転生したら殺人鬼ポジだった件 作:クリーニング黒兎
改めて3部を見返していると、ポルナレフが結構なつらい人生を送っているのに普段はおちゃらけた空気を纏っているギャップでやられる。
5部ナレフは……人の危ない性癖をチャリオッツして来んでもろて…。
時期は梅雨である。杜王町では連日の雨により、ジメジメとした空気が続いていた。
土曜の本日はあいにくの曇り空。外に出した洗濯物もスポンジのように水分を含んでいる。
「忘れ物…は、ないな」
薄手のトートバッグの中には軍手やタオル、または替えのジャージが入っている。
それを肩に提げた青年は、見送る母に手を振り玄関を後にした。
⬜︎
腕時計に表示されている時刻は『8時』。
家を出たぼくは、自転車を漕ぎ小学校へと向かっていた。肌にまとわりつく湿った空気に不快感が募る。
なぜ休日にも関わらずこうして出掛けているのか。それはひとえに、とある行事に参加するからだ。
目的の場所に着くと、駐車場の隅にあるスペースに自転車を停めた。
時間は8時45分。15分前行動はきちっと守れたな。
昇降口の前にはすでにそこそこの人数が集まっていた。ぼくは同じジャージを着ている面々の中にひっそりと加わる。
側には小学生がおり、ぎゃいぎゃいと騒ぐその声に思わず眉間に皺が寄る。
それから少ししてたすきをかけた大人が立ち、話を始めた。
その際に別の大人たちが参加者にトングと透明の袋を配っていく。ガキどもは早速それで目の前の相手を突いたり、地面の石を摘みはじめた。
「このトングというものは、ゴミを取るための道具です。なのでお友だちをこれで叩いたり、ゴミ以外のものを挟んだりしないように!」
説明者の注意に、小学生たちは「はぁ〜い!」と元気な声で返す。
もうお分かりかと思うが、ぼくはこれからゴミ拾いに参加する。
今年度から高校生の身になったわけだが、大学進学に向けて今からコツコツと内申点を稼ぐに越したことはない。
中学の時もこうしたボランティア活動があると、時折参加していた。もちろん内心では面倒くさいと思っている。今だってすでに帰りたい。
今回は小中高生向けに募集していた内容だ。小学生の付き添いに親も参加している。
見た限りで小学生が8割、残り2割が高校生といったところだろうか? 中学生はいなかった。
内容としては、いくつかのグループに分かれてそれぞれ指定の場所を回っていく。
しかし肝心のグループを分ける際、高校生の参加人数が分けると微妙になってしまうことがわかった。どうやら当日来られなくなったやつが何人かいるらしい。おそらく内申点のため応募したはいいが、ぼくのように面倒くささが勝って欠席したのかもしれない。
「うーん。参ったねぇ…」
高校生が立ち往生している中、小学生のグループを分け終えた大人がやってきた。そこで高校生のグループ分けが決まらないことを知ると、その大人は「なら」と提案を出す。
「ひーふー………この人数なら、小学生のグループに一人、二人入れればちょうどいいんじゃないですか?」
「ん? …おぉ、確かに!」
この言葉が原因となり、高校生グループは解体されて小学生と高校生の混交グループができあがることになってしまった。
小学生の大半は入り込んだ高校生にテンションが上がり、あれこれと質問している。高校生の方も概ねそんなガキどもに好意的だった。
一方でぼくの方はといえば、
「なんだよこの兄ちゃん、チョー陰気じゃん! つまんねー!!」
「俺あっちのグループの方がよかったなァ〜」
不評だった。こちらこそなぜ貴様らに点数を付けられなければならないのか。
親も親で、「そんなこと言っちゃダメでしょ〜」と笑いながら言うのみで、すぐに親同士の会話に戻ってしまう。
よそ行きの笑顔が引き攣りそうになるのを堪えながら、ぼくはガキどもに挨拶をしてゴミ拾いをすることになった。
それから場所を移動し、着いたのは公園。ここがぼくらの班が掃除することになった場所だ。周囲も回り、捨てられているゴミを拾う。
そこまで広い公園ではないため、親を含めて10人に満たないグループでも十分に掃除できるはずだった。
そう、はずだった。
「俺のが一番ッ──!!」
ガキどもは早速ブランコに乗り、靴を飛ばし始めた。誰が一番遠くまで飛ばせるかを競っているらしい。コイツらの親連中は一応ゴミを拾っているが、話しながら拾っているためその速度は亀並みだ。
きちんと取り組んでいるのはぼくと、それに一組の親子のみ。この二人については最初に挨拶をした時、「よろしくお願いします」と会釈してくれたので第一印象は良い。
(子どもの躾くらい親がきちっとしろよな…)
しっかりとやらない分の皺寄せはぼくにくるんだ。なぜ自分が不真面目なやつらの分まで頑張らなくちゃあならないんだ?
