転生したら殺人鬼ポジだった件   作:クリーニング黒兎

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犬神回の始まり。
多分現時点での執筆内容考えて言っておくと、気持ち悪いというか、人によってはかなりエグい話になるので、ムカデ人間観ながらご飯食べれるぐらいの図太い精神持ってください。とにかく何でも大丈夫な人向け。


54話 犬も歩けばバランに当たる

 しのぶくんを眠らせた後、わたしは十冊以上にもおよぶ川尻浩作の日記を入手した。

 

 ノートは鞄に入れ、屋根裏から落ちたホコリは綺麗に掃除した。

 

 そして証拠を隠滅したらリビングに戻り、ソファーで本を読みながら一時間ほど待つ。

 

「げっ」

 

 帰宅したら早人少年は、こちらを見るなり苦い顔をした。

 

 あらかじめ奴が我が家に来た時、適当な理由をつけてしのぶくんと会おうと考えていることを匂わせておいた。

 

 早人少年は自分でも気付いていないようだが、マザコンだ。

 言動に母の愛情を求める心理がひしひしと伝わっていたからわかる。

 

 ゆえにどこぞの男が母親に近づこうとしていると知ったら、危機感を抱くと考えた。

 

 以前の少年ではきっと、そのような思考になることはなかっただろう。

 

 わたしが川尻夫婦の過去を伝えたことで、多少なりとも自分が「二人の愛」の中で生まれたことを自覚できたのだ。

 以前は川尻浩作のように死んだ目だったが、今は一転して()()のある瞳をしている。

 

「やっぱり来てたのか、あんた…」

 

「客人に随分な態度だな」

 

「ママは………えっ」

 

 少年はそこで、奥のソファーで眠る母親に気づいた。

 

「ま、ママに何したんだお前!?この時間帯ならドラマを見ているか、買い物に出かけてるのに……!!」

 

「何もしていないよ。というかやたら詳しいな。彼女も家事ばかりで疲れているんだろう。紅茶を飲んで話していたら、段々うたた寝し始めてね。何も言わず帰るのも悪いかと思って、起きるのを待っていたんだ」

 

「………」

 

「おいおい、人妻に手を出すほど非常識な人間じゃないよ、わたしは」

 

 早人少年はしのぶくんが飲んでいたカップ(残っていた中身はすでに捨てた)を手に取り、ぐっすり眠る母親を見つめる。

 

 着衣の乱れなどないかひとしきり吟味して、一先ず何もなかったと判断したようだ。

 

「本当に何もしてないんだよね?」

 

 と思ったが、まだ疑われていた。

 確かにこの状況じゃあ怪しまれても仕方ないし、実際真っ黒である。

 

 川尻早人にはわたしが両親の知人であると告げ、こちらの情報は『地味な文系の学生』程度しか出さなかった。

 だがしのぶくんと一定の交流があったことは知れている。

 

「安心し給えよ、わたしには愛する人がいるからね」

 

 これは嘘偽りないわたしの感情だ。

 少し気まずげに視線を逸らした少年は、そう、と小さく呟く。それ以上追求してくることはなかった。

 

「偶にはゆっくり休ませてあげるといい。しのぶくんが起きるまで、家事でも手伝ってあげたらどうだ」

 

「え、で……でもぼく、料理とか作ったことないし…」

 

「これを母親と交流を深めるきっかけにしたらいいじゃないか」

 

「……なる、ほど」

 

「君が帰って来たし、そろそろお暇させてもらうよ。彼女には後で事情を伝えておいてくれ」

 

 睡眠薬の効果は人にもよるが、そのまま朝まで安眠コースだっただろう。

 

 

 

 

 

 その後、自宅に帰ってから日記を読み込んだ。

 そして数日かけ、川尻浩作の歪む鍵となった自殺少女について調べた。

 

 該当する中学校は、奴が持っていた卒業アルバムと同じではない。何せ川尻は中学の途中で引っ越している。

 

 まぁ小学校の方を調べ、その学区内と重なる中学校を割り出せばすぐに見つかった。

 この中学名と、当時の自殺した少女の記事を探せばドンピシャだ。

 

 こんな面倒な真似をせずとも川尻が転校した中学に電話し、元いた学校の名前を聞ければよいのだが、一個人に在籍していた学生の個人情報をそう簡単に教えるわけがない。

 

 

