転生したら殺人鬼ポジだった件 作:クリーニング黒兎
鈴美ちゃんが生存していて、片桐は死に、鈴美をかばった吉良がしぶとく生きてた感じの世界線です。
部が終わるごとに途方もない空虚感を味わいつつ……いよいよ4部。きらららら……。
どうにかしてアレッシーを杜王町にさらってきて怖い目に遭わせてあげたい。舐めてかかったそいつは動物を○して「おっ、結構血が飛んだぞ」って思うタイプなんだ。逃げてくれ。
水音がしていた。
瞼の先には暗闇がある。体には一切の力が入らず、瞬きをすることすらできなかった。
水溜まりに足を浸す音が聞こえ、広がった波紋が顔にぶつかる。
体の半分は水の中に浸かり、鼻腔から侵入した鉄臭さが全身を巡って、飼料によって肉の味が大きく異なる家畜のように、自分という生き物の価値も変えられてしまうのではないかと、随分と見当違いな考えが浮かぶ。
そうして考えているうちに、水音は止まっていた。
両頬が手のひらに包まれる。わたしの手は人形のように動かないのだから──これは誰の手だ?
グローブをしている。指の関節のつなぎ目だったり、どうも人間ではないらしい。というかそもそもグローブの下の手は、人間の肌の色ではない。
いや、違う。知らない手ではない。この手はわたしの分身の手で、この手で触れたものを爆弾に変えることができるという、何とも
その手がわたしの頬を挟んでいた。どうにか視線を動かそうとするのだが、それすら叶わない。
ふと顔に影ができたと思えば、わたしの分身がこちらを覗き込んだ。その顔は………知らない。骸骨だ。本当にわたしの分身か?
『ヨ…シカゲ』
おそらくキラークイーンだと思われる存在は、わたしの名前を呼んだ。
おまえ、話せたのか。
○
『S一家殺人事件』から早一か月。
警察は生存者
吉良は入院中、キラークイーンと類似した存在を持つ少年と出会い多少の親交を深めた。吉良の知る限り似た力を持つ人間はすでに亡き片桐や吉良吉廣、そして自分である。東方仗助も同様に特殊な人間なら、下手に遠ざけるよりは味方にしてしまった方が手の内も読みやすいと判断した。それに相手はまだ子ども。いくらでも懐柔の余地はある。
「れーみおねーちゃん!」
「こんにちは、仗助くん」
ただし、肝心の東方仗助は吉良よりも彼女の恋人になついていた。仗助は鈴美が保母を目指していると知ると、「おれのセンセーになって!」とねだった。
祖父、東方良平の死で落ち込んでいた仗助も、鈴美と遊んでいるうちは笑顔でいることが増えた。
鈴美は仗助の母親とも親交を深めているようである。
そんな仗助も体調が回復してからはすぐに退院し、その次に鈴美が退院した。
意外に思われるかもしれないが、本来はより重傷だった吉良の方が鈴美よりも早く退院する予定だった。
が、しかし、仗助が『相棒』の能力を知りお見舞いがてら鈴美の左手に試したことで、彼女は必要だったリハビリの過程をすっ飛ばして退院となった。
当然医者が驚きのあまり腰を抜かす事態になったが、まあこういう奇跡もあるのかもしれない…ということで片はついた。仗助は吉良にも試そうとしたが、吉良はビックリ人間の仲間入りをしたくなかったので、断固として拒否した。
吉良が退院する頃には9月の終盤になっていた。事件の影響で決まっていた内定は取り消しとなり、ついでに温情をもらう前にまた入院することになった単位の問題もある。卒論についてはそこまで焦っていない。最悪一週間もあれば白紙の状態から終わらせる自信がある。
それよりも問題なのは、杉本鈴美の精神状態だった。
『れーみおねーちゃん、うえでぼーっとしてたんだ』
仗助曰く、彼がはじめて上──屋上で出会った時の杉本鈴美は、手すりに寄りかかるようにして空をぼんやりと眺めていたという。
両親の死や、左手の切断に誘拐。枚挙し始めたらキリがない。
殊に彼女は
鈴美は吉良も視野に入れている休学届を出し、しばらく家にこもる生活が続いた。
家といっても以前住んでいた杉本家ではなく、吉良邸の方に身を寄せている。実の祖父母から同居の提案や、懇意にしている岸辺家の方から空いている一室(岸辺露伴の祖母に当たる人物がS市で旅館を経営している)を貸す打診もあったが、彼女は丁重に断った。
吉良邸に住むことになった杉本鈴美は、おのずと吉良の秘密を知ることになる。
病院から久しぶりに帰宅した吉良は、一枚の写真を彼女の前に出した。
「改めて説明すると、これがわたしの父親の吉良吉廣だ。原理は不明だが、本人曰く魂を写真に定着させているらしい」
【エー……オホンッ! 改めてよろしく頼むね、鈴美ちゃん】
「よろしくお願いします……………えっと」
