転生したら殺人鬼ポジだった件   作:クリーニング黒兎

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(別に最終回じゃ)ないです。
正々堂々例のネタをパロった挙句グラサンポジに同じグラサンマダオを置く粋な計らいを(?)してくれる作品がそう、金な魂、略して「キンタマ」です。


13話 最終回にみんなで「おめでとう」と手を叩くタイプのハッピーバースデー

 鈴美が吉良と保健医の関係に気がつき始めたのは、いつ頃だっただろうか。

 

 一年の時は気付かず、二年の時はたまに薄っすらと香る女ものの香水に、妙な違和感を感じた。

 その匂いが保健室のものと似ている気付いたのは、同年の終わり頃。三年の頃には疑惑を抱き始めていた。

 

 思い出したのは、吉良と保健医が付き合っているという噂。

 

 それは、保健医のジョークで終わったはずだった。

 しかし時がたち、そのジョークが頭に浮かぶ度、ギュッと、見えない手に心臓を握られた。

 

 

 それから鈴美が彼と付き合ってから暫くして、一部の間で彼は「ミステリアスな先輩」として度々話題に上がった。

 

 その理由が一部の人間が鈴美と付き合ったことに嫉妬し、吉良に絡んだ結果の延長戦で広まったものだと知った。

 頭によぎったのは、とある日の言葉。

 

 

『君のかわいさも中々罪だね、鈴美』

 

 

 からかわれただけなのだと当時は思っていたが、裏では一部の男子によるいじめがあったことは容易に推測できる。吉良は何も言わず、いつも隠す。

 ただいじめられて終わる人間ではないため、いじめた相手は痛い目をみたに違いない。

 

 その部分が回り回って、「ミステリアス」として出回ったのだ。

 

 

 

 

 

「うっ……っ」

 

 

 日が沈み、街灯の光が地面をポツポツと照らす道。辺りにはやかましい虫の声が響く。彼女は無我夢中で走っていた。

 涙で視界が霞むことも厭わず、時折おえつを溢した。

 

 彼と保健医の関係が確信に変わったのは、二人の様子を目撃してしまった時。

 心のどこかでは気のせいだと、ずっとごまかしていた。だがキスをしていたところを見て、もう自分を騙せなくなった。

 

 露伴のことが頭からすっぽ抜け、係の人間に迷子として処理されるほど泣いたというのに、涙が止まらない。

 

「うぐ、……ふぇ」

 

 彼女にとって初恋であり、叶った時は誰よりも幸福だったに違いない。

 しかし恋の終わりとしては、これはあまりにもみじめ(、、、)ではないか。

 

 

「でも…わたしもきっと、わるかったんだ……」

 

 想い人を前にして、浮かれ立つ気持ちは仕方あるまい。

 好きな相手の一挙一動すら目で追ってしまうのが、「恋」というもの。

 恋人になり距離がより近くになったからこそ、さらに相手のことを知れた。自分の手をよく見ていることに気付いた時は、わざと腕を絡めて甘えた。

 

 吉良が隠そうとする薄暗い部分にも気付いていたが、相手が他人の干渉を意図して避けていたので、触れることはなかった。

 

 

「そこに踏みいってたら、すこしは、ちがったのかな…」

 

 

 もう随分と走り続けた。頭や瞼が重い。鈴美はたどり着いた橋の上で、とうとう座り込んだ。

 

 夜風に吹かれると、頭の熱が少しだけ引く。荷物や自転車を置いてきてしまったことに今更気付いた。

 

「どうしよ……」

 

 荷物はこの際仕方ないとして、タクシーで送ってもらおうか考える。

 人通りは遠くの民家の明かりが見え、時たま車が通るくらいで、タクシーは来そうにない。

 

 

「へいへい、そこのキャワゆいカノジョ!乗ってかな〜い?」

 

 

 悩んでいたちょうどその時、チャラい声がかけられた。

 彼女が顔を上げれば、一台の()()()が少し後方に止まっている。車がゆっくりと彼女の傍に来ると、助手席の窓が開いた。

 

 うす闇の中で、亜麻色の長い髪が揺らめく。

 

「さ、佐藤先生!?」

 

「はい、あたくしが佐藤・リリス・安希恵(あきえ)でございます」

 

「な、なんでここに…」

 

 鈴美としては、今吉良の次に会いたくない人物である。二人の関係を探るため保健医の参加を提案したが、見事設置した地雷を自分で踏み、自爆してしまった。

 吉良の「肉体関係を迫られた」という言葉も相まって、佐藤の見方が今までと大きく変わる。

 

「………」

 

「とりあえず乗りなよ、夜に女の子一人じゃ危ないし、ね?」

 

「……わかり、ました」

 

 前は柔らかい佐藤の微笑みが可愛らしいと感じていた。しかし今は、男を誘う毒の蜜にしか見えない。

 生徒に優しい彼女を見ていたがゆえに、裏切られた、という気持ちが強まる。

 

