転生したら殺人鬼ポジだった件   作:クリーニング黒兎

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例の如く一万字過ぎてて分けました。なので今回のと次のは大体続きものだと思ってください。
多分そろそろ燃え尽きそう。


37話 今、あなたの家の前にいるの

 吉良の朝は7時から始まる。昼食を挟んだ9時から18時までが仕事の時間だ。

 サラリーマンであれば拘束されるはずだった通勤時間は専ら読書の時間に使っていた。

 

 10年以上そんな生活を送っているためか、元来の体力のなさに拍車がかかっている。

 

 先日露伴の家に徒歩で向かった時も虫の息だった。

 漫画家の「マジかコイツ…」という表情が脳裏によぎるたびに、吉良は目尻がひくつく思いになる。

 

 最近はぶどうヶ丘高の近くにできるスポーツジムの会員になるか、かなり真剣に悩んでいた。

 

 

「だがああいう所はむさ苦しい男どもが汗をかいて、剰えその身体で器具に触れてるってことだろ?…無理だ、絶対に無理。それならまだ犬畜生を触った方がマシだ」

 

 

 吉良は朝食を作りながら遠い目を浮かべた。

 

 ならジョギングをした方がいい。となると、必要になるのは運動着だ。

 

 休みにスポーツ用品店に向かおうと彼は密かに心に決めた。

 

「…まぁ、あの小僧と関わることももうあるまい。向こうもわたしに関わりたくないだろうからな」

 

 それにしても広瀬康一といい岸辺露伴といい、今まで遭遇しなかった()()()()()や古い知り合いと出会っていることに、吉良は胸騒ぎを覚えている。

 例えるなら、Xデーをもじって「1987年(Xイヤー)」の再来とでもいうのか。

 

 なるべく奴らに関わるべきでないと、彼の本能が告げていた。

 

 自分は平穏に生きてみせる、そう心に誓って。

 

 

 

 そして時刻も9時を回ろうという頃。

 

 家事を一通り終えた男は、仕事に取り掛かろうとした。

 今書いているのは出版社側から頼まれている「純愛」もののシリーズである。

 

 教師と生徒の禁断の愛を描いた人気のシリーズで、ドラマ化もされている。本人は興味がないので見ていないが。

 

「仕事のためとはいえ、今時の女の趣味・嗜好を研究している自分も大概だな…」

 

『ニャー』

 

 仕事中勝手に現れたキラークイーンが、揺れ動く万年筆にじゃれ付く。

 

 

 ────ピンポーン。

 

 

 その時、玄関のチャイムが鳴った。

 ちょうどキラークイーンが卓から吹っ飛ばした万年筆のキャップを、吉良が拾っている最中だった。

 

「…誰だ?」

 

 何か頼んだ覚えもないので宅配便というわけはないし、郵便も今の時間帯ではない。

 なればセールス販売の類だろうか。再度鳴ったチャイムに眉を顰めつつ、分身を引っ込め男は玄関に向かった。

 

 居留守を使おう、という選択肢は彼にはない。これが露伴だったら居留守を使う。

 二人の性格の差が見て取れる例である。

 

「はい、何用でしょ…」

 

 苛立ちの滲んだ声色を隠さず玄関の戸を開けた吉良。

 その表情は目の前の人間を見た瞬間に固まり、狐につままれたような呆けた面を晒した。

 

 

「突然すまない。吉良吉影の家で間違いないだろうか」

 

 

 彼の前に立っていたのは、そのまま家に入ろうとすれば間違いなく額をぶつけるであろうほどの、身長の高い男だ。恐らく吉良より二回り近くガタイも合わせてデカい。

 

 それだけじゃあない。夏の気配を間近に感じてきた季節だというのにこの男、白い学生帽と学ランを着ている。

 

 その下はベストと黒いタートルネック。黒色が熱を吸収しやすいと知っての狼藉だろうか。追い討ちに二重ベルトだ。

 

 見ているだけで暑そうな服と男の圧迫感に、吉良は濁った目で「えぇ、そうですが」と返した。

 

 先ほど「学ラン」と言ったが、この大漢はまず間違いなく学生ではない。

 精悍なその顔付きは、自分が整った顔立ちだと自覚している吉良でさえ美形だと思わざるを得ない。

 

 総合すると学ラン・学帽を身に纏ったとんでもないイケメンの馬鹿でかい身長の青年が、彼の前にいる。

 

 嫌な予感しかしない。そしてその予感は、案の定当たってしまう。

 

 

