転生したら殺人鬼ポジだった件   作:クリーニング黒兎

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47話 歩こう×2 わたしは元気

 作家と編集の関係である二人の行為は、いつもホテルで行われる。

 

 さすが「星ノ桜花」と言うべきか。初経験だった泉を容易に陥落させた。

 

 上手いのも去ることながら、瞳に獰猛さを宿している割におそろしいほど優しく抱くのだ。

 

 なるほど。抱かれた側が惚れてしまうのも仕方ないと思った。

 泉も認めよう。吉良のことが好きになっている。

 

 ただ、男の心はいつも別の誰かに囚われていた。

 

 その相手が「れいみ」という女性なんだろうとも、彼女は察している。

 

 

 しかしある時から吉良の態度が変わった。

 

 遠いどこかを見つめていたその目が、泉自身を映すようになった。

 

 

 

 これに彼女は困惑した。なぜ、と思った。

 

 おそらく吉良の中で何かが変わったのだろう。それをきっかけとして、泉をきちんと見るようになった。

 

 向こうが彼女を愛し始めたわけではないようだが、()()()()()()()()ように感じる。

 

 だが、泉はその変化をヨシとできない。

 

 

 愛されるのは嬉しい。しかしその愛を受け入れたら、泉は「れいみ」から彼を略奪したことになる。

 

 彼女は妹を通して奪われる痛みを知っている。「れいみ」が今どうなっているかは関係ない。

 

 絶対に“奪う”という行為をしたくないのだ。

 

 だから泉は最近とても困っていた。

 

 そんな中でも姉の異変に気づいて「お姉ちゃんどうしたの?………まさか恋の悩みぃ?」と言ってくる妹は、誘拐したくなるほど可愛かった。

 

 

 

 

 

「どうしよっかなぁ〜……」

 

 

 もうすぐサマーシーズンが始まろうという頃。

 

 泉は新幹線に揺られながら杜王町に向かっていた。

 

 今日は昼に打ち合わせがある。向こうから「夜、時間あるかい?」と誘われているので、外泊の用意もしてきた。

 

「早めに着いちゃいそうだし、偶には町を散策するのもいいかな」

 

 泉は普段仕事ばかりで、観光地として雑誌で紹介されるくらいには人気のある杜王町を堪能して来なかった。

 

 短時間で回れる場所は限られているが、カフェでのんびりとコーヒーの一杯を楽しむ時間はある。

 

 

「……京香ちゃぁん…」

 

 泉はおもむろに手帳に挟んである一枚の写真を見る。妹が映ったそれを色んな角度で眺めて、ギュウと抱きしめた。

 

「京香ちゃんは世界イチかわいいもんねぇ、お姉ちゃん知ってるんだゾ」

 

 写真に、頬ずりをする。

 

「でも最近外との付き合いが多くなっちゃったよねぇ。男かぁ、男なのかぁ〜〜〜!?」

 

 スリスリ、スリスリ。

 偶然その様子を見た客が何も見なかったように去っていく。

 

「やだよやだよぉ、一生お姉ちゃんといてくれ〜〜!一緒の骨壷に収まってくれぇ〜〜〜い!!」

 

 泉は家でも大体こんなテンションだが、妹はスルースキルと鈍感がカンストしているのか、いつも「もぉ、お姉ちゃんたら(笑)」で済ましている。只者ではない。

 

「グスン……」

 

 妹と長く一緒にいるためにはどうすべきか。これは以前から考えていたものだ。

 

 どうしようか、と悩んでいた泉はそこで思いついた。

 

 

「私が傷ついて帰ってきて、もう京香ちゃんがいないと生きられないくらいダメになっちゃえばいいのでは?」

 

 

 女が傷つくと言ったらやっぱり色恋沙汰だろう。色恋沙汰といったら、泉が今関係を持っている男がいる。

 

「そうだよそうだよ、先生のことを本気で好きになっちゃうんだ。でも先生には「れいみ」さんっていう好きな人がいて、自分がどうあがいても先生に愛されないと知った私は深く傷つく。そして京香ちゃんに縋りついて「もう恋なんてしない!!京香ちゃんだけいればいい!!」って言いながらヨシヨシされるわけだ」

 

 そうと決まれば、泉はもっと吉良のことを()()()()()()()()()()

 

 そして彼女に向こうとしている矢印を「れいみ」に固定する必要がある。

 

「れいみ」が吉良の地雷なのは爪噛みの件で泉も把握している。

 ならそこにあえて踏み込んでいけばいい。

 

 そうすれば二人の肉体関係は終わるだろう。

 

