転生したら殺人鬼ポジだった件 作:クリーニング黒兎
後日談というか、今回のオチ────と言うには、まだ早いだろう。
まず体力的に限界が来ていたわたしは、衛生面の限界で風呂に向かった。
普通なら不特定多数が入る露天風呂などごめんだが、今回ばかりは割り切っている。
そして、そのまま浴場で第一被害者になっているところを漫画家に発見され、回収された。
この時点で時刻は明け方である。
わたしもだが小僧も部屋で仮眠を取っていたらしい。
ヨルという少女も、一応危害は加えられないように書き込まれた上で、わたしが使っていた布団で寝ていた。
入神の女については何事もなかったように戻っていったそうだ。
他の女たちと違いこの女は俗な知識があるようで、「首絞め=過激なプレイ」と認識した。
また男二人、女一人の構図に何か察した顔つきで去ったと聞く。完全にあの小僧が余計なことを書いた弊害だ。
「まず『イリガミ』の件を教えろ。無論僕を利用するマネをした意図含めて全部な」
「わざわざ聞かなくとも君の能力なら、いくらでもあの女から読めただろ」
「確かに僕のヘブンズ・ドアーなら朝メシ前だが、使えば貴様に負けたことになる。あくまで使用用途は「書き込む」までだ」
こちらとしては、その能力でさっさと謎を解いて欲しかったのだがな。何を意固地になっているのか。
そのせいで少し面倒であったが、奴が
ちなみにわたしの起こした行動で寝ていた奴も捕まるか、それとも様子見されるかは半々だった。
どの結果でも、奴ならば問題ないと判断しての行動だったが。
奴を動かす上で重要だったのは、わたしがスタンド使いではないと思わせることだ。
だからヘブンズ・ドアーの力を見た時は、「仗助のような不思議な力だ」と反応する気だった。
しかし洞窟のところで小僧の顔を見た瞬間、すでに色々とバレていることを悟った。
怒り方が尋常じゃなかったからだ。
その怒りの最たる理由が、以前岸辺邸で話した時のことだともすぐに気づいた。
先に言っておくが、
だが泉くんの騒動で入院した時、ちょうど東方仗助に見舞いに訪れた。
その時スタンド使いの情報について聞いたのだ。
まさかそこで「億泰」「広瀬康一」の名前を聞くことになるとは思わなかったが。
その中で「漫画家」「変人」「エゴイスト野郎」と出れば、流石に誰かわかる。
というかこの世に一人しかいないで欲しい。
そこでふと疑問に思ったのが、岸辺露伴がわたしに能力を使わなかった理由だ。
「他人の記憶を読む」ことが可能なら、わたしが持つ『S一家殺人事件』の内容を読みたいと考えるはずだ。
ただ記憶は読まれていない。
その理由を考えた時、これまたカフェでサインをせがまれたことを思い出した。
わたしを本にした場合、奴は作家『星ノ桜花』の思考回路を覗くことになる。
幼き日の露伴少年は、まだ奴が読んでいない推理小説のネタバレをわたしがしようとした時、「言うなよ!!絶対に言うなよ!!」と叫ぶような子供だった。
あの時のわたしは構うことはなくネタバレをし、小僧に泣かれ、鈴美に正座を要求された。
本当に、懐かしいものだ。
過去に浸るのは、あまり良くないな。
まぁ以上の理由から、岸辺露伴が『星ノ桜花』が書こうとしている作品のネタバレを恐れ、わたしに能力を使わなかったと思いついた。
この思考に至った時は作家になったことと、人の原稿を勝手に投稿した父親に感謝した。
何よりわたしが恐れるのは、自分の中身を他人に知られることだ。
殺人鬼の性や手フェチ……。特に鈴美が関わるものには触れて欲しくない。
「…なるほどな。大体の村の事情はわかった。ただ一つ気になるのは、貴様が何故『入神唯』という少女について調べていたかだ」
小僧には川尻浩作のノートの件は伏せ、大方の情報を話した。
「次作……というか、今書いているのがホラーものだとは話したろう?」
「あぁ。あまり興味はないがな」
「わたしだって仕事でやってるんだ、とやかく言うな」