 しかし逆に言えば、何らかの事件があった人物(自殺した少女など)には、メディアの人間を装い情報を得ることもできよう。

 

 この方法で少女については聞き出した。

 KO談社側にこの事件を次作に活かしたい旨を話し、協力を取り付けたのである。

 

 わたしが作家「星ノ桜花」の担当となり、事件を探る。

 

 編集を証明する名刺も作ってもらったが、向こうの仕事が思った以上に早くて少々引いた。

 

 だがこれでこちらから電話し、後日本当に出版社にいる人間なのか確認されても、「いますよ(嘘)」と返せる。

 教育機関はガードが固くて面倒だ。

 

 もちろん学校側のセンシティブな問題に、すぐによい返事をもらえるはずもなかった。

 

 そのため何度か電話し、下手に回りながらこちらの存在を印象づかせ、アポ無しで向かった。星ノ桜花先生を連れて。

 

 

 ただ、わたしは星ノ桜花ではない。その編集の「()()()」である。

 

 

 編集長に清楚な服を着るよう言われ、羽田空港に寄越された女は、スーツを着たこちらを見るなり唖然とした。

 

 それこそまるで死んだ人間が生きていた、と言わんばかりに。

 

 そりゃあ詳しい話を聞かされぬまま空港に着いたと思えば、以前担当していた作家がいるのだ。意味がわからないだろう。

 意図して彼女に情報を伏せるよう頼んだのはわたしなのだが。

 

 散々人の心を乱した腹いせは、その表情を見て少しできたように思う。

 

 

「星ノ先生、今日はよろしくお願いします」

 

「え?………え??」

 

「星ノ先生、よろしく、お願いします」

 

「は、えっ……???」

 

 この女は演技が上手い。いや、演技というより、一度「そうだ」と思い込んだものを、自分の中で本当に「そうなのだ」と認識してしまう。セルフ洗脳だ。だからわたしの洗脳もかかりやすかったのだろう。

 

 このわたしが一杯食わされたのだ。連れて行くには適任である。

 

 そのまま状況を説明しつつ、飛行機で約二時間かかる目的地に向かう。

 その間無言でいるのもどうかと思い、軽い世間話をした。

 

 彼女から事情を聞き、エステ「シンデレラ」に行った際もろくに話せなかったため、かなり久し振りだ。

 泉くんはどうやら妹離れのため、別で暮らし始めたようである。仕事も滞りなく行えているらしい。

 

「そうですか。彼氏もできてよかったですね、先生」

 

「いや、できてないんですけど」

 

「挙式はいつなんですか?へぇ、来月ですか」

 

「あの、せん……じゃなかった。泉くん、ふざけるのはよしてちょうだい」

 

「ふざけるのは君のむ、ゔっ」

 

 人が話している最中だというのに、肩を容赦なく叩かれた。

 緩めの白いワンピースを着たところで、誤魔化しは利かないことを学んだ方がいい。

 

「何で、私なんですか…」

 

 確かに。この女が適任であるとは言っても、他の女を見繕うことはできただろう。

 しかし都合上、こちらの顔を知っているという利点が何より大きかった。

 

 向こうの中学に一人で行って編集を名乗ったところで、門前払いされる。

 

 だが「星ノ桜花」本人を連れて行けば話は別だ。ネームバリューの大きさから、適当にあしらうことはできないだろう。

 

 そもそも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ほどに、興味のある事件なのだ。

 

 答えざるを得ない状況を作る。それが重要だ。

 

 それに出版関係だからと、向こうが「社会的制裁を加えられるかもしれない……」などと、勝手に裏を勘繰ってくるので助かる。

 

 まぁ、その最たる理由の他に、個人的な理由もある。

 自分から手放しておいてなんだが、それを差し引いての問題が生じている。

 

 

「眠れないんだ」

 

「…え?」

 

 

 入院期間を含めて二週間弱、睡眠薬なしでは眠れない状況が続いている。

 元々薬や麻酔が効きにくい体質なため、かなり死活問題となっている。

 

 どうも、人の体温がないと駄目なんだ。熱が欲しい。わたしを満たしてくれる熱が。

 

 誰にでも流れている熱が人間にはあるだろう?

