転生したら殺人鬼ポジだった件   作:クリーニング黒兎

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色々とこわい話です。何が一番怖いのか、それはあなたの感性次第。
この吉良は轢死の運命に打ち勝っています。話は4話構成でかなりアダルト味が強いです。
ちゃんとヒロインさせられなかったな〜って気持ちの補完話でもあります。


スシローとジョジョのコラボだ!!ヤッピィ〜〜!!おっ、メニューに美味そうなハンバー


123話 わんわんお①

 今にも空から星が降ってきそうな夜だった。

 

 鬱蒼とした森の中から荒い息づかいが聞こえる。がむしゃらに走るたびに草履で踏みつけた枝がパキリと音を立てる。

 

 呼吸を整えようと木に背中を預けて天上を仰ぎ見ると、雲ひとつない星空が見下ろしていた。

 

「ハァ、ハァー…」

 

 複数の明かりはどんどん近づいてくる。彼女は土で汚れた顔を拭い、再び走り出した。

 

 

 

 そうして逃げた先でたどり着いたのは崖だった。底では暗い色をした波が生き物のようにうねっている。

 

 彼女の眼前には灯りを持った白装束の人間がいた。真っ白な衣装にはおびただしい真っ赤な花が咲いている。

 鈍い光が月光を反射し、彼女の姿を映した。

 

 一歩一歩と死神の歩が近づいてくる。

 

 ここで生き残るにはここから身を投げるしかない。しかしここから落ちたら自分は助からないだろう。

 

 斬られて死ぬか、溺れて死ぬか。二つにひとつ。

 

 ────()()()()

 

 

「ッ!?」

 

 

 驚きの視線が向く中、彼女は着ていた衣服を脱ぎ捨てた。さながらサナギのようになった衣を残し、彼女は暗い海を見下ろす。肌には突き刺すような寒さが襲った。

 

「お待ちなさ──ッ!!」

 

「私は」

 

 彼女はまっすぐに血濡れた彼らに背を向け、両手を広げて飛び降りた。

 

 慌てて駆け寄った彼らの顔が遠ざかっていく。世界の時は限りなく遅くなり、永遠のようで一瞬の間の後に彼女の体は暗い水の中へと落ちた。

 

 波は荒く、とてもではないが泳げそうにない。

 

 それでも彼女は懸命にもがいた。

 

 理由は単純だ。生きたいから。

 

 生きて、もう一度。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 地面に横たわる誰もが安らかな表情のまま眠っている。

 

 彼らは『夢の住人』のまま旅立った。その頭は点々と一列に並べられる。

 

 最後に残った白装束の者たちは刀を置き、その場に正座する。

 彼らは両手を握り合わせ、まぶたを閉じた。

 

「では」

 

 わずか数秒にも満たない間に次々と首が切り落とされ、地面に赤い水溜りを作る。

 

 正真正銘、彼らの首を切り落とした最後の一人は己の首に刀をあてがう。

 

 

 微笑みながら、祈りを込めて。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 らしくないことはすべきではないと、吉良は少女を助けた件で学んだ。

 

 車に轢かれ一時は心肺が止まり、もうこれは完全にご臨の終でございやすねから奇跡の復活をはたした。

 

 本当に『運』があるんだかないんだか分からない人生である。

 

 問答無用で仗助に治されそうになったケガについては、必死の説得でリハビリに移ったら──ということで納得してもらった。

 

 現状は事故の影響で左──特に足の方が複雑骨折(おしゃか)になっている。

 

 呼吸器をつける生活は随分と久しぶりで、知り合いの見舞いを受けながら吉良は「らしくないことは二度としない」と改めて心に誓った。

 

 

 

 それから時は流れ、肌寒い季節となった。

 

 入院していた吉良はその合間に時間をもてあまし、気づけば短篇を一本書いていた。

 あ、ありのまま今起こったことを話すぜ…! な気分だった。

 

 作家業を引退すると言っておきながら、さながら認知症になっても歌を聞いた瞬間踊るバレリーナのように手が動いていた。

 