朝から不機嫌な気分がさらに下がる。親が注意しないというなら、ここはぼくがあのガキどもを注意するしかない。でないと掃除が終わらなくなる。
だが下手に出て注意したところで、こちらを舐め腐っているのが態度で丸わかりなやつらは言うことを聞かないだろう。
ならば、やつらが関心を持ちそうなことを引き合いに出しつつ掃除をさせればいい。
(何か、やつらの興味が引けそうなもの……か)
ふと目についたのは茂みの裏手、木々がある場所だ。そこいらは落ち葉が溜まっている。
「ふむ…」
少し考え、良さそうな案が思いついたのでそれでいくことにした。
○
「君たち、ゴミ拾いはどうしたんだい?」
「あ? なんだよ、
少年たちが靴飛ばしを競っている最中、例の同じ班になった高校生が近づいてきた。目元を覆う重たい前髪にメガネ、それと全身からただよういかにも“陰キャ”っぽい空気に、彼らは年下ではあるが完全に見下していた。それにもし向こうがキレても、こちらには親がいる。何か言われれば泣きついてしまえば向こうが悪いことになる。
態度の悪い彼らに相手は苦笑しながら「掃除はしないの?」と尋ねた。
「ンなメンドクセーこと、何で俺たちがしなくちゃいけないんだよ」
「そうだよ。そもそも俺らやる気ないし」
「でも…だったら、なぜ参加しているんだい?」
「それはコーコーセーと違って、ちょっと前から小学生は地区によって交代で参加しなくちゃならなくなったからだぜ」
「っま、そうでもしなくちゃ誰も参加したがらないしぃ? 本っ当に良いメーワクだよ」
「ふぅん……なるほど」
「分かったらテメーはあっち行けよ!」
少年たちが睨みつけながらそう言うと、青年は「わ、分かったよ…」と怯えたように去っていく。
その後ろ姿から視線を逸らして再び遊び始めようとした少年の一人が、「あっ」と声をあげた。
「おい兄ちゃん、それ!!」
「……え? 何かな?」
「それだよ、それ! 兄ちゃんのジャージに付いてるやつ!!」
ブランコから飛び降りた子どもは、駆け寄って吉良の背中へ手を伸ばす。
そこにしがみついていたのは一匹のトカゲだ。
「これカナヘビじゃん! どこで見つけたの!?」
「見つけたわけではないけれど……もしかしたら、あっちの茂みを探っていた時に付いたのかもしれないな」
そう言って彼が指差したのは公園の隅にある茂みの方だ。「スゲェー」と、少年は興奮した様子でトカゲを撫でる。
「トカゲ、好きなのかい?」
「好きっつーか、トカゲ探しは結構好きだぜ!」
「そうなんだね…。ゴミ拾いはこういった小さな生き物が誤って傷つかないようにするためにも、必要なことなんだよ」
「ヘェー………」
「じゃあ、ぼくはゴミ拾いに戻るから」
「…うん、わかった」
残された少年は、マジマジと腕を這うトカゲを観察する。
それから「よし!」と呟き、仲間の方へ駆けて行った。
「なぁお前ら! ごみ拾いしながらトカゲ探ししようぜ!!」
はじめ、「ゴミ拾い」のところでえぇ…と不満な表情を浮かべかけた少年たちは、その後の「トカゲ探し」のところで瞳を輝かせる。
メインはトカゲ探しであるが、これでサボっていた彼らもトングとゴミ袋を装備する気になった。
(ひとまず、これでいいか……)
一応計算どおり進んでくれたことに吉良は内心で安堵の息を吐く。
