転生したら殺人鬼ポジだった件   作:クリーニング黒兎

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例の如く次話が一万字近くなってしまったので上げます。
四面楚歌状態な主人公の巻(×4だけに)。英文についてはGoogle先生頼みなので、違ったら申し訳ないです。


50話 「おかえり」と言って

 川尻早人は父に川尻浩作、母に川尻しのぶを持つ11歳の少年である。

 

 何を考えているかわからない根暗な印象から、友人はいなかった。

 

 少年の性格が歪んだきっかけは、幼い頃からの家庭環境にある。

 初めに言っておくと貧乏というわけではない。むしろゆとりがあるくらいだ。

 

 

 浩作は息子以上に無表情で、早人も父が何を考えているのか正確に読み取れたことはない。

 

 母曰く昔は違かったらしいが、今では「めし」「フロ」「ネル」など端的にしか発さない。まるでゲームの画面に表示される選択肢である。

 

 それに対ししのぶはロボットの如き夫と、父親譲りの不気味さを持つ息子を疎んでいた。

 

 なまじ金銭面に多少のゆとりがあり、夫が妻に()()()なだけだからこそ、文句を言うことができない。

 

 長年溜まったフラストレーションを抱え、彼女は無味乾燥な生活を送っていた。

 

 

「ぼくは本当に、パパとママの子供なんだろうか…」

 

 

 夜。早人は椅子に腰かけ、スタンドライトの明かりをぼんやりと見つめながら思考に耽る。

 

 別に虐待を受けているわけではない。

 

 ご飯はしっかり作られているし、授業参観などの行事にもしのぶが来る。

 

 父は早人に無関心なだけで、母は疎んでいるだけだ。どちらも子を持つ親としては失格判定も吝かでないが、それでも出生届もろくに出されず親からメシを貰えないで、家に繋がれるだけの子供よりは何億倍もマシである。

 そんな風に回る少年の思考も、きっと捻くれているのだろう。

 

 早人はただ、知りたいのだ。本当に自分が両親が愛し合った末に、生まれた子供なのかを。

 

 両親に愛してもらいたいわけではない。

 どうせ求めても無駄なことはわかりきっているから。

 

 ただ、少年は一つの「真実」が欲しいだけだ。

 

 自分が両親に愛があり生まれたならば、彼の存在に意味ができる。

 

 どうして自分が生まれたのか。自分はいったい何なのか。どうして(ぼく)はこんな疑問を抱くのか。

 

 天邪鬼な少年は気づかない。その考えの中にある無意識の本心を。

 

 

 ────()()()()()()()()()

 

 

 子供ならば享受されて然るべき愛情を、少年は本当は求めているのだ。

 

「………」

 

 早人はライトに照らされる机の上に一枚の写真を置く。

 

 撮られた日付は1987年の夏頃。

 少し色褪せたその中には、大学の講義室でホワイトボードをバックに、数十人の生徒が教壇の前に立つ花束を持った女性を中心に並んでいた。

 

 花束を持った女の腹は膨れていて、どうやら産休祝いとして撮られたのだろうと推測できる。

 

 しのぶの母は前列にいて、華がある友人らと一緒に並んでいた。

 

 母がカースト上位組だった事実を知った早人の心境は、微妙なものだった。

 

 なんとなくだが、夫のトランクスを無言で見つめた直後、床に思いきり叩きつけていた母の心境が少しわかった気がした。

 

 

 この写真はしのぶの私物である。

 彼がたまたま早めに帰ってきた時に、彼女がソファーでこの写真を眺めていた。

 

 その顔は早人でも見たことがないほど、憂いを帯びたものだった。

 

 帰ってきた息子に気づいたしのぶはその後、慌てて写真を隠していた。

 

 彼はその写真が気にかかり、母が買い物に出かけている隙にしのぶの私室(夫とは別室である)に侵入して盗んだ。

 

 後日母から「ねぇあんた、写真見なかった?」と聞かれたが、知らぬ存ぜぬで通した。

 

 その件から数日、母は見るからに落ち込んでいた。

 

「………」

 

 早人は無言でその写真を裏返す。そこには男性の名前に『くん』がついたものと、どこかの住所名が書かれている。

 

