「え!神崎さん、イギリスに帰っちゃうの!?」
「ええ、パートナーも……見つからなかったし、イギリス武偵局から戻るように言われてる」
神崎さんの表情は俯き、芳しくない。パートナーに最も近いだろうキンジはここに居ないし、ツナが彼女のパートナーになる事は出来なかった。
「でも……いいのかよ!!神崎さんはそれで!」
「じゃあ、アンタが何とかしてくれるの!?…………ごめん、それじゃ、さようなら」
「……ッ」
悔しい。だが、引き止めてどうなるものでもないし、彼女が求めているのはツナではなくてキンジだろう。どうするべきか、ツナは考える。
「うーん」
「う〜ん……」
「うーーーん……」
「うっせぇ、ツナ」
「痛ってえええ!! やめろよ!リボーン!!」
マジで痛い。目玉が飛び出すほど痛い。
「いつまでもウジウジグズグスすんな、おめぇは第一、何がしてえんだ?」
「神崎さんがイギリスに帰るっていうけど……このままキンジと別れさせちゃ、いけない気がするんだ……」
直感的にだが、「このまま2人を別れさせてはいけない」と強く感じていた。
「ツナ、そう思ったならやる事は分かるだろ?お前が動く理由はいつだってシンプルだ」
ツナは決心がついた。携帯の電話帳から、登録されているキンジの電話番号を打つ。
「キンジ、俺、沢田だけど……」
しかし、意外な言葉が返ってきた。
「沢田、悪い、羽田に用ができたッ!」
「神崎さんの事? 分かった。キンジ今何処?」
「台場だ。でも、どうする気だ?」
「羽田に行くのに、足がいるでしょ!」
鍵と二つのヘルメットを取り、駆け出した。
# # # # #
「沢田、手短に説明する」
キンジを拾ったツナは、自前のバイクで羽田空港まで法定速度ギリギリでぶっ飛ばした。幸い、道路は空いていたのでそれなりの余裕をもって到着出来た。
「アリアが『武偵殺し』に狙われている。このままじゃあ、恐らく飛行機が墜ちる」
「わ、分かった。でも、どこだ……?」
首都の玄関口たる羽田空港は兎に角広い。イギリス行きも沢山路線があってどれだか判らず、混乱する。
「ロンドン、ヒースロー行きだから……ANA600便だな。こっちだ、急ぐぞ!」
「うん!」
2人は搭乗口近くまで来た。突然に駆け込む2人の武偵に慌てるが、事情を説明し、武偵である証拠を見せ、半ば強引に飛行機へと搭乗する。
「……良かったのか、沢田」
「まあ、ちょっと怖いけどさ……友達の危機なんだ、引き下がれないよ」
「……っ」
キンジは驚いた。空港までそこそこの大きさのバイクを回したのもあるが、ツナの瞳は武偵数ヶ月の者とは思えない、意思の強い目だった。
それが、キンジにとっては兄と重なる。
(いや、他人に面影を重ねるべきではないな)
頭を振って、雑念を追い払った。
「ここだ」
アリアのキャビンだ。確か、数十万するようなセレブリティ溢れるクラス。庶民的な2人は内心で少し気が引けた。
「き、キンジ!?それにツナまで……!」
神崎さんは呆然としていた。そりゃそうだ。
「……断りも無く部屋に押しかけてくるなんて、失礼よッ!!」
怒る神崎さんが怒鳴りつけるが、キンジは負けずに言い返した。
「お前にそのセリフを言う権利はないだろ」
「まあまあ……それよりも、さ」
ツナはこのまま喧嘩されても敵わないと、仲裁に入った。
「ああ、『武偵殺し』がお前を狙っている。それに……約束、まだ果たしてないだろ」
「キンジ……アンターー」
神崎さんが何か言おうとすると、銃声が機内に響く。
「っ、まさか」
武偵殺しの仕業だろう。客が驚いて、いくらかドアを開ける音が重なる。一般人やキャビンアテンダントがぞろぞろと出てきて、不安げな顔で会話している。決して良い状況では無かった。
アリア一行も、音の出た機体前方を慎重に覗く。普段は固く閉じている
コクピットの扉は開け放たれ、あるキャビンアテンダントが2人の男を引きずっている。機長と副機長だろうか。彼らは死んではないようだが、ピクリとも動かない。
「動くな!」
ツナはCZ100を、キンジはベレッタ92Fの改造モデルーー通称キンジモデルを構える。相手は銃口を前にしても沈黙し、不気味だった。だが、顔を上げると、ニイっと能面のような笑みを浮かべた。
「Attention,Please、でやがります」
彼女?はピンを引き抜いた缶を、こちらに投げる。勿論、一般人もいるが、武偵殺しからすれば路傍の石ころと同程度だろう。
「皆さんっ!早く部屋に戻れ!!」
声が掠れるほどのキンジの大声は、この場所の危険性を乗客たちに本能から理解させた。皆が焦って、蜘蛛の子を散らすように部屋に戻る。
「ガスだ!飛び込めっ!」
廊下を白い煙が満たしていく。キンジとツナは神崎さんの部屋に転がり込むことで事なきを得た。
「アリア、やっぱり武偵殺しだ。あの言い方から考えて間違いない」
キンジの推理はこういうものだ。
・チャリジャック、バスジャック事件の他にもシージャックで、ある武偵を仕留めた。
・シージャックの際だけ、電波での遠隔操作が無かった。それは本人が居たから。
その他諸々の証拠を神崎さんに話すと、彼女も一応の納得はしたようだった。しかし、キンジが『ある武偵』と言う瞬間だけ悲しげな顔を見せたのは、気のせいだったかも知れない。
