転生したら殺人鬼ポジだった件 作:クリーニング黒兎
昼下りの屋上。買ってきた弁当を広げながら駄弁る高校生3人の姿がある。
「康一よぉ〜オメェもしかしてその弁当、
泣く子どころかそこいらのチンピラも黙る強面の男、虹村億泰。
「本当は由花子さんと食べる予定だったんだけど、用事が入っちゃったみたいでさぁ」
頬を赤くしながら照れた様子の少年、広瀬康一。
「今の時代、ハートマークがついた弁当かぁ…うひぃ」
そして最後がリーゼントが特徴的な男、東方仗助である。
最初は敵同士だった仲でも、杜王町で起きるスタンド絡みの事件で3人は親交を深め、昼食をともにする仲になった。
この手で悔し涙を流す億泰はいつものことなので、康一と仗助は手を合わせて弁当を食べ始める。
彼女のお手製弁当の康一と違い、仗助と億泰は買い弁である。
「そういやさぁ、康一って犬を飼ってたよな?」
「うん、飼ってるよ。ポリスっていう名前で大型犬なんだ」
「犬で思い出したんだけどよ、最近けっこー野良犬を見ねぇか?」
飼い主に捨てられたであろう犬が、餌を求めて街の中をうろつく。住民からすればいつ噛みついてくるかもわからない存在は恐怖の対象に映るだろう。
「犬かぁ……オレもよォ、ガキの頃にピットブルとかドーベルマンが欲しいって思った時があったよ」
「億泰くんが? でも大型犬ってさ、思った以上に飼うのが大変だよ。小型犬と違って体の大きさが違うから、もし病気になった場合は治療費が跳ね上がるし」
「ああ、だから兄貴に言われたぜ。お前じゃ飼ったとしてもすぐに面倒を見なくなる…ってな! もちろんオレは反対したよ? 犬くらい
ならばと、兄の形兆は億泰に試練を出した。それがカブトムシの飼育だ。
その結果は、形兆の「だから言っただろうがァ!!」のグーパンで幕を閉じる。
「俺はショージキ犬はちょっち苦手だなぁ」
「えっ…そうなの?」
「小学生の下校してる時に道でばったり出会してよ。それが結構怖かったんだよなぁ…。襲ってきたらと思うと迂闊に目もそらせねぇし」
「ププッ、ダセェなぁ仗助クンは」
「ンだとテメェ〜〜!? オメーも実際にガキの頃に出会したら金玉縮み上がっからなあ!!」
「バカ言えェ! この虹村億泰様がたかが犬っころ如きにビビるわけねぇだろ!!」
「ア゛アン?」
「オ゛オン?」
「もうっ、食事中に喧嘩はやめてよぉ〜!」
そう言いながら康一は購買で買ったパックの牛乳をすする。
くだらないことで喧嘩が絶えないのも、日常茶飯事な光景だった。
それからクールダウンした二人はおとなしく弁当を食べ始める。
「でも…捨てられた犬や猫ってさ、保健所に送られちゃうわけでしょ? それってすごく……やるせないよね」
「捨てるやつが悪ぃんだぜェ、そういうのは」
「うん…僕もそう思うよ。たとえ何らかの事情があるにせよ、飼い始めた命には最後まで責任を持たなくちゃダメなんだ」
康一がまだ幼かった頃に飼ってもらったポリスもすでに高齢だ。特に大型犬の命というのは小型犬と比べて短い。
先ほど言ったように、医療費だってかかる。それでも散歩は毎日欠かさないし、自分にできる最大限の愛情を注いでいる。
「康一……つくづく思うが、お前ってマジに善人だよ」
「こうしてっと、宝くじで中坊と殺し合いになりかけたオレたちってよォ……」
「醜い生き物だなあ…」
仗助と億泰は遠い目を浮かべ、青い空を眺めた。康一は苦笑いしながら由花子お手製の卵焼きを食べる。
(……あれ?)
ふいにその時、視界の端で小さな──虫のような物体が見えた。
康一は弁当を置き、それが過ぎ去った方角へ視線を向ける。そこは屋上につながるドアの場所で、開きっぱなしになっていた。慌ただしく足音が遠ざかっていくのも聞こえる。
(あのスタンドって……重ちーくんのハーヴェスト?)
