転生したら殺人鬼ポジだった件   作:クリーニング黒兎

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四章
53話 わんダフルデイズ


 中高も夏休みに入ろうという手前、学校帰りにカフェ・ドゥ・マゴへと寄った仗助と億泰は少し暗い表情を浮かべていた。

 

 その理由は、二日も行方知れずとなっている重ちーの存在にある。

 

 

「スタンドの「矢」の件は粗方片づいたはずなのによォ、アイツどうしちまったんだか…」

 

「まぁ、大丈夫じゃねェの。アイツのスタンドが強ェのは、オレたちが一番知ってるしよ」

 

 二人は宝くじの一件で、重ちーと戦闘になったことがある。

 

 彼のスタンドは群体型で、鋭い歯や爪の攻撃は脅威そのものだった。

 また、スタンド一体一体に備えられた針で忍ばせたアルコールや毒などを、人間の体内に注入することもできる。

 

 総合的に重ちーの意外な地頭の良さもあり、かなり凶悪な能力となっている。

 ただし本人は小銭集めくらいにしかスタンドを使う気はないので、危険性はない。

 

 宝くじの件も元はと言えば、億泰と仗助が彼に悪知恵を吹き込んだのだ。その結果、金をめぐって戦闘が起こった。

 

 これが康一だったら「拾った物は、きちんと交番に届けなくちゃあダメだろ!」と助言するだろう。さす康(さすが僕らの康一くん!)。

 

 

 以上から、心配とは言いつつも、重ちーならば大丈夫だという楽観的な考えが二人にはある。

 さらにスタンド使いとの遭遇が無くなってきたことも、一つの気を緩ませる要因だろう。

 

「でも本当に、無事だといいんだけどよ…」

 

 ティーカップを傾ける仗助の姿は端正な顔立ちも受けて、周囲の女子生徒の目を引きつける。

 

 熱烈な視線に気づかない男を見た億泰は半目になった。

 

「ンだよ億泰、何だその面」

 

「いやぁ〜別にィー?由花子と付き合ってから付き合いの悪くなった康一もだがよ、テメェまで抜け駆けしたらマジにオレは許さねェからな。本……当ッ、顔の良いヤツは羨ましいよなァ〜〜!!」

 

「安心しろって、この仗助くんは恋愛より友情を重きにしてっからよ」

 

「うっせェー!!テメェは自分に向いてる視線に気づいてから言えやコラァ!」

 

 鈍感系純情イケメンリーゼント改造学ラン男。キャラ設定の大渋滞だ。

 

 騒ぐ億泰をよそに、ちょうど二人がいる隣のテーブルにカップルが腰かける。

 チラッとそちらを見た億泰は今度、「目がァァァ」と叫び出した。

 

「…あれ、仗助くんと億泰くん!」

 

「康一くん、あのバカ共じゃなくて私のことを見てちょうだい。はい、あーん」

 

「んもぉ〜由花子さん、一口サイズが大きいよぉ!」

 

 大きなパフェをシェアして食べ進めていく由花子と康一。

 一方でお隣の恋人いない組代表、虹村億泰は仗助に慰められた。

 

 そしてさらにその場所に空条親子と、赤ん坊を抱いたジョセフも現れた。

 

 美丈夫の子連れ男(中には老人にハートキャッチPUI(ぷい)キュアした猛者もいる)に周囲の女たちがざわめいたが、「うっとおし(娘チラ見)……いから静かにしろ!!」を食らい、瞳をハートにして去って行った。

 カフェに残ったのは彼らと、新聞を読む客など一部のみ。

 

 

 承太郎が来たことにより、必然と重ちーの行方不明の話になる。

 

「仗助に頼まれ調べたが、目ぼしい情報はなかった。スタンド使いの仕業かはわからないが、虹村形兆の「矢」が原因で起こった事件を抜きにしても、この町は以前から行方不明や怪奇事件が多い」

 

「その…承太郎さん、もう一つの「矢」ってまだ見つかってないんスよね?」

 

「それについてはまだ手がかりもない状態だ」

 

「そうスか…」

 

 矢がもう一つあったことに関しては、仗助を通して仲間内に伝えられている。

 

 唯一仲間と言っていいのか微妙な──皆が海で遊んでいる中、一人岸辺にいるような青年にも、康一から情報が渡っている。

 本人は「康一くんには悪いが、僕には関係ないねッ!」というスタンスだったが。

 

 

「ただし一つ、気になる噂を聞いた。最近小学生の間で話題になっているらしいが────」

 

 

 承太郎が出したのは『杜王町七不思議』という噂話だ。

 

