転生したら殺人鬼ポジだった件 作:クリーニング黒兎
少年少女の恋とか少女漫画じゃなく少年漫画譲りだからどう展開していくか難しいけど、アオハル思い出して書いていこうかなーな感じ。
あれ、そもそも自分に青春なんてあったっけ?……あれ、目から鼻水が……。
杉本鈴美_______彼女の初恋は、4歳の時だった。
当時幼稚園の年中だった彼女は、早くもランドセルに憧れていた。
しかしまだ早いからと買ってもらえず、拗ねる日々が続いていた。
そんなある日少女は父親との帰宅帰り、蝶を視線で追っていた折に、公園のブランコに座る少年の黒いランドセルに目を留めた。
幼児の興味は簡単に蝶からランドセルへと移り、頬を紅くして一直線に少年の元へと走ったのである。
かつてのことを思い出すと、鈴美は顔から火が出そうになる。初恋の相手など、言葉にしなかっただけで完全に引いていた。
明確に彼女がフォーリンラブしたのは、ランドセルへの興奮も収まりブランコを少年に押してもらった時。
夕焼けに色付いた世界の中、後ろを向いた時に見えた少年の笑顔。そこでようやく少女は、少年の姿をはっきりと捉える。
金髪に紫の目。目の前の年上の子供は、まるで外国人のような見目をしていた。
絵本の中の白馬に乗った王子様の図を重ね、少女の頰はまた紅くなった。
それから近所から「ヤンチャ娘」とまで謳われた姿は身を潜め、少女は実に女の子らしくなった。
同じ小学校に通うのだから、いつかまたあの少年と出会える機会があるはず。
彼が王子様で自分がお姫様なら、運命的な出会いをしてしまうのだろうか──。
そんな乙女な妄想を抱きながら、少女は小学生になった。
元から絵本など本が好きだった彼女は、すぐに図書室に行って本を借りるようになった。
そしてある時高い所にある本を取ろうと手を伸ばしていた際、年上の少年に本を取ってもらった。
『あ、ありがとう」
『いや、気にしないで。名札がぼくのと違って赤いから、君は新入生だろ?こういう時は年上を頼ってよ』
『うん……あっ!』
『何だい?……あれ、君は…』
二回目の出会いは図書室で。
お互い本好きだとわかり、少女は内心舞い上がったものだ。さらに放課後に時たま勉強する仲にまで至った。
少し寂しかったのは少年の親が過保護なこともあり、二人で遊びに行ったりすることができなかったことだろう。それでも少年と共に過ごす時間は、彼女にとって幸せのひとときだった。
それから少年は卒業し、私立の「ぶどうヶ丘高校」の中等部に入学。
必然と好きな人と同じ学校に行きたいと思ってしまうのは、恋の
しかし彼女の家計は決して貧しいというわけではなかったが、中高にお金をかけられるほど裕福でもなかった。
ゆえに彼女は猛勉強して、堂々と「特待」の席を勝ち取った時は、「恋の力ってすごいのよ」と母親がロマンチックに語っていた。
その一方父親はソファーに座り、最近飼い始めた犬のアーノルドに顔を舐められても、微動だにしなかった。娘の恋路はお父さん的にショックが大きかったらしい。
家庭事情は一旦置き、かくして彼女は、春から新品のセーラー服を身にまとう中学生となった。
友人もすぐにでき、順風満帆な日々を送っている。初恋の相手の新しい異名が生まれているかもしれないと思ったが、そんなことはなく。
むしろ「憧れの先輩」やら「気になる先輩」などの話題で、まったく上がらないときた。
小学生の頃はその日本人離れした容姿で目立ち、染めてメガネをかけ地味になっても、もはや奇跡と言っていい運動音痴や地の顔の良さ。滲み出る冷たいオーラから、良い意味でも悪い意味でも周囲から一目置かれていた。
