転生したら殺人鬼ポジだった件 作:クリーニング黒兎
日常パートというか平和モードなのでまだ朗らかだけど、鬱い時は暴力的な内容になるので気を付けてナス。
基本的に頭のおかしいキャラ書きたくなるのよォ〜〜!!
ぶどうヶ丘高校は中高一貫のため高校進学の試験はなく、エスカレーター式で上がる。また高校から入学できる形式も採用している。
中学3年の時期、高校受験を間近にした一般生徒と比べれば余裕がある。そのため空いた時間は専ら、趣味の読書に使っていた。
「にしても大雪だな…」
元々降雪地帯であるが、朝起きたら予想以上に積もっており、一面の銀世界。
予報でも夜にかなり降ると言っていたが、早起きしてみれば案の定だ。
両親が高齢なため、雪かきは大抵ぼくの仕事だ。父は去年一回腰をやってしまっている。
1時間ほどかけて一通り終え、服を着替えて朝食を食べ、学校に向かう。時間の都合で日課の新聞には目を通すことができなかった。
普段は自転車通学だが、雪の日は怪我をしたら危ないからと、親の送迎になる。
基本送り迎えは父で、他愛ない話をする。近所でぼくは、反抗期のない良い子──としてちょっとした人気だそうだ。話の出どころは、息子自慢ばかりする母。近所の奥様方に陰口を叩かれているのを知らないのだろう。幸いその悪意がぼくにまで向かうことはないけど。
一応言っておくと、ぼくは親に対しストレスを感じているが、嫌いなわけではない。
そも育ててもらっているのだから、反抗などすべきではない。
だからってぼくはこのまま親に、何も言わないままでいいのだろうか。
「吉影?大丈夫か、また体調でも悪いのかい?」
「…え?あ、あぁ、大丈夫だよ父さん」
信号は赤。止まった車内で、父は心配そうにぼくを見る。
父は子煩悩でぼくを溺愛している。両親の愛情が深過ぎるのは、彼らが歳を経てできた子供がぼくであるから。
殊に母はまだ若い時流産を何度も経験し、父の両親に白い目を向けられた経験がある。そんな母の愛情を避けては、ならない。
しかし「普通」に生きようとするほど、ぼくに付けられた首輪は締まっていく。
佐藤保健医の言っていたように、まさしく
その時ふと視界の先で、自転車を漕いでいた少女が転ぶのが見えた。同じ学校の制服だと思えば、転倒して身体を起こした少女と目が合う。
口元が「きらくん」と、動いたのが見えた。信号は青に変わり、そのまま車が発車する。
「手、怪我してたな…」
「何か言ったかい、吉影や?」
「…何でもない、事故らないように気を付けてよ、父さん」
彼女よりも手の方の怪我を心配したぼくは薄情者なんだろうか。それとも、
触れた窓は、ひどく冷えていた。
⚪︎⚪︎⚪︎
先日、同級生の一部の女子の間で流行っている噂話を聞いて以来、鈴美は一人悶々としていた。
初恋の相手が保健医と付き合っているという話が授業や食事中、寝ている時など、忘れようとしては浮かんでくる。
あくまで噂話なのだから、本当に付き合っているのか本人に聞けば真相はわかる。
(いやでも、そんなこと聞いたら、まるで私が吉良くんのこと気になってるみたいじゃん!!すっ、好きだけど……)
絶賛恋わずらいの彼女は、登校中雪に前輪を取られ転倒した。
咄嗟に手をついて大きな怪我はしなかったものの、手のひらは一部剥き出していたアスファルトにこすれ、擦り傷だらけに。
「朝から最悪…」
なんとか立ち上がり自転車を起こしていれば、ふと視界の先で、車からこちらを見ていた少年と目が合った。
名前を呼んでしまったが、向こうには聞こえなかっただろう。
薄紫の瞳は彼女を捉えていて、驚きの色が窺えた。
転んだところを見られたという羞恥や、顔を見れた嬉しさ。複雑な感情が絡み目線を下に向けた間、車は学校の方へ走り去ってしまう。
「……ハァ」
残ったのは惨めな気持ちで、彼女は歩きながら自転車を押した。
そして学校に着いたのは、遅刻ギリギリという時間。怪我の痛みや気持ちの問題もあり、その後自転車を漕ぐ気になれなかったのだ。
教室に鞄を置き保健室に来た彼女はそこで、件の噂の相手が保健医であったことを思い出す。
だがその時すでに、保健室の扉を開けてしまった後。
「あら、また怪我人かなー?今日は一段と多いにゃあ〜」
「1年A組の杉本です。えっと…佐藤先生、ですよね?」
「そうです、私が保健室の
「保健室の……天使?」