このホラーの“ネタ”探しが『杜王町七不思議』、もとい『影犬』の捜索につながる。
だがこれとは別に練っている案があることを話すと、ロハンくんは食い気味に迫ってきた。
「じ、次作ッ!ですかッ!?」
「落ちつけ近寄るな。詳細は教えないが、とある少女の自殺事件について調べていてね。その最中に『入神唯』の存在を入手したんだ」
「少女の自殺事件が関わるテーマ…?近年日本の自殺件数は増えてるらしいが、それについての示唆か?バブル崩壊のツケで昨年は自殺者が一気に三万台になったとも聞くし──」
「おい、聞け」
「聞いてるさ。そのネタの出版予定はいつですか?」
「今は、入神唯の、話だッ」
枕で奴の顔叩き、無理やり話を戻した。
ともかく、わたしが同時期に調べていたものが、今回の『イリガミ』の件に繋がっていたということにする。
偶然にしては出来すぎに感じられるだろう。
しかしこれを「運命」の言葉で片付けられるほどには、わたしも小僧も、それなりに大変な目に遭ってきた。
「…まぁ僕と貴様が偶然出会ってしまったくらいだからな。一先ず納得はした」
だが、と小僧は続ける。
「入神唯の死後、『イリガミ』が変質したとする根拠は何だ?彼女がいじめられていたからか?今まで長らく変化しなかった存在が、それだけで変わるものなのか?」
「スタンドにも【成長性】ってのがあるんだろう?それに『イリガミ』は人の願いを叶える。少女が何かを願った影響で、変わった可能性も大いにある」
そもそも『イリガミ』がスタンドであるのか分からない。
人が関わってはならないもの、というのがわたしの印象ではある。
「おそらく今のアレは──『影犬』は、
「…それが流れに流れて、杜王町にやって来たというわけか」
「あぁ、本当に…平穏に暮らさせて欲しいものだね」
実際は少し違うが、概ねは合っている。
「ならば、船の老人が上の人間…「入神家」だったか。その人間に認められた理由は何だ?確か、何かを捧げたんだったよな?」
「それは本人に聞けばいいだろ」
「それはまぁ、そうだが…」
「君が能力を使わないと意地を張ってるなら、脅して聞くから別に構わないよ。人を散々な目に遭わせたんだ。指の一本や二本消えても文句は言わせないさ」
「………」
「おやおや、まさかわたしに引いてるのか?村の男をあんな状態にしていた女たちとグルの男に、同情なんて必要ないだろ」
あの男に同情するくらいなら、家なき子に同情した方がマシだ。
こちらを見る小僧の顔は苦々しい。
わたしの暴力性がバレてしまった以上、隠すだけ無駄だ。
むしろこれで関わり合いを避けてくれた方が助かる。
「…貴様が心底
そう、吐き捨てるように言われた。
本当なら腕の一本や二本といきたいところだが、流石にそこまですると警察沙汰になるかもしれない。あの老人の出方次第だな。
「まぁ、デカいネタは得られたんだ。僕もさっさと帰らせてもらいたいね」
「あ、それについてだけど」
「……なんだよ」
「漫画のネタにしない方がいいよ」
疑問には思っていた。この村に人間が訪れるのは老人が手引きしているからだが、これだけでは観光客が村の情報を得る手段がない。
何せ本島の人間は、意図的に情報を広めないようにしていた。
だが
「定食屋の女を覚えているだろ」
「は?それが何だというんだ」
「この村の女たちは特徴的な言葉を使っていた。母や祖母を「
「………!!」
詰まるところ、あの女店主もグル。
他にもこの村を出て、本島に潜んでいる者たちがいるのだろう。恐らくそれも“お上”の血族が。
ルーツが本島にあったのも、あながち間違いではなかった。
商いをするにも、身分証など色々と必要になるからだ。
そして、この村を案内した入神家の女が若い人間であったのも、彼女しか残っていないから、と考察できる。
そうして彼らはこの村の情報を観光客にそれとなく伝え、入神島に誘き寄せる。
「だがそれならば、『イリガミ』を調べていた僕たちを村に誘うマネはしないんじゃないか?」
