転生したら殺人鬼ポジだった件   作:クリーニング黒兎

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もう1つ書きたいネタがあるので消化できたらいいです。
今回はちみっこ仗助くんがお泊まりする回。


122話 仗助くんのお泊まり

「まいったわねぇ…」

 

 教職をつとめる東方朋子は、旅行の計画書をめくりながら頭を悩ませた。

 内容は2泊3日の修学旅行で、当該の学年を担当する朋子も引率として参加する。

 これまでは被ることがなかったが、ついに仕事の都合で家を空けなければならなくなった。

 

 息子の仗助は最近9歳になったとはいえまだまだ子ども。家に一人にするわけにはいかない。父の良平が存命だったら任せることができたのだが。

 

(親戚に預けるにしても、通学のことを考えたら気軽に送迎を頼める距離じゃないし…本ッ当にどうしようかしら)

 

 片親のつらい事情である。悩んだ朋子は知人の男に自分が留守にする間、仗助を預かってもらえないか頼んだ。

 その男は本人曰くライター関連の仕事をやっており、杜王町の別荘地帯に住んでいる。

 

 

「──っていうわけで、仗助をお願いできないかしら?」

 

『仗助を……ですか』

 

 相手の声色は億劫そうな気に満ちている。

 

「学校への送迎もお願いすることになっちゃうんだけど…」

 

『………2泊ですよね? わたしの家に泊めるとしたら』

 

「吉良さんにしか頼める人がいないのよォ〜…」

 

『…………ハァー、分かりました』

 

 朋子は時折このようにして仕事の都合で吉良の手を借りているが、反対に吉良の方も東方親子には貸りがある。特に仗助の能力には世話になっていた。

 

 

 かくして吉良吉影の家に、東方仗助くん(9さい)が泊まることになった。

 

 仗助は保育園でのお泊まり保育以来の体験でワクワクとした気持ちを募らせる。一方で吉良の方も仗助(というか一般の人間)に見つかったらヤバいものを親父のエセ四次元ポケットにブチ込み、あたかも大晦日の大掃除を終えた後のように爽やかな汗を流した。

 

 ──いや、『星ノ桜花』に繋がるものも隠さなくてはならず、マジで大晦日レベルの汗を流すことになった。

 

 

 

 

 

 ◻︎◻︎◻︎

 

 

「すげぇー! デッケー家!!」

 

 吉良の家は古き良き日本家屋である。独身の男が一人で住むには、庭の草取りや家の掃除などを考慮するといささか割に合わない。

 

 学校帰りの仗助はランドセルを投げ出し、早速探検に出ようとする。

 

「ぐえっ」

 

 しかしその前に首根っこをつかまれ、玄関に連れ戻された。

 

「家に帰ったらまず靴をそろえる」

 

「はぁーい」

 

「……それとランドセルは投げるな。傷がつくだろう。あと手洗いうがいも忘れるんじゃあない」

 

「ウヘェー……母ちゃんみてぇ」

 

「返事」

 

「はい! 東方仗助ッ! 手を洗ってきます!!」

 

「待てッ、だから先に靴をそろえてからだ!」

 

 この2泊は随分と騒がしいものになりそうだなあと、一連の様子を影から見ていた写真の幽霊は思った。

 ついでに孫ができたらこのような光景になるだろうと想像も膨らみ、だらしない笑みがこぼれる。

 

 肝心の息子の方は、やはり子どもだなんて絶対に持ちたくないという意思を強めているのだが。

 

 

 

 仗助は年相応の活発さはあるが、根が良い子なこともありアレはしてはいけない、コレはしてはいけない──などの注意事項を守った。

 

 それに最初こそブチ上がったテンションで礼儀が疎かになっていたが、母親の教育がしっかりしていることもあり、食事の前はきちんと「いただきます」と言い、食べ終わった後は「ごちそうさま」と言って食器を流しに片す。

 

 何か手伝った方がいいのか視線を送る仗助に、吉良は袖をまくりながらリビングに行くよう促した。

 

「俺、かーちゃんの手伝いしてっからさ、皿洗いくらいできるよ?」

 

「気持ちだけで十分だよ。ほら、さっさと宿題をやっておいで」

 

「は〜い」

 

 仗助は一度立ち止まり、流しに立った吉良の背を見つめた後、パタパタとリビングの方へ駆けていった。

 

「ハァ…」

 

 蛇口から水が流れる音とともに、食器のカチャカチャという音が響く。

 

 この後は仗助の宿題が終わったら風呂に入らせ、なんやかんやと時間が経ったら10時には寝てもらう。

 

 小学校への登下校は仗助の家まで送り迎えする形になったので、逆算して朝の6時には起きないとならない。

 

