転生したら殺人鬼ポジだった件   作:クリーニング黒兎

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51話 追憶のソナタ

 この暑さの中子供を立たせているのもいかがなものかと考えた吉良は、早人を客間に上げた。

 家に訪れる老人のために買っておいた茶菓子とコップに注いだ二人分の麦茶を盆で運び、少年に差し出す。

 

「あなたが『吉影くん♡』って人で合ってる?」

 

「……語尾に何か見えてはいけないものが見えた気がしたんだが」

 

「あぁ、それはママの持ってた写真にね──」

 

 少年がリュックから出した写真は、吉良が留年する前の大学四年時に撮影したもの。

 

 講義を終えた後、出産休暇に入る教員を祝うついでに授業を受けていたメンバーで撮ったのだ。

 

 撮影時期は吉良がしのぶに彼女がいたことを告げる前で、裏に書かれた『♡』から察して、甘い妄想を抱きながら書いたものであるとわかる。

 

 これをもし他人に見られたら公開処刑ものだろう。

 

 すでに息子が見てしまい、さらには吉良本人にも見られてしまったが。

 

 そこらの空気の読めなさが、川尻浩作の息子であるということをひしひしと感じさせる。

 

「タクシーに乗った時運転手に住所を言ったが、彼女覚えていたのか…」

 

 露骨に引いた男を尻目に、早人は菓子を黙々と頬張る。その様子は年相応の子どもに見えるが、侮ってはならない。

 

 自分の父親が別にいると考え、あまつさえ突撃して来る子供である。

 行動力や考察力は同い年の子供と比べるまでもない。

 

 ただしその家庭環境と性格の歪みからか、考え方は歪んでいる。

 

「それで、『星ノ桜花』先生は、ぼくの本当のパパなの?」

 

「君まだ前のこと根に持ってるのか。嘘を吐いて悪かったよ、家の表札は見ただろう?」

 

「じゃあ吉良さんは、ぼくのパパ?」

 

「うん、違うよ。さぁそれを食べたら帰ってくれ」

 

「証拠を見せてもらうまで、ぼく帰らないから」

 

 真顔になった吉良は、少年のリュックに手を伸ばした。

 しかし寸前で早人が取り、自分の膝の上に抱え片手で押さえながら、もう片方の手で菓子を食べる。

 

「やたら膨れていると思ったが……外泊道具一式を入れてるのか」

 

「証明してくれたらちゃんと帰るよ」

 

「ハァ…わかったよ」

 

 物的な証拠になるとしたら、やはり血液型だろうか。自分の父親が本物かどうか疑う少年ならば、既に調べている筈だ。

 

 それが無理なら別のアプローチを考えるしかない。

 

 

「両親含め、君の血液型を教えてくれ。それで判断がつくかもしれない」

 

「血液型はママがO型で、パパがB型だよ。ぼくはパパと同じB型。でもあなたがBかAB型だったらパパの可能性がある。【O×B】【O×AB】の組み合わせであれば、B型の子供が生まれる可能性があるから」

 

「前提としてわたしが父親かもしれないという考えは揺るがないんだね…」

 

「…ぼくはただ、確認したいだけだから」

 

 頰をがめついリスにさせたまま、早人は真っ直ぐ吉良を見つめる。

 瞳も容姿も、やはりしのぶに似ている。だが無機質の裏に隠れる人間臭さのようなものは、川尻と似ていた。

 

「少し待っていてくれ」

 

 吉良は自分の健康結果が載っている書類を探した。毎年人間ドックを個人で受けるほどには健康に気を遣っている。

 そのため大病を患ったことはない(精神除く)。

 

 本人がどの場所に何があるか正確に把握しているため、見つけるのにそう時間はかからない。

 家の中を調べようとしていた早人は戻ってきた男に捕まり、客間に連行された。

 

「油断も隙もないクソガキだな」

 

「違うよぉ…?ぼくちょっと、おトイレに行こうとしてただけだもん……」

 