「イリガミはイリガミでも、わたしたちは「犬神」を調べていると伝えてただろう?それに女店主が島の情報を出すのに、数日かかった。その間わたしたちが村の害になる人間かどうか、判断してたんだろ」
「あぁ、そうか……いや、それが僕が漫画に描いてはいけない理由とどう繋がる」
何故だと?よく考えてみろ、一般人な「吉良吉影」はともかく、「岸辺露伴」は有名な漫画家だ。
仮にコイツが入神島を連想させる情報を出して、それが本島にいる女たちの目に留まってみろ。
「そうなった結果どうなるか、よくよく考えておくんだな」
「……ッ、だが、僕はこのネタを…!!」
「君が失踪した暁には、それを題材に書いてもいいかもね。タイトルは「犬」でいいかい?」
「………」
「というわけだ、大人しくしろ」
こちらが行動を起こさなければ、向こうも勘づくことはないだろう。
仮に漫画家「岸辺露伴」の名前を知っても、まさか本名だとは思わないだろうし。
逆に普通なら、有名どころの名前を勝手に使っていただけだと考えるだろう。
最悪調べに来ても、コイツにはヘブンズ・ドアーがある。「気のせいだった」と書き込んで帰せば終わりだ。
「いいか、
鈴美の忘れ形見たる存在を、そう簡単に死なせてなるものか。
コイツを死なせてしまったら、それこそ自分が死んだ後彼女になんと言われるか。
「僕は…僕は、クソッタレ仗助やアホの億泰と違う。もう酒も飲めるしタバコも吸える」
「ガキじゃないって?わたしからすれば君もガキだよ」
「………それ以上言ってみろ、後悔することになるぞ」
「わたしに能力を使うか気かね?あぁ、いいさ、やってみろよ。貴様の好きな作品を書く「星ノ桜花」の脳みそだ」
あぁ、きっとジョースター氏が見れば、「両方子供じゃのう」と言うに違いない。
本当にこの小僧とは相容れない。あの頃から、変わらない。
そう。変わらないものがまだ、ぼくには残されている。
「ハァ…」
ため息を吐き、両手で顔を覆う。向こうは訝しげにこちらを見た。
らしくない。さっさと『影犬』の一件を終わらせたら、平穏に過ごしてやる。
「ぼくは今
「ハ?………」
すっと、懐に入れていたわたしのピルケースを差し出す漫画家。
確かに情緒は不安定だが、違うそうじゃない。
「何か一つ、願いを叶えてやるから言え」
鈴美の事件について、ずっと知りたがっていることはわかっていた。
恐らく人生の最初で最後の気まぐれだ。今までも今後も、自分から望んで言うことはない。
これは殺人鬼としてのわたしの、トリガーでもあるからこそ。
しかし、今だけは安全装置付きだ。
青年は瞳を丸くし、そして呟く。
「貴様は今でも……杉本鈴美を、愛しているか?」
その言葉を聞いて、思わず笑ってしまった。
せっかくのチャンスを棒に振る気か、コイツ。人がせっかく、用意した厚意を。
だがこの時奴がした質問は、漫画家としてのものではない。
一人の人間としての、素の岸辺露伴が、今目の前にいた。
「愛しているよ、ずっと」
薄闇の世界。閉ざした世界に窓から溢れた光が、お互いの顔に当たる。
────朝だ。
◻︎◻︎◻︎
今度こそ、今回のオチに入っていこう。
その前にもう少しだけ、残された謎について紐解いていくが。
船が到着したのち、わたしと漫画家は元の服に着替えて船着場へ向かった。
祭りの最終日である今日。村では『イリガミ様』に贄を捧げるのだろうが、去るわたしたちには関係がない。
小僧の方もそこは割り切ったようで、先に船に乗り込んだ。
この村にイリガミがいないといっても、治外法権の場所であることに変わりはない。
「あ、あの…吉良様…!」
見送る入神家の女の隣に立ったのは、わたしが利用した少女だ。
他の女たちは村で見送っていた。
わたしを酒瓶で殴った入神の女については、ヘブンズ・ドアーの影響でわたしがSMプレイをしていたと認識している。
向こうから翌朝、不祥を起こしたことに対し詫びを受けた。女は気まずげに小僧とわたしから視線を逸らしていたが。
改めて岸辺露伴のスタンドの恐ろしさを垣間見た。
