転生したら殺人鬼ポジだった件 作:クリーニング黒兎
また現実の知識云々が絡んできますが、ご都合な所もあるので細かいところは見逃してください。ただ思い切り違う箇所があったら教えてもらえると助かります。方言についても以下略。
初日。吉良と露伴は『犬神』について聞き込みをした。得られたのは『
場所は種子島の東海岸、
そこに赴けば自然の洞窟や、奇岩巨岩の美しい海岸を拝むことができるだろう。
名前の由来は、第10代島主──種子島
二人はその場に向かったが特に収穫はなく、浜辺に座って夕陽の沈む海を眺めた。
それから二、三日と調査は進む。途中で露伴は「そろそろこの場所の調査を切り上げるべきだ」と話した。
彼は週刊連載があるため長居はできない。
残りの休載期間と描き溜めておいた分を含めて、露伴の猶予は二週間程だ。
しかし、この場に留まる旨を話した吉良に何かあると察し、そのまま種子島での情報収集を続けた。
島の住人は「あぁ、
ただ伝承について深く知る者や、実際に見たことがあるという人物は中々見つからない。
また、調べる中で悩みの種となったのが方言の薩摩弁だ。
古い伝承を知っていそうな老人たちに聞き込みを絞っていたため、殊更訛りが強かった。
例文を挙げるとすると、
【薩摩弁】へぇ、あにょたち大学関係んしなんけ。わざわざこげん田舎まで来て大変やなあぇ。
(訳)へぇ、お兄さんたち大学関係の人なんかい。わざわざこんな田舎まで来て大変だねぇ。
──と、このようになる。
二人ともリスニングした単語を拾い、聞いた内容を既存の知識に翻訳するだけでかなり労力を使った。
閑話休題。
進展があったのは四日目の昼のこと。
滞在中に何度か足を運んでいた定食屋で、エクボがチャーミングな年増の女店主から情報があった。
ちなみに聞き込む際に二人は身分を偽っている。
吉良が民俗学を調べている学者で、露伴がその付き添いの大学生という体だ。
漫画家の方は設定上目立つスケッチブックを持ち歩くわけにもいかず、かなり機嫌が悪い。
「あら、色男のお兄さんたちじゃない。また来てくれたのかい」
女店主は観光客の対応に慣れており、二人は最初驚いた。
店主が年寄りとまではいかないが、そこそこの年齢に見えるにも関わらず、聞こえたのが綺麗な標準語だったからだ。
「お兄さんたち、まだ『イリガミ様』の件を調べてんのかい?」
「えぇ、目ぼしい情報が得られておりませんのでね」
「………草食動物かよ」
毎食のようにサラダを食べる吉良に、漫画家の胡乱な視線が向く。
一応露伴は学者と大学生という設定は守って行動しているので、これでもかなり譲歩している。
「そうねぇ、どうしようかしら……」
エセ学者の体調が良さそうには見えない顔と、苛つきが透けて見えるエセ大学生に、女は言葉を濁した。
その女の様子を見て、吉良は行動に移す。コップの水を取ろうとして、あたかも誤って箸を落とした風を装う。
客の落とした箸を取ろうと伸ばした女店主の手と、吉良の手が触れる。
「あっ、すみません…」
彼がはにかんだ瞬間、店主のハートが掴まれた。
一部始終を見ていた漫画家の青年は、唖然とした表情を晒す。
明らかに常習犯のやり口だった。
その後、渋りつつも女が話したのは、この島から船で約二時間かかる孤島の存在だ。
その島の人口は百人にも満たないらしく、古くから独自の文化が栄えているらしい。
今でこそ交通の利便化で行き来しやすくなったものの、今でも一昔遅れた暮らしをしているようだ。
「とは言っても、あっちは電気が通っていないし、この島からの物資の運搬もそう多くないのよ。船を扱う人間が限られているから。時代が遅れてるのは避けられないことさね」
島では『イリガミ様』が崇められ、崇拝されている。
種子島の住人が犬神を「イリガミ」と言うようになったのも、その島の影響ではないか、と店主は語る。