「どこぞの身体は子供、頭脳は大人な名探偵が不審な行動をして、大人に言い訳する時のような言葉を吐くな。第一トイレを使うならわたしの許可を取ってからにしろ」

 

「…はぁい」

 

「人に返事する時はそれでいいんだったかな?」

 

「はいッ!」

 

 やけっぱちの如く、首根っこを掴まれている少年は大声で返事した。

 それに嘆息した吉良は持っていた健康診断の紙を見せる。そこに書かれていたのはA型。

 

「これでわたしが君の父親でないという明確な証明になった。もういいね?帰ってくれ」

 

「………」

 

 早人の表情が曇った。薄々本人も自分の父親が浩作であることをわかっていたはずなのだ。それでも疑ってしまう心理には、相応の理由がある。

 

 ────「愛」がわからない。

 

 その様子はかつて人を愛する感情がわからなかった吉良に似ていた。

 

 なぜ面倒事ばかり起こるのだろうか。

 担当の件──彼も泉に思うところがあったのか、担当こそ変えたが仕事をつつがなく続けられるよう配慮した──や、主人公格×3の襲来を乗り越えたばかりだというのに。

 

 だが迷っている子供を見捨てるほど、常識のない男ではない。

 

「君は自分が両親から愛されているか……いや、これだと少し違うか。()()()()()()()()()()であるか、知りたいのか」

 

「…ッ!」

 

「ハァ……本当にしのぶくんと川尻くんは何をやっているんだか」

 

 

 吉良は十年以上、川尻やしのぶと会っていない。

 

 大学の同窓会で会える機会はあるかもしれない。

 

 しかし陰キャで通していた彼に話がかかったことは、「やめとけ!やめとけ!」が口癖だった男からくらいだ。

 

 まぁ、それも仕事を理由に行かなかった。

 

 スーパーでならしのぶと会いそうだが、これもまた彼が奥様ラッシュな時間を避けているので会ったことはない。

 

 

 一度会って見るべきか──。

 

 

 少年が自分のような異常者になることはあるまい。

 

 ただ、正しい愛情を受けぬまま成長していくのは、彼としても忍びない。

 

 吉良吉影という男が一人の少年に肩入れしようと、自ら面倒ごとに足を突っ込もうとしている。

 

 必然と彼の頭に浮かんだのは、「星」を宿す者たちの姿である。

 絆されたわけではない。ただ偶にはらしくないことをしてみてもいいかと、彼に思わせた。

 

 ジョースターの血統は侮れない。

 

 それが×4ともなれば、流石に殺人鬼のサガを抱えている男でも、多少は影響を受けるようである。

 単純に早人が二度と家に訪れないように、布石を積んでいるだけなのかもしれないが。

 

「そう暗い顔をするな、少年」

 

「…別に、ぼくいつもこんな顔だよ。ママも内心「気味が悪いヤツ…」って思ってるのも知ってるんだ」

 

「本当に捻くれているね。せっかくだから君が生まれる前の話をしてやろうとも思ったんだが、その様子じゃ必要ないかな?」

 

「……え、ぼ、ぼくが生まれる前の話って…!?」

 

「具体的にはしのぶくんにフラれた川尻浩作が、彼女の妊娠を知って復縁をすっ飛ばして指輪も無しにプロポーズした話かな」

 

 それはストーカー事件の前、吉良がしのぶに会った際に聞いた話だ。

 しのぶはプロポーズの件について爆笑しながら話していた。その表情は完全に、嬉しくて仕方ないという顔だった。

 

「お、教えてください!そのっ…パパとママのこと!!…ぼく、二人の馴れ初めとか、全然知らないから」

 

「いいよ。ただし長くなりそうだから、その前に扇風機をつけてからね」

 

 さっさと帰らすためにあえて使っていなかったが、流石に無しの状況では吉良も辛くなってきた。

 若干顔色の悪い男は自分の麦茶を一口胃に流し、過去へと想いを馳せた。

 

 

 まだ()()がこの世界にいた、あの頃のことを。

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