転生したら殺人鬼ポジだった件   作:クリーニング黒兎

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あけましておめでとうございます。新年になっても書きたいネタがまだ尽きないのがすごいな…。
今回は『あの人』が杜王町に遊びにくる回です。


116話 Welcome to 杜王町【前編】

 1000円お買い上げするごとに1枚もらえる抽選券。日ごろの買い物で貯まるそれは月1で行われる抽選会で使うことができる。

 ガラガラと音が鳴る抽選器のハンドルをつかんで回し、さあ何色の玉が出るのかとお天道様にお祈りなすって。

 

「お客さん、一等だよ!」

 

 出た出玉は金色。店員はベルを鳴らして「おめでとうございます!」と弾けるような笑顔を浮かべる。

 

 一等の商品は2泊3日のペア旅行券だった。

 

 それをまじまじと見つめる女性は、長い階段を登りながらはたしてどうしようかしらと頭を悩ませる。

 

 夫は仕事で家にいないことがほとんどで、旅行に行くのはむつかしい。

 ならば息子? いや、こちらも多忙な身の上であるし、一応温泉旅行券が当たったことを連絡してみたが、案の定断られてしまった。

 

 両親もすでに高齢で旅行できる歳ではなく、息子の配偶者を誘ってみたが(息子が億が一OKを出したらこちらも誘う気だった)、子どもの都合でバツになった。

 

 であるなら、旅行を共にできるくらい仲の良い友人たちは…。

 

「無理、かぁ…」

 

 旅行に行ったら旦那が文句を言うから、または旦那だけにしたら飢え死にする(こちらは半分ジョークも含まれているだろう)──など、ことごとく空振り。

 

 行くなら一人で行くしかなくなった。窓の外を眺め、さながら恋する女子のようにため息をついた彼女は、どこからともなく聞こえてきた「逆に考えるんだ」の言葉に従うことにした。

 

 

「こうなったら、一人旅行をうんと楽しんじゃうわ!」

 

 

 そう決めた彼女は、早速旅行の準備を始めた。

 

 

 

 

 

 ○○○

 

 

(一人旅行なんて、もしかしたら初めてかもしれないわ)

 

 新幹線での移動中、彼女は加速するような時の速さで移ろいゆく車窓の景色を眺める。

 

 結婚する前までは一人旅行をしようものなら、危ないだなんだと父に止められ家族旅行しか経験したことがなかった。

 

 嫁いでからは尚更のこと。息子が独り立ちして10年ほど経つが、大きな家で多くの時間を一人で過ごすのは寂しいものがあった。

 

 この旅行は一つの良い気晴らしになるだろう。フフッと、彼女は笑った。

 

 一方で、そんな彼女を見つめる視線が一つある。

 

 時折彼女の様子を心配そうに窺うその人物は、()()()()の多い彼女が特大のうっかりを起こさないよう十字を切った。

 

 

 数時間の移動ののち、新幹線が着いたのはM県S市。

 

 彼女────空条ホリィはスーツケースを置き、背筋をまっすぐにするように大きく伸びをした。

 

 

 

 

 

 ○

 

 

 温泉だけではせっかくの旅行なのだからもったいない。

 

 S市の観光スポットを色々と回ることにしたホリィは、まず旅館の者におすすめされた街へ向かってみることにした。そこは年々観光客でにぎわいを見せているらしい。

 

 駅に着いた彼女はまず駅ナカの出店に足を取られ、店員のおばさまと10分ほど雑談に花を咲かせた。

 

「ちょうど今はサマーシーズンだから、海がおすすめよ」

 

「ありがとう! ぜひ行ってみるわ!」

 

 とはいっても、若い頃ならまだしも今のホリィは還暦手前。さすがに水着を着る勇気はないので、靴を脱いで砂浜の感触を楽しんだり、海の冷たさにキャッキャウフフと遊ぶくらいで済ませて終わるだろう。

 

 

「ニャッ」

 

 ちょうどその時、彼女の目の前を猫が通り過ぎていった。海に思いを馳せていた彼女の思考がその猫に吸い込まれ、気づけば後を追っていた。

 

 塀の上に乗った猫は毛づくろいを始める。

 

「ほらほら、猫ちゃん。猫じゃらしよ〜」

 

 ホリィは道の端から手折った猫じゃらしを猫の前に持ってきた。

 ニャンコは毛づくろいを止め、一身に猫じゃらしを目で追う。

 

「おぉ」

 

「うふふ、可愛らしい猫ちゃん! ……あら?」

 