【わしの呼び方が決まらないなら、ここはぜひ「お義父さん」と呼ん】
「君のプライバシーを少しでも損ねることがあったら燃やすから、気兼ねなく言ってくれ」
「(吉影くん、お父さんには結構ドライなんだなぁ…)」
鈴美は吉良邸の余っている部屋を使っている。一人で家にいた時は改めて大学生が一人で住む家じゃあないと感じた。ちなみに吉廣のことは事件のゴタゴタで知ったのだが、血縁を疑いたくなるほどには息子と似ていない。
「えっと、じゃあ「吉良さん」でいいですか?」
【………!!?】
「それでいいよ、鈴美。…親父はちょっとあっちに行っててくれ」
吉廣は家庭内害虫のようにふすまの隙間から出て行った。
ため息をついた吉良は、鈴美に何か飲むか尋ねる。だが吉良が立つ前に鈴美が腕をつかんで引き留めた。
「私がやるよ! 退院したばかりでしょ!?」
「軽い家事なら問題ないよ。医者も言っていたさ」
「………」
「何だいその、信用ならざるものを見る目は」
「入院中、脱走するからって抑制帯で拘束されていたのはどこの誰だったかしら?」
「…アレは最初の一回きりだよ。術後のせん妄もあったんだ。それに君が心配だった」
「私を理由にして、自分を蔑ろにしないでね? …二度とよ?」
「分かった。君に誓うよ」
「本当に、前みたいに傷口が開かなくてよ……」
誓うよ、の言葉が聞こえた直後、鈴美の左手に唇が落とされた。流れるような動作だったため鈴美の反応が遅れた。何度も落とされる口づけに、彼女の首から上がだんだんと赤くなっていく。
「ねぇ…このためにわざわざお義父さんを追い出したの?」
「………」
「吉影くん?」
「……ん? うん」
「私、自分の左手に嫉妬しちゃうわよ?」
「すまない久しぶりで……君が一番大切だが………ちょっと抑えが効かない…」
鈴美の腕をつかむ指の爪がぐぐ…と彼女の肌に食い込む。鈴美の現状は例えるならまな板の鯉。半ばトリップしている吉良の呼気は荒く、その息が肌に当たるたびに彼女の肌が栗立つ。相手が自分を害することはないと分かってはいるが、それでも首筋の裏がゾワゾワとする感覚は拭えない。これは恐怖であると同時に、あぶない味だ。健全ではない。何か話題を作ってこの倒錯した空間を壊すべきだと彼女は考えて、視線を下へ向けた時に見えたシャツの隙間からのぞく肌色に目を留める。シャツの下には傷が増えた。ちょうど心臓の横の位置。
「胸の傷は…もう痛くない?」
「まだ少し痛むことはあるけど、ほとんど問題ないよ」
「……あの時は、庇ってくれてありがとう。吉影くんが庇ってなかったら、私はきっと…」
「………鈴美」
「私はあなたに大好きを伝えられないまま、冷たくなっていたわ」
吉良の手が鈴美の両手を握る。彼女の手は血が通っていて、握ったところから毛細血管の一つ一つの合わさった動きがリズムを刻んでいる。
温かい温度だった。死後硬直だってしていない。指と指の間に手を絡ませれば、柔らかく動いて応えるように握り返す。
「吉影くん」
「うん」
「……吉影くん」
「どうしたんだい?」
「………吉影くん」
鈴美は吉良のシャツに顔を埋めた。その体を包むように抱きしめるといつもよりも華奢に感じられる。彼女の目の下には濃い隈がある。眠れていないのは明白で。こういう時ぐらいは睡眠薬を処方してもらった方がいい。吉良の手が顔を覆っていた鈴美の長い前髪をすくい、耳にかける。
「今日は一緒に寝ようか」
「……うん」
杉本鈴美は一人布団の中で両親の死体を思い出し、愛犬の死を思い出し、自分が受けた痛みを思い出し、そして真っ赤に染まった柄の感覚を思い出しながらわが身を抱きしめて夜の長さを感じているのだろう。
人としてのパーツがいくらか欠けている吉良では、鈴美の痛みを自分の痛みのように共感して、慰めることはできない。逆を言えば、鈴美とて吉良のすべての痛みを共感できるわけではない。
だからこそ抱きしめて、頭を撫でて、身体的な安心感を与えなければならない。
「…ぼくにはこれくらいしか言えないが、君は『悪く』ない」
凶悪な殺人犯を殺したところで、それは然るべき報いを与えただけなのだ。杉本鈴美に置き換えれば、彼女は穢された両親や愛犬の魂のため、自分の命を守るため、そして吉良吉影という人間が鬼に成り果てぬように自分の手を汚した。
それをなぜ『悪』と言えようか?
「わ……私、警察のひとには言った。言ったの。でも………」
自分が片桐安十郎をナイフで刺した。だが当の片桐安十郎も、凶器のナイフもどこにもなかった。
鈴美の証言を聞いた警察は当然考える。彼女が刺したと仮定したなら、片桐の遺体や凶器はどこへ行ったのかと。まさか彼女が片桐安十郎を引きずってナイフ共々海へ落としたのか?