そもそもの話。二人が聞いた人間の中で、孤島の件を知っている者は少しはいたはずだ。
それでも敢えて彼らが教えなかったのには、理由があるという。
「それこそ今では人の出入りが自由になったけどね。私が子供の頃なんかは、他所の人間が島に入ることさえ拒んでたのさ」
大昔、それこそ江戸時代にまで遡れば、侵入者を殺していた──なんて噂もある。
その時代から向こうの島に人がいたのかはわからないし、所詮ただの噂でしかないが。
だがこの島の人々は今も不気味がり、口を閉ざしている。
それでも偶然島の話を知って、船で向かう観光客はいるらしい。
考え込むように海鮮丼を食べていた露伴が箸を止め、人差し指を店主に向ける。
「随分あんたらは怖がってるようだが、まさか島に行った人間が帰って来なかった──なんて訳じゃあないだろ?少なくとも島に物資を運ぶ船があるくらいだし、人も乗せることを許容している」
「そりゃあ人が帰って来なかったら大事件ですよ。あくまで私たちはババ様やカカ様たちから聞いた話を受けて、怖がってるだけに過ぎないよ」
ただ総合して、人は滅多に立ち入らない場所。
女は言う。その、島の名前を。
「あの島は『
⚪︎⚪︎⚪︎
女店主から『入神島』の話を聞いた後、二人は漁港に訪れ、島へ物資を運搬している船──もといその人物を探した。
初めは連れて行ってもらえるかも頼んだが、漁港の男たちの返事は皆「No」。
やはり親世代から伝えられた話により、関わりを持つことを避けている。
つい先ほどまでは気さくに笑っていた男たちが、島の話を聞いた途端じーっと、真顔で二人を見つめる様は異様だった。
「あんたら、あの島に行きたいのかい?」
そして日も暮れ始めてきた頃。
二人が数カ所めの漁港で聞き込んでいた際、船の手入れをしていた老人がちょうど他の漁師から話を聞き終えたタイミングでやってきた。
見た目は70代ほどの腰の曲がった男だ。
曰く、その人物が普段島への物資を運んでいるらしい。
村は自給自足だが、灯油や調味料など必要な物資があるため、依頼を受けた物を週に何度か送っているようだ。
その際に必要となる金は、向こうで収穫した野菜や魚を交換することで賄っているとのこと。
またあちらの島とも連絡が付くらしいと聞き、露伴は眉を寄せた。
「向こうは送電されてなかったんじゃないのか?」
「あぁ、されておらんよ。だが今じゃ発電機や電気を作る機械がある。安定した供給とはいかんが、完全に電気がないというわけじゃない」
「なるほどね…。それもあんたが持ち込んだのか」
「向こうに頼まれたのさ。それで、あんたらは島に行きたいんだろ?なら明日の朝6時ごろにまたここに来な、乗せて行ってやるよ」
「もちろん!──と言いたいところだが、どうするんだよ、先生」
露伴は吉良に視線を送る。
『入神島』の件を聞いた島民の反応は、そのほとんどが奇妙な反応を返した。
黙り込んだり、あるいは二人を無視して作業に戻る。
異常、としか言いようがない。そしてその原因となるのが、『入神島』の存在である。
「…まぁ、行くしかないだろうね」
こうして二人は入神島に向かうこととなった。
翌日。指定された時間に訪れた二人は、小型の船に乗り込んだ。
荷物の少ない露伴とは対照的に、吉良の荷物は多い。
向こうの食べ物が口に合わなかった時のために食料を持参したようだ。
「気持ち悪い…家に帰りたい……」
「オイオイ、こんなところで吐くなよ」
蒼白した吉良は単純に船酔いらしい。車や電車、飛行機などは平気だが、上下左右に激しく揺れるタイプの乗り物が苦手だそうだ。
すでに市販の酔い止めを飲んだが、効果は薄い。
露伴は離れた場所で老人を観察する。彼の隣ではグロッキーな男がうめき声をあげていた。
潮風を受けて、横凪に髪がさらわれる。
「貴様気付いたか、あの男の左指」
「……一本ないんだろ。昨日はポケットに入れていてわからなかったが」
