転生したら殺人鬼ポジだった件   作:クリーニング黒兎

105 / 129
今年も多分間に合ったぜ!なホラー回。(言うてそんなホラーじゃないにせよ)
今回は康一くん主体の話。主人公の出番は少なめ。


105話 広瀬康一、大学生

 僕の名前は広瀬康一! D学院に通うごく普通の大学生だ。

 

 ──と、モノローグを語る康一は現在、サークルの友人らと一風変わったバーに来ていた。

 

 

 

 

 

 高校を卒業した広瀬康一は、彼女の山岸由花子と同じ大学に進学した。億泰や仗助とはそれぞれ別の道を歩んでいる。

 

 受験勉強は由花子のサポートもあり、どうにか合格することができた。由花子は性格こそ難が多いが、ぶどうヶ丘高校の中でも指折りの成績優秀者。人に教えるのも上手く、康一は彼女のおかげで大学進学できたと言っても過言ではない。

 

 同じ大学を選んだのもひとえに一緒に通いたかったため。そんな甘酸っぱい理由があるにせよ、康一には康一の、由花子には由花子の人付き合いがある。会う機会は高校の時より減ったが、二人の間には変わらぬ愛情があった。

 

 

 そして大学生活も1年2年と過ぎ、康一は成人を迎えた。

 

 3月終盤生まれの彼は周囲が続々とアルコールデビュウをする中で、たとえ先輩や友人に勧められても成人するまではと酒を断っていた。

 友人らは「広瀬、おまえは真面目なやつだよ」と、毎度のことジュースを飲む彼に苦笑していた。

 

 酒付き合いが増えると、自分も本当に大人になったのだと、アルコールの酩酊感も相まって奇妙な優越感が生まれる。これまで20歳(ハタチ)になってもお酒はあまり飲まないかも…と思っていたが、蓋を開けてみれば友人と遊ぶ際は毎回飲んでいた。

 

 3年にもなると互いに忙しく、会う機会も滅法減った。これは由花子に関しても同様だった。

 

 それから、友人の一人が「久しぶりに集まらないか?」と誘ってきたのをきっかけに、数人が休日の昼間に集まった。

 その後は映画を観たり、ボウリングをして各々のストレスを発散した。会話の内容は自然と就活に関することが多くなる。

 

 ちなみに康一はSPW財団から就職しないかと誘いを受けている。

 彼は時折財団から頼まれ、スタンド絡みの事件に駆り出されており、時には外国へ渡航することもあった。承太郎のお墨付きをもらっているので、康一へ向く職員の信頼は厚い。

 

 財団に就職するのもアリかもしれない。掲示された給金は普通に働くのがバカバカしくなるほど良い。その分、自身が危険な目に遭うリスクが孕んでいるにしても。

 

 康一は迷っていた。どのみち「スタンド使いはスタンド使いに引かれ合う」性質上、サラリーマンになったって、いつスタンドバトルが起こってもおかしくない。ならばいっそのこと、自分や他者を守るために財団に就職するのもいいかもしれない。

 

「おい、聞いてるか広瀬?」

 

「……あ、えっと、何だっけ?」

 

 すっかり陽も暮れ、ボウリング終わりの彼らが歩く中、ぼんやりしていた康一に友人の一人が声をかけた。

 康一は取りつくろうように笑顔を作り、「ごめん、聞いてなかった」と話す。

 

「だから、この後バーに行かないかって話だよ」

 

「バー?」

 

「一風変わったバーがあるらしいんだよ。今から行かないか? ここから距離はだいぶ離れてるけど」

 

「まぁ、僕はいいけど…」

 

「よしっ! じゃあ決まりだな」

 

 一風変わったバーとはいったいどんなバーなのか? まさかエッチ系のお店? 興味は少し──いや、かなりあるが(康一もまた健全な男児である)、もし行ったことが由花子にバレた場合、康一は由花子に首を絞められるかもしれない。

 

「そ、それってどんなバーなの?」

 

「聞くところによると、怪談が聞けるバーらしい」

 

「怪談が聞けるバー……?」

 