 字はしのぶのもので、住所の場所は杜王町の別荘地帯のものだ。

 

 

「…行ってみよう」

 

 

 母親が浮かべていた、早人が見たことのない()()()

 

 その表情が恋する乙女のものであると、愛をよくは知らない少年でもわかった。

 

 くだらない小学生同士の恋愛で騒いでいる奴らが、浮かべているものとそっくりだったからだ。

 

 彼は一つの考えを抱いている。

 

 自分に無関心な父親。

 夫や息子を疎ましく思い、写真に淡い想いを馳せていた母親。

 

 

 ────自分はもしかしたら、二人の間に生まれた子供ではないのだろうか。

 

 

 母親は容姿の類似点を考えてもしのぶのはずだ。

 

 早人が考えるのは父親が違う、ということである。

 

 それならば父親が自分に無関心なことにも納得がいく。

 

 デキ婚した二人であるが、薄々早人が自分の子供ではないと察して浩作は妻にも息子にも冷ややかな態度を取っているのではないのだろうか。

 ただ真面目な性格上、一応は面倒を見ているのだろう。

 

 対ししのぶの場合、おそらく早人が浩作との子供だと信じて疑っていない。

 

 

 例えばここに、カッコウの雛の例を持ち出すとしよう。

 

 親のカッコウはまず別の鳥の巣に托卵──自分の卵の世話を他の鳥に任せる──する。

 その後孵化したカッコウの雛は他の卵、あるいはすでに孵化していた雛を蹴落として殺し、餌をもらってすくすく育つ。

 

 このような事例が人間の場合でも過去に起こっている。

 

 病院側が産まれた新生児を取り違え、親は本当の子ではない赤ん坊を自分の子供として育てていた、というものだ。

 取り違えが判明したのは赤ん坊の血液検査が行われてからだった。

 

 

 ────というように、赤ん坊の両親が実際異なっても、気づかないケースはある。

 

 しのぶもおそらくは「浩作との子供である」という先入観により疑うことがない。

 

 

「『杜王町浄禅寺1-128』────きっとそこに、真実はある」

 

 

 かくして早人は夏休みが間近に迫った休日に麦わら帽子を被り、膨らんだリュックを背負って自転車を漕いだ。

 

 向かう先にいる人間は果たして、どんな人物なのだろうか。

 

 緊張した面持ちで目的地に着いた。

 

 いなければ家主が帰って来るまで張り込むつもりだったが、車のシャッターは閉じられているので、外出しているということはないはずだ。

 

「フゥー…落ち着けぼく」

 

 震える手でインターフォンを何度か鳴らし、待つこと少し。

「はい」と低めの男の声がし、左右にスライドするタイプの扉が開いた。

 

「ハァ……全く、今度は誰です────ん?」

 

「………あっ!!」

 

 早人が思わず男の顔を指さしてしまったのは仕方ない。

 

 なぜなら目の前にいたのは、一度図書館で会ったことのある男だったからだ。

 

 

「あなたがぼくの……パパ?」

 

 

 その言葉に、吉良の目が完全に死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 退院してから数日経ち、吉良の精神もかなり回復してきた頃。

 これはちょうど川尻早人が吉良邸に訪れる、数時間前の出来事である。

 

 

 先日彼のところに、赤子を連れたジョセフが遊びに来て退院祝いの言葉を受け取った。

 その後、笑顔を浮かべたままの老人にお説教も受けた。

 

 曰く、「無茶をするでない」等。

 

 それから日が経ち、また赤子を連れた老人と────白い悪魔が再臨した。

 そして驚くべきことに、白い悪魔の後ろに隠れるようにして、二つのお団子ヘアーが特徴的な小さい天使がいたのである。

 

 その天使の名は、空条徐倫(ジョリーン)

「空条」からお察しのとおり、空条承太郎の一人娘である。

 

 娘は父が帰国して間もなく驚異的なスピードで快方に向かい、目覚めてから数日も経たず退院できるまでに至った。

 医者からすれば“奇跡”としか形容できない出来事だった。

 

 病室で父の「すまなかった」という短い謝罪とともに、大きく温かい手が彼女の小さな手を握った時、徐倫は愛情を感じた。その愛情は深海のように深くて、とても分かりにくいものだとも知った。

