転生したら殺人鬼ポジだった件 作:クリーニング黒兎
もう一本の「矢」があることを知った空条承太郎は、スピードワゴン財団の手を借りその行方を探した。
調べればかつてから杜王町には行方不明者や未解決事件が多く、こと近年ではその発生件数がさらに増加していることがわかった。
一つ一つ吟味するのは困難なため、仗助がスタンドに目覚めた近辺の事件に絞って調べた。
この承太郎の読みは当たり、いくつかの不審死体の事件を見つけた。
それは
前者の多くは脳溢血等の病気として判断され、後者は他殺、もしくは犯人が不明の未解決事件として処理されていた。
恐らく前者が「矢」によって亡くなった遺体だ。ポイントはこの「死に至る外傷がなく」のところ。矢で受けた傷は、たとえそれがかすり傷でもスタンドに目覚めなければ死にいたる。だから前者は矢が使われたと判断できる。
ならば後者は「矢」で目覚めたスタンド使いの仕業と考えていい。
仗助の祖父も似た殺され方をしており、同一犯の可能性があると承太郎は睨んだ。
東方仗助が見たのは液体型のスタンドだ。水を伝って移動を可能としていたのだろう、事件のほとんどは雨が降った翌日に起きていた。
その液体型のスタンドであれば形状も容易く変えられるはずだ。それこそ心臓を一突きして殺すことも可能に違いない。
仗助など複数の人間に「矢」を使っていた人物と、人を殺し回っていたスタンドの本体は同一人物である可能性が高い。
形兆や音石がスタンド使いにした人物でも、ここまで人を
一人、該当し得る人物はいた。
それは良平が殺され、仗助が高熱で倒れた少し後に杜王町で起きた事件。
世間でも一時期騒然となった事件で、承太郎の記憶にもかすかに残っていた。
『S一家殺害事件』
犯人は片桐安十郎とされ、現在でも全国指名手配を受けている。
SPW財団伝いに警察から取り寄せ、承太郎は片桐の犯罪歴を見た。
この男は仗助の祖父に初犯時捕まった経歴がある。良平を恨んでいてもおかしくない。
しかし、その娘と孫を殺さずにいたのは少し疑問がある。
片桐のねちっこい性格を考えると、良平を絶望させるために娘と孫を目の前で殺して──くらいしそうだ。
────まだ何かあるのか?
────そもそも片桐はどうやって「矢」を手に入れた?
第一殺すならば、スタンドを使って殺した方が早かったはずだ。
S一家は刺殺によって殺された。生存者は確か……と考え、承太郎は取り寄せていた『S一家殺人事件』の詳細を見た。
事件の内容は「
ニュースや新聞では、S家の自宅で両親を先に殺し、娘を攫った片桐が彼氏に身代金を要求したとある。
その後彼氏は警察に通報。そして身代金を要求された場所に持って行ったが、犯人の内通者に警察に通報したことがバレており、交渉は失敗した。
彼氏が現場についた時にはすでに彼女は殺されていて、彼氏も殺されそうになったところで近くに身を潜めていた警察官が片桐を止めようと発砲した。
そして片桐は海へ身を投げ、逃亡した────とあった。
だが捜査内容は全くの別物だった。
片桐が両親を殺し、娘を攫ったまでは合っているが、まず彼氏の証言が違う。
彼氏は警察へ連絡せず、現場のメッセージを読み解き独断で助けに向かった。この間
また面倒なことに彼氏には精神疾患があった。その証言の信憑性が問われている。
一応続きには、彼氏は負傷していた彼女を見て錯乱し、犯人につかみかかったところで逆に重傷を負わされた。そして彼女は彼氏を助けようとしたのち犯人に殺された、とあった。
警察側はこの事件を片桐の一方的な怨恨事件として片付けている。
というのも、片桐には腹違いの姉がいた。その女が金に困り誘拐した時に巻き込まれたのが、その彼氏と彼女だったというわけだ。
女は捕まる前に海に身を投げて自殺している。こちらは片桐と違い、遺体が発見されている。
「………」
一応と、承太郎はその姉の起こした事件も見たが、こちらも違和感があった。
彼氏側は裕福な家庭で攫ったのも理解できる。しかし彼女の方はごく普通の一般家庭である。
しかも最初に誘拐されたのが彼女で、次に誘拐されたのが彼氏だ。
捜査内容に記されている誘拐された二人の証言を合わせてみると、メインの誘拐は彼氏で、彼女はその彼氏を誘き寄せるための餌だった──とある。
しかしそんなことをわざわざせずとも、彼氏だけ誘拐すればよかったはずだ。
しかも犯人の女は被害者の二人(+幼児)と出かけ、帰って来たところを狙っている。
他に最適な日にちはなかったのだろうか?