さっきの会話で出ていた中坊というのがまさにこの重ちーこと、
「ねぇねぇ、仗助くんに億泰くん、さっき重ちーくんがそこにいたみたいなんだけど…」
「おっ、マジ? 一緒に弁当でも食べにきたんかな」
「僕、前にあの子とトラブルがあって怒っちゃったからさあ、声をかけづらかったのかも……悪いことしちゃったな…」
「およよ? 康一と重ちーって顔見知りだったの?」
「これはちょっと前の話なんだけど──」
康一はポリスの散歩中に出会った重ちーと、ついでにポリスに体当たりを受け吹き飛んだ男について話し始めた。
◇
(た、たたっ、大変だどー!!)
重ちーはドスドスと走りながら自身の通学路でもある道をひた走った。
そこから木々が転々と生えた細い並木道に入り、一本道を横にそれて低木をかき分ける。
重ちーがここまで焦るのには理由がある。それは人目のつかない場所にある段ボール箱にあった。
「ミー子……ミー子、どこにいるんだどぉ!?」
「ミー子」と名を呼ばれているのはキジトラの子猫である。
この子猫は元々捨てられていたのを重ちーのハーヴェストが発見し、そこから世話をするようになった。
本当は飼いたかったのだが、母親が猫アレルギーで飼うことができない。そのためこっそりとここに訪れ、餌を与える毎日が続いた。
「ミー子……保健所に連れて行かれちゃったの?」
彼女は昨日の夕方に会った時、その前の日にはなかったケガを負っていた。右脚を折り曲げるようにひょこひょこと歩いてきたのだ。心ない誰かにいじめられたのだろう。
仗助に治してもらうよう頼もうと思っていた矢先の今だ。
「ごめんだど、ミー子……おらがママに無理を言ってでも飼ってあげてたら…」
重ちーは涙を流し、鼻水をすすった。
◇
『ニャー』
「ぐえっ」
平日の午後。作家たる男は仕事の延長線上で街を歩くカップルを観察していた。
ある時はカフェで新聞に目を通すフリをしながら学生たちを盗み見し、またある時は並木道を手をつないで歩く男女を木の後ろでランチを食べながら横目で見る。
そんな翌る日、彼──吉良吉影は地に背中をつけた状態で引きずられていった。
それもこれも帰ろうとしたところで突然に相棒のビッグキャットが現れ、本体が転倒したのもお構いなくズンズンと進んだせいだ。
「キラークイーンッ!!」
『ニャー!』
吉良は我がスタンドを無理やり引っ込めようとしたが、KQはまだ散歩がしてぇとストライキを起こす犬のように首を振る。
こうなるとこの猫は制御不能になってしまうので、吉良は渋々キラークイーンの後に続いた。
「みぃ」
『ニャー』
「……そんなことだろうとは思った」
子猫が一匹、ぽつねんと段ボール箱の中にいる。茂みの中に隠されるようにして置いてあり、周囲は雨が降っても大丈夫なようにか布などで簡易的な屋根が作られている。
「袋の切れ端が落ちてるな…誰かこっそり餌でもやってるのか?」
「みゃん」
吉良が手を差し出すと子猫は三つ足でひょこひょこと近づき、指に頬をすりつける。この人慣れ具合から見ても誰かに餌を与えられているのは確実だろう。
「家庭の事情でおそらくは飼えないんだろうな」
『ニャー』
「うちにはすでに猫草がいるだろ」
『ニャーン』
「だめだめだめだめだめ…」
なまじ家で猫? を飼い始めてしまったものだから、キラクイーンは味をしめて吉良に仲間を増やすよう要求しているのだろう。
だが飼ったところでその世話をするのは誰だ? ──そう、吉良である。
猫草は腹が減って暴走しなければほとんど手はかからないが、実際の猫で、しかも子猫なら暴れ倒すに決まっている。
「うちはしかも和室なんだ。躾ける前に畳や柱がボロボロになったらどうしてくれる」
『ニャー』
「瞳を輝かせてもだめだ。不気味なやつめ…」
