転生したら殺人鬼ポジだった件   作:クリーニング黒兎

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少し遅れたバレンタインネタ。バレンタインといえば億泰が血涙を流す日ですね(無慈悲)
waveへの感想もありがとうございました!モチベになります。
学生時代、承太郎と仗助はどっちの方が多く女子からもらっていたのか…。


129話 甘・ビター、チョコレイト

 冬の杜王町はまだまだ寒く、朝の登校に重装備は欠かせない。

 豪雪地帯と比べれば積雪が少ない分、そのちょっとの雪で道がスケートリンクと化す。自転車の通学が命取りになる現状、大概の生徒はバスや徒歩、あるいは親の送迎で登校する。

 

 ぼくはといえば、もっぱら父の送迎が多かった。

 そもそもぶどうヶ丘高校のアクセスは市営のバス頼りで、自宅から高校へ行くには一度駅でバスを乗り換える必要が出てくる。

 当然通学ラッシュな時間帯は生徒で車内が満杯になる。それが嫌で避けたとしたら、朝の6時台とかいうまだ布団の中で安眠を貪る時間帯に家を出なくちゃあならなくなる。

 

 以上を踏まえ、年頃の息子が父親と二人きりになる構図が出来上がるわけだ。

 

「そういえば吉影、昨夕のニュースで見たんじゃが────」

 

「へぇ、そうなんだ」

 

 反抗期を演じるタイミングを逃したぼくは、曇った窓ガラスをぼんやりと見つめながら会話を興じるはめになる。

 

 このガラス一枚を隔てた先は暖房が利いたこのぬくぬくとした場所と違い、心臓も縮み上がるような極寒の世界だ。

 

 あと10分もしたらこの世界に自分が放り込まれる。

 まあでも父と不毛な会話をし続けるよりは、一人で雪の中を歩いた方がこの心は安穏としているかもしれない。

 

 余談だがこの朝の件をあの保健医にうっかり話したら、「しっかり反抗期なんだねぇ」と言われ、すっかりへそが曲がった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 2月某日。

 近年この時期になると学校の女子生徒が騒がしくなるというか、浮き足立つ。男の方も妙にそわつく。

 

 ぼくは興味がなく教室の隅でいつもの日常を過ごしていたが、杉本鈴美とひょんなことから付き合い始めた今年度から勝手が変わった。

 

「吉影くん、これ!」

 

 昼食どき、可愛らしくラッピングされたものが目の前に差し出される。

 これはアレか? アレなのか? 糖質の塊でできた健康に悪いと巷で話題の物体なのか?

 

「吉影くん、バレンタインデーは知ってる? 女の子が好きな男の子にチョコを渡す日なのよ!」

 

「それくらいは知ってるよ…」

 

 包装を解いてみると、やはり中身は|糖質の塊でできた健康に悪いと巷で話題の物体《チョコレート》だった。

 

「…ありがとう。ぜひいただくよ」

 

「その……はっ、はじめて作ったから、あんまり期待はしないで欲しいんだけど…」

 

 ここで食べない選択肢を取るほど空気の読めない人間ではない。隣からこれ見よがしに期待のまなざしを食らっているわけだしな。

 

(甘ッ……!!)

 

 弁当を食べる前だったせいか、ことさらにチョコの甘さが口内を蹂躙する。

 

「美味しいよ。本当にはじめて作ったのかい?」

 

「えへへ……その、ぶっちゃけると、ママやパパに味見はしてもらったんだけど…渡すのは吉影くんがはじめてだから」

 

「そうか…。ところで一つだけいいかな?」

 

「なに?」

 

 この、大の男の片手にはみ出るサイズの糖質の塊を、この後いったいぜんたいどうすべきかって話をしようじゃあないか。

 

 可愛らしく小首を傾げたって無駄だぞ。チョコだって食べ過ぎたら中毒症状が出るんだからな。

 

 

「は、張り切りすぎちゃって……」

 

「気持ちは嬉しいが、通りすがりの人間が思わず二度見をするサイズのチョコは今度から控えてくれよ…」

 

 今日は女が男にチョコを渡す日ということもあってか、普段は人が来ない場所だというのに人がやって来る。その多くがチョコを渡した上での告白イベントで、彼らはその度に巨大な糖質の塊に虚をつかれていた。

 

「ね、ねえ、吉影くん」

 

 また視界の隅で起こっている告白イベントに意識を取られていれば、制服の裾が引っ張られていた。

 