 絶対に1日8時間睡眠を取りたい吉良としては、彼自身もいつもより早く床に就くことになる。

 

(朋子さんは教職の身で、しかも母の手一つで仗助を育てているわけだろ? バイタリティーが違うな……)

 

 鈴美も吉良の数倍はバイタリティー溢れる女性だったので、いやはやすごいものだなあと干物のように萎びている彼は思うわけだ。

 

 

「吉良さーん、鉛筆削りないー!?」

 

 

 廊下の方からはまたドタバタと元気な足音が近づいていた。

 

 

 

 

 

 ◻︎◻︎◻︎

 

 

 吉良宅に泊まることになった仗助は、お泊まり道具一式を用意していた。

 歯磨きセットやシャンプーなどなど。布団に関してはちょいと難しかったため、吉良の家にある長座布団を敷き布団として代用することになった。

 

「……一応確認しておくけど、風呂は一人で入れるかい?」

 

「入れるよ! 俺のこと何歳だと思ってんだよ!!」

 

 吉良が過保護気味な()があるのは知っていたが、泊まっているとよりその性質を感じた。

 

 例えば靴紐が取れてしまい、それに気づいて直そうとした時とか。仗助が屈んで直す前に吉良がしゃがみ込み、靴紐を結び直した。

 

 仗助の母親だったらきっと「自分で直しなさい」と言うだろうし、仗助自身母に甘えず自分の手で結び直す。

 

 たぶんこれは育ちの違いなんだろうと、まだ幼い身であるが仗助は感じとった。

 

「にしても人ん家の風呂って、妙にこう……落ち着かねぇーなぁ…」

 

 自分の家とよその家の違い。友人の絵に遊びに行った時に出されたおにぎりの味が母親手作りのおにぎりとなぜか別物に感じるとか。

 具材は同じはずなのに不思議である。仗助が感じているのはそんな状況の変化。

 

「まあ、メシは正直美味かったなァ〜〜」

 

 湯に肩まで浸かって足をまっすぐ伸ばすと、ギリギリつま先の方が向こうの壁につく。

 

 男子にしては長い髪の毛が湯船に藻のように浮かんだ。

 

 仗助はブクブクと泡を立て、プハァッと立ち上がる。

 

 浴室は濛々とたった煙で一面濃霧のようにかすんでいた。

 

 

 

 そして時刻は夜。

 

 ドライヤーを装備していた敵に捕まり、仗助は「自分でできるっつうのぉー!!」と叫びながら髪を乾かされた。

 

 時刻は9時ごろ。そこから少しテレビを見て、歯を磨いたり明日の用意をしているうちに就寝時間になる。

 

 仗助がゆっくりしているうちに吉良の方は自身も風呂に入ったり洗濯物を回したり、慌ただしく動いて就寝の30分前。息は若干荒いが、温かいミルクは用意した。さあ後は──、

 

「俺も飲みたい!」

 

「……寝る前に水分を取って大丈夫なのかい? それにさっき歯磨きをしていただろ」

 

「吉良さんさあ、俺のことまだ保育園生だと思ってない? トイレくらい夜でも一人で行けるし、歯ももっかい磨けばいいでしょ」

 

「………わかった、わかったよ」

 

 電子レンジの前に立ち回るコップを眺める仗助を尻目に、吉良は本日何度目かわからぬため息をこぼす。

 

 仗助は「はちみつを入れるともっと美味くなるぜ」とも言って、ミルクを魔改造しようとしていた。

 

(……疲れた)

 

 あと1泊残っている事実に、吉良はうなだれた。

 

 

 

 そしてさらにその夜のこと。

 

 自室で眠っていた吉良は、聞こえた物音に目を覚ました。唸りながら時計を確認すれば時刻は真夜中の1時。

 物音を出した犯人は彼の布団に手を伸ばした状態で、すがるように吉良の方を見つめている。

 

「トイレ……行こうとしたら、なんかっ、廊下から軋むような音がして………」

 

「漏らしたと」

 

「まだ漏らしてないッ!!」

 

「だから言っただろ…」

 

 吉良は廊下の明かりをつけ、誰もいないだろうと顎で指す。

 

 仗助は恐る恐る襖から顔を出し、脱兎の如くトイレへ駆け込んだ。その直後、電気を消そうとした吉良にバカでかい声で「行かないでェーッ!!」と叫ぶ。

 

「ったく……」

 

 吉良は頭をかきながら、キラークイーンを出しスイッチを押す。

 

 トイレから出た仗助は微妙な空気の変化に首を傾げつつ、誘導され流しに向かった。

 

