転生したら殺人鬼ポジだった件 作:クリーニング黒兎
ポケ技に関して一部1999年代当時に未収録のものがありますが、ギャグとしてのネタ扱いなので、軽く目を瞑ってください。ただ普通にガバってる時もあるので、その時は教えてクレメンス。
「杜王町七不思議?」
自宅で原稿をしていた吉良の元へ訪れたのは、担当の泉飛鳥。
以前の爪噛み事件以降、打ち合わせなどは男の自宅で行うようになった。
相変わらず吉良は他人が家に入ることに拒否反応を抱いている。しかし段々と泉のことは慣れてきた。
彼女の体温に何度か触れたことも警戒心が緩まる一つの理由となっていることに、彼本人は気づいていない。
「そうです。夏に刊行される雑誌で、「ホラー」をテーマにKO談社の作家陣が集まって書くお話はしたじゃないですか」
「ぼくは一言も受けると言ってなかったはずだが?」
「まぁまぁ、そこは先生お得意の恋愛ものを取り入れつつ書いていただければいいんですよ」
「君はどうして勝手に話を進めていくんだ?わたしが最近忙しいのも君のせいだぞ…?」
歴代編集は星ノが売れっ子作家ということもあり、いつも仰々しい態度で意見してくることもなかった。
吉良としては編集は仕事の間での関係で、作家と対等なものと考えている。
「しかし君の場合はもう少し距離感をだね…」
「はい?」
「…いや、何でもない。言っても無駄そうだ。まぁ引き受けてあげるよ。それでその七不思議ってやつの続きをしてくれ」
「わかりました」
泉曰く、小中学生の間で最近『杜王町七不思議』の話が話題になっているらしい。といっても全てがこの杜王町で起こっているのではなく、一部例外はあるようだ。
そもそも現在世間は「ノストラダムスの大予言」の話で持ちきりである。
内容は1999年7月(約一ヶ月後)に、人類が滅ぶ──というものだ。吉良からしてみれば馬鹿馬鹿しい、の一言で終わる。
その大予言が大きく取り上げられるようになったのが1990年代後半。その前の1990年代初頭には人面犬やミステリーサークルが話題になっていた。
この期間が一般に「第二次オカルトブーム」と言われ、その前の「第一次オカルトブーム」は1970年代に起こっている。
代表的なものはネッシーやツチノコ、コックリさんや口裂け女だ。
幼き頃の吉良は小学生時代、休み時間に友人に一緒にやろうと誘われ、雰囲気を壊さぬよう仕方なくコックリさんに参加した。
結果、彼以外の教室にいた生徒全員が泡を吹き倒れる事件が起こっている。それでも彼は幽霊の存在を信じない。
「あらかじめいくつかは私の目で確かめて来たものや理由付けできるものなので、そこについては先に私の解釈も踏まえて説明しますね。資料もあるのでどうぞ」
「あ、あぁ…いただくよ」
準備が良すぎる。仮に吉良が話を断っていたらどうする気だったのだろうか。
まぁ、彼は押されれば押されるほどこういった場面で弱い一面がある。泉もそれを織り込み済みなのかもしれない。
一つ目は、杜王町定禅寺通りバス停下車3番バスの徒歩一分の場所にある、通称『人面岩』。
「文字通り人の顔に見える大きな岩です。昔からあの場所にあるそうで、待ち合わせ場所にもよく使われています。奇妙な声が岩から聞こえるってもっぱらの噂ですけど、本当にただの岩でした。成分分析もしてもらったので間違いないですよ」
「ガチすぎないか」
「仕事にはいつも真摯ですから、私。蹴っても殴っても呻き声一つ上げませんでしたし。その大きさと不気味な顔の形が影響して、七不思議の一つに入ったんでしょう」
美人な女が懸命に殴る蹴るを行う光景はさぞかし珍妙であろう。吉良は一人分、泉から距離を置いた。
二つ目は、『人呼び海岸』。
この海岸は杜王町には存在しない“例外”の中に入る場所である。杜王町の別荘近くにある岬から北に暫く行ったところにあり、現場は高さ数十メートルの切り立った崖になっている。
