転生したら殺人鬼ポジだった件   作:クリーニング黒兎

19 / 129
19話 かげおくり

 後日猫は、父が旅行先で謎の女から買った矢が原因で出現したものである、と結論づけた。

 

 父も矢でケガをして以降、不思議な能力に目覚めたらしい。ぼくの猫も同様に矢でケガをしてから間もなく現れたため、矢が原因、ということで収まった。

 

 そんな怪しいものを土産にするなと思ったが、運命だなんだと言われ、結局買ってしまったと聞いた。

 いよいよ父が耄碌(もうろく)し始めた。詐欺に遭わないよう気をつけさせねば。

 

「いや、その女はまるで未来が見えているかのように、ズバリとわしの悩みを言い当てたんじゃ!」

 

「占いなんて信じてなかっただろ、今まで。ともかく矢は缶箱に閉まって、軒下にでも埋めた方がいい」

 

「だが吉影も気になるじゃろ?本当にこの矢で不思議な力が身につくのか…」

 

「………もしかしてぼくがケガをした時に布が解けてたのは、誰かに使ってみようと思っていたから────なのか?」

 

 父は小さな身体をさらに縮こませて、目をそらした。

 

 こんな危険物を安易に使うべきではない。仮に死んじまったらどうする気だったのだ。

 

「ともかく埋める、いいね」

 

「…わかったよ」

 

 猫はある程度ぼくの意思で動かせることがわかったため、厳重に布で包んで空き箱に入れ、さらにガムテープでぐるぐる巻きにしたものを運ばせて埋めた。

 

 

 猫は四六時中出てくることはなくなったが、気が付くと人の膝に顔を乗せてこちらを見ていたり、縁側で爪を切っていたら木の上に座ってじっと見ていたりする。

 

 風呂に入っている時は近寄ってこない。庭に生えていたススキを眼前に近付けると手を出してくる。

 こちらを見ていない時は大概天井の上や、電線の上に止まっている鳥を見ていた。

 

 気づけばぼくは、書店で「ねこのきもち」を持ってレジに並ぼうとしていた。

 

「何考えてんだ、ぼくは…」

 

 普通の人間には見えない猫。霊感のない父が見えるのだから、幽霊でないことは確かだ。

 感覚でしかないが、おそらくぼくの分身のような存在だとは思う。

 

 人間から触れることはできないが、猫からなら触れることができる。

 

 物を殴って壊したり、持って運ぶこともできた。また物を持った時などには、その感覚がぼくにもフィードバックする。

 

 鈴美に猫の存在を証明するため、カチューシャを浮かせてみたり肩を触った時には、彼女は顔を青ざめさせていた。

 

 

 

『────♩』

 

 ラジオを聴きながら、朝の日課の新聞を読む。

 途中猫がその巨体を丸まらせて新聞の上に乗ったが、どかして再度読み始めた。

 

 ふとその時耳に入ったのは聞き覚えのある曲。

 クイーンの歌だ。

 

 

「お前の名前はKiller Queen(キラークイーン)でいいかい?」

 

 

 猫は相変わらず無表情だったが、ふいに本物の猫のようにぼくの肩に頰を擦りつけた。

 

「…猫なのに「ニャー」とは言わないんだな」

 

 キラークイーンは返事をする代わりに、テーブルの小皿に積まれていた夏みかんをひとつ縁側に置いた。

 何をする気なのか見つめていれば、右手をグーの形にし、曲げた親指を人差し指にくっつける。その瞬間、夏みかんは爆発した。

 

「えっ」

 

 呆気に取られたぼくを見て、キラークイーンはどことなくドヤ顔をしているように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 大学二年の秋頃、吉良は同じ学部の(本人からすれば)知り合い程度だった男に頼まれ、半ば押し通される形で3対3の合コンに参加することになった。

 

「その日はバイトがあるんですが…」

 

「家庭教師のバイトだっけか?そこを頼むよ!非モテ仲間だろ俺たち…!!」

 