 今度こそ何者にも邪魔されずに眠ろうとした吉良は、再び開いたふすまを真顔で見る。

 

「………」

 

 仗助は枕を抱えて吉良の様子をうかがっている。

 

「…君、お母さんとは別々で寝てるんじゃなかったのか」

 

「………」

 

「わかった頼むこの時間から泣かないでくれ……絶対にうるさくするなよ」

 

「!」

 

 仗助の相棒の力も借りつつ長座布団がセットされ、吉良の横で仗助は眠りについた。

 

 大人びているように見えてしかし中身はやはりまだ子どもで。

 

 中途半端なこの生き物に吉良は翻弄され、その日の眠りは浅かった。

 

 

 

 翌朝になると深夜のしおらしさがどこへやら、仗助は傘を片手に元気一杯に学校へと向かった。

 

 朝の空気と車から溢れる排気ガスをいっぺんに吸い込みながら、吉良は欠伸を噛み殺す。

 

 黒いランドセルはあっという間に小さくなり、黒と赤の仲間と合流して、お行儀よく一つの列になって進んでいく。

 

 あんな時代が吉良にもあったはずだが、いかんせん住んでいる場所が場所なのでご近所に子どもはとんと少なく、一匹狼の道のりが長かった。

 

「子どもは元気だな…」

 

 まあ、仗助もあっという間に大きくなるだろう。

 慎重に合わない靴のサイズを思い出しながら、吉良は自宅に戻った。

 

 

 

 

 

 ◻︎◻︎◻︎

 

 

 2泊目はあいにくの雨で、午後からポツポツと降り始めた。

 東方家に車が着く頃にはすっかり本降りになっており、仗助は一時家の中に避難していた。

 

「すまないね。曜日によって帰宅時間が違うのを失念していた」

 

「吉良さん、髪と肩が濡れてるよ」

 

「ん? …ああ、このくらい問題ないよ」

 

「油断してっとー、風邪引いちまうぜ?」

 

 仗助は奥に引っ込んでからタオルを持ってきた。ゆるい癖っ毛のある髪は水分を含んで重力に沿っている。

 仗助も顔も知らない父親に似たのか髪の癖が強く、その髪に触れていた朋子がふと遠い目をすることがあった。

 

「…ん? よく見っと根元のとこ、ちょっと明るい色してんね」

 

「そうかい?」

 

「………あっ、若白髪!」

 

「ンなわけないだろ」

 

 髪や肩を軽く拭いた吉良は、仗助に荷物を持ってくるよう促す。

 仗助は急いでゲームを片し、呆れた表情の吉良に二ヘラと笑って車に乗った。

 

 

 

 そうして2泊目も、1泊目と同じように過ぎていった。

 1泊目と変わったのは最初から同じ部屋で寝ることになったくらいである。

 

 少し慣れてきた仗助は、テーブルに置かれたくすりの袋を見つめた。吉良の方は流しに立ち、コップを片手に粒を飲み込んでいる。

 

「吉良さんってハートのビョーキなんだよね?」

 

「…うん。まあそう、ハートだよ」

 

「最近は指ケガしてないね」

 

「……ああ、ケガしてないよ」

 

「よかった」

 

 爪の部分が無くなり、肉の部分が露わになったそこから血がじわじわと染み出す。

 とうの吉良は真っ青な顔だがなぜか口角には笑みが張り付いていて、それはどんな種類の笑みなのか、今よりもう少し小さかった仗助にはわからなかった。

 

 ぼんやりと宙を見つめていた仗助の頭にかすかな重みが乗る。

 

 驚いた彼は頬杖していた手でテーブルをつかむ。

 

「我ながら、まだ幼い君に心労をかけてしまったと反省しているよ」

 

 この男も子どもの頭を撫でることがあるのかと、仗助は意外に思った。その手つきは思ったよりも優しく、そこもまた意外だった。

 首根っこをつかむ時は首が絞まるのもお構いなしな乱雑さだというのに。

 

 彼の心臓の奥の部分がざわりとする。投じられた石で浮かび上がる感情の塊。人生ではじめて母親と離れているものだから、内心クールぶっていても寂しさを感じている。

 

 東方仗助は何せ()()9歳で、

 

 ()()、9歳だ。

 

 

「母……ちゃん、お土産いっぱい買ってきてくれっかな?」

 

「どうだろうね。わたしの経験則で言うと、教師はあまり買う時間が取れないんじゃないかな」

 

「吉良さんへのお土産は絶対買ってくるって言ってたよ」

 

「なら、君へのお土産は間違いなくあるさ」

 