ここに行った人間は海に誘われるようにし、その身を投げると言われている。
「崖に行くまでに立ち入り禁止の看板がいくつもあって、途中高い柵と有刺鉄線が行手を阻みました。それでも隅の柵の下が人為的に壊された跡があり、そこから入って行きました。落ちたら死にますね、あの高さじゃ。崖の側に立って眼下にある海を眺めていると、不思議ともう一歩足を踏み出したくなる魅惑………みたいなものがありました」
「……そこはかつて女性が飛び降りた場所だね」
「あれ、ご存知だったんですか?」
「作品の題材にしたことがあるだけだよ」
「あぁ、なるほど。そうです、今から15年近く前に誘拐事件に関わった女性が飛び降りた場所で、それ以来多くの人間が後を続くように亡くなっています。所謂あそこは「自殺スポット」というわけです」
あの崖では他にも「S一家殺人事件」に関わる出来事が起こっている。
そういったある種の忌み地という場所として、杜王町の人々は子供たちに近寄らないよう伝えた。そこから発展した結果、子供たちの間で七不思議の一つとして数えられることになったのだろう──というのが泉の見解だった。
三つ目は『呪いの洋館』。北西部の山奥に入った場所にひっそりと存在している。
向かうには舗装もされていない山道を通ることになるが、今はその道さえ草が生い茂り、車で通るのは困難となっている。
「まさか君、歩いて行ったんじゃないだろうね」
「行きましたけど何か?」
泉がかなりの時間をかけて調べた洋館の資料。その外観や内装は吉良が一度見たことのあるものだった。
かつて保健医が彼と鈴美を誘拐した時に使った場所だ。
写真で見た中は床が抜け落ちており、長年主人が不在の末、蜘蛛の巣やホコリが累積していた。潔癖な吉良は思わず顔を顰める。
泉はそこで何かしら事件があったことまでは突き止めていた。
詳細はわからずとも「事件があった」という事実と正しく幽霊が出そうな見た目から、七不思議の一つにランクインしたのだと考えられた。
「以上の三つは何かしらの理由がある七不思議です」
「君さ、幽霊が苦手だなんだと騒いでいたクセに、よく調査しに行けたね」
「仕事なら別ですよ先生。これが私情で「行こうぜ!」ってなったら私が泡吹きますよ」
「バブルこうせんか。みずタイプだったんだね泉くんは」
「そうそう、「なみのり」と「しおふき」も覚えて────って、さりげないセクハラやめてくれませんか?」
「それで残りの四つは何だい?」
「はい出ました無視。……えっと、残りはですね」
四つ目は『ぶどうヶ丘小の悪魔』。
それを聞いた瞬間吉良が思いきり咽せた。泉が訝しげに見つめる中、話を続けるよう促す。
「これはぶどうヶ丘小学校で随分前から語り継がれてる独自の話みたいですね。ぶどうヶ丘小の土地に古くから住む悪魔が、プールで泳いでいる子供をあの世に連れて行こうとするとか、飼育している動物を呪い殺すとか、運動会の日に
「………やめてくれ」
「え?」
「何でもない……」
現在進行形で黒歴史をエグられている吉良。穴があったら入って、外にいる残りの奴らを皆殺しにしてやりたい。
四つ目の七不思議はそれこそ子供たちが集う場所だ。
どこぞの男が過去にやらかした話がリレー形式で伝わっていき、今の形になったのだろう。
これについて何か手がかりはないか泉は小学校に連絡を入れたが、「子供の教育として不適切な内容」として取り合ってもらえなかった。
OBやOGを探ろうにも当てがなく、道ゆく人間に手当たり次第に聞いてやろうかとも思った。
しかし『人面岩』の件で一回不審者として警察にお世話になったことと、他の七不思議の調査もあったため、途中で断念した。
ちなみにこの女は「コイツ、キメてんじゃねぇか?」ボブは訝しんだ──な警察に、薬物と飲酒検査まで受けている。
シラフと知った時の警察の人怖精神は計り知れなかったに違いない。
器物破損でお縄の可能性もあったが、
