転生したら殺人鬼ポジだった件   作:クリーニング黒兎

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かなり主人公の頭の中が気持ち悪いのでご注意。
尚ネズミーの件は実際にあった猟奇殺人参照(閲覧の際は注意)


10話 くいしんぼうのチェケラ

 母の接触が増え、鈴美と談笑しながら他愛のない日常を過ごし、佐藤保健医と互いの欲望を満たし合う。

 

 月日はいつの間にか2年が過ぎ、高二になった。来年は受験を控えており、D学院の文学部にする予定である。今のところ【B】判定だが、調整しなければ現在の学力でも受かるだろう。

 

 これは慢心ではない、正確に自分の能力を把握した上で述べている。

 かといって難関大学を受ける気はない、エリートコースに興味はないのだ。

 

 

 ぼくは「普通」に生きたいだけだ。

 

 そう────普通に。

 

 

 

 

 

「大丈夫、吉影くん?」

 

「……あぁ、少し眠いだけだ」

 

 中等部と高等部の違いはあるものの、ぼくと鈴美は昼食時は二人で過ごしている。屋上は難しいため、使うのは外にある校舎横の目立たないベンチである。

 箸の進みが遅いぼくに、彼女は自分の弁当の卵焼きを近づけてきた。

 

「はい、あーん」

 

「食べる気分じゃないんだが」

 

「むぅ、本当は私が手作りしてあげたいのに」

 

「……ハァ、わかった、3分の1にしてくれたら食べるよ」

 

「…吉影くんはダイエット中の女子か何かなの?」

 

 そうは言いつつ、切り分けた卵焼きを口に押し込まれた。最初は他人の箸に抵抗感しかなかったが、流石に慣れる。

 あと誰がダイエット中の女子だ。

 

「だってその…親のストレスもあって、あんまり食べられなくなっちゃったでしょ?」

 

「君といる時は割りかし食べられる方だよ」

 

「それはっ、嬉しいけど…栄養剤ばっかじゃ早死にするよ?裏で『栄養剤(リポビタ)マスター吉良』って呼ばれてるの知らないの?」

 

「嘘だッ」

 

「嘘だよ」

 

 コイツ…さらっとぼくのことをからかっている。最近かなり性悪女になった。

 

「…来年のそのまた来年になったら、吉影くんとは離ればなれになっちゃうのか」

 

「仕方ないだろう、二歳離れているんだ。君はまた同じ場所に通いそうだが」

 

「うーん、それなんだけどね。大学は違う場所にしようかな、って思ってるの」

 

「ホォー…ぼくと同じ学校がいいからって、勉強を頑張った君が?」

 

「あの時はまだ子どもだったの!…なんかね、露伴ちゃんの面倒とか見てて、子どもって可愛いなって思うようになったの。だから保育士の資格が取れる大学にしようかなーって考えてる」

 

 落ち葉が舞う少し肌寒い陽気の中、日の下に照らされた彼女は柔く笑んだ。

 その表情が眩しく感じられ、つい顔を逸らす。

 

「それにたまに露伴ちゃんの面倒見るの手伝ってもらった時、吉影くん、「子供の世話が上手だね」って言ってくれたでしょ」

 

「…それだと目指すきっかけが、ぼくの一言みたいじゃないか」

 

「そうよ、結構嬉しかったんだから」

 

 彼女は顔を赤らめて、人の肩を叩く。そのまま腕を絡ませて、肩に頭を乗せてきた。

 大人しく瞳を細めて、こちらを窺ってくる。

 

「私は次の誕生日が来たら、吉影くんは次の次が来たら、もう結婚できるんだよ」

 

「……な、中々ぶっ込んできたな」

 

「だってまだ、その……(ゴニョゴニュ)…は、したことないでしょ」

 

「セックス?」

 

「ぼかしたのに声に出さないで!!」

 

 茹で上がったタコのような顔になった彼女の一撃が、脇腹にヒットする。内臓はダメだ、内臓は。

 

「鈴美はぼくとしたいのかい?」

 

「それ、は……」

 

 顔は相変わらずりんごのように赤いが、瞳の奥に潜んでいる「欲」が、桃色の中に浮かんだ。

 ぼくよりはよっぽど欲に疎いものの、彼女も一人の快楽を享受する人間なのだと思い至る。不浄とは対極に位置しているはずの、彼女が。

 

 

「…そうだね、君が16歳になったらいいかな」

 

「……ほ、本当?」

 

「あぁ、フフ、それまで我慢できるかい?」

 

 意地悪く笑ってやれば、彼女は小さく唸ったのち頷く。その後上目遣いで催促されたので、軽く唇に触れる。薄い唇は幸せそうに弧を描いた。

 

「吉影くんは…」

 

「何だい?」

 

「……ううん、何でもない」

 

 

 彼女の瞳はどこか、寂しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◻︎◻︎◻︎

 

 

『欲にきりなし、地獄に底なし』──ということわざがある。

 人の欲には際限などなく、次から次へと増大していくという意味だ。

 

 まるでそれは、互いの肉を食らい合っているぼくらのようだ。ふと、そう思った。

 