 そういえば、今日の昼ごろに映画館で観たのもホラー映画だった。昨年記録的な大ヒットをした小説を元にした映画である。小説の方は康一も間借りしたものを読んでおり、内容を知っていた。

 映画を観た感想としては、「原作とは別物だなあ…」だった。

 

 原作から踏襲している点ももちろんある。例えば本のタイトルにもなっている、『窓のある家』の要素など。

 

 ただ、登場人物などは映画用に大きく変えられており、結末も『貞子』や『着信アリ』のようなJホラー特有の湿気立つような不気味さが損なわれてしまっていた。何かこう、幽霊がジェイソンとか殺人ピエロの方面に変えられてしまったのが残念だった。

 

 まあ感想はそれぞれで、映画も良かったと言っている友人もいた。

 

 

 

 して、電車を乗り継ぐことしばし。(くだん)の怪談バーなる店は、歓楽街の一角に存在した。内装はそこいらのバーと大差ない。といっても、康一は洒落たバーなど来たことがないのだが。

 

 店の中に足を踏み入れると、ライトアップされた赤い光が目に入った。この光も怖さを演出するためだろうと一人冷静に考える。

 

(結構面白いなぁ)

 

 恐ろしさよりも好奇心の方が勝る。友人らが店員に案内される中、その店員が康一を見るなり眉を寄せた。

 

「お客様、たいへん申し訳ございませんが、年齢確認をよろしいですか?」

 

「アッ、ハイ」

 

 康一は持っていた学生証をカバンから出した。

 女性の平均身長より背の低い彼はこのように、子どもと間違われやすい。年齢確認されるのも慣れている。虚しい慣れだった。

 

 店員に頭を下げられたのち、テーブル席に着いた。さすが怪談バーである。店内に流れる曲はホラーにちなんだものだった。

 

 友人たちに続いて康一もアルコールを注文する。中はテーブル席の他にカウンター席もあった。こちらの席は隅にあり、店内の明るさの都合でいっそう暗くなっている。

 

 営業時間は夜の7時から朝方までで、現在の時刻は8時ごろ。店内はほとんどの席が埋まっていた。見たところ若者が多く、康一たちと同じように数人で飲んでいる者もいれば、カウンター席で一人静かに飲んでいる客もいた。

 

 康一は届いた1杯目のジントニックを口に含みながら、友人と駄弁る。

 

「時間になったらステージに怪談を話す人が座るみたいだな」

 

「高座みたいだね、落語とかの」

 

「落語かぁ。そういや怪談の語り手って、『怪談師』って言うんだな。はじめて知ったよ」

 

 ステージに上がる怪談師は複数人で、交代で話していくらしい。「今日は〇〇さんは居ないんですか」「えぇ、急な体調不良で」──と。おそらく常連と思しき客と店員の会話も聞こえた。

 

 

「おっ、始まるみたいだな」

 

 

 店の明かりがステージを後ろから灯す光を残してフッと消える。その光もひどく頼りないものだった。

 

 空気が変わり、場がシンと静まる。咳の音ひとつでも響いて聞こえる。最初に上がったのは着物を身にまとった30代ほどの女性。着物の裾を優美にひるがえし、頭を下げてまずは自己紹介をする。「私は──あぁ、失礼。マイクが入っていませんでしたね」と手前のマイクをいじった。

 

 そして短い自己紹介を終えてから、怪談の語りが始まった。

 

 声色や表情など、まさしく『話す』のではなく『語って聞かせる』もの。

 例えば雨音の表現でも、「ザァザァ」ではなく、「ザァー……ザァー……」といった具合に恐怖を駆り立たせる。

 

 康一は気づけば聞き入ってしまい、思わず悲鳴が出そうになるのを両手で口を押さえて堪えた。

 

(めちゃくちゃ怖いじゃあないかッ!!)