「俺は空条承太郎。海洋学者をやっている。ここに住んでいる男に用があって来たんだが…アンタで合ってるか?」

 

 

 吉良は無意識に、服の上から胃を押さえた。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 空条承太郎は仗助の“甥”に当たる人物である。

 ジョセフの遺産相続の調査で隠し子が発覚してから、その事情を仗助本人に伝えるため日本に訪れた。

 

 それから高校生の()()に会って間もなく、虹村兄弟の「矢」の事件が発生した。

 

 

 承太郎はー海洋学者である傍ら、90年代から仲間のポルナレフという男と共に、矢の追跡調査を行っている。

 その過程で二人は矢を盗掘したという“青年”の話を知った。

 

 矢が複数あることについては、DIOの手下だった者たちを調べた際に判明している。

 

 効率を考え、ポルナレフはアフリカやヨーロッパ。対し承太郎はアメリカやアジアを中心に捜索することになった。

 

 

 矢は10年以上前ジョースター家の宿敵であるDIOを倒した後、二本はスピードワゴン財団によって回収された。

 

 残りはいずれも行方不明である。

 

 またエンヤ婆を詳しく調べたところ、既存の六本プラス、もう一本矢があることが判明している。

 

 エンヤの行動にはいくつか不審な点があった。

 

 DIOにスタンドを教えたことだけではない。青年から入手したという六本のうち、五本の「矢」を得たことも偶然にしては出来過ぎていた。

 

 

 この老婆がまるで未来を見たかのように先取りした行動を取れたのは、主に二つ理由がある。

 

 一つ目は彼女が「占い」という特殊な力を持っていたこと。

 

 そしてもう一つは、彼女の先祖から伝わっていた一本の「矢」の存在にあった。

 

 矢とともにスタンドという特殊な力についての情報も先祖から受け継がれており、これがエンヤの占いの力も相まって、想像を絶する悪────すなわちDIOに“(スタンド)”を与えることになってしまった。

 

 ちなみにその一本の矢については見つかっていない。他の矢と同様に、他の人間に渡っていることは確かだろう。

 

 

 

 そして、現在。

 

 中々矢の発見に至らなかった折、承太郎は虹村兄弟の事件によって一本の矢を見つけることができた。

 

 だが面倒なことに兄の虹村形兆は、矢を使いスタンド使いを増やしていた。

 彼にも理由があったのだが、過程で人を殺めてしまった罪は重い。

 

 その後、形兆は自分でスタンド使いにした音石明という男に殺害された。

 

 弟の億泰はというと、仗助の言葉もあり自分の行いを改心している。まぁそもそも主導で動いていたのは兄であり、弟は従う他なかったとも言える。

 

 そして音石明も仗助たちに成敗され、御用となった。

 

 

 この一カ月の間で承太郎が関わったのは、スタンド使いのネズミの駆除くらいだ。

 

 形兆がスタンド使いを増やした余波は主に仗助たちが受けている。特に康一の被害が多い。

 

 まだスタンド使いがいるかもしれない状況と、祖父のジョセフが仗助に会いに来てしまったこともあり、もう暫くは彼も帰国できないだろう。

 

 ついでに承太郎本人も杜王町に広がる海底の地質に興味を抱き、研究熱を駆り立てられている。

 

 後日新種のヒトデを発見してしまうぐらいの入れ込みようだ。

 

 

 

 

 

 ここまで話した限りでは、承太郎が吉良の家に来る理由がない。吉廣がエンヤから矢を手に入れたことは知らないのだ。

 

 ならばいったいなぜ彼が吉良邸に訪れたのか。

 

 

 きっかけは仗助が露伴を入院させ、少し経った時期にまで遡る。

 

 その日、赤ん坊を抱えたまま迷子になっていたジョセフを、仗助がホテルに送り届けに来た。

 承太郎もまた同じホテルに滞在していたため、礼を言った。

 

「すまないな、ジジイが。気付いたら勝手に抜け出してこれだ……もっとしっかり俺が見ておくべきだった」

 

「いや、承太郎さんが謝らないでくださいっスよ。ジョースターさんも赤ん坊も無事だったんですし」

 

 一つ、二つと他愛ない会話が続き、承太郎はふと仗助の視線がある場所に釘付けになっていることに気づいた。

 

 そこにはロビーのソファーに座り、赤ん坊を抱くジョセフの姿がある。

 

 赤子はキャッキャと笑いながら加減を知らぬ小さな手で、白い髭を引っ張る。

 老人はその、柔い手をやさしげに見つめていた。

 

