転生したら殺人鬼ポジだった件 作:クリーニング黒兎
露伴ちゃんは動かない時空の露伴ちゃんよりは若いかもしれない。
つべで3部を見てたら吉良の3部ルートも書いてみたいな…と思ったり。多分形になることはないと思う。
「えっ、露伴先生破産したんですか!?」
と、携帯電話片手に驚愕の声を漏らしたのは広瀬康一。知り合いの漫画家からかかってきたトンデモな内容に、康一はため息をついた。
「リゾートの道路計画を止めるために山を買ったんですか!!? 相変わらず露伴先生は規格外な人っていうか……」
電話先の露伴の声色からして、
「それで用件っていうのは………僕の家に泊まらせてくれないか、ってことですか…」
康一は鼻歌が聞こえる場所へチラリと視線を送ってから、背を丸めるようにして声量を落とす。
「えぇ…いや、渋っているわけじゃないですよ? 露伴先生の『お願い』を断るなんてそんな失礼なことできませんって! でも、僕の方も今はのっぴきならない事情があるといいますか…」
広瀬一家はさすが康一の家族だけあって皆善人である。トンデモな理由で破産した漫画家にも、親身になって接するだろう。
むしろ、「康ちゃんの友だちなら、いくらでも泊まっていって!」くらいまで言いそうだ。
「康一くん、さっきから誰と電話しているのかしら?」
「ヒッ!!」
いつの間にか康一の背後には、包丁を持ったまま佇む由花子がいた。
彼女は髪をうねらせながら微笑んでいる。
「由花子ちゃん、包丁を持ったまま歩いたら危ないわよ?」
「すみません、お
「いやだわ、康ちゃん! まさかこんな素敵な未来のお嫁さんがいるのに、他の女の子にうつつを抜かしているの…!?」
「ち、違うってば!! 母さんも由花子さんも…」
由花子はニッコリと微笑んで、手を差し出す。無言の圧に康一は押し負けて携帯を渡した。
電話の向こうからは不審がる声が聞こえる。
「もしもし、お電話代わりました」
ソファーの後ろに隠れた康一は固唾を飲んで由花子の様子を見まもる。
片やヤンデレ気質の女で、片や変人漫画家。
この二人がぶつかった時いったい何が起こるのか、予想がつかない。
ジッと見守ることしばし。由花子の髪が絶えずうねっていたが、嵐は驚くほど静かに過ぎ去った。
電話を終えた由花子は、携帯を康一に返す。
「康一くんが優しい人なのはわかっているけど、何でもかんでも「はい」で頷いちゃあダメよ?」
「……ってことは、露伴先生の頼み、断ったんだ…」
「当たり前じゃない! 何人たりとも私と康一くんの愛の巣に邪魔をしてくるなら、容赦はしないんだから……フフフフ」
「ゆ、由花子さんってば…」
由花子の独占欲を感じた康一は苦笑いしつつ、
○
岸辺露伴は現在モン無しだった。どのくらいモンなしかと言えば、『財産』と呼ぶべきものが画集の一冊くらいしかないほどモン無しだった。
破産したことに対し、参ってはいる。頼みの綱の広瀬康一も思わぬ伏兵の登場で断られてしまった。
マジに文無しな現状、ホテルに泊まる金もない。
(祖母の旅館もとっくの前に売りに出されちまったしな…)
露伴の母方の祖母はかつてS市内で旅館を経営していた。廃業してからは一時期そこの部屋を賃貸のアパートとして貸し出していた時期もあった。
まだ旅館が残っていたら、泊まる方法もあったのだ。
途方に暮れた露伴は公園のベンチに座り込んだ。隣には自販機がある。ちょっと喉が渇いたなと思ったが、金がない。
小銭を入れて、さてどれを飲もうかと視線をさまよわせる自由さえ今の彼にはなかった。
だからといって、破産したことには一切後悔していないのだが。
「あ、見て! もしかしてあの人岸辺露伴じゃない!?」
「本当だ!!」
ちょうどその時、公園に遊びに来ていた子どもたちが彼に気づいた。ランドセルを背負っている様子から察するに、帰宅途中の寄り道らしい。露伴はこの街だとかなりの有名人である。流れでサインを求められることもよくあった。
「露伴せんせー! いつもピンクダークの少年見てます!」
「今週出てきた新キャラチョーカッコよかった!!」
「君たちさぁ……もうちょっと距離感をだねぇ…」
座る漫画家の周囲に、わらわらと集まる子どもたち。露伴は思わずたじろぐ。
「先生先生っ、これにサインちょうだい!」
一人の子供が自由帳と鉛筆を取り出し、露伴に差し出した。すると他の子供たちも自分も自分もと紙と鉛筆を取り出す。中には宿題のプリントをサイン紙にしている猛者もいた。
ハァ、とため息をついた露伴はサインに応じた。どんなにムカつくやつでも、相手が自分の漫画のファンなら一定の敬意をはらう。
ズギャァ、ドシュゥと、まばたきの一瞬で描かれるサイン──しかもイラスト付きに子どもたちは熱狂する。
「さっ、さすが露伴先生だ!! 人間わざとは思えない!」
「そこにシビれるッ!」
「アコガれるゥ!!」
その後、子どもたちは手を振って走って行った。
露伴は鞄からスケッチブックを取り出し、先ほどの子どもたちの動きをスケッチした。膝の曲がり具合だとか、笑った時にできる表情のつくりだとか。
気の済むまで手を動かしたら、スケッチブックをしまった。
目先の問題はまだ解決していない。モン無しの状態ではたしてどうするか。
広瀬康一以外に、岸辺露伴が頼れる人物。頼れる人物だと……?