「お前たちは何か聞いたことがあるか?」

 

「俺はないかなぁ…億泰は?」

 

「オレもねェーぜ」

 

「そうか…」

 

 承太郎も噂については知ったばかりで、まだ詳しい全貌は掴めていない。そのため学生である仗助たちなら何か知っているかもしれないと考えたが、情報は得られなかった。

 

 その間、彼の娘はジョセフに甘えていちごパフェを頼んでいた。

 

「あ、あの…承太郎さん!それなら僕、その噂についてちょっと知ってますよ」

 

 手を挙げた康一はどうやら、漫画家経由に噂話について聞いていたらしい。

 曰く、実に興味深い話がある──云々と。

 

 ちょっと、とは言いつつ、承太郎の知りかった大まかな『杜王町七不思議』の情報は得られた。

 

 漫画のネタになりそうな話には耳が早い露伴に、仗助は「まぁあの()()()()らしいっスね」と嫌味たっぷりに言う。

 その時どこからか、咳が聞こえた。

 

 しかしその音は、パフェを頬張る少女の「おいしーっ!!」という声にかき消される。場は微笑ましい雰囲気に包まれた。

 

「誰だいこの少女は?」「きっと天使よ」

 通りすがりのモブたちは呟いた。

 

 

 それから重ちーの行方不明が『杜王町七不思議』と関わっているかもしれないと考え、一同は七不思議の捜索へと打ち出た。

 その裏に、もう一本の「矢」が隠されている可能性もある。

 

 ただあくまで子供の間で流行っている噂話であるため、情報の正確性は不透明だ。

 

 そこについては、調べる必要性のあるものを承太郎が選り分けた。

 除外となったのは『人面岩』『人呼び海岸』『呪いの洋館』の三つ。

 

 残りの四つの中で、承太郎の耳にも入っていた『見えないナニカ』に関しては、スタンド使いが関わっている可能性が高い。

 

 万が一戦闘になった場合を考え、『見えないナニカ』には仗助と億泰が割り振られた。対して、康一と由花子(由花子の方は康一が傷つくことを恐れ、あまり乗り気ではなかった)は『決して後ろを振り返ってはいけない小道』に当てられた。

 

 そして残り二つを承太郎が調べると決まったあたりで、解散となった。明日がちょうど休日のため、調査は翌日から行う。

 

 重ちーのことを考えれば急ぐべきだが、準備を怠ってはかえって危険を招くかもしれない。

 こういう時こそ、冷静さが必要だった。

 

 

 承太郎は祖父と娘がいるテーブルに戻り、声をワントーン落とした。さながら密談でもするかのように。

 

「ジジイはどう思う」

 

「どう、とは?」

 

矢安宮重清(やんぐうしげきよ)の失踪の裏に、()()()が関わっていると思うか?」

 

 承太郎の差す“あの男”とは、「吉良吉影」のことだ。

 

 相手が黒い精神を持ちながら真っ当に生きようとしていると理解した上で、敢えて彼は祖父に尋ねる。

 承太郎は吉良に対し、未だ警戒心を捨て切っていない。

 

 ()()は例えるなら爆弾だ。一歩間違えればDIOに匹敵するとは言わずとも、この杜王町の平穏を脅かす「悪」となり得る。

 

「承太郎は彼を恐れているのか?」

 

「奴自身を恐れてはいない…が、この町の平穏を脅かす可能性があると考えれば、恐ろしくはある」

 

「まぁ、確かに彼奴の根っこはDIOと同じ真っ黒じゃろうな」

 

 ただ、ジョセフにとってはそれまでなのだ。

 根っこが黒いだけで、生えている幹や葉は普通の人間と変わらない。そこがまた歪で、恐ろしくはある。

 

「彼は放っておいた方が何もせず、静かに暮らすと思うがのう」

 

「いや、()は置いた方がいいだろう。いつどこで、何をきっかけに暴走するかわからない」

 

「…フム、やはり監視をつけておったのは承太郎じゃったか」

 

「あぁ。外させたのがジジイだってことも知っている」

 

「お前は本当ォ〜……に、正義感が強すぎて危なっかしいのう。下手に深入りすれば、逆に危ないのは自覚しておるだろうに」

 

「それでも、引けない一線ってのはある」

 

 仮に吉良が人を殺してしまってからでは遅い。それはジョセフもわかっているはずだ。

 

 

「まぁ、わしらが関わってしまった時点で、放っておくもクソも無くなったんじゃがな」

 

 

 ()()()()()によって引き寄せられた者たち。

 