 

「何考えてるの?」

 

「………」

 

 休日の昼下がり。保健医の部屋でぼくはぼんやりと、彼女が最近飼い始めたペットを眺めていた。

 顔の部分は黄色っぽく、その他の部分は緑がかった色をしている。

 

「ふふ、なんか鳥を狙ってる猫みたい」

 

「………」

 

「待って待って!!もしかして私のぴーちゃんを本気で()ろうとしてるでしょ!!」

 

 テーブルに置いてあったハサミを手に取ったぼくに、下着姿のまま保健医は慌てて止めに入る。

 

「違うさ、飛べないようにするだけだ」

 

「そう言って頭をちょん切る気なんでしょ、私知ってるんだから」

 

「風切羽を切る『クリッピング』ってあるだろ。自由に飛べないように、ペットショップや動物園の一部の鳥に行われてる方法だ。されてないみたいだから、ぼくがやろうと思って」

 

「ダメです」

 

 持ったハサミは没収された。

 被害を免れた鳥はかごの中で首を左右に振りながら、木の上をうろうろしている。

 

 飛べる「自由」がありながら閉じ込められているよりは、飛べる「自由」がなく閉じ込められている方が、よっぽど幸せだろうに。

 

 確か、このペットで何匹目だったか。

 一人暮らしの彼女が寂しいからと、最初飼われたのは犬で、次はウサギ。あとはネズミもいた気がする。全部すでに死んだ。

 

 彼女はどうも、ペットを飼うのが苦手らしい。掃除は綺麗にするようになったが。

 

 

「ポチは首輪が締まって。うーたんは寒さに耐えきれず。ハム次郎は脱走からの踏んづけ。これを全部()()()()、事故にみせかけたはどこの誰だったかしら?」

 

「ネズミを踏んづけたのはあなたじゃないですか」

 

「「ケージを閉め忘れた」って言ったのは、吉良くんよね…?それにネズミじゃなくて、ハムスターだから。まさかスリッパの中にいるとは思わないじゃない」

 

「先生はさぞ重かっただろうね」

 

「…意地悪言うなら、今度イタズラしちゃうから」

 

 生き物の命が消える瞬間は不思議なものだ。先ほどまで動いていた物体が、時間が経つにれて筋肉が硬直していくと共に、体温を失っていく。

 その「熱」がどこへ行ってしまったのか、生物の「死」を体感すると感じる時がある。

 

 一概に言えるのは、死体はこの女のように口喧しく喋らないということ。

 静かな()()はきっと、すごく可愛いに違いない。

 

「きーらーくん?」

 

「はい、何ですか」

 

「ハァ…人の話聞いてるようで、聞いてないわね」

 

 保健医が何か宣っていたようだが、水中から外の音を聞くような感じで、意味が曖昧にしか捉えられない。

 

 欲に溺れすぎて普通と異常の境界が曖昧になっている今、脳裏に過ったのは母胎と、へその緒で繋がった胎児のイメージ。

 

「あなたはもうすぐで30になるんだったか」

 

「女性に年齢を聞くなんて失礼よ。まぁ、来年で30にはなるけど……私が望んだら、受け入れてくれるっていうの?」

 

「子ども、ね」

 

 ぼくも一応まだ子どもだ。普通ならあり得ない赤ん坊の頃からの記憶があっても、子ども。

 肉体差はあれど精神年齢がなぜか近いのは、付き合いの長くなったこの女も感じている。

 

 そう言えば子供らしいといえば、ネズミのアレがあった。

 来年の春ごろにネズミの楽園ができる。杜王町からは遠いが、鈴美がねだっていたので、一度は行くべきか。

 

「もしできたら、ぼくが取り出そう」

 

「……本気にするけどいいの?」

 

「生産期になったら、包丁で…割いて、取り出して、子供は夢の国のネズミが好きだから、お祝いにそのオモチャをお腹に入れてあげないとね」

 

「うわぁ……気色悪」

 

 結構いい案だと思ったが、珍しく彼女に本気で引かれた。

 彼女の手の美しさと他の命を奪う()()()()()を幻視して、重くなった身体をベッドに下ろす。

 

「…大丈夫?」

 

「………」

 

 頭の中では何度も彼女の首を絞めた感触がリフレインされ、ついで動物たちの濁った無数の目が、頭の中を回る。

 人間も動物もあっけなく死ぬし、殺すことができる。

 

 爪の伸びるぼくの手を、彼女は優しく触った。

 リリス(悪霊)の手が、今は救いの手に見える。

 

「この感情は、どうやったらなくなるんだ」

 

「無理じゃないかな。諦めて、その感情を受け入れたらラクになれるのに」

 

「…嫌だ。受け入れたらぼくは、本当に異常者になる。誤魔化してきた努力も何もかも、水の泡だ」

 

「きっと人を殺したら、()()()()()わよ」

 

「………」

 

 もしぼくが人を殺すなら、一番最初はこの女だろうと、不意にしなやかな手を見て思った。

 ()()()()()を知る存在。ゆえに最初に手をかけ、次は鈴_______、

 

 

 

「ぼくは………何をッ、考えて……!!」

 