 

 いい感じに酔ってきていた気分が一気に霧散した。最初の女性の後にも語りは続き、終わる頃にはぐったりしてしまった。

 

「ナハハッ! 広瀬おまえ、顔真っ青じゃんか!」

 

「そういう田中くんだって足が震えてるでしょ! 小鹿のように!!」

 

 一同が感じた恐怖感は、昼に観た映画よりも強かった。映像とは違って、語りの内容を客が脳内で補完するのだ。その結果、より話に没入することになり、恐怖心が煽られたのかもしれない。

 

 

(…あ、最初に登壇した怪談師の人だ)

 

 

 語りの後は、怪談師と客の交流の時間になる。怪談師が客から怖い話を聞いたり、雑談をしたりと和気あいあいとした空気感である。かくいう康一たちのテーブルにも怪談師の一人が訪れた。

 

「ここに来たのはもしやはじめてですかな?」という内容から始まり、今はちょいとアダルトチックな話で盛り上がっている。康一はその輪に混ざれずあたりを見回していた。そこでふと、真紅の色の着物が目に入ったわけである。

 

 あの怪談師の語りが康一的には一番怖かった。ちなみに彼女が語ったのは人形にまつわる話だ。

 

(すごくビジンな人だよなぁ…)

 

 由花子とはまた違ったタイプの和美人。着物がその女性とよくマッチしている。

 ぼんやりその着物姿を目で追っていた康一はそのとき、「ん?」と声を上げた。

 女性の怪談師が腰かけたのはカウンター席。どうやら一人で飲んでいた客に声をかけたらしい。

 

「今日もいらしてたんですね」

 

 ──いや、会話から察するに、少なくとも相手の方は何度かこの店に訪れているようだ。語りのときに表情の一切を消していた女性の顔は一転して、色っぽい表情をしていた。着物に合わせて塗られた口紅が目を引く。

 

「今日は赤い着物なんですね」

 

「ふふっ、以前に「赤い着物が似合いそう」っておっしゃっていたから」

 

 怪談師と客が話すにしては、こう、空気感が違う。相手の男の方は背を向けているので表情はわからないが、女性の方は体を斜めに傾けているので顔の半分が見える。

 

(まさか怪談師と客以上の関係ってやつじゃ…!)

 

 そうこう考えている間に、女性の手が男の左肩にそっと触れた。あからさまなボディタッチである。側で白熱する猥談の横で、自然と康一のグラスを握る手にも力がこもる。一度雲散霧消した酔いも戻ってきた。

 

(────!!)

 

 女性が袂から何やら小さな紙を取り出した。それをテーブルに滑らせるように、ススッと男の方へ差し出す。きっと電話番号が書かれたものに違いない。ごくりと物理的になった喉には、辛口のモスコミュールが入っていった。

 

「その……良ければ。私の電話番号です」

 

「僕に?」

 

「…嫌でしたら、いいんですけど」

 

 紙を摘んだ女性の手がスッと戻る。その手に男の薬指が触れた。女性の肩がビクリとはね、露骨に顔が赤くなっていく。うなじまで赤くなっているのがよく見える。

 

「あっ…すみません」

 

「い、いえ」

 

 男は女性が離した紙を取り、手前に持っていった。おそらく胸元のポケットに入れたのだろう。女性は一連の様子を目を丸くしながら見つめており、男がグラスを煽った様子を見ながらゆるりと口角を上げた。

 

(なんて、なんて大人(アダルト)な世界なんだ……!! 僕にはまだ早いッ! 早すぎる!!)

 

 アルコールデビュウを果たしてすっかりTHE大人だと思っていた自分は、まだまだひよっこらしい。康一は胸をドキドキさせながら、グラスに残った酒を一気に飲み干した。

 

 キブンがだいぶ浮ついている。羽目を外して飲みすぎたかもしれない。

 

(……トイレに行きたい)

 

 室内は冷房がよく効いている。これもまたホラー演出の一環だろう。立ち上がった彼はお手洗いへ向かった。その途中でチラリとバーカウンターの方を見る。移動したことで、それまで見えなかった男の前面が見えた。

 

 普段あまり日に当たらないのだろうとわかる白い肌。その左腕にはシンプルな時計が巻かれていた。服装はカジュアルで、会社帰りに一杯飲む目的で立ち寄ったのかもしれない。

 