 何か、猫以外の声が聞こえたような。あたりを見渡したホリィはそこで、少し遠くから猫を見つめる人物の存在に気づいた。

 

「おおぉ」

 

 グリーンの肌に、服からのぞく肌という肌に現れているボコボコとしたこぶ。側から見れば思わず顔を顰めてしまう悍ましい見た目だが、ホリィは微笑んで猫じゃらしを差し出した。異形の人物は一瞬体を硬直させたが、恐る恐る猫じゃらしを受け取る。

 

「おおぉっ」

 

「そうよね! 猫ちゃんはキャワゆいわよねぇ」

 

 ぎこちない動きの猫じゃらしに猫は飛びつき、うっかり異形の相手が離した隙にそのまま咥えて逃げてしまった。

 

「おぉ…」

 

「猫ちゃん行っちゃったわね……あっ、それよりあなた、もしかして迷子なの?」

 

「おぅ?」

 

 異形のその人物は横幅の割には身長が低く、子どものように見えなくもない。

 

 何か訳アリな人間なのは確かで、ホリィは何らかの理由でこの子どもが保護者と逸れてしまったのだろうと考えた。

 

 

「承太郎も子どもの頃はよく迷子になってたっけ…懐かしいわ」

 

「おぉ?」

 

「あっ、承太郎っていうのはね、私の世界で一番かわいい自慢の息子なのよ!」

 

 迷子の呼び出しがありホリィが息を切らして駆けつけると、承太郎は「もうっ、ママってばどこに行ってたの!? すごく心配したんだよ!」と言っていた。

 

(承太郎ったら、自分が迷子になったのが恥ずかしくて誤魔化しちゃったんだわ……やっぱり可愛い!)

 

 なお、本当の迷子の迷子の子猫ちゃんは誰だったのか──、それは彼女の名誉のために言うまい。

 

 

「交番は確か、こっちの方だったかしら?

 

 

 ……あら?

 

 

 ………あらら?」

 

 

 無事に、という言い方が正しいのかは分からないが、ホリィは無事に迷子になった。手を繋いでいる異形の彼は不安げな声をあげている。

 

「うーん、どうしようかしら……あっ、そこのクールなお兄さん!」

 

 道が分からなくなってしまった時は、人に聞くのが一番いい。彼女の経験則である。

 

「……クールなお兄さんってのは、もしかして僕のことか?」

 

「そうよ、クールなお兄さん! ちょっと道を教えていただきたいんだけど…」

 

 ホリィが呼び止めた青年は、眉を顰めて彼女の頭の先からてっぺんをジロジロと見つめる。

 そんな青年の方も、通りがかった人間が思わず二度見して同じようにジロジロと見つめられるような格好をしていた。

 

「…アンタ、外国人にしちゃあ日本語が流暢だな」

 

「そう? そう言ってもらえると嬉しいわ。日本にはかれこれ、30年近く住んでいるの」

 

「ヘェー、30年」

 

 この時期(サマーシーズン)を踏まえてホリィは観光客であると分かる。土地勘があるならそもそも迷子になることはない。

 

 また左手の薬指に指輪を付けていることから、既婚者であるともわかる。少し話しただけでも感じるこの明るい女性が一人旅行をしている事実に青年は少し興味を持った。が、そこで特徴的な声を聞いた彼は下に目を向け、ホリィの後ろに隠れている異形に気づく。

 

「ん? …あ、お前はアホの億泰のところの……」

 

「! 二人は知り合いなの?」

 

「知り合いってほどじゃあないが…」

 

 青年とこの異形は直接話したことはない。ごくたまに息子の億泰とこの異形の父親が出歩いているのを目撃することがあるくらいで。

 

 そう、そうだ。普段出かける時は側にいる肝心の息子がいない。おそらく、何かトラブルがあり離れ離れになってしまったのだろう。

 

「よかったわ! じゃあこの子を家までお願いしても──」

 

「だが断る」

 

「えっ」

 

「何で僕が虹村億泰の尻拭いをしなくっちゃあならないんだ? 家まで送り届けてやったところで漫画のネタになるわけでもあるまいし」

 

 いやまぁ、青年的にはこの男の生態に興味はあるが、それと億泰の家にまで送り届けるのは別の話だった。

 

「そうよね…あなたにも用事があるのに、いきなりお願いしてごめんなさいね」

 

「……フンッ」

 

「なら、交番の場所まででいいの。道を教えてくださらないかしら?」

 