色々と話していると、ベルトの着用サインが不規則にチカチカと光る。
「えーっと、何か見たことあるな……」
「和製モールスだ……アイツ、挑発してきてやがる」
内容は、オイデ オイデ イ・ウー ハ テンゴク ダヨ オイデ オイデ ワタシ ハ イッカイ ノ バー ニ イル ヨ
イ・ウーって、組織なのか?とツナは思いつつ、三人は一階のバーへと進む。そして、バーに着いた。オトナの雰囲気がある、普段なら絶対に来ないだろう場所。誰もいないはずのバーカウンターには1人の女。彼女は妙な事に、フリルのやたら付いた武偵高校の制服を着ている。コスプレにしては冗談が過ぎた。
「今回も、キレイに引っかかってくれやがりましたねえ。余計なオマケもいるみたいだけど」
彼女?は顔を触る。すると、被り物を剥がすようにベリベリと剥がれて、中からは金色の髪が現れる。
「嘘……だろ」
「Bon soir?」
とても流暢なフランス語。クラスの人気者、峰理子がそこにはいた。
「最悪も最悪、ボンゴレは必死に避けてきたのに自分から食いつくなんて。流石の理子もキミが10代目なんて思って無かったよ」
「何を言ってるんだ……」
「……」
ツナは思わず黙ってしまう。
「後で、話す」
ボンゴレ云々は話しづらい上に、それを理子が許すとは到底思えない。
「ははっ、後なんて……くるのかねぇ?」
「アタマとカラダで人と戦う才能ってさ、けっこー遺伝するんだよね。武偵高にも、お前たちみたいな遺伝系の天才が結構いる。でも……お前の一族は特別だよ、オルメス」
「理子・峰・リュパン4世。それが理子の本当の名前」
「でも……家の人間はみんな理子を『理子』とは呼んでくれなかった。お母さまがつけてくれた、このかっわいい名前を。呼び方が、おかしいんだよ」
「おかしい……?」
神崎さんが首を傾げる。
「4世、4世、4世さまぁー。どいつもこいつも、あたしを数字でしか見ない。でも今日で終わり、オルメス4世を倒せば理子は理子になれる。数字じゃない、理子は本当の理子になれる!」
ギラギラした目でアリアを睨みつける。それは、何かに取り憑かれた目であった。
「プロローグはおしまい、ここから先は理子の物語。100年前の対決と条件は同じ、ちゃんとパートナーも用意してやったんだ。舞台は整ったぞオルメス、自分の役を演じな!」
どうやら、理子と神崎さんの先祖には並々ならぬ因縁があるようだ。
「まずは……」
「おわっ……!?」
「沢田っ!」
理子は、何か銃と酷似した物からネットを発射した。武偵御用達の犯罪者捕獲ネットは理子に改造されて、並大抵の力や熱、薬品も効かない優れものだ。ツナはグルグル巻きで、彼の非力な力では決して解けないだろう。
「これでボンゴレは封じた。さあて、オルメスにキンジ。ヤろうか?」
そう言うと、理子のツインテールは意思を持ったように動き始めた。ふたつ剣だけでなく、二丁の銃もある。
「チッ、手詰まりだな。ま、コイツを使ってみるか……」
膠着し、互いに大きく下がった。理子はゴソゴソと胸元から何故か指輪とヘンテコな模様をした立方体の箱を取り出した。
「あっーーマズい!!」
それは、死ぬ気の炎を灯すためのリングと、
「ボンゴレは知ってるか。なら、コイツでサヨナラだ!! 開匣!」
赤いリングから、嵐の炎が点火され、匣に注入される。
「
「ガルルルル……」
手のひら程度の箱から豹が出てくるのに面食らう2人だが、度胸はあるのだ。理子の行為にも然程動じていない。しかし、ツナは2人が知らないある事実を知っていた。
「キンジ、アリア!!触れちゃダメだ!!!」
嵐属性の死ぬ気の炎の性質は、分解。炎に触れた物を全て分解していく。キンジのベレッタが軽く触れ、先端部分だけ削れていた。
「なっ!」
先端が炎に触れた跡は切断されたのとは違う。ボロボロと砂のように崩れている。死ぬ気の炎を知らない彼らも脅威を十分に理解した。
「何でリングを……」
理子は強気に返答する。
「お前らだけが使えると思うなよ?」
嵐豹と理子はじわじわと嬲るように追い詰めていく。
(もうちょい、もうちょいなんだけど……)
内ポケットに死ぬ気丸とボンゴレギアを入れているが、間一髪で隙間を作ったので、あと少しで取り出せそうだった。しかし、その残り少し指一本分届かない。
「うわっ!!」
飛行機が揺れる。死ぬ気丸が入ったケースだけが床に転がる。神崎さんの近くへと転がった。
「神崎さんッ!中身を一つでいいから、こっちに!!!」
ツナは必死に叫ぶ。匣兵器を持つ者と持たない者の戦力の違いはよく知っているからだ。このままでは、2人もツナも死んでしまう。
「分かったわ!」
直感的に、ナニカを理解した神崎さんは中身を一つ、口に向かって投げる。上手く口でキャッチしたツナは、死ぬ気丸をゴクリと飲み込んだ。
『!』
皆がツナを注視した。すると突如、拘束していたネットは轟々と焼き尽くされ、自由になったツナは、ボンゴレギアに炎を灯す。
「理子……死ぬ気でお前を止める……!」
沢田綱吉の額には、橙色の大空の死ぬ気の炎が燃え上がっていた。
忙しいので、次話まで間隔が空きます
守護者いる?
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いる
-
いらない
-
偶に出すくらい