転生したら殺人鬼ポジだった件   作:クリーニング黒兎

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6話目です。うっすらと自分がヤンデレ好きなのに気がついてきたナス。

Q:スタンドいつ出てくるの?
A:冨樫センセが復活したら。


6話 平穏デイズ

 佐藤保健医に部活を休む旨を伝えてもらうよう頼み、ぼくは部活終わりまで眠りについた。

 自分の異常性を鑑みていたら、普段のように保健医の手に触れることすら躊躇われた。

 

 帰りは朝と同じく父である。包帯を巻かれた息子の手を見るや否や、顔を真っ青にして近付く。

 

「よ、吉影や、怪我でもしたのかい!?今からでも病院に……」

 

「大丈夫だよ父さん。それより早く帰ろう、少し疲れてるんだ」

 

「…そうかい」

 

 車内は朝と違って無言。父は時折、新聞を握り締めている息子の手を見てくる。

 

 やはり父は世間一般から見て、ぼくが()だということに気付いているのだろうか。

 母は自分の内心ばかりでぼくの内情など微塵も慮っちゃくれないが、父はまだ理解がある。

 

「父さん、ぼくはストレスがある時、爪を噛む癖があるでしょ」

 

「…あぁ、そうじゃな。行儀が悪いからと、母さんが注意しておるが」

 

「今日はちょっと噛みすぎて、血が出ただけなんだ」

 

「……まさか、お前はクラスの子に…」

 

「いじめられてるわけじゃあないよ」

 

 父に顔は向けず、こんな僕が変か、率直に聞く。

 返ってきた答えは「否」だ。愛する息子なのだから、そんなことを思うはずがない──という何とも父親らしい返答である。

 

「まぁ今は多感な時期じゃ、悩むこともあるだろう。何かあったらワシや母さんに伝えなさい」

 

「……うん」

 

 多感な時期、か。将来家を出て平穏に暮らしてさえしまえば、ぼくは「普通」を謳歌できるだろう。

 

 しかし安穏と過ごしたところで、ぼく自身さえ理解しきれていない得体の知れない感情が、甚だ消えるとは思えない。そもそも「普通」の尺度は人によって違う。ぼくのはあくまで一般の目を意識した平均値を求めて、「普通」と述べているだけだ。

 

 普通に生きられないマイノリティーの連中は、いったいどのように社会に紛れ込んでいるのだろう。

 

 

「……」

 

 

 一先ず今朝見逃した新聞に目を通そうかと、揺れる車内に身を任せて瞳を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◻︎◻︎◻︎

 

 

 休日少し調べ物があり図書館に赴いたら、幼児を抱っこしている鈴美と遭遇した。

『図書』と付いたら、ぼくたちは出会わなければならない運命でもあるというのか。

 

「いやはや驚いたな、君に息子がいたなんて」

 

「なっ…私が産んだわけないでしょ!冗談もほどほどにしてよね!」

 

 叩かれた肩が地味に痛い。弟かと思ったが、どうやら近所に住む夫婦の子供だそうだ。両親同士の付き合いがあり、面倒を見ることが多いらしい。

 

「ほら露伴ちゃん、吉良おにーちゃんだよ」

 

「……ないっ!」

 

 露伴というらしい子供はぼくと鈴美の顔を交互に見て、彼女に強く抱きつき、拒絶の意思をみせる。ぼくがいったい貴様に何をしたというんだ。

 

「あはは…露伴ちゃんね、結構人見知りなの。ちょっと変わってるところもあるけど、根はいい子なんだ」

 

「変わってる、って?」

 

「えっと、人見知りの割に好奇心旺盛でね。夏に家族ぐるみでキャンプに行った時なんか、気になるものから手当たり次第に突撃して行ったの」

 

「ふーん…」

 

 変人の部類というヤツか、この子供もマイノリティーの部類に入る人間なのかもしれない。

 

 そう言えばキャンプで思い出したが、ぼくも小三の時に学校主催のサマーキャンプに参加した。

 

 周囲に気を遣いつつも珍しく楽しめたが、川釣りで流されうっかり桃太郎の気分を味わった。ふざけてぼくの背を押したガキどものことは一生忘れないし、向こうもぼくのことを悪い意味で一生忘れられないだろう。

 

「今日は絵本の読み聞かせがあるんだよねぇー、露伴ちゃん」

 

「ももちゃあうまれちゃ、ももちゃろう」

 

「その歳で桃太郎侍なんて見てるのか…」

 