 その中で殺人鬼のサガを背負った男は、平穏からさらに程遠くなった生活をしている。

 

 特にここ最近はひどい有様だ。ジョセフも久し振りに顔を見て、強い危機感を抱いた。

 

 恐らくあと一歩落ちれば、人間を殺す。

 今まで隠していた手への執着──承太郎は少女趣味と認識したようだが──は、吉良が徐倫を見ていた時に感じた。

 

 正直()以外を付属品としか見ていないあの視線は、ジョセフでさえ悪寒がする。

 あれをただの「手フェチ」で済ましてはならない。

 

「あと一歩じゃ、彼奴が魔道へ落ちるのはな。追い込んだ責任を取るのも大事じゃろう」

 

「………」

 

「そう己を責めるな、承太郎。わしや仗助含め、彼奴とは相性が悪い。この結果も仕方なかろう」

 

 だからこそジョセフはひ孫まで連れ出して、日陰で死んでいる男を日向へ引き戻している。

 そんな日陰の男としては、オレ(わたし)の側に近寄るな案件だ。

 

「お前も何か頼むといい。休息は誰しも必要じゃ」

 

「………ハァ、コーヒーを頼む」

 

「Hey、Daddy!I'll give Daddy Jolene's parfait too!」

(はいダディ!ダディにもジョリーンのパフェあげる!)

 

 徐倫は最後に取っておいたいちごを生クリームの上に乗せ、スプーンで父の口に運ぶ。どうやら由花子が康一にしていたのを真似ているらしい。

 これにはお父さんの口も緩んだ。しかしニヤける祖父に気づき、一瞬で無表情に戻った。

 

「おぉ、そう言えば『ナナフシギ』の件…じゃったかの?『悪魔』についてはわし、分かったかもしれんぞ」

 

「…何?」

 

 娘が手を滑らしたせいで生クリームが口の横についたまま、承太郎は眉を顰める。

 

 ジョセフは以前、吉良邸に訪れた時に聞いた世間話を思い出した。

 そもそも定期的に吉良の家に行っているのは、セラピーもどき兼、男の情報を得るためである。

 

 落ちた場合を考え、弱点は多く握っておいた方がいい。落ちないことを切に願ってはいるのだが、何があるのかわからないのが人生というものだ。

 

「彼は小学生の頃、運動が苦手だったそうでの。プールで溺れかけたり、運動会で少々()()()をしてしまったらしい」

 

「…なるほどな。動物の呪い云々は、奴の人殺しの性質を考えれば妥当か。………胸糞悪ィが」

 

「人を殺めておらんだけ、まだマシと考えねばならんじゃろ」

 

 

 一先ず調べるべきは、残り一つの『影犬』となった。

 

「ところで承太郎」

 

「あぁ、わかってる」

 

 ジョセフに指摘され、口元をナプキンで拭ってから立ち上がった承太郎は、彼らから少し離れた席にいる人物に近づく。その男は顔を新聞で隠していた。

 元はもっと遠くにいたはずだが、二人が小声になってから近づいて来た。新感覚ホラーだろうか。

 

 

「よぉ、()()

 

 

 先生────と言っても、漫画家の方の先生は、承太郎に新聞を取られて苦い顔をした。

 

 青年の額は包帯で覆われ、右頬にもガーゼが貼られている。幸い仕事に使う利き手は無事だ。これは彼が徐倫を大泣きさせ、さらに「うるさいなぁ…」などとのたまった結果、父親にボコされてできたケガだ。

 

 それでも全治一週間のケガは、仗助のプッツンと比べれば軽いものだ。しかし一応と、二週間の休載をもらっている。

 

「……この間はすみませんでしたね、娘さんを怖がらせて」

 

「いや、俺もすまなかった。ジジイがあんたの作品の休載を知って落ち込んでな。悪かったと思っている」

 

「それはジョースターさんに、ですか?それとも僕に?」

 

「両方だな。──で、本題なんだが」

 

 岸辺露伴はネタ作りをしていた際、偶然この会合に遭遇した。

 気に食わない仗助の発言につい咳をしてしまったが、承太郎とジョセフ以外にはバレていなかった。

 

 

「康一くんに『杜王町七不思議』の話を持ち出したのはあんただそうだが、調べているのか?または、調べるつもりなのか?」

 

「ハハッ、勘弁してくださいよ、承太郎さん。僕は漫画のネタになりそうだから調べたが、話のほとんどは調べればすぐに偽物だとわかる。子供の創作話に、この岸辺露伴がわざわざ時間をかけるとでも?あくまで話についても、外でスケッチしている時にガキ共が話しているのを聞いたのが気になって、ちょっと調べただけだ」