「………」
悲しいかな、浮かんでくる顔はいくつかあるが、そのほとんどが『頼りにならない』、または『絶対に頼りたくない』人間である。
露伴は歩きながら頭の中の仗助のツラをオラオラした。その友人のアホ面をした億泰も出てきたので一緒にオラオラしておく。実に不愉快極まりなかった。
(…ん?)
時刻は夕方。
小学生はすでに帰路に着き、部活帰りの学生や社会人が帰宅するような時間帯。
周囲は夕日で染められていた。落ちた塀の影が歩道の大部分を黒く染め上げる。
足を止めた露伴の横を自転車や犬の散歩中の老人が通り過ぎていく。
露伴のいる歩道と反対の歩道に人がいた。風景に溶け込むようにランニングしている。
「……そういえばここは別荘地帯の近くか」
先ほどすれ違った犬も顕示欲にはちょうど良さげなお高い犬種だった。飼い主の服もちょっと散歩に行くようなものではない。
露伴は遠ざかっていく背中を見つめた。
○
健康には運動も欠かせない。体を動かす際は入念にストレッチをする。この『最初』をサボると、足が攣ってしまったり、肉離れしてしまったり、とにかくろくなことにはならない。歳を重ねれば尚のこと。
体の慣らしを終えたらランニングに入る。基本的には同じコースを走るが、時には別のコースを走ることもある。その場合、大概は別の道を走らざるを得ない状況なことが多い。特に髪に特徴的なヘアバンドを付けている青年が歩いているときは、車で走行している場合でも別の道を通る。
この杜王町で平穏に暮らすには、必ず避けて通るべきなのだ。
まあ草食動物のように360度の視野を持っているわけではないのだから、見落としてしまうこともある。
そして見落とした結果、避けるべき対象が家のすぐ側でスタンバってしまうこともある。
「………」
「………」
いや、そんなことあってはならない。吉良吉影の信条的に。
無言で睨み合う両者。吉良の背後にはキラークイーンも現れる。露伴の背後にもまたヘブンズ・ドアーが現れ、両者「あ、ドモっす」な感じで会釈した。
「…やぁ、奇遇だね、岸辺露伴。君がこんな場所にいるなんて、取材の帰りかな?」
「まぁ、そんなところだ」
吉良は「相も変わらず熱心なことだねぇ」と、よそ行きの笑顔を張りつけ露伴の横を通り過ぎる。
「前々から思っていたんだが」
家の目の前まできた吉良の背に、露伴の声がかかる。
「……何だね?」
「前々から思っていたんだが、お前は僕にいくつもの『借り』があるよな」
「借り?」
「そう。借りだよ、借り」
例えばそう、もう随分と前に起こった影犬の事件で、吉良吉影=星ノ桜花先生だと知った仗助や億泰がうっかり情報を漏らさないようにヘブンズ・ドアーで制限をかけたこととか。
「他にも…そうだな。痴情のもつれってやつで、女に背中を刺された一件もあっただろ」
「………」
吉良は苦い顔をする。基本は女あさりをする時は観光客を対象に、ワンナイトラブを条件にしている。だがその一晩を本気にし、暴走してしまう女もいるわけで。
その暴走した女に不意を突かれる形で刺され、警察沙汰はごめんだと内々で解決させた。解決には露伴や仗助の手を借りた。以降、女選びはより慎重に行っている。
「……まぁ、そうだね。君の力を借りているのは事実だ」
だが、と吉良は続ける。
「わたしが君の持ち込んだ厄災の流れ弾に遭っているのもまた事実だ」
岸辺露伴は要らんことホイホイ機である。もうどうやったらそんなにホイホイしてくんだっていうほどにホイホイしてくる。