「おじいちゃんの影響で、好きになったらしいの」

 

 父親が時代劇好きでよく聞かされるため、ぼくも知識はある。

 

「………」

 

「あれ、露伴ちゃんどうしたの?」

 

 鈴美から降りた子供は、一直線にこちらへ向かってくる。

 覚束ない足取りに心許なさを感じ、いつでも助けられるよう屈んだ。

 

「ちぇい!」

 

「………」

 

「ちぇぇい!!」

 

「そこはやられたフリだよ、吉良くん!」

 

「………ウ、ウワー」

 

 尻餅をつくように倒れたぼくを、子供はやり切った顔で見た。

 その顔にイラッときたが、顔に出してはいけない。相手はまだガキなんだから。

 

「吉良おにーちゃんが遊んでくれてよかったね」

 

「まちゃちゅまらぬものをきっちぇしまっちゃ」

 

「カッコいいわ、ロハ右衛門(エモン)ー!!」

 

「おれのなは、ろはんしゃんしぇー」

 

「ロハ右衛門じゃなくてロパンなの……!?」

 

 幼児と接する彼女は、普段よりも随分優しく微笑んでいる。

 ぼくと違って子供の扱いも上手い。将来保育士にでもなれそうだ。

 

「ぼくはそろそろ行くよ」

 

 もう少しで聞いた読み聞かせの時間になる。場所を移動しようとした所で、裾を引っ張られた。

 ロパンの仕業かと思い振り向けば、犯人は鈴美だった。彼女はなぜか、顔を紅くしている。

 

「え、えっと…もう行っちゃうの?」

 

「いや、ここに蔵書されている新聞に用があるから、そっちに向かうだけだよ」

 

「そ、そうなんだ……あっ!ここで話して大丈夫だった?」

 

「大丈夫だろ、ぼくと君は部活動が同じという繋がりがある。ならば偶然出会って話していてもおかしくはない」

 

 もし母さんに知られたら何を言われるかわかったものではないが、学校で放課後二人きりで過ごしているよりは問題ごとになるまい。

 

「じゃあよい週末を、鈴美と露伴くん」

 

「う、うん!バイバイ吉良くん!」

 

「………」

 

「ほら、露伴ちゃんもおにーちゃんに「バイバイー」って」

 

「………」

 

 露伴幼児はまたぼくと鈴美の顔を交互に見る。

 

 さっきの遊びで機嫌が良くなっていたが、見る見るうちにぶすくれた顔になる。泣かれたら困ると付き合ってやったというのに、何が気に食わないのか。これだからガキは嫌なんだ。

 

「れーみおねーちゃ」

 

「うん、どうしたの露伴ちゃん?」

 

「しゅき?」

 

「うん?そりゃあ露伴ちゃんのことだーいすきよ!」

 

「こいちゅ」

 

「…え?」

 

 露伴幼児は小さい手でぼくを指し、鈴美を見た。一回り上の人間を「コイツ」呼ばわりとは、中々イイ度胸をしているじゃあないか。対し彼女は目を白黒させた後、声にならない声をあげ、顔を露骨に真っ赤にさせる。

 

 フン、ガキのくせに、歳上に一丁前なことを言う。

 

「露伴くん、歳上をからかうもんじゃないよ。鈴美もこういう時はきちんと叱ってやらないと」

 

「え?…う、うん!!おねーちゃんのことからかっちゃダメだよ!」

 

「じゃあきりゃい?」

 

「き、嫌いでは……」

 

 まだガキだというのに、貴様はベテランの入国審査官かと思われる雰囲気で、幼児は彼女に詰め寄る。

 

 見かねて助けに入り、最終的に鈴美は「友だちでしゅ!!!」と、ここがどこだかを忘れて大声で叫んだ。おかげで人の視線が集まってしまった。

 

 思った以上に彼女は、色恋沙汰に純情(ピュア)らしい。

 多感だ多感だ──と周りに言われているぼくと同様、彼女も思春期真っ盛りであろう中学生。見目もいいのだから、付き合いたいという男子は引く手数多だろう。

 

「じゃ、今度こそよい週末を」

 

「……うん、ばいばい」

 

「れーみおねーちゃ、こっち」

 

「……うん」

 

 ガキは最後までぼくに別れの挨拶を告げることなく、フラフラ歩く彼女の手を握って去って行った。

 