さらに言えば二つの事件の現場と、それぞれの犯人の顛末も気にかかる。
一方は自殺し、一方は行方不明。
現場は犯人の女の自殺以降、自殺の名所として何人もの人間が身を投げている。
死体のほとんどは同じ浜に上がっている。現場の下は高さ数十メートルもの切り立った崖になっていて、横の長さもある。
また海流の流れが激しく、女子供では飛び込むと近くの浜辺にたどり着く前に確実に死ぬ。体力のある男でも無理があるだろう。
片桐ならば可能だろうか。
──いや、難しいだろう。行方不明にされているが、警察は死んだと考えている。
仮に承太郎の「片桐はスタンド使いであった」という考えが正しければ、警察が現場に来た時海に逃げずとも、スタンドを使えば逃げられたはずだ。
だが現場の証拠では、片桐が海に身を投げたのは間違いない。
そもそも何故ナイフを使って片桐は『S一家』を殺害したのか?
彼女の致命傷となった心臓の傷や彼氏が四肢に負っていた傷は、良平などの人間が負っていた傷と類似点が多い。
ゆえに「片桐=スタンド使い」はほぼ確定する。
能力は仗助の証言を踏まえると、水、あるいは液体類全般に同化できる物質同化型であろう。
ならばやはり、なぜ犯人はスタンドを使わなかった、という疑問に行き着く。
また彼氏も簡単に殺せたはずだ。痛ぶられたような傷。ここにも何か訳があったのだろう。
とすると、怨恨の線は確実か。片桐は彼氏に強い恨みを持っていた────。
片桐の姉が彼氏を攫ったのも、もしかしたら別の理由があったのかもしれない。片桐の恨みを買うような何かが、二人の間にあったのだろうか。やはり調書だけでは情報が足らない。
不明な点が多すぎる。調べれば調べるほど、深みにハマっていく。
だが確かなのは、この二つの事件の中心にいる人物が今もこの杜王町で生きているということだ。
承太郎はついでに警察側の捜査内容を確認するため、二つの事件に当たった刑事と対面した。
相手は50代後半ほどの恰幅のよい男だった。
『S一家殺人事件』に関しては不可解な点の多さから、警察側としても「仕方のない対応だった」と言われた。
杜王町で起こる不可解な事件に関しても、昔から同様の対処が取られてきたのだという。
ならば、佐藤の誘拐事件の方だ。
犯人が彼氏だけでなく彼女まで誘拐したことや、誘拐時期の不自然さに承太郎が尋ねている間、中老の男は静かに話を聞いていた。
しばらく沈黙していた刑事は煙草を取り出し、彼に吸っていいか聞く。
「別に構わない。俺も昔吸っていたのでな」
「今は吸っておられないので?」
「………あぁ、娘がタバコ臭いのは嫌いだと」
「ハハッ、なるほど。…いい父親ですな」
「……そうでもないさ」
承太郎にとっては耳の痛い話だ。アメリカに妻と娘を置いて日本に来ている状況では、妻子想いとは言えない。いくら懐に家族の写真をしまい、時折それを眺めるとはいえ。
吐かれた紫煙が空中を漂い、換気のなされていない窓に当たってかき消える。
細い目ではかなき雲の行く末を見た恰幅のよい男は、ポツリと呟いた。
「……言われたんですよ、あの少女にね。真っ直ぐで、綺麗な目を持つ子供だった」
男は佐藤の誘拐事件に当たった際、犯人の仲間に危うくレイプされかけた少女にズケズケと聞いてしまい、過呼吸にさせてしまったことがあった。
それでも少女は呼吸が落ち着いたのち、話を続けた。
その中で彼氏と佐藤の肉体関係のもつれの結果、少女が巻き込まれたと考えていた男は、彼女に尋ねた。
────佐藤容疑者と吉良少年には肉体関係があったのだろう?