自分で言ってどうするんだ。出かけたツッコミを飲み込み、鈴美は手当てを受ける。
同性でも見惚れてしまうほど、佐藤は美人であった。顔立ちもそうだが、色素の薄い長髪にも自然と目が向く。
「やだ…こんなに可愛い子にじっと見つめられたら、アキエ新しい扉開いちゃう!」
「新しい扉?」
「………いえ、何でもないのよ。私の心が汚かったわ、ごめんなさい。とりあえず消毒はしたから、あとは絆創膏を貼って終わりね」
「あ、はい…」
佐藤の
戻ろうとも考えたが悩みの件もあり、立ち上がったまま下を向く鈴美。
彼女を見かねた保健医は椅子に座るよう促し、自分もまた生徒の前にあるデスクチェアに腰掛ける。
「何かお悩みなら聞くわよ。私は生徒の相談役でもあるからね」
「悩み…」
「そう、中学生って悩みがある子が多いから、先生は少しでもそういう子供たちの手助けになれたらと思うの」
「……その」
「うん、なぁに?」
佐藤の、例えるなら赤子に接しているような優しい声色に、鈴美は肩の力が抜けていくのを感じた。
気付けば自然と、口が開く。
「あ、あの、先生が……さ、3年B組の吉良くんと付き合ってるって噂、本当ですか?」
一瞬詰まったが、鈴美は悩みを打ち明けた。
言い終えた後に、顔が熱くなっていくのを自覚する。こういう時吉良なら「もっと冷静に行動しろ」とでも言いそうだ。
はぐらかされるか、それとも肯定されるのか。願わくば否定の言葉が返ってくることを望んだ。
「あれ、その噂って私が広めたやつじゃない」
奇面組よろしい等身になった鈴美は、ズコ──ッ!と、床に転けた。
すぐに等身を戻すと、保健医に詰め寄る。
「ど、どういうことですか、広めたって!?」
「いやぁ、吉良くんってよく体調崩して保健室に来るんだけど、それを何か怪しい…ってことで勘繰ってきた女子生徒がいたから、面白半分で「先生と生徒の禁断の恋よ…」って言ったの」
「…ほ、本当に付き合ってないんですね?」
「うん。付き合っては、いないわ」
「そうなんだ…よかった……」
気が抜けたせいか、彼女は後ろの壁に寄りかかるように倒れる。
ついでに連日の睡眠不足が、一気に身体に襲ってきた。
しかし全く、先生が生徒にホラを吹くのは如何なものであろうか。嘘がなければ一部の同級生の間で噂が広まることも______、
「…ん?」
鈴美はそこで、ある重要なことに気が付いた。
噂話の出所は先生と女子生徒の間であり、噂話が広まったのが同級生の間ということを踏まえると、佐藤に尋ねた生徒は一年の可能性が高い。
何故一年の女子生徒が、わざわざ“地味”でキャラ作りをしている三年の吉良と保健医の関係が気になったのか、疑問に感じた。
彼女も恋愛話にミーハーな部分があるので、誰と誰が付き合っているかもしれないという話を聞いたら、盛り上がってしまう時はある。
妙な女の勘に、彼女は恐る恐る保健医を見た。
「もしかして、その…噂話を聞いた女の子って……」
「あら、杉本さんも恋バナに花を咲かせたいのね」
「………」
「ふふ、吉良くんは普段保健室で寝る時にメガネを取っているのよ。それを偶然見てしまった女の子がいても、おかしくはないじゃない?」
「じゃあ、やっぱり…」
その生徒は恐らく、保健医と生徒の禁断の恋──という意味で佐藤に話を切り出したのではなく、吉良自身に好意を抱いていたから聞いたのだ。
自分のように彼に好意を持っている人物はいないだろうと、高を括っていた。
しかし本当は彼女が知らなかっただけで、ライバルがいるという事実に、鈴美は焦りを覚える。
「ふふ、青春ね」
メガネの奥で生徒を見て、微笑む保健医。
鈴美は佐藤の視線を受け、自分の感情がモロバレしてしまったことに気付いた。羞恥で顔が沸騰するやかんのように、ドンドン熱くなっていく。
『────プルルル』
その時鳴った、保健室の電話。
保健室がそれに応答するのを見つつ、鈴美は顔を覆って床に転げたい感情に襲われた。ふと窓の外を見ると、雪がちらつき始めている。
帰ったらまた雪かきかと、ぼんやりと考える。熱がある程度引けば部屋の暖かさもあり、眠気の誘惑はすぐそこにまで迫っていた。
「失礼します」
ちょうど彼女の顔が支えを失いガクンと動いた時、扉が開いた。聞こえた声に彼女の落ちかけた意識が、一気に現実に引き戻される。
慌てて壁に寄りかかった際に乱れた髪を、手ぐしで直して背筋を伸ばす。