 いやいや、これはあくまで趣味。このノートが誰かさんに見つかる前にさっさと証拠を隠滅しなければならない。さもないとかつての二の舞になる。

 

 幸い写真の幽霊は家で留守番しているので、爆破してしまえば終わりだ。

 

 だがしかし、こういう時に限って人がやってくる。スタンド使いの欲張りセットな不良二人組と、そのすぐ後にやってきた漫画家&広瀬康一ペア。

 

 仗助は特徴的なヘアバンドを見るなり「うへぇ」と声を漏らし、露伴はただでさえ不機嫌だったのがさらに不機嫌になった。

 

 そして軽いいざこざが起き、露伴の鞄の中身が吉良のベッド下にぶちまけられ──そこから意図せぬノートのすり替えが起こってしまうことになる。

 

 吉良はその事実にすぐに気づいたが、入れ替わったノートが露伴のネタ帳。向こうもすでに気づいたに違いなかった。

 

 

「これは字数的に短編のようだが──」

 

 

 翌日の朝一番に訪れた漫画家はしっかりと読んでいた。白目を剥きたい吉良の心情などおかまいなしに、やや文字数の多い感想までくれる。

 

 まだ出版されていない星ノ桜花の最後の作品が出されれば、露伴は間違いなく「じゃああの短編はなんだったんだ?」となり、問い詰めてくるだろう。

 

「──で、いつ出すんだ?」

 

「まず先にノートを渡せ」

 

 吉良の背後から現れたキラークイーンが露伴の手からノートを引ったくり、ついでに露伴のネタ帳も押しつける。

 

「これは趣味で書いたものだから出す気はない」

 

「………なんだと?」

 

「文字どおりの意味だ。用件は済んだだろ? さっさと帰ってくれ」

 

「………」

 

 露伴は吉良の手にあるノートをじっと見つめた後、椅子を引きそこに座った。

 

 吉良の顔が恐怖映像を見たワイプの芸能人のように引きつる。

 

「これはクソッタレ仗助とアホの億泰に『書き込む』時にチラッと見た内容だが、お前の家には賞状やトロフィーが飾ってあるみたいだな。それも複数の」

 

「会話するのも結構疲れるんだがね……」

 

「ヴァイオリンに絵画や作文コンクール──随分と多種多様じゃあないかと思ってね」

 

「それが?」

 

「お前という人間は僕の幼少期の記憶を思い出すかぎりでも、基本的に目立つことを避けるタイプだった」

 

 そんな目立つことを嫌う人間が、人気作家という『目立つ』職業をやっている矛盾。

 

 吉良なりの事情があるにせよ、生じるこの矛盾を露伴は気になっていたわけである。

 

 

「前から思っていた。“恋愛”を仕事として書く星ノ桜花と、“狂気”を文章化する星ノ桜花。後者は貴様の言葉を借りるなら、「趣味」で書いたんだろうな」

 

 趣味で書いたにも関わらず、ページをめくる手が止まらないのが小憎たらしいところなのだが、それはさておき。

 

「『仕事』ならともかく『私事』で書いたものを衆目にさらすのは、吉良吉影(おまえ)の美学が許すのか?」

 

 露伴は背を丸め、首をわずかに傾ける。

 

 素朴な疑問。目立ちたくないと思いながら目立つ行動を取るのは、自己顕示欲の表れなのか。

 

 それとも()()()()()()()()()()()の選択なのか。

 

 その矛盾こそ、露伴にはこの男の人間味────()()()()()()に感ぜられた。

 

 

「……一番最初に出されたのが『趣味』の小説で、この時点でその作家の指向性が露見してしまったのだから仕方ないだろ」

 

「──……ハァ〜ッ、なるほどなあ。「純愛作家・星ノ桜花」の肩書は後から修正した結果だったってわけか」

 

「漫画家なのだから君にも分かるだろう。わたしは読み手が求めた星ノ桜花のニーズに応えただけだ」

 

 才能は天性のものだとしても、職と作家本人の人間性が相容れない。

 露伴がそれを指摘すると、吉良は「その通りだねぇ」と何やら意味深な笑みを浮かべた。

 