 まだまだガキの奴が彼女に抱いている感情は“姉”への独占欲か──それとも、既にマセているのか。

 まぁ、ぼくには関係のない話だ。どちらでも構わない。

 

 

「さてと…ようやく本題に入れるか」

 

 

 ついこの間切り抜かれた新聞の部分を家のものと照らし合わせ、見た記事の内容。

 

 それには未成年犯罪者に対する『実名報道問題』が、5年前強姦と強盗の容疑で身柄を拘束された当時12歳の「少年K」の例が挙げられ、記述されていた。

 

 頭に過るのは、佐藤保健医が言っていた社会的マイノリティーについて。

 

 自分がその少数に入ると思っているからこそ、ぼくはわざわざ図書館にまで足を運んで調べている。

 少数に当てはまる人間の思考を探れば、「普通」に生きるための鍵が得られるかもしれない。

 

 保健医の実際の意図はわからないが、概ね悩める生徒にヒントとして言ったのだと思う。

 

 にしても、興味のある記事を切り取る癖とは…己の爪収集と比べると、後者が際立って異質に感じられる。

 しかし、何かを集める癖を持つ奴は、それなりにいるはずだ。だから、()()()()はない。

 

 

 

 それから新聞を読み漁り、目当ての5年前に起きた「少年K」の事件に辿り着いた。

 12歳という年齢と、犯した罪の内容から多くのメディアで取り上げられたようだ。

 

 青少年の犯罪は『少年法』によって、実名で報道されることはない。殺人を犯して少年死刑囚になった者など、中には例外もあることは留意しておく。

 

 

 結果、得られた情報は「少年K」の異常さと、家庭内で受けた虐待。

 あとは少年の身柄を捕まえたのが、杜王町に勤める警察官だったということ。

 

 個人として気になった内容は頻繁に起こっていたという虐待についてたが、詳細が載っていない。

 

 新聞を一通り読んで作り上げた「少年K」の人物像は、まだリアリティーが欠けているように思える。虐待といっても親にどのような暴力を受けていたかで、少年Kのイメージは変わってくる。

 

「捕まえた警察官ならあるいは、知ってるのだろうか……」

 

 新聞を広げ考え込んでいたら、閉館間近を告げる放送が入った。

 

 時刻を見たら5時を過ぎている。平日は7時までだが、休日は5時半までなのでさっさと片付けて帰らなければならない。

 

 大量の新聞を戻してから外に出れば、辺りは真っ暗だった。

 

 街灯に沿って駐輪場に着いた時、ぼくの自転車の隣にもう一台自転車があった。そこにいたのは、サドルに腰をかけて、猫背気味に頬杖をついている少女。

 

「…鈴美?」

 

「やっほー」

 

「やっほー、じゃあないよ。帰ったんじゃなかったのか」

 

「偶には夜空を眺めるのもいいかなって。ほら、この季節の空って、よく澄み渡って見えるじゃない?露伴ちゃんは親御さんが迎えに来たから、もう帰ったけど」

 

 マフラーから覗く顔は赤い。

 ただでさえ冬は寒さの厳しい地域だというのに、外にどれだけ長くいたというのか。

 

「露伴くんが帰ってから、何時間経ってるんだい?」

 

「え?えっと、読み聞かせが2時に終わって少し遊んでから帰ったから…2時間くらいかな」

 

「それなら何で帰ってないんだ、空を眺めるだけなら家で幾らでもできるだろ。それに中学生だからって、夜に女子一人は危ない」

 

「いや、その、実はもうちょっと吉良くんと喋ってから帰りたいなーって思って……でもまだ中にいたみたいだから…」

 

「なら図書館の中に入ればよかっただろうに」

 

「大声出してたの司書の人に見られてたし、ちょっと一人だと居づらかったんだもん…。勉強用具とか持ってきてなかったし、かといって本を読む気にもなれなくて…」

 

「…ハァ、わかったよ。じゃあ少し話してから帰ろうか」

 

「ほ、本当?」

 

「あぁ、桃太郎は一昔前、今の桃を割ったら中から赤ん坊が──っていう話じゃなく、桃を食べたおじいさんとおばあさんが若返って出産したのが桃太郎──っていう話が主流だったらしいよ」

 

「桃太郎はもういいよ…」

 

 げんなりした様子で彼女は言う。どうやら読み聞かせが終わった後、あの幼児に散々桃太郎侍に付き合わされたらしい。

 他にもハートフルストーリーでお馴染みなババア汁に切り込みたかったが、今回はよしとしておく。

 

