転生したら殺人鬼ポジだった件 作:クリーニング黒兎
感想や評価、誤字報告ありがとうございました。励みになります。
「銀魂」的なギャグも好きだけど「なるたる」みたいな救いようのない鬱も好きなんで、基本的に二つの要素が混ざってる作風になると思います。
5年生になった。
1学期は家庭訪問や運動会など神経を使う行事がとにかく多い。
どうにも身体を動かすことは苦手だ、身体の使い方が上手く出来ないというか…。
6月にプール開きもあるけれど、ぼくが一年の時に立て続けに溺れて大騒ぎになったことで、一人免除になった。
ただ何もしないわけにはいかないので、学校司書の監督下の中、行うのは勉強や読書。
そしてあっという間に夏休み。
少し早い気もするがぼくは来年受験生なので、勉強尽くしの日々が待っている。
受験予定は来年S市からここ杜王町に移転してくる中高一貫の「ぶどうヶ丘高校」である。
別段ぼくとしては来年の今頃から勉強しても十分受かるとは思うが、勉強熱心な母の指示ゆえ従うしかない。
向こうは私立だが普通に入っても金銭面の余裕がある。しかし母としては「特待」の枠に入って欲しいらしい。
_______「
母がよく言っている。家庭訪問にきた先生にも近所の人にも言っている。
何度も言うがぼくは「普通」に生きたい、三度の飯よりも目立ちたくない。
だが母のために目立ちすぎないよう気を遣いつつ、それなりの成績を取っている。
そして、あくまで
爪は隠さなくてはならない、平穏に生きるためには当然のことだ。
然してまぁ、ぼくの安息の地が見つからない。
その事実に気づいたのは、かつて一度逃げ出そうとして公園で黄昏ていた時よりも前のこと。
ぼくは逃げられない。この家の子供として生まれてしまった以上、二人の気持ちに応えながら「普通」を目指すしかない。
「大丈夫?吉良くん」
「……鈴美か」
今日は午前中に習い事があったが午後は自由だったので、冷房の恩恵を求め自転車を飛ばし、学校の図書室の窓側の席で勉強していれば、ふいに視界に影ができた。
見ると鈴美がトートバックを片手に立っており、人の許可も取らず前の席に座る。年下のくせに相変わらず図々しいヤツである。
「勉強会の誘いは受けたけど、今日じゃなかったはずだろ」
「きょ、今日はたまたま一人で勉強しようと思って、学校に来ただけ!か、勘違いしないでよ、吉良くんがいたらいいなぁ…なんて思って来たわけじゃないんだからねっ!!」
「君はいつからツンデレになったんだ」
「吉良くんって「ツンデレ」を知ってたの…!?」
「ぼくだってそれなりに、今の流行りを知ろうと努力してるんだ」
主に情報収集源は、クラスの男子の会話だが。
本を読みながら聞き耳を立てているぼくを想像して気持ち悪いと思った奴、あとで校舎の裏に来い。
「それで…ちょっと顔色悪そうだったけど、大丈夫?」
「大丈夫さ、これでもこの間返ってきた健康手帳に、すべて「異常なし」と書かれていたくらいだ」
「それは健康診断受けた時は、でしょ。今は悪そうに見えるよ」
彼女は徐に前のめりになり、ぼくの額に左手を当てた。
「……ッ!」
ワンピースの隙間から微かに見えた胸元よりも、額に触れた熱が思考の全てを絡め取る。
白くて、柔らかな感触。少し鼻を掠めた甘いミルクのような匂いも、ダイレクトに脳に伝わる。
思わず手を握りしめたら、爪が不可思議に肌に食い込んでいく感覚がした。頭が沸騰して、何も考えられなくなる。
「吉良くん、大丈夫?顔真っ赤だけど熱あるんじゃ…」
「ぼ、ぼくちょっと……ご、ごめん…」
「えっ……吉良くん!?」
司書の人が、彼女のあまりの大声にこちらを振り向く。後ろの鈴美の制止を無視し、ぼくはそのまま逃げるように廊下を走った。
全身の昂った熱を紛らわすように、いつの間にか着いていたのは屋上。
フェンスにもたれかかるようにして、そのまま地面の汚れも気にせず座り込んでしまう。鼓動はおかしいくらい速く脈を打っていた。ひどく喉が渇く。