 

 以来承太郎は毎日とはいかないが、定期的に家に帰ってくるようになった。

 いつも涙を流して、帰って来ない父の帰りを待つばかりだった少女には、この上ない幸せな時間だ。

 

 だが承太郎は学者という立場で、さらに矢の捜索やDIOの残した禍根の後始末などに追われている。

 

 杜王町でまだ為すべきこと(発見した新種らしきヒトデのより詳しい調査や矢の捜索など)が残っている彼は、足にしがみつき泣きじゃくる娘に、らしくもなく動揺を表に出した。

 そんな男に妻は呆れたようにため息をつき、そして言ったのだ。

 

 

 ────徐倫も一緒に連れて行ったらどうです?

 

 

 空条承太郎はスタンド使いとしては最強の名を冠している。

 

 しかし“父親”としては決して褒められた男ではない。

 

 そこには家族を危険に巻き込まないように──という彼なりの思いがある。

 ただそれを決して口にしない男なので、事情を知らない妻からしたら「あなたそれでも父親なの!?」と怒り心頭ものである。

 

 不器用な男だとはわかっていても、耐えられる限度がある。

 

 そして、「仕事で…」「でも滞在する場所にはおじいさんがいるんでしょう?」「だが…」「父親とこんなに離れたくない娘を置いて行くの?」「………」「私にも()()()()があるってことを教えてあげますわ」────という流れになり、承太郎はスッと離婚届の紙を差し出された。あと踏んだくれるだけ慰謝料を踏んだくってやる、という妻の漆黒の意思(夫の自業自得である)も感じた。

 

 これに加えて娘のおさまる気配のない大噴火(大泣き)を受け、彼は徐倫を日本に連れて行くことになった。

 

 

 そして来日してから初日で、仗助とその仲間たち──仗助と共にいた億泰、デートしていた康一&由花子、ついでに変人漫画家──に遭遇した。

 いくら何でもスタンド使いは引かれ合い過ぎである。

 

 予め言っておくと、承太郎は家庭や職場でも基本的に英語を使っていたため、徐倫は少ししか日本語を話せない。

 

 

 そんな少女はまず何を話しているのかわからぬ珍妙な頭(リーゼント)の男を指差し、『なにそのあたま?』と平然と言ってのけた。次にその男の隣にいた強面男には見た瞬間涙を浮かべ、安全地帯(父のコートの中)に避難した。

 

 カップルコンビはいいが、しかしまだバランを付けたラスボスが残っている。

 

 漫画家は徐倫が承太郎の娘と知るや否や、好奇心を隠さずいつもの高圧的な態度で少女を怯えさせた。

 

 彼女からすると、「ヘンな頭(二人目)の奴が、なんかもの凄い早さで喋って近づいてきた」といった感覚である。

 

 承太郎もまさか娘に「ダディとおでかけしたい!」とお願いされ、心労が最高潮になるとは思わなかった。

 

 怒髪天の仗助を全力で止め、億泰の顔を見てぐずった娘をあやすのに手こずり、康一&由花子カップルを見た娘の「ジョリーンもダンナさんほしい」に大ダメージを受け、娘を大泣きさせた漫画家にはスタンドを使い本気で殴り飛ばした。

 

 

 その後徐倫はブチ切れた仗助や億泰、岸辺露伴(ヘンな人)を見てすっかり他人が怖くなってしまった。

 都合で出かける父に付いては回るものの、ベッタリとコートにしがみついて離れない。

 

 承太郎は仕事の間、仗助たちに預けることもできず困っていた。祖父の散歩に同行させるのも、安全面で少し心許ない。

 

 そんな時に祖父から散歩の誘いを受け、手をつけていた仕事がある程度終わっていた彼はその話を飲んだ。

 

 流石に室内で遊びっぱなしというのも、子供の成長に悪影響だ。

 

 彼の気分転換としてもちょうど良い機会だった。

 

 

「…何笑ってんだ、ジジイ」

 

「いやぁ、今日もイイ天気じゃと思ってのぉ〜」

 

 

 が、随分と楽しそうな祖父を見て、承太郎は嫌な予感を覚えた。

 

 ジョセフの散歩コースは承太郎も概ねだが知っている。

 

 吉良邸に立ち寄っている、というのも聞いていた。

 

 しかしまさか孫があの男と相性が最悪だと知った上で、行こうとしているのだろうか?