 承太郎の娘を抱いていた時も、ジョセフは似たような微笑みを浮かべていた。

 当時の娘と祖父の姿を思い出した承太郎は、浮かべた笑みを隠すように帽子を深くかぶり直した。

 

 そして会話を戻そうと、仗助の顔を、見て。

 

 

「……あったかいっスね」

 

 

 あぁ、とため息ともつかぬ小さな声が承太郎の口から溢れた。

 

 この少年は、承太郎が子供の頃から当たり前のように両親から受けていたその優しさを、そのやわらかさを、人より受けてこなかった。何せ父親がいなかったのだから。

 

「ハァ……やれやれだぜ」

 

「………んえ?お、俺、なんか承太郎さんの気に障るようなことしちゃいました…?」

 

「いや、お前は悪くねぇよ」

 

「そ、そっスか……」

 

 ジョセフがあと10歳は若かったら、今この場で赤ん坊を避難させてから承太郎の拳が飛んだだろう。

 

 思い返せば、仗助は幼くして母方の祖父を亡くしている。

 

 母親と二人での生活だが、それでも真っ直ぐに育った。

 父親や祖父がいないからといって朋子は息子を甘やかさず、時に厳しく、時に優しく見守って来たのがよくわかる。

 

「母親を大事にしろよ、仗助」

 

「え?……大丈夫ですよ、お袋は俺が守りますから」

 

「…ッフ、そうか」

 

 普段は崩れない男の笑みに仗助の目が丸くなる。

 

 そして、自分の発言に少し恥ずかしそうに頰をかきながら顔を逸らした。16歳とは言ってもまだ子供である。

 

 

「まぁ、お袋にはその…じいちゃんが亡くなったと()()()俺が熱でぶっ倒れたりとか、迷惑かけましたし。だからその……………笑わないでもらえますかァ!!!」

 

「いいじゃねぇか、母親思いで」

 

「絶対お袋にはこのこと言わないでくださいよ!!会うことがあっても、絶対ッ、絶対っスからね!!」

 

「あぁ(多分)」

 

 あたふたとする高校生の叔父は、承太郎には微笑ましく映った。

 

 

 ──と、同時に彼の中で一瞬、引っ掛かりができたのである。

 

 

 承太郎は東方朋子がいない間、仗助の家を訪れた時に仏壇の位牌を見たことがある。東方良平の命日は1987年の夏ごろだ。

 

 仗助が能力に目覚めたのは本人によれば、4歳頃。

 

 また、承太郎がDIOとの因縁でスタンドに目覚めたのは同年の11月の時期で、ジョセフや彼の母のホリィも同時期に目覚めている。

 

 スタンドは「矢」により目覚めることが殆どである。

 

 

 しかし中には承太郎のように血縁者のスタンドの覚醒(この場合、DIOの肉体であるジョナサンの身体)を受けて目覚める者もいる。

 

 ただしホリィのように“器”が不十分な場合はスタンドが暴走し、「本体」を害してしまう可能性がある。

 

 承太郎はてっきり仗助もホリィのように、血縁者のスタンドの覚醒を受けてクレイジー・ダイヤモンドが目覚めたのだと思い込んでいた。

 

 だが仗助の覚醒時期は夏ごろ。対し承太郎たちは11月ごろ。時期が噛み合わない。

 

 

 何か、何か俺は重要なことを見落としている────。

 

 

 10年前より少し肉の落ちた頰に汗が伝った。

 

「…仗助、一応聞いておきたいが、お前がスタンドに目覚めた時の状況を覚えているか?正確には熱を出してぶっ倒れる前のことだが」

 

「俺がスタンドに目覚めた時ってーと、4歳の時っスから……あんまし覚えてないですよ」

 

「何でもいい。そのあ……脳みそで思い出せ」

 

 うっかり「その頭で」と言おうとした承太郎はすぐさま言い直した。

 

「4歳の頃……4歳の頃ォ…?」

 

 仗助としては4歳の時期は印象深い出来事が多かったとはいえ、まだ保育園生だった頃のことだ。記憶の糸を辿れども、あやふやなことしか思い出せない。

 

「あーでも、じいちゃんのこと待ってたのは覚えてるっスよ。それで気付いたら熱出してて…」

 

「それだけか?」

 

「それだけっ()われても………あ!」

 

「何だ?」

 

 そう言えば、開いた窓越しに仗助は()()を見た。

 

 