 そのリアクションに露伴は片眉を上げつつ、ところで、と声色を変える。

 

 

「最近さあ…」

 

「………なぜ急に相談事でも始まりそうなトーンになったんだ?」

 

「康一くんにはすでにしたんだが、最近誰かに見られている感覚があるんだよ」

 

 じっとりと汗を流す露伴に向くのは冷ややかな視線である。

 

「お前はストーカーに刺された経験があるだろ」

 

「それはわたしの、ではなく鈴美の──だったろう」

 

「クソッ……幼少期の経験はトラウマになりやすいというが、貴様が刺されてぶっ倒れたのは結構しっかりと記憶に残っているんだぞ…!!」

 

 自分が刺されることはないと思いたいが、人間の狂気(リアリティー)は時にどう転ぶか分からない。

 

 岸辺露伴がグッサリ刺されてニュースになる未来だってあり得る。そしたら(ネタ的には美味しいが)連載に影響が出るので勘弁願いたい。

 

「君にはヘブンズ・ドアーがあるから問題ないと思うが……一応、しっかり戸締りをしておけばいいんじゃないか?」

 

「………」

 

「あとは万が一の時用に、避難できる別荘でも持っておくとか」

 

「────ヘェヘェ、ナルホド」

 

 露伴は盛大に舌打ちし、「ご意見ドーモ」とノートを掲げて部屋を出ていった。

 

 岸部露伴が厄介ファンに刺されたとしても、半分くらいは自業自得じゃなかろうか? 人気であれば過激な思考を持つファンが出てくるのは当然であるし、自分の名前が書かれた服で外を出歩いているのも問題がある。

 

 まあ実際に刺されようが吉良には関係のない話なので、彼はさっさとノートを消し炭にしたのだった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 暗い海の中は一度飛び込めば驚くほど静寂に包まれている。

 

 ただ完全なる沈黙ではなく、時折魚が泳いで振動してくる音だとか、泡の音だとかが聞こえてくる。

 

 彼女の体はとうに動かなくなり、意識だけが水中の中でポツリと浮かんでいる。

 

 冷たかったはずの水は次第に温もりを持ち始め、まるで胎内にでもいるかのようだった。

 

(…?)

 

 ふとその時、何かの鳴き声が聞こえた。

 

 不思議に思った彼女はまぶたを開け、暗闇の中を泳ぎ出す。そうして鳴き声の元まで泳ぎ続けていると、一匹の魚を見つけた。

 

 海底から生えた無数のワカメに絡まった魚が、必死に体をよじらせて逃げようとしている。

 

 哀れに思った彼女は手を伸ばし、絡みつくワカメを引き剥がそうとして息を呑む。

 

(────ッ)

 

 自分の手の中にあるのは長い長い、うねった黒い髪の毛だった。

 それが小さな魚に何重にも絡まっている。

 

 と同時に、魚の鳴き声が今度は明瞭に聞こえた。

 

 

『た す け て』

 

 

 彼女はその言葉に応えるように髪の毛を夢中で引きちぎり、中から魚を引きずり出す。

 

 手の中にすっぽりと収まる小さなそれ。体はぐったりと動かず、瞳も閉じていた。

 

 かわいそうに、と彼女は小魚を抱きしめる。そうしていると触れた部分から小魚の苦しみが伝わってくるようで、瞳からはとめどなく涙が溢れた。

 

 かわいそうに。彼女はもう一度呟く。

 

 

 彼らの周囲には無数の髪の束が迫っていた。

 

 髪の毛が彼女もろとも、小魚に絡みつき覆っていく。

 

「そう、そうなのね。お前は()()なりたいのね」

 

 小魚の体に頬をくっつけ、彼女は微笑んだ。

 

「なら、私がお前の願いを叶えてあげるから、おいで」

 

 生白い手が小魚の体を導き腹へと押し当てる。

 だから、と彼女は続けて言った。

 

 

(わっち)を、生かして」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 ザザア、と波の音がした。

 

 水平線から覗く朝日が砂浜に横たわる生白い女の肌を照らす。

 