 青年の不躾とも取れる発言に、空条ホリィが浮かべた微笑。それはまさにギリシア彫刻の如きアルカイック・スマイル。これには青年もたじろぎを見せた。

 

「…まあ、交番までの道のりくらいならいいだろう」

 

 そう言うと、青年は持っていたスケッチブックに「ズギャア! ドシュウ!」と鉛筆で発するにはあまりにも怪奇な音を響かせて、書いたその地図をホリィに手渡す。その圧巻な画力にホリィは感嘆する。まるで今にも動き出しそうな写実的な絵である。

 

「当然だろう。僕は漫画家だからね」

 

「漫画家? ……漫画家!?」

 

 名前を聞こうと思ったホリィはそこで、青年のシャツに書かれていた『露伴』の文字に目を止めた。露伴……露伴。

 

 

「あっ、あなたもしかして岸辺露伴!?」

 

「そうだよ。…ナァ、もうちょっと声量を落としてくれ。耳に響く」

 

「あら……オホホ、ごめんなさいね」

 

 

 ホリィが岸辺露伴の名をどこで知ったのかというと、父親からだった。ちょいと前に有名な漫画の先生に会ったんじゃよ──なノリで、岸辺露伴の名が出された。

 

 

「私のパパ、私が小さい時から漫画を集めるのがシュミでね。それで、先生の描いてる漫画はどんなお話なのかしら〜って、試しに読んでみたんだけど…」

 

 ホラー・サスペンスな色が強い作風のため、ホリィはどうしても出てくる血やおどろおどろしいシーンに苦手意識を持ってしまった。

 

「僕の作風が苦手な人間がいるのは承知なので、お気になさらず」

 

「なんだかごめんなさいねぇ…」

 

「そろそろ僕は失礼しますよ。これでも忙しいんでね」

 

「ありがとう、露伴先生!」

 

 

 露伴が去った後、ホリィは描いてもらった地図を頼りにしながら歩き、交番に到着した。

 

 警察に事情を聞かれた際に「虹村億泰」という人物がこの異形の家族であることを伝えたため、それならすぐに家族と連絡が取れるだろう、とのことだった。

 

「じゃあね、もう迷子になっちゃダメよ?」

 

「ぉおお」

 

 異形は手を降りホリィを見送った。

 

 

 迷子の対応をしているうちに気づけばもうお昼をすっかり過ぎた時間。ホリィは手軽な店で何か食べようと考えた。

 

「……あら? お財布がないわ…」

 

 バッグを探してみるがやはり財布がない。どこかで落としてしまったらしい。

 

(私がお財布を最後に使ったのは駅の中で買い物をした時で……と、いうことは…!!)

 

 財布は駅で落とした可能性が高い。彼女は慌てて駅へ向かった。

 

 

 

 

 

 ○

 

 

「ありゃ、財布が落ちてる」

 

 時は少し遡り、ホリィが駅を去ったすぐ後。

 

 駅の中で彼女の財布を拾った学生服姿の青年は、中身を見て金の多さに思わず二度見してから、すぐにクールな表面を取り繕って駅の窓口に向かった。

 

 財布を受け取った駅員は一旦保管する旨を話し、相手から謝礼が出た場合について話す。

 

「謝礼…っスか」

 

 この場合、落とし主はだいたい財布にある現金の約5%〜20%を拾い主に謝礼として払うのが一般的である。

 

 

(まあね、こういうのはね、()()()の問題だと仗助くんは思うわけですよ)

 

 

 あくまで相手はお礼の形としてお金を渡すのだ。そう、お礼の形で。

 

 そのお礼を受け取らないというのは相手に失礼になると仗助くんは思っている。あるいは読み手に暗示をかけている。

 

「それで君、謝礼の件はどっ「おねっしゃす!!」……わかったよ」

 

 仗助はやり取りに使うための電話番号を伝え、駅を後にした。この電話番号は自宅ではなく自分の携帯の電話番号だ。ゆえに、母親の朋子にバレる可能性はない。

 ついでに相手の「お気持ち」を尊重するので、もし向こうに謝礼をしぶった場合は拒否してほしいと駅員に頼んだ。

 

(いやぁ…しっかし、マジで大金が入っててビビったな)

 

 財布は女性のものだったが、身分証等はなかったので落とし主の詳しい情報はわからない。

 

 

「随分なうっかりさんもいるもんだよなぁ」

 

 

 仗助は空を見上げた。

 

 今日は快晴日和である。




うっかりやなお嬢様に胃を痛めがちな護衛目線
(拾った財布を盗まないなんて、日本人は本当にすばらしいな…)
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