「…ハハ、でも……」

 

 彼女がいるので、とは言い出せなかった。この状況でそれを言うと火に油を注ぐだけである。向こうがどうやら吉良に仲間意識を持っていることはわかった。

 

 ここで何か理由をつけて断っても面倒にしかならないので、仕方なしと彼は引き受けた。

 

「おお!ありがとう、心の友よ〜!!イケメンがいても俺たち二人なら、女の子の一人や二人…いけるはずだぜ!!」

 

 ジャイアンか貴様は。

 内心ツッコんで、吉良は教えている生徒の親に「急な予定が入った」と断りの連絡を入れた。

 

 その生徒──鈴美が後日、予定の内容を本人から聞いて平手打ちを決めたのは、合コンが終わってから二日後のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 合コン当日。場所は大学近くにあるカラオケルーム。

 

 吉良は紺の丈の長いジーンズに、広く流通している無印良品の運動靴。

 それと白シャツにボタンがないタイプの黒のテックニットカーティガンを着て、開始予定の30分前にカラオケの駐車場に着いた。

 

 男にしては少し長めの前髪が目元をすっぽり隠している。眼鏡は文化部にありがちで、よく言えば普通、悪く言えばオタク気質な陰キャの見た目だ。

 

 

 吉良を誘った男が来たため、二人で店の前で談笑しながら待った(というより向こうが一方的に話し、適当に吉良が相槌を打っていただけである)。

 

 その後女子三人が5分前に到着し、店内へと入った。来る予定のイケメン男がどうやら遅れていると知り、吉良の隣に座った男は燃えている。

 一方で女性陣はあからさまにテンションが下がっていた。口元は笑ってはいるが、目が死んでいる。

 

 男はこれはまずいと、無言で麦茶を飲む吉良に小声で助けを求めた。

 

(お前もなんか喋ろうぜ!イケメンの野郎が来るまでにどうにかして、女の子たちのハートをキャッチするんだ!)

 

(…すみません、ちょっと緊張してまして)

 

 無論緊張などしていない。むしろ早く終わらせて家に帰りたい。

 

 手の綺麗な女がいたら話しかけるぐらいはしたが、どれも吉良のお眼鏡にはかなわなかった。逆に顔に出さないだけで、室内に漂う混ざり合った香水の匂いにいら立ちさえ感じている。

 

 

「すみません、遅れました」

 

 

 その時、カラオケルームの扉が開いた。

 現れた男に、女たちの声がワントーン上がる。

 

「やだぁ〜遅かったですねっ、()()さん」

 

「ケガでもされたんですかぁ?私心配しちゃった!」

 

「……寝坊しました」

 

 それに女たちは「きゃー!」と黄色い声を上げつつ、内心「ギャップ萌えじゃああ!!」と、雄叫びを上げる。

 

 川尻は寡黙なイメージから、女たちにそこそこ人気がある。顔の造形も華には欠けるが、悪くない。

 元は彼も同じ学部の友人に誘われる形で合コンに参加した。しかし友人二人が都合で行けなくなり、埋め合わせで違う学部の男二人が入った。

 

 

 川尻が来たことで合コンは3対3ではなく、3対1の構図に変わった。吉良としてはラッキーで、燃えていた男としてはアンラッキーな状況。

 

「どうせ、俺なんて…」

 

「………」

 

 相変わらず吉良は麦茶を飲んでいる。他はすでに二十歳を超えているので彼以外みな酒だ。

 合コンも中盤に入り盛り上がっているが、やはり3対1は長続きしない。

 

 一人こぼれてしまった女子が二人に押され、川尻に話しかけることができずにいる。

 吉良はその女子のバッグについていたキーホルダーに目を止めた。キーホルダーの中には加工された長方形の写真がある。

 

「犬、お好きなんですか?」

 

「え?…え、えぇ、そうなの。去年老衰で亡くなった私の愛犬なの」

 

「そうなんですか……あっ、そういえば君も犬好きだったよね?」

 