「ん? どうしたポチ……ありゃ? 人が倒れとる!!」

 

 早朝の散歩に来ていた男が倒れていた女に気づき、慌てて駆け寄った。一糸纏わぬその姿に男は思わず生唾を飲み込んだが、煩悩を振り切って自身が着ていた上着を羽織らせる。

 

 女にはまだ息がある。ただ、体はすっかり冷え切っていた。

 

 ともかく早く110番をしなければと、男は近くにある家まで駆けていく。肝心の愛犬の方はすっかり忘れられ、フンフンとしきりに鼻を鳴らしていた。

 

 犬の鼻息が煩わしかったのか、徐に女の手が犬の頭をつかむ。

 直後閉じていたまぶたが開き、ポチと女の視線が絡まった。

 

 途端に犬の重心が低くなり、ヴーと唸り声が上がる。女はその頭をひと撫でし、口を開いた。

 

 

 

 

 

「ああ、だから素っ裸の女が倒れていて……って、アレ?」

 

 

 男が戻った時にはすでに、倒れていた女の姿は無くなっていた。

 

 代わりに残されていたのは愛犬の首輪と、真っ赤な血だまり。

 

 男の顔はたちまち青白くなり、かすれた声で愛犬の名前を呼んだ。

 

「いったい……なっ、何があったんだ? 俺のポチは………」

 

「………きっとお前さんの見間違いだったんだろう。今日のことは忘れろ」

 

 年配の男は取り乱す男を宥め、その場を後にする。

 

 

「犬耳の生えた人間なんぞ、この世にいるわけがない。

 

 ────いいな?」

 

 

 有無を言わさぬその圧に、愛犬を殺された男は首を縦に振るしかなかった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 入院が続けば染めている髪もすっかり元の色味を取り戻し、暗闇の中でよく映える色になる。

 

 時計の秒針を聞きながら、吉良はついと人の病室をたまり場にしがちな学生連中の会話を思い出した。

 

 看護婦に対して彼らは思春期らしく、妄想を膨らませていた。呆れた話だと吉良は切り捨てさっさと帰らせたのだが。

 

「ン……」

 

 病室には自分以外の呼吸のほかに、鼻にかかるような息づかいが聞こえる。可愛らしいカノジョが肌を撫で、尽くしてくれる様は彼の底のない欲望を満たした。

 

 

 熟れた顔が離れ、若い看護婦は手早く乱れた双方の服を直し「また…」と言い残して去っていく。換気のために10cmほど開けられた窓からは新鮮な空気が入り込んだ。

 

「ハァ……」

 

 ベッドに体を預けた吉良は、天井を仰ぎ見る。

 

 杉本鈴美を愛し続けながらも乱れに乱れた生活を続けている自分はいったい何なのか。

 

 墓参りも延期になっているというのに、我ながらため息しか出ない。

 

(刷り込みとは恐ろしいものだな)

 

 カーテンの隙間から見えた空には満天の星が浮かんでいた。

 

 自分もそろそろ寝ようと意識を暗闇に預ける。

 

 その時一瞬、カーテンの後ろに影ができた気がした。

 

 

(────影?)

 

 

 閉じたまぶたを瞬時に開き、体を後ろに下がらせる。だが無理に動かした足に痛みが走り、うめき声が上がった。

 

(…気のせいか?)

 

 見えたはずの黒い影はいなくなっていた。()()()()はよくあることなので、今回も見間違いだったのだろう。

 だが心臓を脈打つ音は一向におさまらない。彼の勘が嫌な予感を訴えていた。

 

「ッ……」

 

 ひときわ大きな風が吹き、カーテンが勢いよくめくれる。

 

 吉良の視点は窓の縁に注がれた。そこに人間と思しき手が二つ、そこをつかんでいる。

 

 下からゆっくりと顔が覗いた。黒く長い髪がうねりを上げ、女の顔を覆い隠す。

 

 赤い口元がガパッと開き、妖しい弧を描いた。

 

 

 

「見ぃつけた♡」

 

 

 

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