 生温かいそれを浴びさえすれば、己の「生」を自覚できる。

 

 

 即ちそれは、殺人欲求に他ならない。自分でもわかる。もう本当に、限界だ。

 

 

 観光客の女を引っ掛けようとも思ったが、美しい()()しか見えない。

 女を抱いて眠る前に、殺して奪った冷たい()()に微笑んで寝ることになる。

 

 想像しただけで何とも幸福になれるが、今はあの空条承太郎やジョースター氏がいる。殺したら秒でバレて終わりだ。

 

「君の体温なら、眠れると思うんだ。偶にでいいからさ」

 

「それって…どういう、意味で…」

 

「わからないが、眠れる。着くまで頼むよ」

 

「え、えぇ……??ちょ、せんせっ…!?」

 

 

 あの時だ。病室に彼女が入って来た後。

 

 自分でも意味がわからず、涙を流していたわたしを引っ張ってくれた感触。それが心地よくて、ふとした時に思い出す。

 常闇に落ちぬようわたしの手を引いてくれた彼女の────鈴美の、あの白くたおやかな手が脳裏に過るのだ。

 

 この手があるから、まだ落ちずにいられる。

 

 手の主が鈴美でないことは分かっているはずなのに、おかしい話だ。何故自分は泉くんの手で、亡き彼女のことを考えるのか。

 

 顔が同じだったからか?だが元に戻った今も、妙な心地良さを感じている。

 

 

「約束は……破れないよなぁ…」

 

 

 動物が進化して環境に適応する生き物なら、人間は環境を変えて自分に合わせる生き物なんだったか。

 

 ジョースター氏が言っていたように、過去に囚われたままではいけないのだ。

 彼女がいなくても、鈴美が残してくれた熱が今もこうして、わたしの中で生きている。

 

 変わらなくちゃあいけない。わたしも、「人間」を名乗るなら。

 

 でないと、人間失格だ。

 

 

 わたしの救いの「手」は杉本鈴美しかいない。

 でもその手を心で握り続ければ、大丈夫。だから、

 

「大丈夫だと…言ってくれ」

 

「……おん、大丈夫やで、泉くん」

 

「あ…君、そう言えば、関西しゅ……し」

 

 彼女の膝に横になると、強烈な睡魔にほぼ一瞬で意識を持っていかれた。

 

 

 

 

 

 その後、件の少女について情報を得られた。

 

 学校側からは、作品を読んでも事件そのものが特定できないようぼかすならば、と条件を受けた。

 

 また、執筆したものを学校側の査定を通してから発表する代わりに、向こうは「星ノ桜花」の情報について一切明かさないことも契約に含めた。

 

 問題が発生した場合は、問題を起こした側が責任を取ることで双方意見を交わした。

 

 

 少女の顔は、日本人形のような和のテイストの愛らしい顔つきだった。

 名前は、「中村 (ゆい)」。

 

 その両親の情報についても入手した。父親の方はすでに病気で他界していた。

 母親の方はスナックのママをしており、泉くんを一旦残して店に訪れた。

 

 歳は還暦間近。タバコと香水のダブルパンチが中々に強烈だった。

 

 女を誑かすのには慣れている。

 

 そうして酒を飲みつつ他愛ない言葉をかわし、娘の情報を聞き出した。

 最初は「独り身なのかい?」と持ち出して。

 

 向こうにわたしの奢りで酒を飲ませれば、女は暴力を振るう旦那がいたことや、娘がいたことを話した。

 

 ほろ酔いになり饒舌になった女は一瞬、憂げな顔になる。

 

 

 ────まぁあの娘は、私の本当の子じゃなかったんだけどね。

 

 

 曰く、30年以上前、夜中にコインランドリーで布に包まれて置かれていた子供を拾ったそうだ。

 誰の子かもわからない。普通なら警察に届けなければいけないところを、彼女は自分の子にした。

 

「当時結構大きくなってた子を、流産しちまってさ」

 

 だから、子供が欲しかった。

 

 それは赤子が作れない体になってから、余計に深まった感情だった。夫の暴力も元を辿れば、子が流れてしまったことによる。

 

 赤子の出生届には、医師か助産師の書いた出生証明書が必要となる。それについては知人に頼み込み、書いてもらったそうだ。

 

 犯罪である行為をなぜ語ったのか、わたしは尋ねた。

 

「どうしてだろうね。……あぁ、そうよ。あの子が生きてたら…お兄さんぐらいだったから………」

 