「君から桃太郎の話をサムライよろしく()ったんだ、何か話題を振ってくれ」

 

「え、えぇー……じゃあ今日は寒いね」

 

「それを言ったら冬は毎日寒いだろ」

 

「そうだけど……あ、じゃあね、一つ聞いてもいい?」

 

「いいよ、何だい?」

 

 時々少し遠くにある道に車が通るのみで、辺りは静まり返っている。

 街灯に照らされて浮かび上がった白い息は、すぐに消えていった。

 

 その時ふと、意識しないようにしていた彼女の手を見る。手袋とコートで白い肌の色は見えない。

 

 覆うものを剥いで触りたいと思ったが、寸前で生唾を飲んで、視線をそらす。

 何を考えているんだろうか、ぼくは。そんなことすれば翌日から変態のレッテルを貼られて終わりだぞ。

 

 

「吉良くんは、佐藤先生と付き合ってないよね?」

 

「……あぁ、この間の話か。先生が吹聴した話だって、本人から聞いたと思うけど」

 

「吉良くんの口から聞きたいの」

 

「別にぼくから聞かなくてもいいと思うが…?まぁ、付き合って()いないよ。そもそも倫理的に考えろ、生徒と先生だぞ」

 

「…そっか。まだ少し不安だったけど、これで安心できるや」

 

「安心?」

 

 単なるぼくの噂話で、彼女が()()を得る?

 確かに仮に噂が本当で生徒と先生が付き合ってるなんてバレたら、スキャンダルどころじゃないだろう。

 

 ──いや、既に既成事実ができてしまっている以上、ぼくはグレーゾーンを生きているのか。

 

 利害関係で成り立つぼくと佐藤保健医は、考えればお互いが相手の秘密たり得る爆弾を握っていることになる。

 しかしバラされて立場上不利なのは、大人である彼女の方。

 

 並々ならないフェチを持ってしまったぼくと、佐藤保健医。お互い自分の欲求に忠実だからこそ、根拠はないが秘密をばらすことはないと確信できる。

 

 あの女の嘘を言って生徒を惑わす行為は、たいへん遺憾であるが。

 

 

 思考が逸れていた時、ふいに手袋をしていない手に温もりを感じた。

 

 驚いて顔をあければ、至近距離に鈴美がいる。柔らかい女の手の感触は、今のぼくに毒。思わず彼女の手を振り払ってしまった。

 

「……ッ、な、何だ」

 

「吉良くん手袋してないし、寒いと思ったから……でも、ごめん。嫌だったよね」

 

「いや、嫌じゃない……けど…………悪かった」

 

「じゃあ、握ってもいい?」

 

「それ、は…」

 

 何か今日の彼女は変だ。普段は冗談を言えば顔を真っ赤にする、からかい甲斐のある後輩であるというのに、妙に違和感を感じる。

 

 それが距離感の違いだと思い至るのに、また手を握られるまで気付かなかった。

 

「れ、鈴美、手……」

 

「今日は本当に寒いね」

 

「無理やり感…が、あるぞ」

 

「そうかな?」

 

 何も考えないように意識するだけで精一杯で、いつものように話せない。

 

 手の熱を感じるほど、頭の中がバカになっていく。さながら餌を前にして、飼い主に“伏せ”を強要されている犬だ。

 学校生活の中、好みの手を前にして耐えているぼくに誰か、綺麗な手をくれ。

 

「…吉影くん」

 

「うん」

 

「好きです」

 

「うん」

 

 ………ん?

 

 

 何か、欲を耐え過ぎて、重要な言葉を聞き逃した気がする。

 あとさらっと普段あまり呼ばれない名前で呼ばれた気もする。

 

「もう一回いいかい?」と聞こうとして、相手の顔が泣きそうになっていたためさらに驚く。

 

 右から左へ受け流してはいけない内容を鈴美は話した。思い出せぼく、一瞬過去に学校開催の陸上記録大会で、『よしよしよし影くん』と誤字られて呼ばれたことを思い出したが、リフレインすべきは彼女の言葉だ。

 

 

 _____すきです

 

 

 そうだ、「すきです」と言った。……すきです?………すき焼きです?

