転生したら殺人鬼ポジだった件 作:クリーニング黒兎
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本小説は吉良吉影が血まみれのところを一生見ていたいスポンサーの提供でお送りしています。
仕事中にはラジオやクラシックを聴くことが多い。
持ち運びするならMDプレイヤーに限るが、家でじっくりと音楽を楽しむならば機材にこだわりを持つべきだろう。
中でもレコードは良い。
音に温かみがあり、音によって振動する空気感まで感じられる。アナログならではのノイズ交じりの音もまた味がある。
休日に温かいコーヒーを飲みながら、自室でゆったりと読書に耽る。そこに流れてくるのはJ.S.バッハの『チェロ無伴奏組曲第1番』。
習い事でヴァイオリンをさせられていたこともあったが、チェロはヴァイオリンより約2倍は大きさがある。
今流れている曲はチェロを想定してつくられた曲だが、別の楽器でアレンジをし演奏することもある。
「ん?」
ふいに音が加速したかと思えば、免許講習で習うゆるやかに停止しろ、な速度で音の減速が起こりついには止まった。
「…これも寿命か」
使っていたプレイヤーはレコード隆盛期だった頃にオヤジが趣味で買ったもので、本人の死後、遺品整理をする中で残った数少ないものの一つである。
CDがレコードに変わり時代を席巻する今、旧態依然のものは過去の遺物となってしまうのか。
──否、そこに需要があり続けるなら、簡単に廃れやしないだろう。
ひとまずこのプレイヤーをどこで買ったのか、オヤジに聞きに行った。
◇
1999年といえば、宇多田ヒカルやGLAYに浜崎あゆみエトセトラ──。
世はまさに大CDバブル時代。財宝を探した暁には宝箱の中から3つのだんごが出てくるだろう。
レコードの生産枚数はすでにCDに超され、一般家庭でもレコードプレイヤーが姿を消していく。さながら家庭用ミシンのように。
それでも一部の人間は変わらぬ熱量でレコードというものを支持し続ける。
吉良もまたCDにはないレコードの良さを支持する男だった。
そもそもレコードが隆盛を誇った1960年代〜1980年初頭のド直球世代である。
「オーディオ専門店…か」
10年以上愛用していたレコードプレイヤーが壊れてしまった吉良は、父の吉廣から聞いた場所へと訪れていた。
S市の中心部からは離れた少し寂れた印象を受ける街の一角。そこに件の店はあった。
店主の男もかなりの年配になり亡くなっている可能性もあると吉廣は語っていたが、当の店主は曲がった腰で杖を突きながらも健在だった。
店の外観は潰れかけのようで吉良は最初嫌悪感を露わにしたが、いざ中に入ると清掃が行き届いている。陳列された商品にはホコリも一切なく、それがこの店の店主の『物』に対する敬意だとか誇りとか、愛情を感じ取れた。
(CD関連のオーディオが多いな…)
これも時代というやつだろう。
マジマジとCDプレイヤーを観察する吉良に、コツコツと杖の音が近づく。
「それは最新の24bit対応のCDプレイヤーでしてね、お値段はかなりしますが16bitと比べて音のきめ細やかさが段違いなんですよ」
「…へぇ」
「例えばアニメも1秒にかける枚数の多い方が、キャラクタァの動きがなめらかになるでしょ? それとおんなじ理屈ですよ」
「興味深い話をありがとう。ただわたしが買いに来たのはCDプレイヤーじゃないんだ」
「ホォ! それはそれは…」
店主の老人は顎ひげを撫でながら、口元に深い笑みを浮かべる。
「ということはお客さん、レコードプレイヤーを見にきた口だね? いやはや、嬉しいもんだ」
こういった店に来る客が求めるのはCDプレイヤーやその関連機材が多く、それこそかつてはレコードオンリーの取り扱いだったのが時代の変遷を経て、レコードプレイヤーは店の隅へと追いやられた。
「父が買いにきていた頃とは大きく変わっているんですね」
「仕方ないさね、古いものは廃れていく。まあ古くなって、後はぽっくり逝くだけのわしらよりはマシだろう。……ん? 今父親と言ったかい?」
「ええ、ここへ来たのも父の遺品であるレコードプレイヤーが壊れたので買いに来たんです」
「そうかそうか! もしやお父さんは田辺国広という名前だろう?」
「まったく違いますね」
吉良が名前を伝えると、店主は一拍の間を置いて「ああ、あの落ち武者じいさんか」と吉廣に対する最大級の悪口を言った。
「自分にはもったいないくらいの優秀な息子がいると聞いとったが、君が吉廣さんの……」
店主は吉良の頭髪をまじまじと見つめ、大仰に頷く。息子は母親に似て娘は父親に似るとよく言うが、この男もその例に漏れなかったようだ。