 

 

 無意識に噛んでしまった爪からは血が溢れ出ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◻︎◻︎◻︎

 

 

 高三にもなって親と寝ているのは、もはやどう考えてもおかしい。

 だが母が「家族なのだから、一緒に寝るのは普通」と言うのだから、普通なんだ。

 

 

 受験生ということで部活には偶にしか行かず、基本毎日家で勉強だ。

「人と一緒じゃ勉強の質が落ちるでしょう?」と、これまた母が。

 

 塾の代わりに家庭教師になり、完全に家に囚われている。大学も家から通うように言われている。

 

 殆ど毎日母の気色の悪い目に晒され、過剰なスキンシップを受ける。

 

 救いになる()が欲しい。ここに来て保健医との関係が思春期の性欲を発散させていたのだと、虚しくも感じた。

 

 

「吉影や、ちょっといいかい?」

 

 

 母が買い物に行っている間、勉強に使っている部屋に入ってきたのは父。

 

「どうしたの、父さん。何か頼みたいことでもあるの?」

 

「…いや、まぁ、ちょっとな」

 

「?」

 

 父がポケットから取り出したのは、数枚の紙。

 それがネズミの描かれたチケットだとわかると、思わず目を見開く。

 

「お前も頑張っとるじゃろう、もうすぐ夏休みになるんだし、一日くらい友人と楽しんできてもバチは当たらんと思うてな」

 

「……父さんは、いいのかい?」

 

「お前のことだ、ワシや母さんと行っても自由に羽を伸ばせんじゃろう」

 

「父さん……」

 

 父はわざとらしく咳払いをして、顔を背ける。

 

「まぁ、友人が難しければ、彼女でもいいと思うがの。ワシは一応男友だち前提で用意したから、母さんには「彼女と」なんて言わないぞい」

 

()()…」

 

 二枚だときっと母の目が厳しくなる。場合によっては「家族で行きましょう」となる。

 だから複数枚用意し、「男友だちと」と付け足して用意した。父は妻に従順で嘘を吐かないため、母は信じ込む。

 

 恐らく人生初の父の粋な計らいに、かつてあの警官に頭を撫でられた時のような、温かさを感じた。

 どんな表情をしていいかわからないぼくに、父は何故か涙ぐんでいた。怖。

 

「う、うぅ…吉影がワシを「父さん」じゃなく、「親父」と初めて呼んでくれたわい…!」

 

「いや、そんなことで泣かれても…」

 

「今日は赤飯じゃ〜〜!!」

 

「と、父さん…」

 

 結局本当に夕飯は赤飯になった。ついでにネズミーの件も無事通ったのは、幸いだった。

 

 

 

 

 

 翌日、手元にある四枚のチケットを、手持ち無沙汰に見つめる。

 指定日は夏休みと重なっているので、早めに人を選ばねばならない。ぼくと鈴美は確定で、残りは二人分。

 

 父の協力もあり両親の見送りは家までなので、共に来る人物についてはバレない。

 当日は朝早くに出て、電車と新幹線を乗り継ぎ向かう予定だ。

 

「じゃあ露伴ちゃんを連れて行こうよ!」

 

「言うと思った」

 

 鈴美に相談したところ、案の定あの小僧が選ばれた。薄々予想していたので、まぁいいだろう。

 

 残り一人──考えていたら、彼女が保健医はどうかと尋ねてくる。なぜここであの女が出てくるんだ。

 

「だって吉影くん、しょっちゅう体調崩しては佐藤先生にお世話になってるじゃない。こういう時にお礼として誘うのもいいと思って」

 

「人選が謎すぎる…それにあの先生がいると、絶対に面倒なことになる」

 

「佐藤先生って面倒見がいいから、きっと露伴ちゃんの面倒も見てくれると思うし」

 

「さりげなく黒い一面を見せたな、君」

 

「そ、そういう意味で言ったんじゃないよ!もしいざって時に大人がいた方が、安心だろうと思ったの」

 

 小僧を押し付けるための生け贄じゃないのか。話の中一瞬鋭い視線を向けた彼女に違和感を覚えたが、何だろう。

 …あぁ、確かネズミーの翌日は彼女の誕生日だったか。

 

「何か一つ欲しいものがあるなら、買ってあげるよ」

 

「そういうことじゃないんだけど……まぁくれるっていうなら、考えとく」

 

「……?そ、そうかい」

 

 結局彼女の真意はわからないまま時間は過ぎて、ネズミー当日になった。

 

 

 

 

 

 電車から乗り換え新幹線に乗り、通路を挟んだ向かいで年甲斐もなくはしゃぐ三十路間近と、かわいらしくテンションの上がっている彼女。

 そして左で黙々と絵を描いている少年を見ながら、小さくため息を吐いた。

 

「というか君、上手すぎないかその絵」

 

「フン、あたりまえだ」

 

「手持ち無沙汰でね、見てもいいかい?」

 

「ぼくの絵が見たいの?あぁもちろん────だがことわる」

 

「………」

 

 殴ってやりたかったが抑えた。このガキ、年々生意気度が上がっている気がする。

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