 見れば色白な手がちょいちょいとぼくの裾を引いている。

 

 

「『今度から控えてくれ』ってことは…来年も私たちって付き合ってるってこと?」

 

「……君がほかの男に現を抜かさなければ?」

 

「私は吉影くん一筋よ!」

 

 鈴美は真っ赤な顔でそう言った。今のところこちらから関係を切る必要性も思いつかないため、本当に彼女が別の男を好きにならなければぼくと彼女の関係は続くだろう。

 

 その裏で別の女の手を愛でている自分がいるにせよ。

 

「鈴美、その……ところで」

 

 先ほど告白して成立したらしいカップルの姿が遠ざかっていく。場に残っているのは片手に糖質の塊を持っている男子生徒とその彼女だけだ。

 

 自分の垂れた前髪を耳にかけ、節目がちに鈴美の方を見る。

 

「ど……どうしたの?」

 

「一つ、お願いしたいんだけど…」

 

 なおも寒さだけでない理由で顔を赤くする彼女の横で、ぼくの心臓の音も早くなっていく。

 一度想像してしまうとこの動悸は止まらなかった。ギギ…と伸びた爪が拳にした手の中で皮膚に食い込んでいく。

 

「…? チョコを私に持たせてどうするの?」

 

「時折君が弁当のおかずを差し入れするだろう? それと同じでいい」

 

「………ちょっと待って!!」

 

 鈴美は突然席を立ち、少し離れた場所でチョコを持ったまま深呼吸を始める。

 それから戻ってきて、今から試合が始まる野球選手のような剣幕で言う。

 

「ばっち来い!」

 

 鈴美の中で何かしらの覚悟が決まったようなので、遠慮なく顔を近づけた。こちらの方が座っていても上背があるため若干猫背になりながら口を開く。

 白いカノジョを彩る黒いコントラストに先ほどから腹の底で高ぶる熱が一気に上がっていくようだった。

 

 

「やっぱりなんか恥ずかしいよっ!!」

 

 

 いつもとは違う空気感におののいた彼女が手を引っ込めようとした。が、一歩遅く。

 

 こちらとしてもチョコを齧るだけだった。だのに、君の活きが良すぎるせいだぞ。

 

「ご、ごご、ごめっ…!」

 

 彼女の右手の人さし指が、ぼくの上唇を軽く押し上げるようにして触れている。

 

 これはチョコじゃなくてこの手を好きにしていいってことなのか?

 

 ──ああ、そんなわけがないことは重々分かっているとも。

 

 

「………気をつけてくれよ」

 

 

 カノジョから何ともないふうを装って唇を離すことにどれだけ自分の心を制御する必要があったか、ぼくの拳の中を見ていない鈴美は知らないだろう。

 

 無論、知らないままでいいとも。教える気なんて最初(はな)からないのだから。

 

「…吉影くん、顔がやかんみたいになってるよ」

 

「今日は暑いからね」

 

「……ふふっ、なにそれ」

 

 彼女は嬉しそうに笑ってぼくの腕に自分の両腕を絡めた。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 午後の授業中、手のひらにできた傷も相まって授業に集中できず、保健室に向かった。

 

 鈴美の手とは違った華奢でか細い印象を与える指が器用に包帯を巻いていき、ついでに爪も切ってくれる。

 

「いったいどんな雌ネコちゃんを見て発情しちゃったのかしら?」

 

 などと、目を細めて笑う女は無視してさっさとベッドに横になる。

 

「そういえば、吉良くんは杉本さんからもらったの? チョコレイト」

 

「もらいましたよ」

 

「ふ〜〜ん、美味しかった?」

 

「黙れ、ぼくは眠い」

 

 睨んだものの、このアマは人の気を逆立てるような笑みを浮かべるばかりで退く様子はなかった。

 言われるまでもなく想像できてしまった内容が現実になる。

 鈴美からもらったものと比べればはるかに小さいサイズのそれ。ガサツな人種の割には丁寧に施されていた包装を、保健医はガサツな手つきで破っていく。

 

「何で自分で破ってるんだ、あんた…」

 

「だって、受け取ってくれなさそうなんだもん」

 

 中はひと口サイズの6個入りのチョコだった。それぞれ形が異なるが、まさか手づくりなのか?