いや、それは「否」である。そのような痕跡は、現場にあった土足痕を踏まえても残っていなかったのだから。
ゆえに彼女の証言はその上から二重線を引かれ、消去された。その方が、片桐安十郎が犯人だということで片づけたい警察としても都合がよかった。
「……鈴美」
日が傾き外は少しずつ夜の静けさを得つつある。
ふと吉良は、海にダイブした女のことを思い出した。
「君の罪悪感は、君自身を殺してしまいそうなのか?」
彼女は病院の屋上で空を眺めていたらしい。嫌な想像が膨らむ。
シャツに顔を埋めていた鈴美は顔を上げて、不安定に揺らぐ紫目を見た。
「……罪悪感で死にたくなる気持ちも分かるわ」
「………鈴美」
「でも、それが『悪』と呼ばれる魂でも、私は奪ったその命の重みと向き合い続けなくちゃならないの」
「………」
「たとえそれが、どんなに辛い道のりになったとしても」
鈴美の唇は小さく震えていた。それでも視線だけは真っ直ぐに、吉良を見つめている。
きっと、かつて海を彷徨う中で船乗りたちが目印にした北極星のような存在が彼女なのだろう。
北極星は黄金なのか? まあ、そこはいい。
同じニンゲンでも、こうも大きく違うのだ。ある人間はかかえた罪悪感で希死念慮に取り憑かれて、またある人間は自分の罪と向き合い続ける覚悟を持つ。
そんな中で、土台にすら立てないやつもいる。「罪悪感って何だ?」って首を傾げているやつが。
「私は……これからも吉影くんの側にいて………いいんだよね?」
「君がいなくなったら、魔法が解けてしまうよ。12時の針が過ぎたシンデレラのように」
「…私は魔女なの?」
「冗談を言うな。君はぼくの
吉良はもう一度鈴美の手を取り口づけて、チラリと時計を見た。
気づけばもう夕ごはんという時間だった。
夕飯を作る元気は今の鈴美にはなさそうだと判断し、立ち上がる。と、そこで眉間に皺を寄せる。やはりまだ体を動かすと胸の中心がかすかに痛む。
「……鈴美、夕飯は何にしようか?」
直に大学生の少し長い夏休みも終わる。
今年の夏は、本当に長いものだった。
●
「フゥ〜……」
蛇口から落ちた水滴が濛々とたつ湯槽の中に落ちて、波紋を作る。
病院では入れてもシャワーだったため、湯船に肩まで浸かるのは久しぶりだった。
手足や腹の傷は突っ張っていて、つるりとした表面はボコボコとしている。傷跡はよほど未来の医療技術が発達しなければ一生残る。人の目にさらすと間違いなく目立つため、まあ無いとは思うが温泉や海に行くことはないだろう。それこそ鈴美が吉良に上目遣いでねだってさえこなければ。
「親父が
吉良の手が胸の傷跡に触れる。
吉良が倒れ、片桐が死に、そして残された杉本鈴美も吉良の肢体を抱きしめながら気を失った。
片桐の遺体と凶器はおせっかい焼きの吉廣が隠滅した。
鈴美が罪悪感と正義感の狭間で警察に犯行を自供したが、それも消された。
これで今度こそ鈴美と二人で静かにこの杜王町で暮らせる。暮らせるはずだ。
ただ、気にかかる『爆弾』は残されてしまっている。それは彼自身の殺人欲求を指すかもしれないが、この場合杉本鈴美さえいればまだギリギリ理性を保つことができる。
この爆弾とは、彼の深層意識──夢とでも言えばいいのか? に出てきたあの奇妙な姿の分身に関連している。
「……キラークイーン」
吉良が自身の分身を呼ぶと、風呂の中からキラークイーンが現れ、風呂を図々しく占領する。
吉良は膝を折り曲げながらその顔を見た。なんてことはない。キラークイーンの顔は骸骨ではなく、いつもの何を考えているのか分からない顔である。
『ニャー』
まるで本物の猫のように鳴くようになったこと以外は、何も変わっていない。
忘れかけてた前話の正解。
リゾット→そのまんま「リゾット」
ホルマジオ→食事の量を
(チーズでも可)
イルーゾォ→「鏡」に映ったように綺麗な左右対称の…。
プロシュート→そのまんま。
ペッシ→「桃」のソルベ……→桃は英語で「ピーチ」→ピーチ、ピーチ………「ビーチ・ボーイ」ッ!
メローネ→メロン
ギアッチョ→ この「冷」たさが食後にはちょうど良い…。
ソルベとジェラート→「ソルベ&ジェラート」
でした。探してみてくれた方はありがとナス。
というかイルーゾォの声って殺生丸だったのか……。
この3話の投稿で今年は終わります。当社比で見ると今年はかなり番外を投稿したと思います。
ちょいと早いですがよいお年をお過ごしください。そして新しいパンツを履いたばかりのような正月元旦の朝を迎えるんだよォ〜ン!!