 自分がいながら他の女性と関係を持っていた吉良が許せず、同じくらい佐藤も許せない。

 そしてこんな醜い感情を抱いてしまう自分にも、嫌気がさす。

 

 様々な感情が頭の中で混ざり、涙がまた、あふれ出した。

 

 

「大丈夫、杉本さん?」

 

「……先生はっ…」

 

「うん、私が何かな?」

 

「吉影、くんと…………」

 

「……あら、彼、言っちゃったのね」

 

 淡々と言った保健医を、鈴美は睨め付けた。

 それでもここで泣いたら自分の負けだと、涙を拭う。

 

「どうして、吉影くんと……私が付き合っているのは、知ってたはずです」

 

「知ってたよ。でも勘違いしないでね?杉本さんが吉良くんと付き合う前から、私は彼のこと好きだった。私が奪おうとしていると考えてるなら、それは私から「奪った」杉本さんが、言える義理じゃあないのよ」

 

「…そん、なの……知らなかった」

 

「えぇ、だって私は、自分の感情を意図的に出さないようにしているもの。人の本質は衝動的なの。だから「理性」で、その欠点を補わなければならない」

 

 快楽に忠実ではあるが、それを律する心もまた保健医は備えている。

 鈴美は視線を逸らさぬよう、相手を見続ける。心はすでに挫けそうだった。

 

 

「吉影くんが中二の時に……その、したって、聞きました」

 

「ふふ、あんまり彼のこと責めないであげてよ。最初の時はちょっと、無理やり感もあったから」

 

 手の欲望にトリップ状態だった少年を懐柔した。佐藤は自分の欲望に従って、一人の少年を沼に引きずり込んだのだ。

 

「何で、そんなこと……それに、生徒と先生なのに…」

 

()()だったら、おかしいのかもね。でも、私も彼も欲望を前にしたら常識なんて無意味」

 

「欲望って……」

 

「彼は自分の性癖もあなたに言ったの?私は人の目が好きなの。眼球にはその人間の中身が一番現れる」

 

 

 信号が赤になり車が止まる。佐藤は視線を横に向け、鈴美の頰に黒いグローブを付けた手を伸ばす。袖の下で、白と黒の境界線が一瞬覗く。

 鈴美は触られて肩を震わせたが、保健医の浮かべる艶を帯びた笑みに目を奪われた。

 

「あ、えっ」

 

「吉良くんの目が冷たくて綺麗な印象なら、杉本さんのはかわいいって感じかにゃあ…」

 

「わ、ま、ちょ…!!」

 

 お互いの吐息がかかるほど顔が至近距離にある。鈴美は真っ赤になり慌てて顔を逸らした。

 それに性悪な笑みを浮かべ、保健医は満足そうに顔を離す。

 

「冗談よ、女の子は食べないから安心して。守備外よ」

 

「た、た、食べるって…!?」

 

「ぐふふ、先生はわるーい大人だからねぇ〜」

 

「………」

 

 信号が青に変わり、車が走り出す。ガオガオさせていた佐藤の手は、ハンドルに戻った。車内には白けた空気が流れる。

 頰を少し膨らます助手席の少女に、保健医は苦笑を溢した。

 

「ごめんにって、よかったらお詫びに、ジュースでも飲む?」

 

「生徒をからかうのは、…その、やめてください」

 

「そんな反応されたら本当に食べちゃうよ?」

 

「……っ、先生のバカ!」

 

 

 鈴美は保健医の手からオレンジのペットボトルを引ったくると、からかわれた怒りや恥ずかしさのまま、ぐいぐい飲んだ。

 喉を潤す液体は随分と生ぬるい。朝買ったが飲まず、そのまま車内に放置していたのだろう。C級のもてなしだ。

 

「おじさんくさいねぇ」という運転手の女は無視し、半分ほど減ったところで蓋を閉め、ドリンクホルダーに置く。衝撃で少し揺れた。

 

「…謝ってはくれないんですね」

 

「私も杉本さんと同じ彼のこと好きだから、謝れない」

 

「……多分私も先生と同じ立ち位置だったら、謝れないと思います」

 

「お互い譲れないってことか」

 

 小さく頷いた鈴美に、保健医は息を吐く。

 

 

「一応聞いておきたいけど、私や吉良くんのこと誰かに言う?」

 

「…言わないです。言ったら吉影くんが、困っちゃうから」

 

「杉本さんは彼の「普通」を求める姿勢には、肯定的なのね」

 

「子どもの頃から目立つのが嫌いだったのは知ってるから、その気持ちを踏みにじりたくはないんです」

 

「そうやって考えるところも、「普通」なのかもね」

 

 

 保健医はダッシュボードを開けると、中にぎっしり入っていた棒飴をひとつ取り出し、包装を解いて口の中に入れる。そのまま飴を舌で遊ばせた。

 

「先生って結構、甘いもの好きなんですね」

 