勤勉さと頭の良さは、前者に述べた理由のせいで霞んでしまっていたが。
彼女はてっきり中学でも彼が目立っているとばかり思っていたが、実際は本当に目立たず「普通」の男子生徒として過ごしている。
周囲に聞いても「そんな人いたっけ?」やら、「あぁ、彼か」といった反応ばかり。
些かあの運動神経が直ったとは思えなかったが、多少改善はされているらしい。知った時は天変地異の前触れかと思った。
「勤勉で成績はいいけど、あんまり人との付き合いがない地味な生徒_____か」
しかしどんな印象でも、「好き」であることに変わりはない。
初恋を未だに抱き続ける彼女は、純真と言えるだろう。
ただ彼女は純粋過ぎた。
二年の月日というのは、歳を取れば短く感じてしまう歳月であるが、まだ感性の青い少年少女にとっての二年とは、途方もなく長く感じるもの。
己の欲望に対しまだ青く知ったばかりであり、或いは知らない若者は、些細な変化で感情を揺さぶられる。
そして鈴美は久しぶりの初恋の相手と、予定調和のように図書室で発見した。
高校生も使う図書室は図書館と比肩する広さを持つ。他にも受験のため勉強する高校生に混じって、一人彼は窓際の席で勉強していた。四人席だが偶然なのか、彼以外人はいない。
ちなみに今日は中間テストの試験週に入った初日で部活は休みである(彼女はまだ入っていない)。
真面目な生徒も中にはいるが、ブームな「ツッパリ」の影響か、ヤンチャで不真面目な生徒が殆ど。
さらに初日ということも相まって、人はさほど多くなかった。まぁそれも、もう少し日にちが経てば人の数は増えるだろう。
「吉良、くん…」
彼の髪は前に見た時よりも伸びており、長い前髪が見目の良さをわからなくしている。少しもったいない気はした。
二年間小学と中学の違いで会う機会がなかったので、制服姿も新鮮だ。
だが、最も驚いたのは伸びた身長である。
小学の時は鈴美の成長期が早かったこともあり、お互いの身長はほぼ同じだった。
しかし今は相手が座っていてもわかるほど、身長の違いを感じる。恐らく立ったら自身の視界が彼の胸元辺りになる。
その事実に妙な嬉しさと恥ずかしさの混ざった感情が、鈴美の頭の中でグルグルと回る。
前のように元気よく名前を呼ぼうとした声は、思った以上に小さくなってしまった。
「──鈴美?」
「へえっ!?わ……」
「しっ、ここは図書室だぞ」
「あ、うん、そうだったね……ごめん」
「とりあえず座るといい」
自然と持っていた鞄を持たれ、挙句彼の座っていた前の席に誘導される。
なんだか頭が熱く、「うん…」と頷くだけで、終始上の空になってしまう。頭の魚が酸素を求めて口をパクパクさせた。
「二年ぶりかな?随分雰囲気が変わったね」
「吉良くんに言われたく……ないかなぁ」
「フン、そりゃあ二年もあれば、多かれ少なかれ人は変わるだろ」
「なんか、
「なんだ、身長のことを気にしてたからどもってたのか?随分可愛らしいじゃないか」
「か、かわいいって…!!」
思わず彼女は声を上げて立ち上がってしまった後、ふと周囲の視線を集めてしまったことに気付く。
すぐに顔を真っ赤にして、席に座った。目の前の男は手で口元を隠し小さく笑っている。いい性格だ。
「ぼくが指摘してあげてたっていうのに」
「絶対狙って言ってたでしょ、バカッ!」
「おやおや、そんな口聞いていいのかい?仮にもぼくは先輩だぞ」
「吉良くんなんて「先輩」じゃなくて、「くん」で十分だもんね」
彼女はお返しにと、相手の脛を蹴った。彼は呻き声を上げそのまま足を抑えて固まる。彼女は内心でザマァみろと、舌を出した。
だがそこで目立ってしまったことを思い出し、相手の顔色を窺った。