「何かな?あぁ…ごめんね、首については。少し気が………上がりすぎてしまって」
「いえ、いいのです。私はか、構いませんから。それで、その……」
小さくて細い手が、わたしの手を握る。このまま
どうせ事件にはされぬのだし、頼めば自分から斬ってくれそうだな。
「わ、わっちは貴方様のことが……す……」
「ヨル」
入神の女が、冷えた一言を発した。
少女は肩をビクつかせ、縋るように見つめてくる。
かつて遊女は恋をしてはならなかった。だが中には花魁から性技の手解きを受ける振袖新造が、女色に堕ちるということもあったらしい。
「どうか、健やかで」
そう言い、烏羽の如き黒髪を掬い口付けた。
頰を染める少女は、わたしよりもよっぽど純粋で、綺麗だろう。
「このクズめッ」
して、船が出航したのち、かけられた最初の言葉がこれである。
行きとは違う種類の酔い止め薬を飲むわたしに、嫌悪感丸出しで睨みつけられてもどうしようもない。
向こうが勝手に好意を持ってきただけだ。
「利用するだけしてポイかァ?流石星ノ先生だなぁ…?」
「そうカッカするなよ。水分が足りてないんじゃないのか?飲むといいよ」
多めに持ってきたペットボトルを開封する動作をして渡すと、舌打ちした青年は奪い取り、飲み出す。
それから少し和らいだ吐き気と共に、ぼんやりと海を眺めた。
そして少し経ち、横から寝息が聞こえ始めた。
眠りの漫画家の誕生である。どうやらかなり疲れているらしい。
回収したペットボトルは中身を海に捨てて空にし、同じ量の分だけ減らした別のペットボトルを奴の場所に戻した。
「さて、ご老人。少し話をしたいんだが、構わないね?」
「…なんだ」
老人はこちらが村の情報を手に入れたことを察しているのか、表情が険しい。
あの島の因習をバラされては困る以上、言い逃れはしないだろう。
まず初めに、この男と村と関係を聞いた。
彼は昔──50年以上前、漁の作業中に事故に遭い、海を彷徨った。
その結果、『入神島』に行き着いてしまったそうだ。
当時村は完全に外部との接触を遮断しており、言葉も古めかしい遊女の廓詞だった。
男は祖父母から入神島の顛末を聞かされ知っており、元々女たちを哀れに思っていたらしい。
同族交配が多いということは、その分疾患も多く、寿命も短い。
皮肉にも、常識に疎い彼女たちは遊女としての知識から、短命を当たり前のこととして捉えていた。
村はみな若い女ばかりで。
流れ着いた彼を見た女たちは「これは
対し女たちを管理する入神家の人間は、この村の存続のため男を殺そうとした。
『お、お命だけは勘弁したもんせ!』
それに当時のイリガミ憑きは、一つ条件を出した。
────なればわっちたちに、御主の「誠意」を見せてくんなまし。
男はゆえに、誠意を示した。
渡された小刀で、
自分が彼女たちを害することはないと、女たちの前で証明して見せた。
そうして彼はイリガミ憑きに認められた。
それ以後男は彼女たちに受け入れられ、そして男もまた、哀れな彼女たちに尽くすようになったのである。
「それからは女たちが長く生きられるよう知恵を与え、今の体制になったのさ」
「哀れと思いながらも、随分酷な生き方を強いるじゃないか。本当に可哀想と思うなら、外の世界を知らそうとは思わないのかい?」
「……あの子らは外じゃ生きられねぇよ。俺もまた、あの子らから離れるには遅過ぎた」
歴史の果てに歪に出来上がった女たちが、外で生きるには
彼一人で補うにも限度があるが、その他の男を女たちが心から信用することはない。
わたしは場合は彼女たちの遊女としての気質と、叶わぬ「恋」という性質を利用しただけだ。
本当の意味で信頼を得るのは、難しいと判断したからこその方法だった。
「飛べないあの子らが外の世界を知っちまったら、きっとその命を捨てるだろうよ。だからこそ知らないままでいい。哀れなままでいい」
「…そうか」
他人が入る隙間もない、泥ついた狭い世界で生きる彼ら。きっとその行く末は近くない未来崩れるのだろう。それも恐らく、陰鬱とした終わり方で。