 褒められた母親ではなかったことを、女は自覚していた。

 夫が娘に暴力を振るう時は自分に向くことを恐れて止めず、金遣いの荒い男のために水商売に明け暮れ、ろくに娘の世話ができなかった。むしろ、ストレスで怒鳴り散らしてしまうこともあった。

 

 それでも、愛情はあった。

 でなければ酒を飲みながら、泣くことなどできまい。

 

 泥酔した女に、本当の両親の手がかりになるものがないかも聞いた。

 調べるにも、情報がまだ足りていなかったからだ。

 

 すると、女は思い出したように呟く。

 

 捨てられていた子供と共にあった紙の存在。

 彼女はその名前から、娘に名前をつけた。そこには親の名前らしき苗字もあったのである。

 

 

入神(いりがみ) 唯』

 

 

 それが、自殺少女の本当の名前だった。

 

 

 

 これを調べれば珍しい苗字であり、全国に数えられる程度しかいないことが判明した。

 

 その名のルーツが種子島にあることもわかり、同時にその地域に伝わる『犬神』伝承についても知ったのである。現地での呼ばれ方は「イリガミ」だそうだ。

 

 日記でわかった川尻浩作の()の件は、『影犬』の件で間違いない。

 

 詳細は長くなるので今のところ伏せるが、その犬が自殺した少女に何らか関係していると考えるのは、事前に日記を読まずとも必然のことだろう。

 

 何せあまりにも()()()()()が過ぎている。

 

 

 

 

 

 それで、なぜだろう。なぜバラン小僧と出会ってしまったのだろう。

 

 まさかただの観光目的ではあるまい。『杜王町七不思議』の取材の延長だと話せば、向こうは高圧的な態度のまま、ホテルに向かうわたしに付いてくる。

 

「正体不明の、あの星ノ桜花自ら取材だって?些か信じられないね」

 

「元からわたしは気になった事柄については、自分で調べているさ。犯罪スレスレを仕出かしていそうな君とは違うがね」

 

 チェックインを済ませたが、どうやら泊まるホテルまで同じらしい。

 

 わたしが『七不思議』の話をした際に小僧の表情が一瞬変わったため、目的は向こうも同じと見える。

 

 だが同じだからといって、共に行動する気はない。ないというのに何故付いてくる。

 

「僕だって貴様となんぞ嫌だが、ここで同じ理由を持って出会ってしまった以上、「運命」ってヤツなんだろ。調べるなら一人より、協力した方が早そうだしな」

 

「君は他人と協力できるようになったのか…?あの『協調性』という言葉が掠りもしなかった、着ぐるみブレイカーの貴様が……?」

 

「……着ぐるみブレイカー?いったい何の話をしているんだ。ともかくどうする。この僕が()()()()()()()()()()()やったんだぜ、決めろよ」

 

 提案、か。そう言えば一度もコイツは「僕に協力しろ」とは言っていない。

 勝手に人に付いて行き、出会ったのが運命などと言って、協力した方が早そうだと述べているだけだ。

 

 つまるところ、わたしから言わせようとしている。

 

 この面倒臭い青年の性質上、「じゃあ協力して探そう」などと言ったが最後、「だが断る」と一蹴されて終わりな気しかしない。

 

 ならば答えは、無視して情報集めに専念することだ。

 減った荷物を持ち歩き出せば、後ろから肩を掴まれた。見れば歯を噛みしめた青年が怒りを露わにしている。

 

「今すごく屈辱的な気分だ……この岸辺露伴が誘ったというのに、それを断る気か…」

 

「……普通に、「僕も一緒に探すよ」って言えないのか、君」

 

 

 なんて────なんて気難しいんだ、この男。

 

 よく鈴美は幼少期のコイツの面倒を見れたもんだな。いや、逆に彼女が面倒を見ていたせいで性格が歪……んだわけはないか。

 コイツのは元からであり、空条承太郎とは別のベクトルで付き合いたくない人間だ。

 

「…わかった、わかったよ。じゃあ協力しようじゃないか、岸辺露伴」

 

「フン、それでいい。初めからそう言っていればよかったのさ」

 

 関わり合いたくないため断って欲しかったが、無理なようだ。

 しかし別のことは聞かれた。

 

 

「ところで次作は何について書かれているんですか、先生」

 

 

 奴が付いて回る狙いは、恐らくこれだったのだろう。

 

 初っ端から憂鬱な気分に追いやられた、『犬神』調査の幕開けである。

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