自分はよくとも、彼の信念にそぐわないことをしてしまったのだ。外見には出ていなくとも、本当は怒っているかもしれない。
「えっと、その…」
「「目立ってごめん」──かな?別に構わないよ。ただ小学生の時のように一緒に勉強…っていうのは、難しいかな」
「…ッ!」
思わず相手の顔を見た時、前髪と眼鏡で二重に隠れた瞳の奥が暗い色をはらんでいることに気付く。
それで目の前の人物が相変わらず親に縛られているのだと、彼女は察した。
小学校の時とは違い、彼の家庭事情について学校側は知らないのだろう。でなければ、断られなかったはずだ────と、思いたい。
「母親に
「そっ、か…」
当たり前のように一緒に過ごせると思っていた彼女は、暗い気持ちになった。
落ち込む彼女を見て、彼は優しく話しかける。
「一緒に勉強したかったんだよね?ぼくが親の目を恐れているせいで…ごめんね、鈴美」
「い、いいの、「きっと大丈夫」って思い込んでた私が悪いんだし…」
「そう、落ち込むなよ。同じ学校には通ってるんだし、何かしら話す機会はあるかもしれないだろ?」
「……じゃあ入ってる部活を教えて。入部見学の時色々回ったけど、吉良くん見つからなかったの」
「部活は書道部だが…習い事もあるから、いないことが多いよ?」
「それでもいい、入ってやるもん」
「そうかい…まったく、何で君はぼくに懐いたんだか…」
「懐いてるわけじゃないよ」
「違うのか?」
大人びた顔立ちが、きょとんとした表情を見せる。彼女はその顔をじっと見つめて、理由を言おうか口ごもった。
相変わらずこの男は、利発さとかけ離れた鈍さを持つ。彼女の秘めたる恋心を見抜いてくれたなら、こちらもとうの昔に吹っ切れて告白でもして玉砕し、別の恋に行けたかもしれない。
しかし現実は、ずっと初恋で灯った炎を胸の内に燻らせたまま。
「このクソ鈍ヤロー…」
「女の子が「クソ」とか言うんじゃあない」
「じゃあバカ、あんぽんたん」
「はいはい、今日は許すからさっさと勉強を始めましょうね、鈴美さん」
「そんな気分になれないもん……ほんと、吉良くんのバカ…」
机に突っ伏し尚も文句を言っていれば、彼にため息が聞こえ、頭を撫でられる。
あまりの突然のことに一瞬彼女の心臓が止まりかけたが、顔を上げれば真っ赤な顔がバレるので、そのまま語彙力のなくなった状態で文句を言い続けた。
「君
そう一言言って相手は手を離し、勉強を再開した。
彼の含みのある言葉を彼女は少し疑問に思ったが、そのまま春の陽気を残す暖かさと、聞こえるシャーペンの音に次第に瞼が重くなり、気付けば寝入っていた。
その後起こされ、変な体勢で寝ていたため頰に手の跡が残っていたことを指摘し笑った相手に、お構いなくバッグで殴った。
そして鈴美は翌日、彼女たちを図書室で偶然見かけたという友人に、
______3年B組の吉良先輩って、保健医の佐藤先生と付き合ってるらしいよ。
思わず彼女は、持っていたバッグを地面に落とした。
◻︎◻︎◻︎
「一年の杉本さん、吉良くんの幼馴染だって話、本当?」
「…相変わらず情報がお早いんですね、
「あははーこれでも保健の先生だからねぇ、色んな子が来るから必然と情報が集まるのよん」
「ベタベタ触らないでくれますか、二重の意味でよごれる」
「えぇーひどい、さっきまで愛を確かめ合ってたのに」
「確かめ合ってないです。頭がイかれてるのか、アンタ…?」
佐藤保健医と利害関係ができたのは、二年のいつ頃だったか。
性的なマイノリティーを持つ人間は少なからずいる。同性愛者だったりトランスジェンダーだったり────。それがぼくの場合は女の美しい「手」で、彼女は美しい「目」だったこと。