 離れた手がティッシュを取り、仗助に差し出される。

 仗助はそれで鼻をかみ、ゴミ箱に捨てた。投げ捨てると怒られるので、しっかりゴミ箱の前まで歩いて。

 

 

 その夜は昨日の怖さが和らぎ、朝までぐっすりと眠れた。

 

 

 

 

 

 ◻︎◻︎◻︎

 

 

 最後の3日目は、仗助の要望で公園に遊びにいくことになった。朋子はサラリーマンがいる一般家庭の夕食時間には帰ってくる予定だ。

 

 公園に連れてきてもらった仗助は、早速遊び始めた。他にも近所の子どもが遊びに来ており、その輪に混ざって全力ではしゃぐ。

 

 物腰柔らかい仗助は年上だろうと年下だろうと人間ホイホイだった。

 

 まあ八方美人過ぎるとかえって自分の方が疲れて来るだろうが、その塩梅の調整はまだむつかしいだろう。

 

(小学生の時は休み時間なんてあったっけか…)

 

 吉良は古い記憶を引っ張り出す。自分は他人に誘われなければ教室で過ごすか、図書室に向かっていた記憶がある。

 校庭から聞こえていた子どものやかましい声が、今聞こえてくる音と重なり合う。

 

(鈴美に引っ張られて外で遊んだこともあったな……)

 

 女子は一輪車だとか、『〇〇ごっこ』遊びだとか、彼の感性ではイマイチ分からん遊びに熱中していて、一方でひたすらにサッカーをする少年どもの気持ちも一切理解できなかった。

 

 ぼんやりしていればいつの間にか日が暮れ、メロディーが流れる。

 

 仗助は遊んでいた子どもたちに手を振り、吉良のいるベンチに駆けてきた。

 

 

「────さん、吉良さん?」

 

「……ん? ああ、もうこんな時間か」

 

 

 時刻は6時。仗助は「お腹と背中がくっついちまうよ〜」と腹をさすっている。

 時間的には朋子も学校に到着してるか否かな時間だ。吉良が今日は外食にするか尋ねると、仗助は赤べこのように首を振る。

 

「リクエストは何かあ──「回転寿司ッ!!」……」

 

 日本人は寿司が好きなのだ。誕生日にケーキと寿司の2択になるくらいには。

 

「……?」

 

 まあいいかと考えていた吉良はそこで、自分の手をつかむ小さな手を見つめる。

 仗助もまた「あっ」とした顔ですぐに手を離した。

 

 しばし沈黙のまま薄暗くなってきた道を歩く。歩幅は大きく小さな足に合わせられていて、仗助は時折吉良の様子をうかがう。メガネをかけた顔は真っ直ぐに前を見ていた。

 

「……吉良さんってさ、母ちゃんのことどう思う?」

 

「朋子さんは──そうだね。至極真っ当な女性であると思うよ」

 

「もっとこう、他にないの? ビジンとか、キレるとおっかないとか」

 

「仗助」

 

 立ち止まった吉良に、仗助も歩を止める。

 吉良は彼の顔を見つめて、何も言わずに手を差し出す。仗助は困惑し、その手をじっと見つめる。

 

 結局、仗助はその手を握れなかった。

 

 ひとつ息を吐いた吉良は座り込んで視線を仗助に合わせる。

 

「正直言えば、彼女とわたしは似たもの同士だと思うよ」

 

「……俺」

 

「うん?」

 

「………俺、思うんだ。いつか母ちゃんが『じょせふ』じゃなくてさ、別の人を好きになる日が来るんじゃないかって」

 

 朋子はまだ20代。今から結婚してもまったく遅くない。

 

 もし新しい家族が増えるなら、仗助はそれを心から喜ばしく思うし、弟や妹ができたらさらに喜ぶだろう。

 普段の朋子の様子を知っていると新しい男ができるのか甚だ疑問だが、あり得ない話ではない。

 

「でもさ、全然知らない人が『父親』になるよりは、知っている人の方がいいかな……って」

 

「…なるほど」

 

「吉良さんと母ちゃんって年齢近いし、俺の知らないうちに仲良くなってるかもしれねぇかなって………」

 

「朋子さんは確かに綺麗な人ではあるが、少々母親過ぎる」

 

「母親過ぎる?」

 

「まあ……ともかく、わたしが君の母親と結婚することはまずないよ。それこそ天と地がひっくり返らなければ」

 

「そっか…」

 

 仗助は下を向き、しばらく歩いた頃には悩ましい表情はどこへやら、お寿司コールが聞こえ始めた。

 

 やはり子どもという生き物はよく分からんと、吉良は思った。

 

 


 

 

 互いに叶わぬ恋を抱えて、愛情の重さに空回りしながら平穏たる日常を享受する。

 

 

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