 遠くの茂みから一瞬光った物体。それに仗助は気を取られていて、その時部屋の電話が鳴った。でんわだ、と意識がそちらに向く。

 

 それから一瞬のことで、腕に微かな痛みが走った直後、仗助は倒れたのである。

 

 意識が朦朧とする中聞こえたのは、先生の声と部屋から飛び出していく大人の足音。

 

 そして仗助は────そうだ。今にも気を失いそうな状況で外に視線を向けた時に、外の水溜りから伸びた()()()()()()()()を目にした。

 

 それは部屋の中に侵入し、ズルズルと、何か棒のようなものを引きずっていった。

 

 仗助は思い出した棒状のものに既視感を覚えた。つい最近見たものと似ている。

 

 音石明から回収した………、

 

 

「あれは「矢」だった!!」

 

 

 承太郎は新たに厄介な件が浮上したことに眉間の皺をほぐした。

 

 虹村兄弟の持っていたものとは考えにくい。億泰からも彼らが持っていた「矢」は、最近使用するまで家に保管されていたと聞く。

 DIOの手下だった父に「矢」が渡って以降、誰かに盗まれていたということもない。

 

「恐らく「矢」はもう一本あると考えていいだろう」

 

「ど、どうするんスか!?悪用されてバンバンスタンド使いが生まれてたらヤベェよォ〜〜!!」

 

「それに関しては問題ないだろう。俺たちが出会ったスタンド使いはみな虹村形兆か、音石明に矢で射られた者だけだった。仮にもう一本の矢でスタンド使いになっていたのだとしたら、「スタンド使いとスタンド使いは引かれ合う」という性質上、その矢で目覚めたスタンド使いに出会っていなければおかしい」

 

「……つまり、使われてはないってことですね」

 

「あぁ、()()な。いつ誰かの手に渡り悪用されるかも分からない。その「矢」が過去にお前に使われたとして、今もこの町にあるとも言い切れない」

 

「………」

 

 いつになく仗助の表情が真剣なものになる。

 

「もう一本の矢については俺が調べる。お前は引き続き、スタンド使いが現れた場合上手く対処してくれ」

 

「でも…」

 

「大人と子供じゃ出来ることの大きさが違う。お前はお前なりに、最大限のことをすればいい」

 

「……っス」

 

 仗助はそれでも納得がいかないようだった。

 

 彼の能力は近距離パワー型であれ、能力は「()()()」ことなのだ。応用力の幅や地のステータスも申し分ない。それでもいざという時のもう一手に欠けることが多い。

 

 ならば承太郎のように完全な攻撃特化であれば良かったのだろうか?

 

 否、それも違う。スタンドは使い手の深層心理や本性を反映されたものである。

 

「治す」、或いは「直す」ことを主軸としたクレイジー・ダイヤモンドは、強さと優しさを兼ね備えている。

 

 それを早々に理解した承太郎は、だからこそ仗助に一定の信頼を置き、前日のラット退治にも同行させた。能力を間近で観察するという意図もあったが。

 

 そして能力の強さを含め、スタンド使いの対処を任せられると判断した。自分が帰国した時の懸念を払拭するためでもある。

 欠点についても億泰や康一といった仲間が補うだろう。

 

 あの承太郎から及第点以上の点数をもらっている仗助だが、気付けていないのは本人の性格ゆえか。

 それともこの学者の顔が滅多に感情を出すことがないせいか。

 

「まぁ、任せてください!このグレート仗助くんが頑張りますから、大船に乗ったつもりでいてくださいよォ!」

 

「泥でできた舟か?」

 

「……今仗助くんのガラスのハートにヒビが入りました」

 

 承太郎が冗談のつもりで言った言葉を間に受けた仗助は、暫し落ち込んだ。




(蛇足的なもの)

承太郎は仗助と最初に会った時クレイジー・ダイヤモンドを使っていた様子に驚いていた描写があったので、叔父がスタンド使いだとは知らなかったと推測(可能性としては考えていたとは思う)。

そこからこちらの設定だと、仗助のある程度のプロフィールは知っていたものの、高熱を出して入院していた時期までは知らなかったとした。


また「スタンドに目覚めたのは4歳頃(1987年時点)」について。

仗助の誕生日が双子座(5月21日~6月21日)で、良平の死亡時期が8月序盤、同日に「矢」に射られた仗助が入院。
そして承太郎たちのスタンドの覚醒が11月頃。

以上から「4歳ごろに高熱を出した」という内容が、時期は違えど噛みあってしまうことになり、二人の間で解釈違いが生まれたとする。
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