「薬指がないんだ。小指じゃないってことはつまり、ヤクザみたいに指を詰めたわけじゃない。傷痕もないから生まれつきのものってことだ」
「人の中には指を多く持って生まれる「多指症」の反対に、少なく生まれる「欠指症」の人間もいる」
「スケッチブックさえあれば描けるんだが……」
「あってもやめろよ。人によってはセンシティブな問題だからな」
二時間の道中、時折露伴が老人の世間話に答えながら島の情報を集めつつ、目的地に着いた。
迎えについては、二日後の朝に来る予定である。
どうやら島は現在、五年に一度の大きな祭りの最中らしい。期間は約一ヶ月。
祭りでは『イリガミ様』を讃え、最終日には獲れた魚や酒などを祠に供え、村全員で盛大に祝う。
二人を出迎えたのは小柄な、可愛い──というより、美人な顔つきの女だ。
年齢は露伴と同じか、それより少し下くらいだろう。
服は着物を着ているものの、腰にまでくる長い黒髪は結われていないため、どうもチグハグ感が否めない。
「ようこそ、いらっしゃいませ。吉良様と岸辺様ですね。お二人がいらっしゃることは事前に伺っております」
「お、おぉ……!てっきり向こうの老人より訛りがひどいのかと思ったが、普通に標準語を喋れるのか………あれ?」
吉良がいない。見れば、船着場で海に顔を向けて吐いていた。
それにスン…とした露伴は、さっさと案内の女に連れられ村奥に入っていく。
入神島は周囲に森があり、その中央に村がある。
通された内部には数えられる程度の家が建っていた。どれも平成の世からすれば、タイムスリップしたと思わせる古さと造りである。
建物自体の大きさはそれなりで、旅館に似た造りをしているが、微妙に異なる。
上手い表現を露伴は見つけることができなかった。
木々については潤沢にあるため、外から持ち込まずとも作れる。
建築知識は当時、外部と繋がりのあった者が持ち込んだのだろう。
「…ん?」
「岸辺様、どうかされたのですか?」
「いや……何か少し、変じゃあないか?」
家の構造から考えて玄関があるはずの場所に、玄関がない。疑問に思った彼が裏に回ると、裏口がある部分に玄関があった。
それに女は着物の裾で口元を隠しつつ、小さく笑う。
「この村の習わしなのですよ、岸辺様。入り口には玄関を作ってはならぬのです」
「あぁ、
「はい。何せ入口は『イリガミ様』の通り道ですから。ゆえに人間である私たちは、裏から出入りするのです」
「へぇ…中々興味深いねぇ。周囲に女しかいないのも、理由があるのか?」
露伴が道中で見かけたのは畑仕事をしている老女や、赤子を背負った若めの女ばかりだ。
数名の子供は走り回って遊んでいた。誰もやはり着物である。
「この村は男女が分かれて暮らしております。女性はこちらで、それ以外は奥に住んでいるのですよ」
「じゃあ男の僕は向こうに行くのか」
「と、とんでもない!お客様にそんな失礼なことは出来ませんので、どうぞこちら側でお過ごしください。泊まれる場所をご案内致しますよ」
「やたら建物が旅館っぽいと思ったが、ここはもしかして昔は宿泊施設として栄えてたのか?」
「ふふ…よくお分かりになりましたね。かつては貿易のルートでいらした御方たちが、滞在されることもございました。村に一つしかありませんが、温泉もありますよ」
「最低限の生活環境は整ってるんだな。しかしこうも女ばかりだと、少し居た堪れなさがあるな…」
「岸辺様は女性にお不慣れで?」
「そういうわけじゃあないよ。まぁ、取り敢えず先に泊まる場所に案内してくれ」
その後いくつか“手間”を受けてから、露伴は広めの客室に通された。
そんな彼を残し、女は吉良の元へと戻って行った。
「フム、色々と考察のしがいがある。……面白くなってきたじゃないか。まるで探偵にでもなった気分だ。ヘブンズ・ドアーを使えば直ぐにでも『犬神』についての情報が得られるだろうが………推理するのもまた、一興か」
ほくそ笑む