超ロボット生命体トランスフォーマーMAGUS   作:雑草弁士

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第007話:吸血鬼の蠢動

 麻帆良学園本校女子中等部の三年A組、略称3-Aの教室では、馬鹿騒ぎが繰り広げられていた。

 

「3年!」

「A組!」

「「「「「「ネギ先生ーっ!!」」」」」」

 

ワアアアァァァッ!!

 

 教室の教壇には、10歳前後と見ゆる赤毛の白人少年、3-A担任教諭ネギ・スプリングフィールドが頭を掻きながら笑顔で立っている。普通ならこの様な子供が教師、先生などと認められるはずが無いのであるが……。

 まあしかし、この麻帆良学園に於いてはその様な事は細かい事だと流されてしまうのだ。日常に於いて多少の異常は、たいして気にもされずに流されてしまう。

 そんな様子を眺めつつ、千雨は溜息を吐いていた。

 

(はぁ……)

 

 1ヵ月ほど以前の千雨であれば、溜息どころかこの様子を見たら、内心で『バカどもが……』とでも吐き捨てていただろう。この春先に起こった一連の事件で、麻帆良学園都市の裏側を知った彼女は、随分と丸くなっていた。

 

(中学三年生、かあ……。進路、どうすっかなあ……。あの惨状から生き残ったと言うか、生き返ったみたいな物だけど……。それはいいとして、成長とかしねえんだよなあ、わたし……)

 

 窓の外を眺めると、スズメが窓枠にとまっていた。千雨はボケっとそれを眺める。

 

(一応高校までは行くとして……。この姿じゃあ、大学生ってのは難しいかもなあ……。名前変えて戸籍偽造して、どっか地方の中学高校にでも潜り込むか?それとも、なんかの病気で成長が止まったとか言い張る方がいいかもな……。でもどっちにせよ、あまり1ヶ所に長く留まる事はできんだろうなあ)

 

 そして千雨は、ふと視線を自分の斜め後ろに投げかける。そこには小柄な白人系の金髪少女が座っていた。その少女の名を、エヴァンジェリン・アタナシア・キティ・マクダウェルと言う。

 

(あー。そう言う意味ではと言うか、何重の意味でも先輩が居たか。よりによって、クラスメートに)

 

 千雨は相手に気取られないうちに、前に向き直る。幸いと言って良いのか、エヴァンジェリンは教壇の子供先生、ネギ・スプリングフィールドに意識を集中して、千雨の視線には気付いていない様であった。

 

(マクダウェル……。『人形使い(ドールマスター)』『闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)』『不死の魔法使い(マガ・ノスフェラトゥ)』か……。あのちみっちゃい姿で、600年余を生きる吸血鬼……。幻術使えば、大人の姿になれはするみたいだけどよ。

 だけどここ麻帆良に封じられてる間は、かつては莫大だった魔力もほとんど封じられて、か。ほんとは3年で解放されるはずが、封じた奴が行方不明のあげくに死んだせいで、今年で15年もの間、中学生として飼い殺し状態……)

 

 学園長たちから教えられた、エヴァンジェリンの事情を思い返しつつ、机に突っ伏す千雨であった。下手をすると、超ロボット生命体トランスフォーマーになってしまった彼女にも、似たような未来が来ないとは言い切れない。

 現状麻帆良学園側とは、良好と言って良い関係を保っている。しかし学園長の近右衛門はいい加減もう歳が歳だ。常識的に考えればそれほど学園長として、そして関東魔法協会理事としての先はそう長く無いのではないだろうか。

 そうなった場合、後継との関係再構築はやはり難しい。近右衛門が引き継ぎ条項として後継者に言い含めてくれるかもしれないが……。期待をかけ過ぎるのも何だろう。

 

(……今後の事は、壊斗と相談するしかねえか。もうこうなっちまった以上、最終的には頼れるのは壊斗しかいねえもんな)

「……どうしたですか。脱がないので?」

「へ?」

 

 ふと顔を上げると、隣の席に座っていた綾瀬夕映と言う少女が、下着姿になっていた。千雨は目を丸くする。

 

「あ? ……なんで脱いで、あ。……身体測定、か」

「です」

 

 周囲を見回すと、千雨以外は全員が既に下着姿になっている。千雨は慌てて制服を脱ぎ始めた。

 

 

 

 そしてその日の夕刻、千雨は壊斗と共に学園長室へと出向いていた。何でも学園長である近右衛門が、話したい事があるとの事で呼ばれたのだ。

 