これで自分の負担も多少は減るだろうと思ったその時だ。
「うぐっ!!」
後頭部に何かが直撃した。痛みに頭を押さえながら振り返ると、地面に小さな靴が落ちている。
「あっ、兄ちゃんごめ〜ん!」
ブランコから降りる前に最後に投げた靴の一つが、彼の頭に当たってしまったらしい。
ヘラヘラとする少年の顔を見た吉良は靴を拾った。
「まったく、靴を飛ばしたら危ないじゃあないか」
そして、笑みを浮かべた。
⬜︎
ごみ拾いをはじめてから約1時間。
「暑いなぁ…」
グループの中で唯一真面目にゴミ拾いをしていた少年は、額に滲む汗を拭った。母とともに掃除していた彼は現在一人である。
まだ本格的な夏は到来していない。が、動いていればしっかりと汗をかく季節。
ゴミ拾いの参加者は各自で飲み物を持参するように呼びかけられていた。
少年の母もまたこの日のために水筒を用意していたのだが、うっかり忘れてしまった。そのため母親は近くの自販機を探し飲み物を買いに行っている。「あぶない人にはついて行っちゃあダメよ」と注意した母に、少年は苦笑して「僕なら大丈夫だよ」と返した。
「こう見ると、結構拾ったなぁ」
母と自分の分を合わせて、もらった透明の袋には3分の1ほどゴミが溜まっている。その多くは空き缶だった。
ほかにもガラスを拾った場合は別の小さな袋に分けて入れている。
掃除の成果は目に見えて現れた。彼が掃除していた場所はごみ一つなく、きれいになっている。それを見ていると彼のうちで確かな達成感が生まれた。じめっとしたはずの空気も、息を吸い込むと清々しく感じる。
ゴミ掃除はあと1時間ほど。それまでにゴミ袋にどれだけの量を入られるか。
「よしっ、頑張ろう」
トングを握り直した少年は、まだ掃除されていなさそうな場所を探った。公園の玄関の方は彼や母親、それと他のママさんたちが掃除してしまった。
奥の方──木々が生い茂っている方はさっき高校生が掃除しているのを見た。
(……あぁ、まだ公園の周りは掃除していないかもしれない)
そうと決まれば、公園を出てその周囲をぐるりと回ることにした。
公園の周囲は高いフェンスで囲まれている。といっても、子どもの彼でもよじ登れば越えられてしまう高さだ。
周囲には空き缶や小さいプラごみが落ちている。それをトングで摘み、袋の中へ入れていく。
「……ん?」
ゴミ拾いに集中していた少年は、騒がしい声に現実に引き戻された。
なんだと思いながら声のする方へ視線を向ける。
するとそこには自分より一つ二つ年上の少年たちがいた。同じグループに分けられた子供たちだ。
「おい! そっちの茂みに逃げたぞッ!!」
「追え追え!!」
一人の子どもがトングで指しながら何かを追っている。
少年は目を凝らし、彼らが追っている正体を探した。
ガサガサと素早く茂みの中を駆けていくそれは、おそらくトカゲやヤモリよりも大きい。だがたぬきや犬よりは小型に感じる。
ジッと見ていると、茂みから飛び出したそれは公園の入り口の方に向かっていった。
(────子猫!?)
少年が驚いたのも束の間、他の子どもたちの「逃すなァ──!!」という叫び声が響きわたる。
コイツらはいったい何をしているのか…と思う前に、思考は子猫の危機を感じとる。
(公園の入り口の前は大きな道路があるんだ!! そんなところにいきなり飛び出たら……!!)
