転生したら殺人鬼ポジだった件   作:クリーニング黒兎

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今年はギリギリ夏に間に合ったぞ!ホラー話!!
鈴美ちゃん(+@)と肝試しに行く番外です。


102話 ィミコワ

 世間はどうやらオカルトブームのようだった。

 ベストセラーとなった『ノストラダムスの大予言』は小学生の僕でも知っている。テレビではしょっちゅう心霊だか、超能力だか、胡散臭いものを取り扱っているらしい。生憎と母の教育上、俗だというテレビを見る機会はぼくにはない。だから盛り上がる話の中に混ざれない。だがまぁ、混ざりたくもない。

 

「ねぇねぇ、昨日のテレビ見た?」

 

「見た見た!女の子の肩に手が乗ってる写真怖かったよねぇ!」

 

 朝からこの調子だ。騒ぐよりも先に、さっさとその机に置きっぱなしのランドセルを片付けたらどうなんだ。

 

 ぼくはいつも通り空気になって、本を捲る。暑さもいよいよな季節でじっとりと汗をかく。

 

 

見 ヱて るデ しョ?

 

 

 第一、幽霊も宇宙人も未確認生物もこの世にはいない。不可思議なものには必ず裏がある。髪の長い女の正体が風に揺られた柳の木だったように。

 

 

ネェ 見ヱテテ るデ死ョ?

 

 

 ガラッと扉が開きデスクに座った直後、チャイムが鳴った。遅刻になる合図でもあり、朝の会が始まる合図でもある。日直が出る頃には場も静まり返り、後ろの声も聞こえなくなっていた。

 

 

ヒヒッ

 

 

 ──と思ったら、目前にゆっくりと逆さまの顔が降りてくる。ぼくが淡々と無視し続ければ、幻聴も幻覚も本当にただのマボロシとなり、静寂が訪れた。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

「お願い吉影くんっ!一緒に行こう!!」

 

 

 とある夏の午後のことだった。部活で顔を合わせた鈴美はズンズンと近寄ってきたかと思うと、いきなり斯様なことを宣ってきたわけである。

 

「急に何なんだ…」

 

「実はねぇ…」

 

 鈴美は女友達に誘われ、肝試しに行くことになったらしい。場所は普段ふつうに使われる、心霊スポットとして有名なトンネルだそうだ。目的地までの運転はその女友達の兄がするとのこと。この兄のグループは大学生のようだ。

 

「君、怖いのが苦手なのに行くことにしたのか…」

 

「行こうよ、って押し切られちゃってさ…今さら断るのも悪いし。それに…」

 

 チラリと鈴美はこちらを見る。上目遣いでぼくの服の裾を人さし指と親指でそっとつまむ。なんとも頼りないつかみ方だ。

 

「要するにつまり、デート気分ってことかな?」

 

「……いいでしょ?」

 

 ぼくは幽霊が怖いからなぁ──と言ってもみたが、鈴美はまるでどの面を下げて言ってるんだ、と言わんばかりにニッコリと笑う。そうだな。ぼくが幽霊なんぞ信じていないとよく知っていたな。

 

「……ハァ、わかったよ」

 

 結局押し切られるようにして首を縦に振った。

 この後の両親への説得は面倒なものになったが省くとして、予定の日はすぐに来た。

 大学生グループは四名で、全員野郎どもかと思っていたが、蓋を開けるとカップルが二組という図だった。車は大きな黒のパンタイプで、ぼくと鈴美、そして彼女の友人の三人は一番後ろに座り、中央と前列に二人ずつ乗った。

 

「この人が鈴美ちゃんの彼氏?すごいネクラっぽいー!」

 

「ちょっと言い方!」

 

 きゃらきゃらと笑う女は間違いなくぼくの嫌いなタイプだが、手は綺麗な女だった。押しが強そうなのは見ているだけで伝わってくる。鈴美は小声で「ごめんね。悪い子じゃないんだけど…」と呟いた。根暗の見た目にしているのは事実だ。特に言うこともない。

 

 そうして窓に視線を移そうとした矢先、シートの上に置いていた手のひらに柔らかい感触がして肩が跳ねた。白い手が甲の上に重ねられ、細い指がぼくの指と指の隙間に押し入ってくる。そこで視線が艶めかしいそこに釘付けになっていたことに気づき、そろそろと鈴美の顔に移した。イタズラっぽい笑みを浮かべ、彼女は「顔が真っ赤だよ」と言う。

 

「……ぼくら以外にも人がいるだろ」

 

「大丈夫、気づいてないって」

 

 大学生たちの方はそれぞれ会話に夢中になっており、鈴美の女友達の方も体を乗り出して前の座席の会話に混ざっている。ハァー…と深いため息が自分の口から漏れた。

 

「まったく…」

 

 一度鈴美の手をほどき、改めて恋人つなぎの形で握り直す。先ほどよりもより手を密着させ、絡ませる。その感触を余すことなく感受し、手に口づけ、じっとこちらを熱っぽい目で見つめる彼女の頬にも軽く口づけた。

 

 そしてその一部始終を運悪くバックミラー越しに運転席から見られており、口笛を吹かれる羽目になった。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 トンネルの近くで車から降り、ゾロゾロと夜道を歩く。両サイドには森があり、夜特有のシンとした空気が感じられる。昼の暑さとは対照的な温度だ。

