するなんて、おかしい。

 曰く、自動車と同じ速度で走る女学生なんて、変だ。

 だが周囲は麻帆良の結界による認識阻害や意識誘導の効果により、それを異常と認識しない」

 

 壊斗は淡々と語る。近右衛門は瞑目したまま、壊斗の糾弾に耐えた。

 

「結果、彼女は『変な事を言う子だ』『嘘つきだ』などと思われる様になった。……ハセガワは、『普通の疑問』を『普通に』話していただけなのにな。おかげで彼女は周囲から孤立した。周囲の無意識のいじめに遭った彼女を、救ってくれる者はいなかった。当時の学校教師も、両親もな。

 ああ? どう思うね? なあ『善なる魔法使い』さんたちよ? ちょっとあんたらが努力してれば、あんたらは彼女の特質に気付けたはずだぞ? 怠慢以外の何物でもないよな?

 あげくにハセガワは、人払いの結界が張ってあるからと安心しちまった魔法使いたちの不注意のせいで……。妖怪退治の現場に紛れ込み、人間としての肉体を失う羽目になったんだぞ?」

「……」

「あんたらが気付いてさえいれば、ハセガワを『そっち側』の世界に取り込むか、あるいは麻帆良から離すか、なんらかの対策が取れたろうに! ……彼女を助けるのに間に合わなかった、俺の言う事じゃあないかも知れん。だがな……!」

 

 そこで千雨が割って入った。千雨の小さな掌が、壊斗のごつい大きな手に重ねられ、そっと握りしめている。

 

「壊斗、もういいよ。もう先生たちには充分伝わったよ。……だから、そんなに苦しそうな顔をしないでもいいんだ」

「えっ……」

 

 壊斗は、自分が無意識に泣きそうな顔になっていた事に、今更ながらに気付く。彼は一瞬自嘲気味な笑みを浮かべた後、無理矢理に平静な表情を造った。一方高畑は顔色を失い、ただ息を呑む。そして近右衛門は、深く息を吐くと(おもむろ)に言った。

 

「タカミチ君、君には責は無いわい。君は『悠久の風(AAA)』での仕事を始め、麻帆良の外での任が多かったからのう。

 責められるべきは、ワシじゃ。長谷川君、済まん事をした。頭を下げて許されることでは無いが……。

 ワシ個人としても、麻帆良の魔法使いを代表する立場としても、君に詫びたい。本当に済まなんだわい……」

「……学園長先生。

 わかりました。赦す、とは言えませんが、結局はもう済んだ事です。それよりも大事なのは、今後どうするか、です」

 

 近右衛門は、深く、深く、溜息を吐く。そして真正面から千雨を見つめると口を開いた。

 

「うむ……。

 勿論君には可能な限りの便宜を図ろう。君が不自由なく日常生活を送れる様に。そして君の秘密は、ワシもタカミチ君も墓場まで持っていくわい」

「ああ、この事は絶対に誰にも漏らさない。その事については、安心してくれていい」

 

 高畑も、近右衛門に追従する。と、ここで千雨が口を挟んだ。

 

「あの、それなんですが……。わたしだけじゃなく、壊斗のこともお願いしたいんです」

「な!?あ、いや。俺はもう既にロボットモードの姿を魔法使いたちに見せちまってるから……」

「だから、『トランスフォーマーのサイコブラスト』と『人間の壊斗』とは関係が無いって事にしといてもらうんだよ。下手にバレたら大変だろ?

 それにあんた、こっちの世界に来てから即席で戸籍とか造ったんだろ。叩いたら埃とか出るんじゃないか? だからあんたの身元保証って言うか、そう言う所をサポートしてもらった方が良くないか?」

「あー、うん。確かにそうなんだが……。」

 

 千雨は一生懸命、近右衛門に頼み込む。近右衛門も、普段おちゃらけている時の様な様子は見せず、真摯にそれに向き合った。

 

「学園長先生、高畑先生、わたしは壊斗に命を助けてもらいました。失った身体を造ってもらって、生き返らせてもらいました。

 壊斗には本当に色々してもらいました。だからそのお返しをしたいんです。でもわたしには、壊斗のためにできることがありません。

 ですんで、私に便宜を図ってもらえると言うなら、壊斗の事もお願いしたいんです」

「なるほどのう……」

「いや、待てハセガワ。これは俺がハセガワに命を助けてもらった分を返しただけだぞ。と言うか、元の人間として生かしてやれなかった分、まだお前に返し終って無いん……」

 