小さな命は轢かれ、あっという間に息絶えてしまうだろう。
少年はトングをバトンのように握りしめ、道路の方へ向かって駆けていく。しかし走る速さは子猫の方が速い。
このままでは子猫が死ぬ。
道路に飛び出した子猫は通りがかったトラックを前にして、体を縮こまらせた。
「──────!!」
直後、道路へ飛び出したはずの子猫は、忽然と姿を消した。
「……ミャア?」
体を硬直させていた子猫は我に返り周囲を見渡す。
「ミ……?」
轢かれかけたはずだが、気づけば少年の腕の中にいた。
「ミ゛ャッ!!?」
「君、いきなり道路に出たら危ないだろう?」
嗜めるような声だ。子猫はしかしそれどころではなく、少年の腕の中で勢いよく暴れる。
ちょうどそこに子猫を追っていた子どもたちが追いついた。
「おいお前、その猫寄越せよ!」
ビシッと、トングの先が子猫を抱く少年に向けられる。
「……トングは人に向けるものじゃないって、説明していたおじさんが言っていたじゃないか」
「俺はお前じゃなくて、その猫に向けてるからいいんだよ!!」
何をそんなに子猫相手に攻撃的になっているのか。
その答えは少年たちの一人の腕を見て分かった。腕に引っかかれたような傷があり、血が出ている。
大方子猫を見つけて触ろうとしたら、逆に引っかかれてしまったのかもしれない。それでムキになったか。
どの道、子猫を抱く彼に小さな命をいじめるような奴らに同情する気持ちはない。それこそ、閉めた蛇口からちょこっとこぼれる一滴の水滴ほども。
「君たち」
険悪な空気になっていた折、その間に割って入るようにあの高校生が現れた。
「さっき走っていたけど、危ないだろう? 公園の前には道路があるんだ。万が一轢かれたらどうするんだ」
「だってこの猫がよっちゃんのこと引っ掻いたんだよ!! ちょっと触ろうとしただけなのに!!」
「あぁ……本当だ。確かに血が出ている。水で流さないとね」
高校生はケガをしている少年の背を押し、公園にある水道の方へ向かっていった。
残されたほかの子どもは子猫と押されていく少年を交互に見た後、二人の後を追っていく。
最終的に残ったのは子猫と少年。
その後ろから「どうしたの?」と、ペットボトルを二つ持った彼の母親も現れた。
その後、子猫については親同士の相談の末に『保健所』という場所に引き取られることになった。
しかし子どもとは元気なもので、手当てを終えた子どももその後すぐにゴミ袋だけ残して駆けて行く。
「トカゲ探しの続きをやるぞぉー!!」
彼らの姿を少年はじっと見つめる。無意識に力がこもってたのか、手を握っていた母親が「大丈夫?」と心配の声をかける。
それに少年は「大丈夫だよ」と笑ってみせた。
⬛︎
「あと少ししか時間ないし、急いで探そうぜ!!」
少年たちは躍起になって公園の奥にある木々を探っていた。時折アァ、と鳥の鳴き声が聞こえる。
彼らがここまで必死こいているのは、ケガをした子どもが水で傷口を流している際、高校生がこう言ったからだ。
────そう言えばさっき尾の青いトカゲを向こうで見つけたんだけど、アレって結構珍しいのかな?
尾の青いトカゲはニホントカゲの幼体だ。この青い尻尾は目立つようにできている。これは外敵の注意を引き、自切して逃げるための戦略だ。
少年たちにとってこのブルーの輝きは子ども心をくすぐるものだった。
彼らはトカゲのいそうな場所を探していく。その折、一人の子どもが何かに足を取られ転んだ。
「痛ッ〜……」
痛みにうめく少年の側に、何かが軽い音を立てて落ちる。それを手に取ってみると、正体は中くらいの石だった。
「なんで石が…」
見上げた少年の上には木がある。不思議に思っていると、上からさらに何かが降ってきた。
ボトッと落ちたそれ。
ピィピィと鳴き声が上がる。
「うおっ、これ雛じゃん! なんの鳥かな?」
「すずめ? はと?」
「いや、これって黒いし、カラスじゃねぇの?」
ふーんと、一人の少年が持っていたトングで雛を摘んだ。
「ア゛ア゛アァァァ!!!」
直後、彼らの頭上で一際大きな鳴き声が上がった。
────繁殖期のカラスは、かなり攻撃的である。
仮に巣を落とされたとなったら親鳥は容赦なく攻撃してくるだろう。
あの口ばしで頭をつつかれでもしたら、きっと流血待ったなしに違いない。
頭から血を流す子どもにその親が悲鳴をあげている横で、一人の青年は蒼白した顔で口元を手で覆った。
「ぼ、ぼくが、向こうにトカゲがいるなんて言ったから…」
謝った彼に、母親たちは「あなたは悪くないわよ」と返す。
この高校生の一言で子どもたちがカラスの巣がある公園の奥で遊んでいたとはいえ、責任があるのは子どもを見ていなかった親にある。
ゆえに彼女たちは、自分を責める高校生に気まずげに視線を逸らす。
(やっぱり、『親の
肝心の青年の手の下は、猫を脱いでいたわけであるが。