 

 まさかな?いや、まさかだよな。

 そんな感じのやり取りが最強のスタンド使いの中で行われる。

 

 結局着いたのは、一度訪れたことのある日本家屋。

 

 孫に()()()()()笑う老人は余生を謳歌しているというより、子供がイタズラをしているかのようだった。

 

 

 

 

 

 して、話は初めにまで戻る。

 

 望まぬ来客に吉良の顔は嫌悪を丸出しにし、承太郎も学帽の鍔を手で掴みため息を吐いた。

 

 そんな中ニコニコ笑うジョセフが前に連れ出したのは、孫の背中に隠れている少女。

 

「わしのひ孫で、承太郎の娘じゃよ。キャワゆいじゃろう」

 

「ひ孫……あぁ、病気が治ったんですか」

 

「おいジジイ、何人の家の事情ペラペラ話してんだ」

 

「ンー?最近耳が遠くてのォ、承太郎が何と言ったか聞こえんかったわい」

 

 大人の会話を他所に、徐倫はジョセフにしがみつきながらメガネをかけている男の髪を見る。

 日本人は黒髪が多い。徐倫もまた父の遺伝を受け継いだため黒髪である。

 

 アジア人の血を引くからと、彼女は周囲の子供たちにいじめられたこともある。

 だが()()()()()()性格なので、男だろうが女だろうが物理的に黙らせてきた。

 

 ただ母親と髪の色が違う、といじられた時はかなり傷ついた。

 それが父のいない寂しさと相まって、髪色を変えたいとも考えたのだ。

 

 

 然して今は、自分の髪は()()である。

 

 

 だからこそ彼女は吉良の髪色に目を引かれた。

 

 その色は本人に染める余裕がなかったため、金髪に近い。完全な金色でないことを踏まえ、少女は黒から金に変えたんだ──という思考回路に至る。

 

「Why is your hair golden? Hate it?」

(どうしておじさんのかみのいろはきんいろなの?きらいなの?)

 

 吉良は突然出た英語に驚いたのか少し目を丸くした。

 ジョセフが言っていた承太郎がアメリカ在住ということを思い出すと、あぁ、と呟く。

 

 男の口から出たのは、作家らしい一言だ。

 

 

「I like my hair because it's the same "star" color as you」

(好きさ、だって君と同じ「星」の色だからね)

 

 

「……!」

 

 

 少女の瞳が輝いた。徐倫にとって「星」と言われると、自分の肩にある星のあざを連想させる。

 

 その奇妙なあざは、好奇の目で他人に見られることが多い。目立つ位置にあるそれは、少女にとって中々コンプレックスなのだ。

 

 しかし、星を「好き」と言ってくれる人もいる。

 少女にはこの上なく、その事実が嬉しかった。

 

「I also like stars! I'm Jolyne. Tell me your name!」

(ジョリーンもおほしさますき!あたしジョリーンっていうの。おじさんのなまえおしえてよ!)

 

 きっと普通の男なら、一直線にロリ道に突っ走りそうな可愛さである。

 しかし吉良はすでに手フェチ道の達人であるため見向きもしない。むしろその、将来有望なカノジョに意識が向いている。

 

 

 

「………オイ」

 

 

 

 スタープラチナ構えた承太郎の底冷えた声が、辺りに響く。

 吉良は極めて冷静に彼の方を向いた。

 

「少女趣味とは、いい度胸じゃねェか……」

 

「その寡黙さとは裏腹に、貴様はわたしが思った以上に娘にデレデレのようだな、空条承太郎」

 

「冷静ぶってられるのも今の内だぜ」

 

「何だい?娘がいる前で暴りょ─ー」

 

 瞬間スタープラチナの拳が、吉良の横に立て付けられていた郵便受けにブチ当たり、吹っ飛んだ。

 

「………後で直せよな」

 

「あぁ、直すさ(仗助が)」

 

 

 やはり相容れないのが、この二人である。

 

 その後川尻早人の襲来を受けた吉良のSAN値は、完全に無くなった。




仗助「俺便利屋じゃないんスけど」
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