「落ち込んでる君に、
「えっ、本当ですか!?先生は見たことあるんですか!!?」
「それ以上深掘りすると殺されるぞ。はい、次」
「え〜…まぁいいですけど」
五つ目は『見えないナニカ』。
これは別荘地帯の北東側にある森のすぐ側の道路沿いで確認されている。発生した時期は春ごろから。
どうやらその道を通った者が、
その時に毎回森の奥から、反響した不気味な──しかし楽しげ声が聞こえるそうだ。
「大怪我…とまではいかずとも、体験者は
「警察は取り合っていないのかい?」
「何せ被害もそこまで多いわけじゃないですし、傷も自転車で勢いよく転んだくらいのものなので。警察も真面目に取り合っていないみたいです」
「フン、所詮は公僕の犬さ」
とは言いつつ、吉良の中で「は
つい先日あった虹村億泰は、虹村形兆が「矢」でスタンド使いを増やしていたと聞いた。彼らが杜王町に来たのがちょうど春からだ。
そのためこの一件はスタンド使い犯行の可能性が高いと、吉良は判断した。
六つ目は『影犬』。
これについては特に情報がなく、十年以上前からその存在が確認されている。
噂では影の中から犬が現れ、消えて行った────というもの。
“影”の中に潜む“犬”だから、『影犬』と名付けられた。
「この犬がどういった存在であるかは不明ですが、「出会うと願いが叶う」とか、逆に「出会うと不幸が起こる」とか、噂の内容も不確かなものが多いです。これもぶどうヶ丘小の悪魔同様……いや、先生は何かご存知だったようなので違いますね。この話は調べようのない七不思議の一つになります」
そして、最後の七つ目は『決して後ろを振り返ってはいけない小道』。
杜王町勾当台2のコンビニ「オーソン」の隣にある
もしこの道に迷い込んでしまったら最後、後ろを振り向いてはならないとされる。振り返った場合二度とこの世には戻れなくなる。
「1980年代から噂が広まったみたいですね。体験者が見つからなかったので詳細はわかりませんが、最近まではその噂さえ聞かなくなっていたみたいですよ。今更広まったのもオカルトブームのおかげといいますか…恐らく『人呼び海岸』の件と同じで、親伝いで噂を知った子供たちが広めたんでしょう」
「………」
「一応私も行ってみましたけど、何もなかったですし……って、先生?」
「………何だ」
「大丈夫ですか?急に怖い顔して……」
「何でもない」
「…?」
小道の場所は、杉本一家が住んでいた場所の近くだ。
つい、ついだ。吉良は過去の事件を思い出してしまった。どこもかしこも血濡れたあの日の記憶を。
だからその激情を鎮めるように、深く息を吐く。
「……それで、泉くんは七不思議を持って来たわけだが、これを題材に書けってことか?」
「いえ、参考に持って来ただけですよ。気になるものがあるならさらに深掘りして来ますし」
「そうか…まぁ、わたしも『見えないナニカ』の件は気になったかな」
「そうですか!では早速行って来ま……」
「待て待て、君が関わっていい案件じゃない」
スタンド使いの仕業ならば、万が一の時の泉ではなす術がない。
仮に彼女がソイツに「自分の正体を探っている存在」だと認識されたら、泉と関わりのある吉良にまで面倒事が舞い込んでくるかもしれない。そんなものお断りだった。
「行かないという選択肢はないのか」
「先生が興味があると言った以上行きますよ。仕事ですから」
「…お願いだ、行かないでくれ泉くん」
彼女のジャケットの裾を引っ張り吉良は声色を甘いものにまで変えたが、泉の表情は変わらない。むしろ薪が増やされてより燃えている。クレイジーガールか?
「泉、行っきまーす!!」
その言葉が「
きっと面倒ごとになる。それをわかった上で行動に移したのは、段々と彼の心が泉に惹かれ始めているからだろうか。それとも────、
「じゃあ先生、行きましょう!」
彼女の咲きほこるような笑顔はあまりにも、彼の想い人に似ていた。