そんな店主の反応に吉良のこめかみがピクつく。
「……亀ユーにも近ごろじゃあオーディオを取り扱う店ができたようだから、やはりそちらに行くことにするよ」
「おっと、気分を悪くしたならすまない。じゃがお客さん、わしはレコードを取り扱ってかれこれ40年。あなたの耳に入る一曲を、『最高』のものにしたくはないかね?」
店を出かけた吉良の足が止まる。
人を苛立たせるところは誠に傷だが、この老人のレコードに対する熱意というのは店にある機材の取り扱いを見ている限り十全に伝わる。
「そうか。ならばきっと、貴方は聴く音楽にもこだわりがあるのだろう」
そう前置きし、吉良は店主に尋ねる。
「店主のお気に入りの『一曲』をわたしに教えてほしい」
流氷に覆われた海のように冷ややかな視線を送る吉良に、店主は皺の目立つ喉仏を鳴らす。
この客は間違いなく、自分の選んだ一曲でこの店でレコードプレイヤーを買うか否かを決めようとしている。
店主は試されていた。まさか曲ひとつでその人の人間性を推し量ろうとするとは。こんなこと、老人の長い人生でもはじめてである。
だからこそ燃えた。すでに乾ききった死にかけの老耄であるがしかし、レコードに生涯を捧げたと言っても過言ではない。
「レコードを楽しむなら、クラシックやジャズもいい。だが──」
やはりレコードといえば切っても切れぬロック。
老人がすでに老人に片足を突っ込んでいた時に巻き起こった新たな旋風。
彼は選ぶ。自分のお気に入りの一曲を。
「わしはクイーンの『ボヘミアン・ラプソディ』を選曲しよう」
ロックといってもアカペラやバラード、オペラやハードロックが混ざった曲の構成において革新的な一曲である。
「なるほどね…」
吉良はロックよりもクラシックを好んでいる。平穏を望む彼に激しい音楽は合わない。
「
自身のスタンドの名を付けたのも、クイーンの曲がたまたま耳に入ったのがきっかけだった。
吉良はこの店主に自分が『最高』の音楽を聴くためのレコードプレイヤーを選んでもらうことにした。
◇
レコードプレイヤーは高いものでは数十万もする。
『最高』の一曲を聴きたいなら当然、値のするものの方がその音質も最高のものへと近づくだろう。
だがしかし、吉良にとってはそう単純な話でもない。
何がダメかといえば、「1番」というのがダメというか、気に食わない。
本質的に最高級の品は相容れず、一方で格安なレコードプレイヤーはもっての他である。
高級ながらもグレードが高すぎず低すぎず、彼に合ったレコードを吟味することしばし。
選んだ一品は『YAMAHA GT-2000L』。総重量は小学生一人分はゆうにある。
商品は取り寄せることになり、その日は一時金を払い店に届いてから残りの金額を支払うことになった。
それから日が経ち、店から品が入ったとの連絡が入った。
運転中に鼻歌を歌うくらいには吉良も上機嫌になる。
何事もしかし浮き足立つのはよろしくない。こういう時こそ平常心を心がけるべきで、店に行く前にカフェでアフタヌーンティーを一杯飲んで気分を落ち着かせた。
少し時間が経つと学生の客がちらほらと見受けられ始め、若い群衆がカフェを占領する前に席を立つ。
店に着くと、店主は試し聞きとしてクイーンの曲を流した。
選曲したのは吉良で、爆発する彼女(意訳)に勝手に出ていたキラークイーンも満足げである。
「ああ、実にいい響きだ」
レコードプレイヤーは吉良の家で宅配することになり(持ち帰る際に吉良がギブアップし、サムズアップで「宅配で」と言った)、残りの金額を払い店を出た。
体力を付けていたはずだが、筋力面ではまだまだのようだ。落ち着かせた気分が一気にマイナスに振れたのでよろしくない。
そしてさらにその帰り道、吉良は信号機の停止中に空を飛ぶ漫画家と少年を目の当たりにした。幻覚かと思い目をこすったが、確かに岸辺露伴が空を飛んでいる。
彼は何も見なかったことにしたところで、今度はリーゼントヘアの青年が老人に詰め寄っている光景を目撃した。
なんだかこちらも面倒事そうだと思い通り過ぎようとしたが、こちらに気づいてしまった仗助が全速力で駆けてきて、ドアを叩く。
「……何だね?」
吉良は仕方なく車を路肩に停め、窓を開けた。運転席が左にある作りのため、窓を開けるとすぐ側に仗助の顔がある。
仗助は顔じゅうに冷や汗を浮かべていた。
「すっ、すんません急に! じじいが赤ん坊を見失っちまって…!!」
「………わたしに探すのを手伝えと?」
「頼んマス、マジで!!!」
「ハァ……」
ここで「NO」と言って窓を閉め、走り去るほど彼は心がないわけではなかった。後からジョセフも追いつき、赤ちゃんは吉良にもよく懐いているから、と頭を下げる。