 

 

「鈴美、すき焼きおごって欲し_____」

 

「……っ」

 

 

 この吉良吉影、完全に選ぶ言葉を間違えたみたいだ。しかし間違えたからといって、ペナルティとして「よしよしよし影」とは呼んでくれるな。殺意が湧く。

 

 鈴美は泣きそうから、泣いてしまった。彼女は人の金で食う焼肉を食べたいわけじゃない。いや、普通に考えていきなりそんなこと言うわけないだろ。

 

 だったら何だ、脳内変換の仕方が悪かったのか?「すきです」の意味をもう一度考えろ、すき焼きじゃないなら、「すき」は()……

 

 

 _______()()()()

 

 

 

 

 

「……君は、ぼくのこと好き、だったのか?」

 

「…そうだよっ、そう……言ったじゃん…バカぁ……!!」

 

 

 彼女は泣きながら、力加減なしに人の肩を何度も叩いてきた。

 感じる痛みよりも今は何故か、泣かせてしまったことに居た堪れなさを覚える。

 

「勇気出した私が、ばかみたいじゃん…」

 

「…ごめん」

 

「一世一代の告白に、「すき焼き」って……」

 

「それは本気ですまない」

 

「………ばか」

 

「…ごめんよ、鈴美」

 

 また手を握ろうとしたのか伸ばされた手を見ないようにして、抱きしめてやる。

 

 女子に好意を向けられたことは何度もあるが、今までその心中を理解できず、また恋人の必要性も感じず断ってきた。

 

 ぼくは今彼女に告白されて何を感じたのだろう。「普通」ならどう思うのか。

 見目の可愛い少女に告白されて、「普通」の男子だったらぼくが手を見た時のように心臓を掴まれるのだろうか。

 手以外考えられなくなるように、その子以外考えられなくなるのだろうか。

 

 

 ────ぼくは一般にいう「恋」を、理解できない。

 

 

 何故理解できないのか。まるでその感情を感じる部分だけ綺麗に切り取られてしまっているようだ。

 

 何と言えばいいのだろう。いっそぼくの秘密を打ち明けてしまおうか。

 

 …いや、ダメだ。自分が()()と理解できている上ですべき行動ではない。

 

「ぼくはね、君のことを……なんていうのかな、妹のように感じていると思う」

 

 嘘は言っていない。二つ下の子供で、妹に接するように最初は接していた。

 それから学校という立場において、先輩後輩として接してきた。

 

 彼女の目を見ながら、声を努めて優しいものにする。

 

 

「ぼく自身、君をどう思っているのかわからないし、恋愛的な意味で好きかどうかもわからない。君が覚悟を決めた言葉に対して、どう返していいのかも…悩んでるよ」

 

「………」

 

「ただね、ずっと付き合いがあるからこそ感じることがある。君が泣いている姿を見るのは、辛い」

 

「……吉良、く…」

 

「鈴美は笑っている方が、似合っている」

 

「……かわいいじゃ、ないんだ」

 

「今は真面目に答えているからね」

 

「ふーん…」

 

 彼女は落ち着いたのか涙を拭って、こちらを見上げてきた。

 少し腫れぼったくなった顔で、視線をガン合わせである。昔から覚悟が決まったら揺るがないところがあるが、こちらの気持ちももう少し慮ってくれないだろうか。

 

「それで、答えは」

 

「…言わなきゃダメかな?」

 

「言わなかったら、あなたがいかに薄情者ってことかを、学校で言い広めてやります」

 

「それは…怖いな」

 

 鈴美だったら本当にはしないだろう。恐らく抱えて一頻り落ち込んで、立ち直ったらケロッと普段のように接してくる。

 

 

 ────あぁ、そうか。彼女の性格がある程度わかるほど、ぼくらは出会ってから長いのか。

 

 

 

「わからない。……でも、わかるかもしれない」

 

 

 

 もし付き合ったらぼくは()()()()ではなく、鈴美自身を好きになれるのだろうか。

 自分の欠落している部分を見つけ出せたら、ぼくは「普通」になれるのかな。

 

「付き合ってみても…いいですか?」

 

「…何、その言い方」

 

「付き合ってみたいです?」

 

「………」

 

「つ、付き合ってください」

 

「いいでしょう」

 

 何故かぼくが告白した流れになっているのが不本意だが、まぁいいか。

 

 これがぼくの転機となるかは、わからない。少なくともいつかバレることを見越して親に事情を話さねばならないため、目先の平穏は崩れるとは思う。

 

 しかし、本当に自分の幸福を望むためには必要な過程だ。

 

 

 そこまで考えて、客観的に見た時この付き合いを()()()()()として捉えている自分に気付き、虚しさのようなものと頭の痛みを覚えた。

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