イリガミはもういない。この男もまた、長くないうちに歳で死ぬ。
「あぁ……そう言えば、少しいいですか?」
「あ?何…」
老人に一枚の写真を差し出す。
それは物心つかない頃の入神唯が、一人の女に抱かれている写真。
この女は前に出会った彼女の母親である。場所は公園で、撮影者は父親だ。
微かであれど幸せな時間もあったのだと、母親は語っていた。
「この少女の左手を見てもらえますか」
「…俺は何も知らん」
「
声を低くすれば、男は渋々見た。そこに映っているのは、左手の薬指が欠けた幼児の姿。
「あなたは基本的に船の操縦時以外は、左手を隠すようにしている。この少女は島にいた入神家の女のいとこに当たるそうだな。そしてその娘の母親は外の男に恋をし、最終的に赤子もろとも身投げしている」
「………」
「だが、少女は生きていた。コインランドリーの上に『入神唯』という紙と共に捨てられていた。時系列的に考えても、あなたの子ではない。だがもしこの村に来る前に息子がいたのだとすれば、あり得なくはない」
身体的疾患は、親から子へ遺伝する可能性がある。
同じ薬指がない。あまりにも偶然にしてはでき過ぎている。
母親がイリガミに祈り助けたにしても、手間がかかりすぎだ。誰かが意図的にコインランドリーに置いてきたとしか考えられない。
それに船を扱うこの男なら、女が落ちた後に救うことも可能だろう。
「…確かに、俺には息子がいた」
「やはりか」
「だがまだ赤子だった。指も俺とは違い全部あって、小さな手だったよ。嫁は息子を産んですぐに亡くなり、俺も遭難して何年も帰れなかった。俺の父も母も既に死んでいたし、他に身寄りもなかったろうな。それに生きていたとしても、俺の子じゃない。それは他の両親のもとで温かく育てられた、その両親の子さ」
俺はあの子らだけでいいのさ。そう男は語った。
「島に向かっている最中、崖から女が落ちる瞬間を見てな。急いで助けたが女の方はダメだった。でも赤ん坊の方はひどく冷たくなっておったが、生きとったんだ」
或いは女が死ぬ間際にイリガミに祈り、その子だけ助けたのかもしれない。
単純に赤ん坊の生命力が強かっただけなのかもしれない。
それでも、生きていた。
男はその赤子の指を見て、そして遠い記憶の我が子の顔を思い出し、全てを悟った。
「デカくなった息子を息子と認識できなかった時点で、俺は父親失格だ」
居場所を調べ、息子の元へ届けようとも思ったが、運命の巡り合わせか。
息子は島から戻った直後、事故で死んでいたことが発覚した。
かといって自分が育てることもできない。父親失格の自分では。
ゆえに誰かに拾ってもらえるよう祈り、置いていくしかなかった。
この子だけは、血の繋がる孫だけは外の世界で生きてほしい。そんなエゴを踏まえ、赤子は──入神唯は、
それが犬神事件の、最後の謎解きである。
この事実は後で岸辺露伴に言うとして、このままわたしは帰るとしよう。
潮風が頰を柔く撫でる。
天上には誰にも縛られることのない蒼い空が、どこまでも広がっていた。
────と、ここでわたしが終わらせるわけがない。
この男は知るべきだ。捨て子の少女の結末を。
その結果、出来上がった『影犬』を。
そして
偽善はいらない。
いるのはこの男が起こした行動の結果を、本人に知らしめることである。
自分の取った行動の責任は、きちんと償わなければならない。捨てて終わり?笑わせる。
助けたつもりだろうがその結果が回りに回り、わたしの平穏が崩される一端を担った。
大人ならきちんと責任を取る。当たり前の常識だろう?
「いい話だ。あなたは入神唯を救ったというわけだ」
「…救ったわけじゃねぇさ」
「この写真、とても幸せそうだろ?撮ったのは父親なんだ」
「あんたは……あの子の今を、知ってるのか?」
「あぁ、知っているよ。よければ話そうかい?」
暫し悩んだのち頷いた老人に、「では」と語る。
「まず
ハッピーエンドが、物語の当たり前だと思うなよ。