 

「はい、あーん♡」

 

「………」

 

「…あら、珍しい。けっこう素直に食べるわね」

 

「………」

 

「ナチュラルに手ごと食べてるのはさておき」

 

 鈴美が作った甘ったるいものとは違い、こちらはかなりビターで個人的には好みな味だった。甘めのコーヒーと合いそうである。

 

 口内の熱で溶け、指の先についたチョコを舐めとっていると、ジッとこちらを見つめる保健医と目が合った。熱っぽくはなく、むしろ胡乱げな色。

 

「さすがに杉本さんにこんな事してないわよね…?」

 

「美味しいですね、先生のチョコ」

 

 切ったばかりの爪がまたわがままに伸び出し、呆れたような声が聞こえたがすでに自分の意識にあるのは目の前の可愛らしいカノジョだけで、この手を可愛がってあげることに途方もない悦楽を見出している中で髪に触れる感触がある。

 

 

「本当に、物騒な猫ちゃんね」

 

 

 残りのチョコも、ぼくは残さずに平らげた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 2月14日がチョコを渡す日(バレンタインデー)だと思い出したのは、少し前に担当編集から和菓子をもらったのがきっかけだった。

 チョコではなく和菓子を選択したのは、わたしが甘いものを苦手にしていると覚えていたかららしい。

 東京の有名どころで買ったらしい和菓子は茶と合わせて食べたが悪くはなかった。

 

「……今日は14日か」

 

 独り身な自分とは縁のないイベントである。ただふと──本当に気まぐれというやつで、行きつけのカフェに行くことにした。

 

 仕事の休憩でよく訪れる。基本頼むのはコーヒーで、色々と飲み比べた中でここのコーヒーが一番舌に合った。

 

「すみません。ブラックコーヒーと、それから──」

 

 しかし今日頼んだのはいつもよりさらに苦味の効いたコーヒーと、バレンタインの期間限定で出されていたチョコレートケーキだった。普段なら絶対に買わない。

 

「………」

 

 やはりというか、甘ったるい。量こそそこまでないがフォークを口に運ぶ速度は横断歩道を渡らんとする亀より遅かった。

 

 その合間に過去の郷愁に浸る。

 

 甘さと目も覚めるような苦さを交互に取り込んで、鉛色の空を眺めた。

 吐く息が白い。

 

 カフェにちらほらと見受けられる客もほとんどカップルが多い。

 女から男へチョコを渡していた慣習は今では大きく変化し、ホワイトデーに男は女にお返ししなければならない。今もチョコを彼氏に渡した女が「倍返しでお願いね」と猫撫で声で言っている。

 

 改めて、わたしが学生だった頃にそんな面倒な変化が起こっていなくてよかったと思う。

 

(学生の姿も増えてきたしさっさと帰るか…)

 

 歩道を歩くあの学生服はぶどうヶ丘高校のものだ。時間もすっかり夕方である。

 まだ残っているケーキに手を伸ばしたところで聞き覚えのある声が聞こえた。

 

 

「由花子さんのチョコ、美味しかったなあ〜」

 

「康一くんに喜んでもらえて……由花子っ、すごく嬉しいわ…!!」

 

 

 カップルにしては珍しく、男の方が背が低い。

 広瀬康一とその彼女である名前は確か……山岸だったか? 山岸ユカコ。

『ユカコ』を漢字でどう書くのか少し気になるところだが、まあそれはいいとしよう。

 

 どうやら学校から帰宅途中らしい二人はそのままカフェの前を通り過ぎていく。その前方には冬でも我を貫くスタイルの漫画家が迫っていた。

 わたしはより空気になり、自身の平穏を保つことにしよう。

 

「やあ、康一くん! それと……山岸由花子くん」

 

「あっ、こんにちは露伴先生」

 

「……こんにちは」

 

 岸辺露伴の様子からして狙って遭ったわけではないようだが、広瀬少年に日頃の礼ということでチョコを渡していた。さすがに手作りではないようだが、明らかにあれは高級店のものだろう。

 

「あ、ありがとうございます…」

 

 少年の方は戸惑った様子だったが受け取り頭を下げていた。

 遠ざかっていくバランの頭を彼女の方はジロッと見つめる。

 

「あの先生、前々から思っていたけれど、康一くんにちょいと馴れ馴れしすぎなんじゃあないかしら?」

 

「露伴先生は僕のこと一応親友だと思ってるみたいだけど…」

 

「……康一くんはそういえば、あの漫画家の先生がピンチになった時も助けに入ったのよね?」

 

「…ああ、それって露伴先生が背中に取り憑かれちゃった件のこと?」

 

 わたしが平穏に暮らしている間に、あの漫画家や広瀬少年たちは色々と厄介な事件に遭遇しているようだ。

 …いや、この場合は台風の目が岸辺露伴で、それに広瀬少年を筆頭とした人間が巻き込まれているのか?