 一方で、その特徴的な丸縁メガネにには見覚えがあった。

 

 

「吉良さん?」

 

 

 直後、男の────吉良吉影の視線が呆然と突っ立っている康一へ向けられた。

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 トイレから戻った康一は、友人に「知り合いがいて…」と断りを入れてから吉良の元へ向かった。吉良は隣に座った康一を見るなりため息をつく。女性の方はすでに別の客のところに移っていた。

 

「驚きました。まさか吉良さんとこんなところで出会うだなんて」

 

「…まぁ、少し仕事でね」

 

「仕事?」

 

「しかして広瀬くんも酒が飲める年齢になっていたのか……いやはや、光陰矢の如しだ」

 

「仕事って?」

 

「………」

 

 吉良は前を見つめながら酒を口に入れる。雰囲気で「関わってくるな」オーラを出していたが、それでも康一は引かなかった。アルコールの力も相まって、魔王に立ち向かうような勇者のような力が湧いている。

 

「実は僕、今日友だちと映画を観に行ったんです」

 

「友人というのは、あそこの低俗な話をしている連中のことで間違いないかな?」

 

「(目ェ怖ッ!!)スゥー………そうです」

 

 康一の友人は、怪談師のエロ怪談を聞き盛り上がっている。あまりにも盛り上がりすぎているので、何度か店員からもう少し声量を落とすように注意されていた。

 

「気に障ったら申し訳ないが、付き合う友人は選んだ方がいいよ」

 

「ハハ………あの、まぁ、すみません。良い奴らではあるんですけど…」

 

 康一もあの輪に混ざっていたら、今ごろ隣の男に向けられる視線は便器に吐き出された痰カスを見るようなものになっていただろう。

 

「……あっ! それで、今日観に行ったのが、『窓のある家』っていう小説が元になった映画なんですよ」

 

「ヘェ」

 

「僕的に、映画の方は原作改変が多かったせいでイマイチでした。吉良さん的にはあの映画、どうでした?」

 

「原作の改変具合が逆に面白かったかな」

 

「えーっ、本当ですか!!? 一番憤慨しなきゃおかしいのはk」

 

 吉良さん、と言おうとした康一の口がのりでくっ付いたようにピッタリと塞がる。吉良が保険で岸辺露伴につけてもらったストッパーが働いたのだ。

 

 康一は冷えきった視線に気づき、小さく謝った。自分の名前が書かれた服を着て街中を堂々と歩く先生と違って、こちらの先生は身バレを極端に避けている。

 

「……僕は納得がいきません。もしこれが露伴先生だったら、自分の作品を蔑ろにされたら絶対ブチギレますよ!」

 

「そもそも岸辺露伴だったら制作の前段階で、原作にリスペクトを持たない人材を採用しないだろうし、制作すら許可しないよ」

 

「……確かに」

 

「ハァ……」

 

 いやでも意外でした、と康一は続ける。

 

 何せ、今日観た映画の原作者が隣に座っているこの男だ。幽霊を信じていないと言いきっていた割には、ホラーを書いていることに疑問が湧く。

 

 そもそも『()()作家・星ノ桜花』がホラーを書き出したのは近年のことだ。

 

 最初はKO談社の作家が夏に合わせて短編のホラーを書き、それをまとめて出版したことから始まる。

 星ノ桜花──吉良もまた担当編集の毒牙にかかり、半ば無理やりホラーを書かされることになった。

 結果は上々で、以降同じ趣旨で年に一度短編ホラーを出した。

 それから書き下ろしの短編を数本含めた小説を刊行することになり、次は中編、または長編ホラーを書かないかと提案された。

 

 その過程でできあがったのが中編ホラーの『窓のある家』である。

 

 

「そのぉ……聞いてみたかったんですけど、吉良さんはおばけ…幽霊は一切信じてないんですよね?」

 

「そうだね」

 

「でも、怪談が聞けるこのバーに来ているじゃないですか」

 

「先ほども言ったが、仕事の都合で来ているだけだよ。そう────()()()()()()()()()()()?」

 