吉良は今度こそキラークイーンを引っ込め、その場を後にした。
しかしその背後にうっすらと現れたデカ猫は、ちゃっかり子猫を横領したのである。
その結果、吉良の家で猫草が嵐を吹いた。
「シャアアアァァ!!!」
「ンン゛ーナーゴナゴナゴ…」
子猫の方も毛を逆立て小さな体をめいいっぱい大きくしてみせる。
吉良は犯猫を半目で見つめ、一方でKQはオロオロと二匹のまわりを回った。
猫にも相性があり、オスとオスは超絶に仲が良いか悪いかの二択になることが多い。
その点猫草と子猫の相性は最悪だったようだ。猫草とKQの相性は抜群で、KQの腹に猫草を収納できるほどだというのに。
吉良は仕方なく、その日は子猫を病院に連れて行ってからケージに入れた。
獣医曰く足が折れているらしい。治療しても完璧に元通りになるかは微妙とのことだったので、後日仗助のもとへ連れて行くことにする。
「里親探しはどうするか…」
担当編集に押し付けようとも思ったが、そもそも向こうはペット不可のマンションに住んでいる。だから猫草も吉良の家で飼うことになったのだ。
「……学生連中に頼むか」
仗助がひと声かければ女子生徒の10人や20人が寄ってきて、億泰がひと声かければ女子生徒の10人や20人が逃げていくだろう。
世界はかなり、億泰に世知辛いつくりをしていた。
◇
かくして吉良から里親探しのバイトを請け負った学生三人組は、周囲に声をかけはじめた。
康一は中学生を担当し、仗助と億泰は高校生を担当する。
すると女子生徒の一人がすぐに買って出た。
メスの先住猫が一匹いるそうだが、オスとオスの組み合わせと違ってメスとオスは多頭飼いに向いている。
一応お試し期間を設けて相性を確かめてから、ということで話はまとまった。
「じょ…仗助さん」
「おっ? どうした重ちー?」
そんな折、康一と一緒に重ちーがやってきた。重ちーは康一から子猫の里親を探している件を聞き、その特徴を知ってハッとしたそうだ。
「も……もしかしたらその子猫、前脚をケガしてなかった?」
「ああ、ケガしてたぜ。俺の知り合いが保護して、治してくれって頼まれたんだ」
「もしかして重ちーくんが言ってた猫って…」
「よかった…! ミー子………保健所に連れていかれたわけじゃなかったんだど…!!」
重ちーはさめざめと泣く。
「何もそこまで泣くこたぁねぇだろ」
「それだけ無事で嬉しかったんだよ」
場がいい雰囲気になり、漫画だったらここで【to be continued...】になるタイミングで後ろから声がかかる。
「仗助ェ! 康一ィ!!」
仗助とは別行動で里親を探していた億泰が手を振って駆けてくる。うしろを振り返った仗助と康一は思わず硬直した。
億泰の後ろに、大量の不良たちがいる。側から見たらいったいどんな光景なんだと思いたくなるし、いかつい集団を避けるようにモーセの道ができあがる。
「コイツらよぉ、全員猫飼いたいってよ!!」
「だからって数が多すぎんだろうがァ!!」
不良とは、捨てられた猫や犬につい傘を差し出してしまう生き物だった。
◇
女子生徒に猫を渡すのは休日のぶどうヶ丘高校前で──ということになった。
車で最初に着いたのは吉良で、その次に自転車乗りの康一が着いた。
(吉良さんのスタンド、子猫にベッタリだなぁ…)
次に着いたのが休日でも相変わらず制服姿な仗助&億泰コンビ。不良二人はケージの中にいる子猫を見て、「かわいい〜」と娘にデレつく父親のようになる。
さらにその次が事前に同席していいか仗助たちに尋ねた重ちーだ。彼は母親が運転する車に乗ってきたようで、手を振る息子に母親も振りかえす。
「こうして見っと、重ちーのカーチャンって美人だよなあ…。顔のつくりが息子と全然違ェよ」
「たぶん、父親に似たんじゃねぇの?」