「やぁ吉良くん、今日もサボりかなぁ?」
「体調不良です、佐藤先生。…鈴美、大丈夫かい?」
「う、うん。さっき先生に手当てしてもらったから」
「そうか…」
吉良は徐に鈴美の怪我をした右手に触れてきた。瞬間、冷たい男の手の体温を感じて肩が跳ねる。
触れられるのは頭を撫でられた時以来だが、こうして顔を間近で見られる距離にいると、心拍数が異常に上がる。
相手の視線は手に向いているが、顔を見られたら恥ずかしさで殴ってしまうかもしれない。
「うん、すぐに治りそうかな。君、朝転んでただろう?心配したよ…全く」
「本当に心配してたの?どうせ車の中で、「ッフ、転んでますわよ愚民が…」とか思ってたんじゃないの?」
「何で君の想像の中のぼくは、お嬢様目線でものを言ってるんだ…?心配して来てやったぼくがバカみたいじゃあないか」
「えっ、私のこと心配して来てくれたの?ほ、本当に?」
「……さぁね」
彼は視線を逸らして、そのままベッドに向かいカーテンを閉じてしまう。
鈴美はふわふわした気持ちで、頭上の明かりを見た。
顔中真っ赤の彼女に、佐藤はニヤついた笑みを隠さない。
小学生のように「ヒューヒュー」と囃し立てたりもしたが、ベッドから絶対零度の「黙れ」を食らい静かになった。
しかし数分経って、懲りずにまた話し出す。
「まぁ杉本さん、噂話なんて鵜呑みにしない方がいいものよ。真実の是非がわからぬものを信じることほど、愚かなものはないからね。その点、勇気を持ってあなたが今日私に尋ねたことは、大いに素晴らしいと思う。自分の目で確かめることは大事だわ」
「噂の根源は先生のせいですけど」
「うっ……そ、そうね…それはごめんなさい。でも、ほ、ほら、生徒の見る目を育てるっていうの?私は大事だと思うかな〜なんて……………いや、その、本当にすみませんでした」
生徒に格好つけてイイことを言おうとした保健医は、結局頭を下げる。
鈴美は笑って「もう大丈夫です」と流すと、部屋を出て行った。
部屋に残ったのは保健医とベッドに潜った吉良のみ。
二人だけの時、彼らの欲望でできた皮は一枚剥がれる。
「先生には見えてたわよ、「心配した」の前に「(手を)」って入ってたの」
「………」
「無視ッ!?先生スルーされるのが一番嫌いなのに…」
「………」
「大丈夫?おっぱい触る?」
「………」
反応のない吉良に、佐藤は不審に思いもう一度声をかけてから、カーテンを開ける。自分で言っておいてなんだが、胸の件を流されたのはかなり恥ずかしい。
相手は毛布にくるまっており、ベッドの上に歪な丸が出来上がっていた。
近くに行くと先ほどまでは聞こえなかった音が、よりしっかりと聞こえてくる。
_____ガリッ、ガリッ、ガリ
それはまるで、何かを引っ掻いているような音。
無遠慮は承知で布団をめくれば、中には丸くなって爪を噛んでいる少年がいた。異様な光景に保健医は眉を寄せる。
この状態でもきちんと上履きや上着を綺麗に整えて置いてあるのがまた、異常と言える。
普通なら抱えきれない感情を抱いてしまった時、人は脱ぎ散らかすか、着の身着のままでベッドに倒れるだろう。
「血、出てるけど」
「ぼくは
「うわぁ、肉まで噛んでるじゃない」
「ぼくは、ぼくはぼくはぼくは……」
保健医の言葉など、まったく耳に入っていない様子だ。
彼と保健医の利害関係ができてから1年、吉良本人は身体の不調が少なくなったと考えているようだが、実際は違うと彼女は認識している。
手の欲望を満たした今、少年の欲は渇きを癒す快楽を知り、暴走しかかっている。
彼の内側に存在する狂気は時折、彼女の好きな目玉の中に現れる。
それ以外の全ては切り取って手だけを取り出し、己の欲望を満たしている。
彼女は吉良と同種の目をする人間を、知っている。
「吉良くんは今日の新聞見た?私は好きな記事を切り取って保管する癖があるのだけれど、今日もいい記事があったの」
彼女に手を止められた吉良は我に返ったのか、じっと彼女を見ている。
「見て…ないです」
「じゃあ帰ったら見てみるといいよ。マイノリティーの人間は何も性的嗜好に限ったことじゃない。社会のマイノリティーも一般人が思っている以上に、
彼女はそう言って面の一部が切り取られた新聞を丸めて、軽く彼の頭を叩いた。
「………」
「いたッッ!!」
少年はその新聞を奪い取ると、勢いよく彼女の頭を叩き返した。