ともかくぼくは、彼女の誘いに乗った。お互いの利害関係は一致していたし、こちらとしても悪化する体調不良にほとほと困っていたこともある。
関係ができてから理解させられたのは、ぼくが自分の欲望に対し思った以上に従順だったこと。
彼女の手を愛でている時は、全てのしがらみから解放されたように感じられる。親もストレスも「普通」への渇望も、ぼくを邪魔することはない。
「本当に…最初の
「私は行為中にキレイな目を舐めるのが好きだから、またシてもいいけど」
「二度としないし、初体験が保健室で保健医なぼくの気持ちなんて、アンタにはわからないでしょうね」
「でも誘いに吉良くんは乗ったじゃない」
「あれは……抑えが、利かなくなって…」
「まぁ「手」を愛でている君を誘導したのは、私なんだけど」
「………」
「ご、合意の上じゃない、ほら、ちゃんと避妊もしたし。なんてったって私は保健の先生ですから!」
「へー最近の保健の先生は、生徒を食い物にするんですねぇ初めて知りましたぼく」
「あぅ、そんな怖い目しないでよ________興奮しちゃう」
「………もういい」
この関係は月に数回程度。こちらが体調を悪くした時に彼女の手に触る。逆に彼女はぼくの目を舐……まぁそこら辺は表現の気持ち悪さから、割愛させていただく。
「ところで杉本さんとは、もう会ったの?」
「先日図書室で会いましたけど」
「ふーん…」
彼女は唇を尖らし上目遣いでぼくを見てくる。
何でアヒル口にしているんだ?この女。
「幼馴染ってことは、もしかして好きだったりするの?」
「好きですけど」
「えっ」
「フフ、彼女の手…久しぶりに見たんですけど、より
本当は触りたかったが人目もあったし、何より少年と少女ではなく男と女に近付いている中で、過度な接触は憚られるべきだろうとやめた。
「よかった、やっぱり吉良くんは手にしか興味がないのね」
「でも…そうですね」
「?」
鈴美自身も髪が伸びて、綺麗になったと感じた。ぼくの性癖は相変わらずだが、感性は正常に働いている。
ぼくの言葉にアヒル先生は、少し拗ねたように腹を小突いてくる。変態だ。
「ふーん、ふ〜〜ん?」
「ちょっと、生徒にセクハラしないでください」
「セクハラじゃありません、先生と生徒の過剰なスキンシップです」
「おいやめろ、この変態クソカス保健医」
「………き、吉良くんって偶に、すごく口が悪くなるよね」
かなり癪だがこの保健医との関係もあって、ぼくの精神バランスが保てていることは事実だ。
中学生にもなって子供の頃とずっと変わらない…いや、より悪化しているこの現状。
一番ひどいのは母との距離か。最近母の接触に嫌悪感しか感じられない。ぼくを見る目が、“息子”ではなく一人の“男”を見ているようで、吐き気がする。
「愛情は過ぎると、異質なものになる。吉良くんは大人に近付いてるから、余計かもね」
「急になんだ」
「お母様はきっと、こんな立派な息子を持って幸せでしょうね。自分に従う息子──そんな息子が自分の意思にそぐわないことをしたら、怒るのかしら?」
「……怒りませんよ、悲しむだけです」
「へぇ…それはすごく、窮屈ね」
褒められたり喜ばれたり、カゴの中へと押しやって大切にされる日々。
時折自分が人間ではないかのように感じる、鎖を付けられ愛されるばかりのペットではないのかと。もう既に逃げようとした首輪は締まって、窒息寸前だ。
「あぁほらまた、
彼女の言う「怖い目」の意味は相変わらずわからない。
でもきっとぼくは自分の中のその
ぼくは欲望に忠実だ。しかし「普通」に暮らすことを望む。
この二つの性質が、ぼくを形作っている。