 千雨は慌てる壊斗に向き直り、その目を見つめる。壊斗は思わず言葉に詰まった。そして千雨は、壊斗に向かい言葉を紡ぐ。

 

「壊斗、ありがとう。

 あんたがわたしに借りを作って、まだ返せないでいると思ってることは理解してる。でも、それはそれで私の方も、あんたに恩義を受けたと感じてる。

 なんて言うか、さ。上手く言えないけれど……。そんなすぐに借りとか恩とか、返せなくてもいいんじゃないかな。互いに互いの事を考えて思いやって、ずっと互いに返し続けてれば、さ。

 ……って、わたしは何言ってんだ。なんか支離滅裂じゃないか……。」

「……いや。お前の言いたい事は、なんとなく理解できた。ハセガワは、いい奴だな……。」

「な! あ! え、ええっと! と、とにかくそう言う事です先生たち!」

 

 壊斗の返しに泡を食った千雨は、近右衛門と高畑に話を振る。それに応え、柔らかな笑みを浮かべた高畑が話を引き取った。

 

「……ああ。わかったよ長谷川君。かまいませんね、学園長?」

「うむ。水谷壊斗君、じゃったな。長谷川君の事も、君の事も、任されよう。

 まあ、ワシらでは少々頼りないかもしれぬがのう。出来る限りの事は、してみせよう」

 

 壊斗は近右衛門の言葉に頷く。まあ別に、『頼りない』の部分に頷いたわけではないが。近右衛門は言葉を続けた。

 

「となると、何かカバーストーリーを考えねばならんの。長谷川君が大怪我を負ったのは、長谷川君の捜索に回した魔法使いたち全員の知るところとなっておる。それが五体満足で帰還した理由づけをせねば……。

 魔法を使っても、あそこまでひどい状態を完治させるには、何かしら特殊な手段を用いねばならん」

「だがしかし、ある程度正直に言うしか無いんじゃないか? つまり俺、もとい謎のロボットが謎の技術でハセガワを治療して帰してよこしたって。で、謎のロボットは謎のままって事で」

 

 近右衛門は壊斗の言葉に頷きつつ、付け加える。

 

「それしかない、かのう……。ただ表向き、長谷川君はその際に、何らかの記憶操作を受けた事にしておいた方が良いかもしれんな。そう言っておいた方が君らの秘密を守る上で、都合がよかろうて」

「学園長、ですがそれだと意地になって、謎のロボットの事を探ろうとする者もいるかもしれません。魔法で学園長が長谷川君の記憶を探った事にして、最低限の情報は得たとした方がいいかと思います。

 そして学園長と僕が担当になり、謎のロボット勢力との接触を試みている、と発表するんです。付け加えて、これはとても微妙な問題だから、他の魔法先生たちは手出し無用、とすれば……」

「うむ、それで行こうかの、タカミチ君。それと長谷川君が認識阻害や意識誘導が効かない体質である事も、魔法関係者たちに公表せねばならんのう。魔法生徒扱いにするつもりは無いが、安全のために魔法使いについて最低限の情報を長谷川君に説明したと言う事にして……。

 ああいや、この後もちろん麻帆良の魔法使いについて、君たちに説明はきちんとさせてもらうわい。もっとも既に、随分と知られてしまっておるようじゃが……」

「あー、今更かも知れんが、あんたら麻帆良の魔法使いたちは認識阻害の結界とやらに頼り過ぎてるぞ。魔法が秘匿される物だと言うならば、もう少し秘匿に気を使った方がいい。

 赤提灯の屋台で、愚痴まじりにヤバい事言ってる魔法使いと思しき教員が、何人かいたぞ?」

「あ、それとネギ先生です。ちょっと迂闊過ぎますよ。武装解除(エクサルマティオー)って言うんですか、あの魔法?

 あれを暴発させて生徒を裸に剥くのは、どうにかした方がいいです。と言うか、どうにかしてください。いやほんとに。」

 

 彼らはその晩、夜を徹して話し合う。その後の魔法関係者たちへの発表は、ここで決められた通りに行われ、何とか魔法関係者たちを納得させることに成功するのだった。

 

 

 

 そして波乱万丈の春休みが終わる。千雨は中学三年生になった。




とりあえず、学園長たちとの話し合いはどうにかなりました。学園長や高畑先生は、麻帆良でも話が分かる方だと思います。ちょっと危なっかしいと感じる事は無くも無いですが。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。