「よく来てくれたのう。早速じゃが、本題に入ろう。君らは、『桜通りの吸血鬼』の噂を知っておるかの?」

「は? ええ、今日もウチのクラスの連中が能天気に騒いでましたからね。なんでも満月の夜に、桜通りで真っ黒なボロ布に身を包んだ、血まみれの吸血鬼が出没するとか……。

 でもって、それと関わりがあるかは分かりませんが、同じくウチのクラスの佐々木が桜通りで寝こけてるところを発見されて、今も保健室で眠ってるままだとか。ネギ先生曰く、貧血みたいだとか言ってたらしいですがね……。ちょっと不審な様子が」

 

 千雨は一拍置いて、(おもむろ)に続けた。

 

「まさか、マクダウェルの仕業じゃないでしょうね?」

「……いや、そこまで気付いておったか。おそらく、いや多分間違いなしに、エヴァンジェリンの仕業じゃよ」

「「……」」

 

 溜息を吐き、近右衛門は言葉を紡ぐ。

 

「エヴァンジェリン……エヴァがここ最近吸血行為に走っておるのは、おそらくネギ君と戦うための準備じゃろう。エヴァンジェリンをこの麻帆良学園に封印し、3年で解放する約束を守らずに行方不明になり死んだと言われている人物……。それがネギ君の父親であり、魔法使いたちの間で英雄と言われておる、ナギ・スプリングフィールドなんじゃ。

 エヴァの最終目的は、ナギの息子、肉親であるネギ君の血液を大量に手に入れる事で、それを触媒に自身の封印を解除する事であろう。そして此度の吸血行為は、子供で見習い魔法使いでしかないとは言え、天才的な素養を持っておるネギ君との戦いに備え、わずかなりとても魔力を補充しようとしている、と思われる」

「……それで、俺たちを呼び出したのは、どう言う思惑があっての事だ?近衛学園長」

「うむ。此度の事件は、その解決をネギ君に全て任せようと思っておるのじゃ。それ故に、君らにはできる限りこの一件に関わらんで欲しいんじゃよ。桜通りにも、あまり近づかんで欲しい」

 

 千雨は一瞬、唖然とする。だが壊斗は多少顔を顰めて口を開く。

 

「ほう……。ネギ少年への試練、とでも言うつもりかな? 封印されて、魔力も何もかも削られている状態の吸血鬼ならば、試練として丁度良いとでも?

 だが、それでも600歳余の経験などは侮れまい。ネギ少年が敗北して殺されでもしたら、どうするんだ?」

「エヴァは、女子供は殺さんと言う掟を自らに課しておるからのう。最悪の事態でも、人死にとか大怪我とかは無いじゃろうて。そう言う面では、エヴァは信じられるでの。

 事実、エヴァの従者である茶々丸君が、何処ぞより輸血用血液のパッケージを手配しておるのをつかんでおる。AB型の物をな。おそらくネギ君から大量吸血した後、彼に輸血するつもりであろう」

「そのネギ少年が勝つにせよ負けるにせよ、強敵との対峙はその少年の成長の糧にはなる、か……」

 

 近右衛門は、だが肩を落とす。やり手の古狸たる近右衛門のこと、もしかしたら演技かもしれない。だが千雨には演技だとしても、それを見破れなかった。近右衛門は、本当にしょんぼりしている様に見えたのだ。

 

「ネギ君は、英雄ナギ・スプリングフィールドの息子として、数知れぬ悪意に身を晒される運命にある。運命と言う言葉は、使いたくは無いがの……。

 それ故に、わしらが守ってやれる内にぎりぎりを見極めた試練を与え、成長させるしか無いと言うのがわしら、いや、わしの判断じゃ。わしらの腕は、何時までもネギ君を守ってやれるほど長くは無い。

 ……その様な事しかできぬ、自らの無能さ無様さに反吐が出るわい。」

「ま、『善き魔法使い』のやることじゃないな、あえて言わせてもらうが。」

「壊斗殿、おぬし、きついのう……」

 

 大きく溜息を吐いた千雨は、だが若干の疑念を口に出した。

 

「けれど、今朝の佐々木の件とかはちょっとマズくないですかね。マクダウェルがいくら殺さないって言ったって、意識を失った被害者を夜の道端に放り出して行くってのは。600年余を生きた吸血鬼だから、ちょっと普通の人間とは感覚がズレてるのは分からなくも無いですが……。

 あと、そう言う面ではネギ先生も不安ですね。いくら天才少年だからと言っても、結局は子供ですし。そっちの方で、頭が回るかどうか……。ネギ先生自身は死ななくても、巻き添えになった被害者への対処とかできるかどうか」