「……了解です」

 

「ネタ探しというのは存外大変なのだよ。周囲に聞き回るにせよ限度がある。その点、この場は客どうしで交流を持ち、そういった話を聞くことができる」

 

「………?? 実体験はそれなりにあるんじゃ? どうしてわざわざ他人の話を?」

 

「──フフッ」

 

 吉良が笑った。康一は思わず目を丸くする。吉良との接点はそう多くないが、承太郎とまでは言わないが、あまり笑わない人物だと思っていた。それが、心底ウケたように笑っている。

 

 

「幽霊なんぞいるわけがないのだから、実体験もあるわけがないだろう?」

 

 

 笑顔から唐突に真顔になったその顔が、康一の眼前に近づく。ホラーな光景に康一は肝を冷やした。まるで快楽殺人者のごとき変貌ぶりだ。

 

「……ソ、ソウデスネ」

 

「小説でも映画でも漫画でも、フィクションはあくまでフィクションだ。ただし完全なるフィクションは存在しない。フィクションには解体されたノンフィクションが部分部分で取り込まれている。私が書いているのも当然フィクションだ。しかしそこにノンフィクションも入れざるを得ない。幽霊だの未確認生物(UMA)だのは存在しないというのにノンフィクションを持って来いだって? ふざけているとは思わないかい、広瀬康一くん」

 

「………お、お疲れなんですね」

 

「フフ、毎日必ず8時間は寝ようと心がけているのに?」

 

「フィジカルじゃあなく、メンタル面でだいぶお疲れだなぁ…って」

 

 察するに、ホラー小説を書くこと自体、吉良の中で幽霊を信じない思考が真っ向から反発して精神的に疲労してしまうようだ。

 ならばホラーを書かなければいいのでは? と、康一は考える。

 

「需要と供給だよ」

 

 吉良は淡白にそう告げる。

 

「仕事に行きたくないから行かない、は社会では通用しない」

 

 幽霊を信じていないからホラーは書きたくない。だが世の中は星ノ桜花にホラーを求めている。これが需要と供給。

 恋愛を書くうえで早々に割り切れたことが、ホラーではうまくいかなかった。

 

「でも、それで怖いし面白いんだからすごいですよね…」

 

「あれは運に過ぎないよ。内容が面白かろうと、人目につく機会がなければ埋もれていく」

 

「うーん……。思えば、あの怖さって幽霊とはテイストがちょっと違うというか……ブキミ? というか………言語化するのが難しいな」

 

 本自体、あえて「幽霊」という言葉を使わずに、得体の知れないものとして描かれていた。

 

 普通に読めば読者は幽霊だと思う。ただ、それが幽霊ではない、もっと超常的なものによる仕業かもしれないと考えれば、「たしかにそうかも」と納得もできる。

 

 この、幽霊とはひと味違う不気味さがヒットの理由の一つになったのかもしれない。

 

「…そうだ! せっかくですし僕の体験談でよければ、ひとつ話しましょうか?」

 

「君や岸辺露伴、仗助や虹村くんにしか視えない体験談の話か」

 

「スタンドじゃないですよ! これはポリスを散歩させていた時の話なんですけど…」

 

 

 

 

 

 愛犬の散歩道はポリスの気分次第で変わる。ある日散歩をしていた康一は、遠くを歩く人影を見つけた。

 

 場所は川沿いの道。散歩途中にランニングをする若者や、自転車を漕ぐ小中学生とすれ違うこともそれなりにある。

 

 時刻は夕方で、人は彼とポリス、そして遠くを歩く人影しかいない。差し込む夕日がその人物を黒く染め上げていた。

 

 進行方向が同じだったため、康一はその後に続くように道を歩いた。

 

『わっ、ポリス!』

 

『わふわふ!』

 

 突如ポリスが走り出した。康一は止めようとしたが愛犬の力に負け、自身も走り出した。

 

 川の流れる音。カラスの鳴き声。ポリスのハァハァという荒い呼吸音に、自分の地面を踏む足音。

 