「仗助さんに億泰さん、それに康一さんもおはようだどぉ〜!」
重ちーは元気なあいさつをし、吉良にも深々と頭を下げた。するとケージの中から猫の鳴き声が大きくなる。
「ミー子ぉ…!!」
「みゃ〜ん」
重ちーはチラリと吉良の様子をうかがう。これがミー子と会う最後の機会。抱っこをして小さな
「いいよ、ケージを開けよう。この面子じゃあ子猫一匹すぐに捕まえられるだろうしね」
もれなくこの場にいる全員がスタンド使いである。
開いたゲージの隙間から子猫が飛び出て重ちーの方へ一直線に向かう。
小さな彼女はゴロゴロと喉を鳴らす。それを見ていたデカい猫も、真似をしようとして失敗した。
「じゃあね、ミー子」
「みゃあ」
子猫は最後に来た女子生徒に引き取られ、その場を後にした。
重ちーは遠ざかっていく車の姿を見つめ続ける。
「ふぐっ……ひっく」
『ニャー』
声を抑えるように泣くその少年の頬に、デカい猫はまるで慰めるように頭をごつんと当てた。
一方でそんな彼を見つめる怪しい影が一つ……いや、二つ。
「なんかイイ雰囲気で終わってるよ…」
「ねぇ、あたし今から亀ユーに行って新しいコスメを見たいんだけどぉ〜」
「お前は黙ってろッ、順子!」
片や美人の女子生徒と、片や明らかにナードな見た目の男子生徒の組み合わせ。
彼──間田敏和は億泰の兄、虹村形兆にスタンド使いにされた男で、仗助に一度コテンパンにされている。
その後康一と仲良くなり(少なくとも間田の方は康一が友人だと思っている)、岸辺露伴の家に遊びに行った一件で痛い目を見た。
露伴が読んで「クズだな」と言いのけたほどには彼の性根は歪んでいる。
それこそ、自分よりか弱い
「まさか俺がいじめた子猫であんな騒ぎになるなんて……今度からは気をつけないとな…」
いじめた犯人が間田だとバレたら、あの全員からオラオラされてしまうんだろうか? 思わず身震いする。
しかし幸い自分が悪事をなしたとは気づかれていない。
間田は一人一人と去っていく姿を見つめ、最後に仗助たちが消えてから胸を撫で下ろす。
その間、グイグイと彼の腕が引っ張られる。自身のスタンドで複製した想い人の姿をした彼女がせがんでいるのだろう。
(順子をコピーできたのはいいけど、こんなに金のかかる女だったとはなあ…トホホ)
間田の視線と、彼女の視線が絡む。
────彼女?
「えっ?」
間田の腕に絡むそれは、順子の腕ではない。肝心の順子の方は困惑顔で間田の方を見ている。
「ねぇ……ねぇ、何よソレ…」
「こ、こいつ…!! 猫を渡してたやつのスタンドだ!!」
吉良のスタンド、キラークイーンは間田の腕に自身の腕を絡め、瞳孔の開いた目を彼に向けていた。
あの男はすでに車で帰ったはずだ。なのにこの場にはデカい猫がいる。
間田は本能的に体中から冷や汗を流す。
(こいつは僕の会話を聞いていたんだ…)
するりと腕を離したその猫は、スーッとその場を離れる。そして微笑んだ瞬間、そのスタンドの親指が動きカチッと、まるでスイッチを押すような音が鳴った。
「キャアアアッ!!」
「うっ、うわああぁぁぁ!!」
順子が爆発し、能力が解けた人形の木片が側にいた間田の体に突き刺さる。
血を流しながら横たわる彼の目前に、二つの足が現れる。
『ニャー』
そいつが何を言っているかは分からなかったが、おおよそ言いたいことはわかった。
間田は必死に首を縦に振ると、猫はその場からスーッと姿を消す。
猫は、ネコをいじめる奴には容赦がなかった。
猫は家出するので、デカい猫も家出します。
この重ちーは多分生存ルートが切り開かれます。小道に迷い込んで助けを求める時に、「仗助に助けを求めなきゃ…」って思った候補に吉良が出てきて、それを聞いた保健医が助けてくれる感じ。そんで保健医は犬に殺される。