 最悪担当まで外されそうだが、妹とくっつけるのなら安い犠牲だ。仕事も後から見つければいい。

 

「すると、私がもっとれいみさんに似ればいいのか」

 

 吉良は「手の綺麗な女性が好き」と言っていた。

 おそらく「れいみ」が、手の綺麗な女性だったのだろう。

 

 

 なら、泉が次にすることは決まった。

 

 彼女は駅に着いた後、ネイルサロンかエステを探してみようと、計画を立てるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◻︎◻︎◻︎

 

 

 来月から学生は夏休みが始まる頃合いだが、大人には仕事がある。

 

 娘や息子がいないわたしが言うのもなんだが、子供がいる家庭は普段学校に行っている分、光熱費や水道代がかかるんだろう。

 

 

 ジョースター氏と出会ってからしばらく経った。

 

 過去に縛られて生きていたが、もうそろそろ進まなければならない。

 

 鈴美の存在が相変わらず胸の大半を占めているものの、愛する努力を始めた。

 その第一歩が泉くんでいいのかは微妙だが。だってビジネスパートナーでもあるからな。

 

 まぁ当然だが、突然のわたしの変わりように泉くんは驚いていた。

 

 

「目当ての本は…」

 

 平日の午後、少々調べ物があり図書館に来たが人は少ない。

 

 時折耳を掠めるのは、設置されたソファーに座る人間の本を捲る音。古紙の独特な匂いを嫌う人間もいるが、わたしは好きだ。

 

 自分の著作のコーナーがあり顰めっ面になったが、目当てのものを探して行く。

 

 そう言えば自分の本で思い出したが、少し前に忌々しき空条承太郎がアメリカへと戻ったらしい。

 仕事中に我が家に勝手に茶を飲みにきた老人(with赤ん坊)が言っていた。

 

 ジョースター氏の滞在するホテルは“杜王町グランドホテル”で、別荘地帯から近い。

 だからって我が家を散歩コースに入れるのはどうなんだ?

 

 ちなみに昨日は宛先人不明の人物から、数冊の海洋学にまつわる本が届いた。誰から、とは言うまい。

 

 大方奴がわたしの書いた純愛ものを手に取ったのも、理解を深めるための行動だったのだ。

 逆にわたしに奴への理解を深めさせるために寄越すのが海洋学というのは、どういう思考回路をしているのだろう。

 

 ついでに間に挟まるように相撲の本もあった。

 やはり奴を理解するのは無理だ。本は意外にも興味深いものが多かったが。

 

「…こんなものか」

 

 数冊選び終え、カウンターに向かう。

 

 その途中学校帰りと思しきランドセルを背負った少年が、高い位置にある本を取ろうとしているのを見つけた。

 手には厚めの本が数冊抱えられており、近くに脚立はない。

 

「大丈夫かい?」

 

 本を取ってタイトルを見たが、ミステリーものらしい。

 一度読んだことのある本だ。

 

「どうぞ」

 

「………」

 

 少年に手渡したが無言だったため、身長の差を活かして本を高く上げた。

 黄色い通学帽を被った少年の表情は見づらかったが、顔を上げた瞬間に見えた。

 

 長めの前髪も影響して、影のある不気味な顔。髪色は普通の子供にしてはやや明るめで、無表情さから感情をよく読み取れない。

 何を考えているのかさっぱりわからない──といった風だ。

 

「取ってもらったんだ、お礼ぐらい言いなさい」

 

「……ぼく別に、あなたに「取って」って言ってない」

 

「そうかい、わかったよ」

 

 本人が望んでいないならしょうがない、大人のお節介に付き合わせてしまったようだ。

 本を元にあった場所に戻すと、少年の表情が困惑に変わった。無視して素通りすると何か言いたそうに口を開ける。

 

()()()()()()というのなら、悪かったよ。どうぞ別の大人が通った時に取ってもらうなり、他の場所から足場を見つけてくるといい。その量の本を抱えていちゃあ大変そうだが」

 

「うっ………アンタ、絶対性格悪いでしょ」

 

「親切にしてもらった人間に対し「性格が悪い」だって?…ッハ、今の子供ときたら本当に躾ってものがなってないな。親の顔が見てみたいよ」

 

「……っ」

 

 わたしが「親」と口にした瞬間、少年の顔が一瞬歪んだ。

 

 少し気にはなっていたが、今は午後と言えどもすでに6時を過ぎている。

 わたしは仕事を少し早く切り上げて来たから、閉館まではあとわずかだ。

 