「まぁね、あと口に何かないと落ち着かないっていうか」

 

「手袋も意外でした」

 

「ふふ、ハンドルに手汗が付いた状態にしとくと変色するじゃない?先生嫌なのよね、そういうの」

 

「潔癖なんですか?吉影くんみたいですね」

 

「にゃはは、……あれは…うん、引くよね」

 

 

 最初はギスギスとした空気が流れていたものの、佐藤の態度もあってか、少しは柔らかくなった。

 お互い同じ男を好きという点では共通点がある。聞き上手であり、話し上手である保健医を、鈴美は濡れた頬を拭いながら見つめる。

 

 長い艶のある亜麻色の髪に、カラス羽のような目。白い肌に、薄い唇。

 同性から見ても綺麗と思うのだから、男性だったらきっと簡単に心を奪われてしまうに違いない。

 

 吉良の「欲を満たす関係」を思い出し、また少し涙が出た。

 彼は保健医のことを好きなのだろうか。

 

 頬を叩いてしまった感触を思い出し、右手を強く握りしめる。きっともう元の関係には戻れない。

 

 別れるべきだったと告げた少年の心中はわからない。しかし自分のことはもういらなくなったのだろうと、暗い気持ちが渦を巻く。

 

 大人である保健医と比べて鈴美はまだ子供。精神も肉体も何もかも、すべてが劣っているように感じられた。

 

 

「吉影くんは…先生のこと、好きなんでしょうか」

 

 

 保健医と二人でいた時の彼は、心の距離が近いように見えた。鈴美では及ばない暗く危うい部分で。

 今更知ろうとしても拒絶される。なら相手の幸せを考えて身を引くのが、一番ではないだろうか。

 

 考えれば考えるほどやはりよぎるのは、「彼のことが好きだ」という感情。

 

 

「吉良くんは私のこと、好きじゃないわよ」

 

「…え?」

 

「私とあなたの違いは「普通」か「異常」か。私にとってはカレイとヒラメぐらいの違いだけど、彼にとっては線引きされる大きな違い」

 

「……手とか、目が好きなのってそんなに変なんですか?その、男性によっては女性の好きな部分は違うと思うし。私も吉影くんが髪を上げた時のギャップとか見てると、ドキドキしますけど…」

 

「ふふ、杉本さんは思ったより異常性癖に理解があるのね」

 

「“フェチ”ってやつですよね、人それぞれなんじゃないですか?」

 

「ふふふ、それもそうね」

 

 保健医は2個目の飴を咥えた。

 鈴美は白い棒が動く様をぼんやりと見つめる。まるで生き物のようだ。その時ふと性的なことを考えてしまい、顔を真っ赤にして逸らした。

 

 見えたのは街灯もない暗闇。周囲は森で車は舗装されていない、そこだけ中をくり抜いたかのような深い森の奥へ、車は進んでいく。頼りになるのは前部に付けられたヘッドライトのみ。

 車中は時折大きく揺れ、枝を踏むような「パキッ」という音が鳴る。

 

 

「先生これ、ろこに……!」

 

 鈴美は言葉を発そうとしたが、うまく呂律が回らず、瞳を見開いた。

 慌ててシートベルトを外し外に出ようとしたものの、どんどん身体の力が抜けていく。

 

「杉本さん、明日誕生日なのよね」

 

 先ほどの柔らかい声とはうって変わり、抑揚のない冷たい声が車内に響く。

 

「16歳になったら一線を超えるんだっけ?私はまだ早いと思うけど」

 

「………!……」

 

「それは、どこで知ったのか、って顔かな?先生地獄耳だから、いろんな情報が集まってくるのよ。学校でそういう話しちゃダメよ?せめて誰もいない学校帰りとかだったら、私も知らずに済んだのに」

 

「でも知っちゃったからもうダメ」と、保健医は微笑んだ。

 車が着いた先には今にも倒壊しそうな廃屋が一軒、静寂の中に佇んでいる。

 

 鈴美は眠ってはならないと、懸命に睡魔にあらがう。

 

「彼は多分、自分の秘密を知ったらあなたが耐えられなくなると思っているけど、話してみてやっぱり思った。あなたは優しさと愛をもって、受け入れられてしまう。そうしたら私の居場所はなくなる」

 

「………」

 

「人を好きになったこと、あなたはあるでしょうね。恥ずかしながら、私は今までなかったのよ。()()()に囚われて男の欲を受け入れることでしか、生きる価値を見出せなかった」

 

「……せん…せ」

 

「でも、はじめて吉良くんの悍ましい目を見た時、思ったの。私を殺してくれるのは彼だ────!って。自分で死ぬのは最も愚かなことだとわかっているがゆえの、希望。大好きな彼に殺されたらきっと幸せよ」

 

「………っ」

 

「さぁ、おやすみ杉本さん。いい誕生日にしましょうね」

 

 

 保健医のその言葉を最後に、鈴美の意識は落ちていった。

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