 

「…まぁ、そういうことにしておこう。仗助たちの邪魔はしてくれるなよ」

 

「ハン、誰がすき好んであのクソッタレ仗助に関わるかッ!安心してくださいよ、貴方たちに関わる気はないのでね。じゃあ僕はこれで」

 

 立ち去った漫画家の背を見て、承太郎は溜息を吐いた。

 

 

「やれやれだぜ…とんでもなく気難しい先生だ」

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 皆大方、岸辺露伴という漫画家が、“ある属性*1”を持っているのはご存知のことだろう。

 それは俗に言う()()()()なるものだが、この男の行動全てにそれが当てはまるわけでもない。

 

 承太郎の「気難しい」というのは、言い得て妙だった。

 

 

「あぁ、そうさ。奴らには関わらないし、「調べるとでも?」──と言った。しかし()()()()()()()()()()とは言っていないし、調()()()()とも僕は言っていない。第一先に予定を立てていたのはこちらだ。文句を言われる筋合いはないね」

 

 

 

 仗助たちと出会った翌日、露伴が訪れたのは九州に位置する種子島。

 

『杜王町七不思議』の中で彼が最も興味を抱いたのが、『影犬』の件である。

 

 どれも理由がつけられる話の中で、『小道』と『影犬』は明確な理由づけをすることができず、実際に調べる価値があると考えた。

 

 だが『小道』については、露伴の中でセンシティブな部分があった。

 あそこは当時杉本鈴美の家があった場所だ。調べていれば、必然と当時の記憶に引きずられる。

 

 ゆえに調べるのは『影犬』にすると決めた。

 康一と由花子が『小道』を調べると聞き気になりはしたが、友人の康一くんなら大丈夫だろう、という確信がある。

 

 ただ『影犬』を調べるにしても、うわさ自体不確定なものが多い。

 

 ────影に潜む犬。人の願いを叶える、或いは不幸へと導く。

 

 その少ないキーワードを元に露伴が調べて可能性を見出したのは、犬にまつわるとある怪異の伝承。

 

 

 人はそれを『()()』と呼ぶ。

 

 

 犬神は人間に憑く狐などと共に、西日本で多く語られる話だ。

 

 内容は諸説あるが、一例を挙げるとすれば、まず犬の頭部だけ地中から出して生き埋めにしておく。その犬の前に食物を置いて餓死する直前に首を刎ねると、その頭部が飛んで食物に食いつくのだ。そして地面に落ちた首は焼いて骨にし、器に入れて祀る。すると永久にその人間に憑き、願望を成就させる──というものだ。

 

 人の願いを叶えるとはつまり、人の願望を成熟させるということである。

 

『犬神』が何か関連していると踏み、露伴は伝承の多い西日本へと訪れた。

 調査する候補はいくつか上っており、初めはその中の一つである犬神の伝承(現地では「イリガミ」と言うらしい)を辿る。

 

「まぁ、怪異だか何だかを信じろと言われても、難しい話ではあるがな」

 

 しかし己の好奇心を満たさぬ行為こそ、露伴の中で愚かなものはない。

 

 空港から出た彼は眩しい光と暑さに苦い顔をしつつ、一歩踏み出す。

 

 さすが種子島。杜王町とはレベルの違う観光スポットということと、休日ということもあり、客が多い。

 

 立ち止まっている漫画家の横を、複数の人間が通り過ぎて行く。

 喉の渇きに、露伴は自販機で買ったミネラルウォーターを鞄から取り出す。

 

 

「おっ…と」

 

 だがスケッチブックを傍に抱えていたこともあり、つい落としてしまった。

 転がったそれは、男のスニーカーに当たり止まる。

 

「落としましたよ」

 

「…あぁ、すまない」

 

 拾われたペットボトルは男の手から露伴に渡されたが、双方お互いの顔を見た瞬間に固まる。

 男はバランの形をしたヘアーバンドを見つめ、対し漫画家は眼鏡の奥の瞳を穴が開くほどガン見する。

 

 

「岸辺、露伴…」

 

「吉良吉影…!!」

 

 

 どうやら()()()しがらみは、杜王町から出たとしても付いて回るらしい。

*1
知らない場合は四部の最後、杉本鈴美との別れのシーンを参照。




(補足的なもの)

 猫草についてはスタンド能力をジョセフの前では使ったことがないため、ジョセフは猫草と『見えないナニカ』との関連性については気づかなかった。ただ「矢」の影響で生まれた生き物だとは推測している。
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