 心もとない懐中電灯を頼りにする先頭のあとに続くと、目的の場所には数分歩いたところで着いた。天井の両脇に明かりが設置されたそこは、ぼんやりと浮き上がって存在する。

 

「………」

 

 ぼくの腕に強い圧迫感を感じたと思えば、鈴美がいよいよといった具合で恐怖に震えていた。

 

「怖いなら一緒に車に戻るかい?」

 

「……ここまで来て、戻るわけにはいかないわよ」

 

「そう。頼むから悲鳴を上げた拍子にぼくの腕をポキッと…なんて、勘弁してくれよ」

 

「私が怪力って言いたいの!?……ふふっ」

 

 ぼくのジョークが受けたようだった。幾分か鈴美の表情が和らいだ。

 

 さて、ここからが本題である。トンネルへ行く順番について、一応肝試しということもあり、二人×三組で。一ペアに関しては余った一人を加えて三人とし、順番にトンネルを往復することになった。必然とこの余りは鈴美の友人になり、兄に引っ付いていくことにしたようだ。「鈴美ちゃんの彼氏じゃあひ弱そうだし、いざという時ね…」と聞こえた言葉は流しておくことにする。幸いトンネルの中は灯りのおかげで、懐中電灯を持たずとも歩く程度の視界はある。

 ぼくと鈴美は二番目の組になり、一組目が戻ってきてからトンネルを進んだ。

 

「あー、あー………声が結構響くね」

 

「君の足、子鹿みたいだ」

 

「怖いんだからしょうがないでしょーッ!!」

 

 確かに、半ばやけっぱちで叫んだ彼女の声はよく響く。中を進んでいくと場所によっては明かりが切れていたり、接触の不具合かチカチカと明滅しているところもある。一寸先は闇、と言わんばかりにトンネルの向こう側は真っ暗だった。

 

「………ね、ねぇ吉影くん、なんで急に反対側の歩道に移動したの?」

 

「もう少しで折り返し地点だね」

 

「私たちが歩いていた先に()……ッッ対、何かいたでしょ!?」

 

「思ったけど、夜だとこの道は車の通りが極端に少ないね。まだ一度も通ってない」

 

「そのリアクションは絶対にいたんだ…。早く家に帰りたいよぉ…」

 

 おっと鈴美、それはぼくの台詞だ。流れで致し方なく参加しているが、最初からこの肝試しには乗り気じゃない。

 そうして彼女が騒いでいるうちに、元の場所に戻った。

 引っ付いて離れなくなった鈴美を宥めている間に、最後の組が歩き出す。

 

「そう言えば、震えていた鈴美は気づいていなかったけど、壁にお札があったね」

 

「……え?」

 

「下の方に転々と貼ってあったよ。中の明かりの具合だと足元が若干見えにくかったから、気づきにくいと言えば気づきにくい」

 

「………」

 

 さぁっと血の気が引いたのか鈴美はフラつき、倒れそうになったのでしっかりと手をつかむ。ぼくの発言を聞いた最初の組は驚かせようという魂胆で、現在トンネルを進行中の組に大声を出して「壁の下を見てみろ!」と叫んだ。直後、お札に気づいた連中が驚きの声をあげる。

 

 ただ、その存在に気づいたからといって、異変は起きない。拍子抜けした一人が「こんなもん」と、お札を一枚破るように剥がす。直後、トンネル内でその一人の蛮行に悲鳴まじりの非難の声が響きわたった。

 

 だがそれ以降はあっさりと最後の組の進行は進み、三人が戻ってきたところで、そのまま車に戻り出した。

 お札以外は期待はずれだったなぁ、と前から呑気な声が聞こえる。鈴美の友人の兄だ。その男の彼女の隣を歩いていた鈴美の友人は、足を緩めて鈴美の隣に来て彼女と話し出す。鈴美はぼくの腕はつかんだままで、かなりぐったりしている。

 

「鈴美ちゃんの彼氏くん、全然ビビってなかったねぇ。チョー意外だった」

 

「吉影くんが本気で怖がってるところ、私も見たことないからね」

 

「うちの兄貴なんかずっとビビり倒してたよ?私も、抱きつかれてたカノジョの方も、呆れっぱなしだったモン」

 

「まぁ、最初の組は勇気がいりそうだもんね。私たちは二組目でよかったよ…」

 

 それから行きと同じ並びで車に乗り込み、帰路についた。

 鈴美もその隣の友人も途中まで話していたが、気づけば小さな寝息を立てて寝入っていた。これ幸いと鈴美の手を握り、視線は車窓のままにし、親指をその白い肌に少しだけ押し込んで…を繰り返し、柔らかな弾力を味わう。眠気に満たされた車内の中で、逆に目が冴えていっているのはぼくだけだ。気持ちが昂る理由はまぁ、お察しの通りである。

 

「鈴美、着いたよ」

 

「んん……」

 

 眠そうな彼女を起こし、駅の近くで二人そろって降ろしてもらった。歩いていくうちに鈴美も目が覚めていき、止めておいた自転車に乗った。

 

「怖かったけど、意外と楽しかったかも」

 

「楽しかった……か?」

 

「でも、もう肝試しはいいかな…」

 

 いつもより元気がない彼女を家まで送っていき、ぼくも我が家に向かう。

 

 実害があったとしてもお札を剥がした一人のみであるし、ぼくらには関係のないことだ。

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