そして、その流れ弾に望まぬ形で被弾している吉良としては、この『借り』に対する『恩返し』はこれでチャラになっているだろうという気持ちだった。女に刺された件だって、吉良が捕まえていた女の記憶を「ハ…ハハッ! これが愛憎に狂って刺しちまう人間のリアリティか…!!」とかなんとか言って、喜色満面な笑みで読んでいた。ネタ提供をして十分に借りを返しているはずだ。
「流れ弾については、貴様が勝手に巻き込まれているだけだろう。僕は巻き込んだつもりもないのに、勝手に巻き込まれて、その上でそれをお前が作った『借り』の補填にするのは筋違いって話じゃあないか?」
「貴様ッ、言わせておけば……」
厄災ネタを持ち込んだのは露伴だ。ならばその責任を露伴が取るのは当然だろうと、これは吉良の意見。
だが露伴は先ほどの「勝手に巻き込まれた理論」を述べる。
吉良のこめかみに青筋が浮かんだ。握った拳に指の爪がギチリと食い込む。
「フゥー……もういい、貴様と話すとストレスが溜まるだけだ」
互いに苦手意識を持っている自覚はある。それをわかった上で岸辺露伴がわざわざこの場所にいるなら、何か目的がある。
端的に目的を言うよう吉良は促す。
露伴はなぜかすぐには用件を言わず、少し考えこむ。
「あー……そうそう、お前の家には猫のような草…いや、草のような猫? ──が、いるんだったか」
『ニャー?』
露伴の言葉にキラークイーンが吉良の背後で首を傾げる。鳴き声を聞いた露伴の目が胡乱になった。
「それで……あとはスタンド使いの父親が写真に取り憑いているんだったか」
「……それが何だというんだ?」
「そして──これは純粋に気になっていたことだが」
この岸辺露伴は料理や音楽、はたまた映画や漫画であれそいつが面白くないなら辛らつな評価を下す。
だがしかし、だがしかしだ。
『イイもの』にはきちんと「イイ」と言う。
水を搾りとった雑巾よりも捻くれている男ではあるが、そこの部分は真っ当だった。
そして、岸辺露伴は星ノ桜花という作家のいちファンだ。この作家の大衆受けに書かれた作品は総じて薄っぺらく感じてしまい好まないが、一部の作品は別である。いっそ吐き気を催すほどリアルな
「僕はね、吉良吉影、お前のことは心底嫌いだが、作家としては尊敬している」
「急になんだ、気色悪い……」
「そんな尊敬する作家の中身はいったいどうなっているんだろうかと考えてしまうのは、ファンの心理としては当然だろう?」
「………」
「まるで好きな意中の相手の内面を知りたくて仕方ないが…みたいにな。まぁこれはあくまで比喩だが」
「…キラークイーン」
キラークイーンが相手を牽制するように、本体の一歩前に出る。
「貴様の能力は強力だが、その前に一発食らわせてしまえばいいだけだと思わないかね?」
露伴のスタンドの発動条件は吉良も知っている。絵を見るか、ヘブンズ・ドアーに触れられるか。およそこの二つに注意すればいい。相手が自分よりも速い承太郎のような近距離パワー型なら話は別だが、ヘブンズ・ドアーはその部類ではない。
殺気さえ滲ませている吉良に、露伴は「落ち着けよ」と言った。
「別に無理やりスタンドを使って読むなんて言ってないだろ?」
露伴はそう言うとスタンドを引っ込めた。
吉良は警戒は続けたまま、キラークイーンを後ろへ下がらす。
「ヘブンズ・ドアーを使う以外にも、方法はあるわけだ」
「………待てッ、嫌な予感がする。それ以上言うな」
「その方法って言うのはだなぁ〜……」
「だから! わたしは黙れと言って──」
衣食住を共にすることだよ。
無情にも言い放たれた露伴の言葉に、吉良はこの世の終わりみたいな顔をした。