ここまで言われてしまっては仕方ない。内心面倒この上なかったが、吉良は赤ん坊の捜索に出た。
この赤ん坊はスタンド使いで、自身が透明になるだけでなく周囲を透明にすることもできる。
まだ幼いせいか、そのスタンドの影響が出る範囲は赤ん坊の精神状態に左右される。
「アンタがしっかり抱っこしとかないからっスよ!!」
「すまんのう…」
捜索の途中で仗助が露伴を発見し、一緒に探すよう頼んだ。
いつものにべもない態度はどこへやら、岸辺露伴は文句を言うこともなく探し始める。これに妙な違和感を抱いたのは吉良で、自分も探しながら露伴の様子を観察した。
(あの小僧、何か焦ってるな……)
ちょうどその時、吉良の目が同じように露伴を見つめていた少年と合った。頬に穴のある少年は先ほど露伴と一緒に空を飛んでいた子どもだ。
露伴を見つめるその視線には困惑と罪悪感の入り混じったものが見受けられる。
この少年は何か知っていそうだと、吉良の勘が言っている。
「そこの君は見てないかい?」
「えっ!? あ、えっと……」
「急いで見つけないと、側には車道もある。赤ん坊の体格じゃあそれこそ、車に轢かれた猫や狸のように潰れて死んでしまうだろうね」
「うっ……うう…」
「可哀想に。来た後続車にさらに潰されて、最後はハンバーグのミンチみたいに成り果てるのかな」
「ッ……!! ………!!!」
少年の表情が真っ青になった。目尻には涙が浮かび、体が震え出す。その様子に気づいた仗助が「どうしたんスか!?」と駆け寄ってきた。
「ご、ごめんなさい……僕のせいだっ…」
少年は拳を握りしめ、自分が露伴とじゃんけんをしたことや、赤ん坊を人質に取ったことを明かす。
話を聞いた仗助は露伴に詰め寄った。
「赤ん坊にスタンド使って危険にさらしてんじゃねェよ、アンタ──ッ!!」
「だぁ、僕だって絶体絶命のピンチってやつだったんだよ! それに悪いと思ってるからこうして探してんだよッ!!」
「二人とも、言い争うなら後にしてくれ」
ジョセフに咎められ、若者二人は赤ん坊を探し始める。そこにじゃんけん小僧も加わり、赤ん坊捜索網が広がる。
一方で吉良の方はフェードアウトしていった。
「ちょっと、吉良さん!?」
「小僧の尻拭いをしているほどわたしは暇ではないのでね。帰らせてもらうよ」
ジョセフのうっかりで行方不明になってしまったのだったら手を貸したが、気に食わない小僧(露伴)に過失があるなら話は別。
「ま、マジに帰っちまいやがった、あの人…!!」
「アイツに人の心を求めるだけ無駄さ」
結局いくら探しても、赤ん坊は見つからなかった。
◇
面倒ごとに巻き込まれた吉良は気を取り直し、音楽を流しながら車を運転した。
これで本当に赤ん坊が車に轢かれでもしたら知り合いの人間関係が泥沼になりそうだが、彼には関係のない話だ。
「あの赤ん坊はそもそもハイハイはできたんだったか? …まあいい」
車の後部座席では、KQがクイーンの歌に合わせてニャンニャンと歌っている。
やがて車は自宅に到着し、吉良は吉廣に店主の件やレコードプレイヤーが数日後には家に届くことを話す。
【だっ……誰が落ち武者だとぉ!!?】
吉良の家はしかし落ちぶれた武士の家系なので、『
吉良はご立腹な父親を無視し、庭で騒がしい猫草のもとへ向かった。
「夕飯にはまだ早いぞ。……ん?」
猫草の側には膝を抱えて座っているキラークイーンもおり、その一角だけニャンニャンと騒がしい。
だがその声に混ざって何か、赤ん坊と思しき声も聞こえてくる。
「………」
吉良はキャットフードを床に置き、サンダルを履いて腰を下げ、うっかり踏みつけてしまわないようにしながら慎重に近づく。
そうして海に落とした携帯を探すように手を伸ばしていると、柔らかい感触が触れた。その瞬間その物体をつかみ腕に抱える。
すると赤ん坊の楽しげな声が聞こえてきた。
「……キラークイーン」
『ニッ』
「お前そういえば、車で帰る前から出ずっぱりだったな…?」
『ニャー』
猫は悪びれた様子もなく赤ん坊に顔を近づける。
透明な赤ん坊の方はきゃっきゃと楽しげな声を上げた。
もちろんすぐに杜王グランドホテルの方へ連絡を入れたわけであるが、その電話を取ったのは空条承太郎である。
後日遊びに来た老人に、吉良はこう呼ばれた。
「スケコマシーザー」と。
ヨヨ熱が最近熱いので久々にリクエストボックス解放してます。感想でも喜びますし、性癖語りでも全然いいです!というか人の性癖をただ読みたいまである。
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ボックス自体は予告なく終了する場合があるのでその点はご了承ください。