「そっちは瀬流彦君や弐集院先生に、理由を話して裏で動いてもらっておる。ちょっと誤解がある様じゃが、佐々木まき絵君を回収したのは今朝ではなしに昨晩のうちじゃよ」

「それと、聞いた限りだとマクダウェルの奴が勝ったら、奴が解き放たれちゃうんじゃないですか?」

「それも覚悟の上じゃて。元々エヴァを封印しておる呪いは、3年で解かれる約束じゃったからのう……」

 

 と言うわけで、千雨と壊斗は吸血鬼事件には可能な限り干渉しない事を近右衛門と約束する。ただ目の前で事件に出くわしたりした場合など、可能な限りネギの主体に任せはするが、不自然では無い程度に介入する事は近右衛門に納得させた。

 そしてお土産に饅頭の詰め合わせ二箱を貰って、2人は学園長室を辞去する。壊斗は女子寮の近くまで、千雨を送ってくれた。

 

「わざわざ済まねえな、壊斗」

「気にするな。じゃあ俺はそろそろ……。む?」

「ん?」

 

 別れの挨拶をしようとしたところで、壊斗と千雨の体内内臓センサーに人間2人の反応があった。2人はその反応の方向へ目を向ける。直後、千雨は慌てて壊斗の顔を手で覆い、目隠しをした。壊斗もされるがままだ。

 

「な!? 近衛!? なんで宮崎が裸なんだよ!? ここは表、屋外だぞ!?」

「あ、千雨ちゃん。いやな、のどかが噂の吸血鬼に襲われかけたんよ。ネギ君が吸血鬼を追っかけてって、アスナはそのネギ君を追っかけて。それでウチが、のどかの事たのまれてなあ」

 

 千雨は頭を抱えたかった。まあ壊斗の目を塞いでいるから、頭を抱えられないのだが。その場に現れたクラスメート、近衛木乃香は全裸の同じくクラスメート、宮崎のどかを背負っていたのだ。

 ちなみに木乃香は、麻帆良学園学園長近にして関東魔法協会理事である右衛門の孫娘であり、同時に関西呪術協会の長である近衛詠春の一人娘でもあったりすると言う複雑な事情持ちである。しかしながら彼女は、親の意向で魔法や呪術に関する事情は一切知らされていない。

 しかしエヴァンジェリンも、やる事が酷過ぎる、と千雨は思う。気絶した女生徒を裸に剥いて、そのまんま放り出して行くなど。変質者でも出たらどうするのか。いや、吸血鬼自体が変質者だと言えなくも無いが。

 そんな中、壊斗が口を開く。

 

「あー、俺は後ろ向いてるから。目隠しはもういいだろ? ハセガワはその娘を手伝って、被害者を寮まで運んでやれよ。

 まあ、被害者がちゃんと服を着てたなら、俺が運んでもいいんだが……。この場合、そうも行くまい」

「あ、ああ。近衛、とりあえず手伝うから、寮まで宮崎を運ぶぞ」

「ありがとな、千雨ちゃん」

 

 と言う訳で、千雨は近衛木乃香を手伝って、気絶したままの宮崎のどかを女子寮まで運ぶ事になる。ちなみに壊斗はこの場合助けになれないので、その場で別れる事にしたのだった。

 

 

 

 まあ、その夜はそれ以上大した事は起こらなかった。と言うか、木乃香の部屋にのどかを運んだ後、千雨はその場を辞去したため、それ以後の事情には関わらなかったと言った方が正しいか。

 本当は千雨としては色々気にはなっていたのだが、可能な限りこの件ではネギに任せると近右衛門に約束していたため、あえて関わらない事にしていたのだ。色々気にはなってはいたのだが。

 

「……しっかし、なあ。ヤバいだろ、裸で女生徒を放り出して行くってのは……。ちょっと感覚がズレてる、ってレベルの話じゃないぞ? いや、ネギ先生とか来てたから、それに押し付けて逃げた、って事なのかも知れんが。まったく、このマクダウェル(スタースクリーム)め……」

『出来る限り関わらない、とは言ったものの……。場合によっては、そうも行かないかも知れない、な』

「だな。ちょっと注意しておくに越した事ないな。はぁ~~~……」

 

 体内の通信機で壊斗と会話しつつ、千雨は大きく溜息を吐いた。溜息の数だけ幸せが逃げる、とは誰の台詞だったか。それが本当なら、千雨からはダース単位で幸せが逃げ出しているに違い無かった。




いや本当に、道端に気絶した女生徒を放り出して行くってのはマズいですよね?いくら麻帆良の治安が良くて、のほほんとした空気だからと言っても……。あと、のどかが裸に剥かれた件は、それ以上にすごくヤバい事案かと。
……いや、女生徒を裸に剥くのはネギもやってますけどね。
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