 全力疾走をしていた康一はふと、「あれ?」と首を傾げた。

 

 何分も走り続けているのに、前を歩いていた人影の大きさが変わらない。どれだけ走っても、距離が縮まらなかった。

 

 だがおかしい。向こうは遠目でも確かに歩いているはずなのだ。走っているならもっと上下左右にその姿が動く。ただ、その大きさは依然として変わらなかった。

 

 寒気を覚えた康一はそこで、さらに疑問を抱く。

 

 歩いているにしても、あまりにもその人影に動きがない。まるで──止まっているような。その上で走っている自分と同じ距離を保ち続けているような。

 

 そう気づいた瞬間、鳥肌が立った。ポリスはなおも前へ向かって全力疾走している。康一は必死にポリスを止めようとしたが、無理だった。

 

 本能的に『アレ』にたどり着くとまずいと思った。であるならどうすればよいか。

 

 考えに考えて、康一はポリスに覆い被さるように抱きついた。そして────。

 

 

 

 

 

「スタンドを使って、僕ごと川の方へ吹き飛ばしたんです。水に落ちた後はポリスが僕の襟をくわえて岸の方に運んでくれて……それで、ずぶ濡れで道に戻った時にはすでに、黒い人影はいなくなっていました」

 

「ふうん…」

 

「一応言っておくと、顔にかかっていた前髪が人影に見えていたとかじゃないですよ? あの時は向かい風だったし、髪は後ろに流れていましたから」

 

「………」

 

「あと、由花子さん……僕の彼女でもないです。僕をストーキングしていた時期はあったけど、川に落ちたことは知らないって言ってたし」

 

「おや、カノジョとの仲は継続中か」

 

「……えへへ」

 

「ふむ…」

 

 何か考えこんだ吉良は、康一に大体の時期とその場所を尋ねた。

 そして教えてもらうとまた少し考え込み、ハァ、とため息を吐く。

 

「それはまぁ、君には害のない話だと思うよ」

 

「そ、そうですか…? あの後ももしかしたら僕について来ているんじゃとか、超怖かったんですけど……」

 

「ところで、初対面で人に非道をなしたあの犬は元気にしているかな?」

 

「え? あぁ、元気にしてますよ。……いやぁ、その節はご迷惑をおかけしちゃって…」

 

「犬の躾くらいしっかりしたまえよ。どうにも昔から……特に大型犬にはぶつかられることが多いんだ」

 

「そうなんですか?」

 

「やはり犬よりは猫の方がマシだな」

 

「あぁ……」

 

 スタンドも確かに猫だ、と康一は思ったが口にはしなかった。キラークイーンは鳴き声も「ニャー」だったはずである。

 

 

「私はそろそろお暇させてもらうよ」

 

「えっ、もうですか?」

 

 時刻を見れば9時。康一にとってはまだまだな時間だ。しかして吉良にとっては若干の眠さを感じる時間だった。

 

「…あぁ、そうだ。ネタとしては、君の話は興味深かったよ」

 

「…! そうですかっ!」

 

「それと酒を飲むのは構わないが、ほどほどにしておきなさい。一応、『先輩』としてのアドバイスだ」

 

「先輩?」

 

 首を傾げた康一を残し、吉良は店を出て行った。

 康一が吉良の出身大学を知るのは後のことである。

 

 


 

 ・『窓のある家』

 大学生の主人公が冬休みに友人の実家に訪れ、その家の中で外部と隣接していない窓を発見したところから物語が始まっていくホラーミステリー。3分の1は裏星ノ(ファン曰く、「ダークサイド星ノ」)が出ている作品。

 

 ・映画

(例の如く観に行っていない)

 

 ・腕時計

 普段はカルティエ(承太郎は男がレディースイメージの強い時計を身につけていたから、「趣味の悪い」って言ってたのかも知れん)で、TPOによって変えている。この時は別の腕時計。

 

 

 ・人影のアンサー

 

 ①吉良の健康管理方法

 ②大型犬に突撃される体質

 ③康一が見た『それ』は彼の前に()()

 

 ちなみに人影の体験談は実話。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。