しかし少女は首を振った。一瞬泳いだ目を、その時男は確と捉えていた。
その後も事情聴取は続き、終わり際に彼女は過呼吸を起こしてから視線を合わせなかった男の目を、真っ直ぐに見据えた。若干の震えを残し青ざめた顔で、それでも美しい瞳で。
『彼はただ「普通」に、平穏に、生きたいだけなんです。だから、彼の幸せを奪うようなことはしないでください。……どうか、お願いします』
深く頭を下げた少女に、男は強く心を揺さぶられたのである。
「片桐の件は仕方ありませんが、佐藤容疑者の事件は私が意図的に手を加えましたよ」
「捜査内容の詐称はご法度ではないのか?」
「バレたら、私のクビが飛ぶでしょうね。私が自身の正義を曲げたのもその一回きりですよ。上に密告するならお好きにどうぞ」
「…いや、やめておこう。だが何故、自身の信念を曲げてまで行った?」
「……亡き友に、影響されたせいか。はたまたあの少女の瞳に、俺の心が動かさちまったせいか……まぁ、どっちもですな。少女のトラウマを呼び起こさせてしまったことに対する、罪滅ぼしもあったでしょうが」
そう言うと男は苦笑いし、灰皿に煙草を擦り付けた。
「分かるぜ、空条さん。あんたは今「わからない」って顔をしている。俺の行ったことは違法だ。あの少女のようにあんたもどこまでも真っ直ぐな一つの信念を持っている。あんたのそれは「正義」って奴だろう?」
「………」
「悪いことをすれば罰せられる、当たり前のことだ。だが長年刑事をして善人も悪人も見ていると、人間が結局は同じように見えてくるんだよ。愚かで、哀れで、救いようのない生き物だ。それでも良い奴には良い奴なりの、悪い奴には悪い奴らなりの人生がある。「悪」だからってそれを全て
不意に承太郎の思考によぎったのは、かつての旅で対峙した男の言葉。
“悪には悪の救世主が必要なんだよ”
それはつまり、悪人には元々救いがないということで。
彼らはだからこそ、DIOのような圧倒的な悪のカリスマを求めた。
そんな悪役たちには、本当に救いがなかったのだろうか?
あるいは承太郎や仗助、ジョセフのような人間であれば救うことが出来たのだろうか?
空条承太郎はその時、“その答え”を出すことができなかった。
「SPW財団のバックがある貴方ほどの人間が、どうして過去の事件を蒸し返しているのかは知らんがね。あの少年────いや、もう壮年になってるのかな?ともかくあの男にはあまり、関わるべきではない」
「…それは何故だ?」
恰幅の良い男は、片桐の事件を聴取した際、感じた青年の鋭く異質な圧を思い出す。
40年近くなった刑事歴だが、その間様々な悪人に出くわして来た。中には吐き気のするような凶悪犯罪に当たったこともある。
そんな男でさえ、当時青年だった男ほどの禍々しい威圧感を感じたことはない。
もはやあれは殺気と呼ぶに等しいオーラだった。
「彼はきっと今も平穏に暮らしているだろう。だからこそ、あまり余計な真似はしてくれるなよ、空条さん」
導火線に火をつけてはならない。
付いたら最後、爆発するのは目に見えているのだから。