 そう言い吉良は、落ち込んでいた男に会話を投げる。

 男は小さく頷いて、チワワを飼っていると話した。

 

「そうなんですか!私もチワワを飼ってたんです。女の子で、「ちーちゃん」って呼んでました」

 

「え、あ、あなたも…俺のとこは暴れん坊のオスで、よく自分よりデカい犬に突っかかるんです。困ったもんですよ」

 

「あは、元気な男の子って感じでいいですね」

 

 愛犬トークから盛り上がり始めた二人。吉良はこれでいいかと、手洗いに行くと言い、席を立った。

 

 あとは己がいなくともうまく回り、雰囲気よく終わる。

 遅刻した、と悪ぶれもなく言った川尻にいささか殺意を覚えたが、終わってしまえば関係ない。戻った後は空気に徹するだけだ。

 

 

「ハァ…」

 

 

 トイレに着くと吉良は洗面台に眼鏡を置いて、眉間をほぐした。

 

 その時、ガチャッと扉が開いた。

 そこには少し驚いた顔の川尻が突っ立っている。

 

「…扉は閉めたらどうかな?マナーとして」

 

「……あ、そうですね」

 

 吉良はバッグに入れていた眼鏡拭きでレンズを拭く。川尻は小便器の方には行かず、なぜか吉良の隣に立つ。

 

「何だい?まさかわたしに用があるわけじゃあないだろうに」

 

「…いや、逃げて来ただけです。一人席を立ったのでちょうどいいかな、と」

 

「どう考えてもタイミングが悪いだろ…」

 

 いい雰囲気の男女二人はいいが、女子二人が絶対に険悪になっている。

 

「君、思ったより空気読めないんだね。…いや、寝坊して遅刻してるんだから、性格か」

 

 寡黙と言えば聞こえはいいが、吉良の印象としては川尻は一言で表すと、「つまらない男」である。

 

 言い換えれば彼が求めてやまない、()()の人間。

 

 

「…目」

 

「は?」

 

「紫なんですね」

 

「…あぁ、だから驚いていたのか」

 

 目について言われることは久しくなかったので、吉良はふと懐かしい気持ちを抱いた。

 

「昔聞いた話だが、目にはその人間の心がよく現れるらしい」

 

「……はぁ」

 

「君は空虚、かな。ありふれた人間で、ありふれた日常を送る」

 

「…そうですね。オレは女性たちが思っているより、普通ですから」

 

「わかってないな、そこがいいんじゃないか」

 

 吉良にはないものをこの男は持っている。

 川尻がなぜ遠慮がちに自分のことを語るのか、彼は不思議でならない。

 

 

「オレは()()()()()()()が、憧れますから」

 

 

 パタンと、音がした。吉良は眼鏡拭きを戻したケースをバッグに入れる。

 そして眼鏡を手に取ったまま、目の前の鏡を見つめる。

 

「普通だから普通ではないことに憧れる。それもまた、普通だ」

 

「馬鹿にしてるんですか?」

 

「いや、わたしも似たような考え方を持っているからね。シンパシーを抱いただけさ」

 

 サイコパスはよく嘘をつく…とは、いったい誰が言ったのか。

 吉良は手に持ったままだった眼鏡をゆっくり付けた。

 

「時に川尻くん。日常の中でいつ異常なことが起こるかなんて、わからないものだよね」

 

「…急に何ですか?」

 

「なに、お喋りぐらいいいだろう。ぼくは結構シャイでね、女性たちの前じゃどもって中々話せないんだ」

 

 例えば明日地震が起きて死ぬかもしれない。

 例えばあさって交通事故に遭って死ぬかもしれない。

 

 死など人間の影のようにどこにでもある。しかし人は下を見ないがゆえに、気づかない。

「異常」はその人間たちの死角を縫って過ごしているのだ。時には「普通」の仮面を繕って。

 

 

「ぼくは普通が一番だと思うよ」

 

 

 吉良の浮かべた温度の低い笑顔に、川尻はなぜか目が離せなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。