 

「もし…もしもよ? 私とあの先生が同時にピンチになった時、康一くんはどちらを先に助ける?」

 

「うーん、そうだなあ…」

 

 広瀬少年は少し悩んでから言った。

 

「二人同時にってことは、もしかしたら複数人のスタンド使いによる仕業もあるから…。まず仗助くんたちの力を借りるかな。その上で適材適所で人選をして……」

 

「そういう論理的な考えは一旦ナシにして!」

 

「えっ? えっと……」

 

「私が康一くんに助けを求めているの。この山岸由花子がッ!」

 

「……それなら話はもっとシンプルだよ」

 

 広瀬少年は山岸由花子の手を握り、笑って見せた。

 

 

「僕が由花子さんを助けるよ。もちろん露伴先生のことも助けるけどさ」

 

「康一くんっ…!!」

 

「二人とも助ける──か。君はそれが()()()()()男だからなァ…」

 

「…露伴先生、戻ってきたんですか?」

 

 

 遠ざかっていく3人の姿を見つめながら、改めて広瀬康一という少年に同情せざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 それからようやく食べ終え会計をしていたタイミングで、号泣している男とそれを慰める男が歩いてきた。

 慰めている方は学生鞄とは別に紙袋を持っている。それも中身がパンパンに詰まった。

 

「お前チョコ誰にももらえなかったからって泣き過ぎだって……おっ、吉良さん」

 

「吉良? わたしは吉田と言うんだ。人違いだよ」

 

 さっさと帰ろうとしたが仗助に捕まってしまった。紙袋の中身は予想どおり女子生徒からもらったチョコらしい。

 

「仗助の野郎…あらかじめお返しはできねぇって断った上でこんだけもらってんだぜ!? 世の中フコーヘイってもんだろ!!」

 

「なるほど。貴様にしては少ないと感じたがそういうことか」

 

 仗助ならばショッピング帰りの旦那のように大量の紙袋を持っていてもおかしくないが、うまい断り方をしたわけか。

 

「それに対べて俺は……俺はッ……!! 康一だっておっかねぇ彼女からチョコをもらってたのによォ…!!!」

 

「ま、まあ……あっ、ほら! 吉良さんも多分もらってねぇしさ!!」

 

「わたしに矛先を向けるな」

 

 編集からもらった分をカウントするならもらっているが、バレンタインデーである『今日は』誰からももらっていない。

 

 アイコンタクトを送る仗助に面倒くささを感じつつ肯定してやると、虹村億泰は鼻水を拭ったような汚らしい手で両手を握ろうとしてきたので避けた。

 

「アンタ見るからに陰気で地味〜な見た目してんもんなぁ! オレは仲間がいて嬉しいぜェ!!」

 

「……わたしはもう帰るぞ、仗助」

 

「ウス」

 

 満面に笑顔を浮かべるこちらに仗助は冷や汗を流しながら敬礼ポーズを取った。なぜ敬礼したかはわたしも知らん。

 

 これだからあの漫画家にも学生連中にも極力関わりたくないんだ。こちらの平穏が崩される。

 

 

「あっ、あのお客様、お忘れ物です…!!」

 

 

 不良二人と別れた直後、後ろから声がかかった。振り返ると店員と思しき女性がエプロンを付けたまま店の外に出ている。そのまま彼女は不良二人の横を通り過ぎ、わたしの手に何かを握らせ小走りで駆けて行った。

 

「………」

 

 この包みに入ったものが何なのかは想像できるとして、一連の様子を見ていた不良二人が口を開けたまま突っ立っている。

 

 

「うっ、ウオワアアアァァァ!!!!!」

 

 

 虹村億泰は奴自身が北風となり、遠くへと消えて行った。その後を仗助も追う。

 

 元気な奴らだなあ、以外の感想が出てこなかった。

 

 


 

 ・仗助の母

 

「これ、いつも仗助が世話になってるお礼よ」

「ウオオオオッ!!!!」

 

 ・トニオ・トラサルディー

 

「いつも食べに来てくださる感謝の気持ちデース」

「ウオオオオオッ…………ウンまああ〜いっ!!!!」

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