 またランドセルと学帽から()()()()と例えたが、今の時間帯中高生でもなければとっくに家に帰っているはずである。

 恐らくは下校途中にここに寄り、ずっと本を読んでいたのだろう。

 

 自分と似たものを感じる。

 親に対し、屈折した感情を抱いている。

 

「ハァ…まったく、今回は特別だからな。いくらまだ明るいとは言えども、すぐに暗くなるから気をつけて帰り給えよ、少年。誘拐されちゃあとんだお笑い草だからね」

 

 そう言い去ろうとすると、待ったがかかる。

 いったい何だ。わたしはこの後スーパーにも寄らなければならんのだ。

 

「え……えっ?取ってくれないと見せかけて、本当は取ってくれる流れじゃなかった、今…!?」

 

()()ってのは、このわたしが「気をつけて帰れ」という助言をしてやる前置きとして言った発言なんだが?何だい、言いたいことがあるならハッキリ口にしろ」

 

「……と、取って…ください」

 

「フン…まぁいいだろう。人様に何かしてもらったら礼を、あと挨拶もしっかりするんだよ」

 

「………」

 

「返事」

 

「は、はい」

 

 ついでに帽子の紐を顎につけていなかったため、直してやろうとした。

 だがわたしの伸ばした手に驚き動いた少年の顔と軽くぶつかり、帽子が床に落ちた。

 

「しょ、ショタコン…!!」

 

「おい勘違いするな。防犯ブザーを水戸黄門の印籠よろしく前に突き出すな。帽子の顎紐を直そうとしただけだから頼むから冷静になろうお願いだ」

 

 こんな場所で騒音がなったら速攻で人が来てわたしが捕まる。

 子供と大人の言い分じゃ、どうあがいても子供に軍配が上がるだろう。クソッ、いつもの癖が裏目に出た。

 

 取り敢えず落ちた帽子を拾った。

 帽子の鍔の裏に書かれていたのは、『川尻………。

 

 

「……君、川尻くんの子供か」

 

「そんな手には乗らないよ。帽子を見たから苗字を知ったんだろうけど」

 

「ハァ……父親が『川尻浩作』で、母親が『川尻しのぶ』だろう?」

 

「………パパとママの知り合いなの?」

 

「大学時代の知り合いなだけさ」

 

「ふーん…?」

 

 ちょうど閉館まで「15分」の館内放送が鳴った。

 

「ね、ねぇ…ちょっと待ってよ!あなた名前なんて言うの?」

 

 本を先に借り終えたわたしの後を、少年が慌てて追いかけてきた。

 ここで別に本名を名乗ってもいいが、少しイタズラ心が湧いた。

 

 

「わたしは「星ノ桜花」だよ、川尻早人くん」

 

 

 その言葉に、少年は呆けた面をさらした。

 天邪鬼さと人間に対し強い不信感を抱いている子供なら、むしろこのくらいでちょうどいいだろう。

 

「星ノ桜花って、あの星ノ桜花?よくドラマとか映画にされてる?……ぼくが子供だからって、からかってるでしょ」

 

「からかってないよ、本当の本当さ。疑心暗鬼過ぎると生きづらいよ、早人少年」

 

「……もういい、聞いたぼくが馬鹿だった。帰る」

 

「あぁ、気をつけてね」

 

 何故あの二人の間に生まれたのが、あそこまでひねくれたガキなのか。

 家庭環境が上手くいっていないのかもしれない。まぁわたしには関係のない話だ。

 

「子供…か。いや、ないな」

 

 仮にもし結婚していたとしても、子供はいらないな。ただ彼女が望んだなら、受け入れたと思う。その前に行為自体難しかったが。

 

 そこまできて、また()()()()()()()()自分にほとほと頭が痛くなった。

 だがぼくは一歩、踏み出し始めた。

 

 道がどれほど続いているかはわからない。ただ足を踏み出せ続けられる限りは歩いてみようと思う。

 

 図書館から出て見上げた空は上が紫がかり、下が薄い青色がかっていた。中央は混ざり合い青藤の如き色を醸している。

 

「…明日泉くんが来たら餌付けしてみるか」

 

 誰かを愛する感覚はあまりに遠いもので忘れかけてしまったが、もし彼女が食べて「美味い」とでも言ってくれれば、少しは救われるかもしれない。

 

 

 空の中にはひっそりと、影の薄い月がその存在を強くし始めていた。

 

 

 もうすぐ、夜が来る。

 

 

 

 

 

 

 

 ◻︎◻︎◻︎

 

 

 翌日────鈴美が、帰ってきた。




・京香ちゃん
 岸辺露伴と渡り合っていける強キャラガール。
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