「ハァ…ぼくいったい、どうしちゃったんだよ……」
コンクリートの日射温度に乗じて感じる暑さより、熱くなる身体の一部。
ただ連中が持ち込んでいた官能本(エロ本というらしい)を見せられた時、ぼくはそこに情欲をそそられなかった。
別にピュアというわけでもない。
だが考えてしまう。あの時女性の裸体を見てドキドキできていたら、どれだけマシだったろうかと。
思い出してしまうのは、つい先日図書館で調べ物をしていた時にいつもは興味がなく、立ち入らない芸術コーナーで目にしてしまったもの。
『
しかし同時に大人の成長(暗喩)を体験して、自分の「異常性」を疑うきっかけとなり、先生にエロ本が見つかり持ってきた男子がぶん殴られた事件で、確信に変わった。
「ぼくは……女性の手にしか、興奮できない」
とことん「普通」からかけ離れていく自分に、嫌気がした。
◻︎◻︎◻︎
あの後一旦賢者モード(風に当たって熱を冷ましただけである)になってから、図書室へ向かった。
戻ってまず一番に水筒の麦茶を飲み、喉を潤す。そして時たま先ほどの感覚を思い出しそうになりつつ、わからないところを教えてあげた。彼女は心配そうな表情を浮かべていたが、無視した。
気付けば時刻は4時。
夏は日の入りが遅いが、その時間になると夏休みということもあって残っていた──といっても最後はぼくと鈴美だけだったが──生徒はもれなく追い出される。
結局自分の勉強は進まなかった。帰ったらどれだけやったか母にノートをチェックされるので、憂鬱だ。叱られはしないけど、その怒りのない口調がまた居心地の悪さを覚える。
「ねぇねぇ吉良くん」
自転車を押して歩いていたら、後方にいた彼女が駄菓子屋を指す。帰り道は途中まで同じだ。
「今日はすごーく暑いよね」
「狙いはアイスか。ぼくに奢らせようたって無駄無駄ァ」
「ブー、ケチんぼ」
…まぁ今日は急に席を外してしまったこともあるし、買ってやらないこともない。
「男子のツンデレはあんまり需要ないと思うよ?」
「…うるさい、3秒以内に決めなかったらこの話は無しだ」
「えっ!?わわ、待って待って!」
彼女は慌てた様子で自転車を止め、駄菓子屋の方に走り出した。
幸い万が一の時のためにと持たされている金がある。アイス一つ買う分には余裕で足りるだろう。
彼女が少し悩んで決めたのは、パピコだった。
お菓子や甘いものは健康に悪い、と言われ育ったぼくは食べたことがないものだ。まぁ無駄に糖や脂質を摂取する気もないから、進んで食べたいとも思わない。
「はい、一本あげる!」
「え?」
「一緒に食べると美味しいんだよ!」
「………」
「やっぱり体調悪いから無理だったかな…?」
「…いや、食べるよ、ありがとう」
外にあったベンチに座ってアイスを渡された時、一瞬手が触れ鳥肌が立つような感覚に襲われたが、深呼吸して受け取る。
うだるような熱さに感じる冷たさは、悪魔的だった。味どうこうというよりは、夏の熱さの中体内を冷やすこの感じが癖になるのかとふと思った。最高にハイって奴だ。
「ぼくは常々大人どもが酒や煙草をするのに疑問を抱いていたけど、こういう中毒になる感覚がたまらないのかもしれないね」
「何でアイス一つで、そんなビッグな話になったの…?」
食べ終わったアイスは、駄菓子屋に設置されているゴミ箱に捨てた。
思えばぼくは家族や学校の給食などの機会を除けば、こうして寄り道して誰かと一緒に食べるのは初めてかもしれない。
こちらを窺う彼女にぼくは笑いかける。
「……悪くない」
「えへへ、よかった」
抑えきれないといった風に微笑んだ彼女の顔は、夕焼けの空のように紅く色づいていた。
ぼくよりもよっぽど鈴美の方が、病人じゃないか。
「病院行った方がいいよ」と伝えたら、彼女は一瞬真顔になり、舌を出してライダーの如き身のこなしで