転生したら殺人鬼ポジだった件   作:クリーニング黒兎

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修正してたらいつの間にか一万字超えてたのでわけました。
あと前回思った以上に誤字フィーバーしてました、報告して下さった方々に感謝とシアハ(幸せハートアタック)を。


61話 主人公「同僚」(偽)

 川尻浩作は、妻と息子を持つごく普通のサラリーマンである。

 勤め先はカメユーデパートで、業務態度も取り立てて悪いところはない。

 

 妻子持ちではあるが、その寡黙な印象から女子社員からのウケがよく、昼食に誘われることも多かった。

 彼の同僚が目にすれば「やめとけやめとけ!」という言葉と共に、仔細なプロフィールを教えてくれるだろう。

 

 そして今日も今日とて川尻に断られた新入社員の女たちが、残念そうに呟く。

 

 

「妻子持ちじゃ仕方ないけど、ご飯くらいはいいと思うのに、ねぇ?」

 

「クールっていうか、ミステリアスっていうか……一度くらいご一緒したいわぁ」

 

「まぁいいじゃないか。せっかくだし俺と行こうぜ?」

 

「えー、「同僚」さんじゃイヤよぉ。華がないわ」

 

「これって()()()()ですよぉ、セ・ク・ハ・ラ」

 

「おいおい、川尻はいいのに俺じゃダメなのかよ」

 

 

 川尻によく付いて回る男は、川尻の同僚ということで、いつの間にか「同僚」と呼ばれるようになった。

 

 男の名前が何だったか、思い出そうとしても中々出て来なくなるほどには、同僚の印象が強く広まっている。

 所謂愛称で、本人も何故かまんざらではない。何故だ。

 

 

「川尻さんって、入社当時からあんな感じだったんですか?」

 

「いや、最初の頃は違かったさ。何があったのかはわからんが、一時期落ち込んで以来、今みたいにあまり人と関わらなくなったんだよ。元から人付き合いが苦手そうなヤツではあったけどな」

 

「へー……もしかして、不倫がバレて奥さんに家出されたとか?」

 

「さぁな。まぁアイツにも色々あるんだろうよ」

 

 

 そのあと同僚は女社員とさらに盛り上がり、共に食事に行った。

 

 しかしこの話が嫁にバレ、後日嫁さん仕込みの愛犬による尻噛み攻撃を受けた。

 

 それから同僚は他の女にちょっかいをかけなくなったとか、やっぱりかけたとか。

 

 

 終盤の人数の減ったババ抜きのごとくジョーカーを引きやすいこの杜王町で、彼は平穏な日々を過ごしている数少ない人間の一人である。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 閑話休題。

 

 

 川尻浩作の前に犬が現れたのは、同僚と飲みに行ってからさほど日が経っていない頃だった。

 

 彼は飲みの席で同僚から“ある事実”を知らされた。お互い世帯持ちで吉良は結婚しているのか、という流れからその話になった。周囲を確認し、同僚は声を潜める。

 

 

『アイツの彼女は亡くなってるよ。ほら……例の“S一家殺人事件”ってあっただろ…』

 

『………』

 

『…仕方ねぇよ、お前は知らなかったんだから』

 

 

 川尻は電車で吉良と偶然会った時のことを思い出した。

 

 あの時すでに吉良は彼女を失っていたのだ。

 ということは、川尻は喪中の男に「幸せになってくださいね」と言ったことになる。

 

 幸せの絶頂だった彼とは違い、向こうはドン底の中だったのだ。

 

 そこまで考え、川尻は自分自身を激しく責めた。

 

 

 精神的に追い込まれて行った川尻浩作は、「入神唯」の件も思い出し、日に日に病んでいった。

 

 そうして彼は、無意識に救いの手を求めたのだ。

 

 

 

 

 

 日本の神仏──神社でいうと、「願」とは等価交換である。

 

 これは仏教における『因果応報』に近い考え方で、自分の投げかけたものがそのまま自分に返ってくるという鏡のような仕組みになっている。

 

 また、神道における『敬神崇祖』と感謝。

 

 これも単純に物と物の交換ではなく、感謝を伝えることで神とのご縁が深まりさらなる加護をいただくという、真心の交換が大切になる。

 

 ここで我欲が強いと、たちまち交換のバランスが崩れてしまうと言われる。

 

 さらに『徳』を貯めるという考え方もある。

 

 誰かに親切にするなどして積まれた徳は、忘れた頃にその人に一番必要な形で返ってくる。

 これが宇宙規模の等価交換である。

 

 

 

 まぁ、あくまでこれは例え話。

 

 神などいないと言ってしまえばそこまでだった。

 

 

 

 しかし幸か不幸か、川尻浩作の「願」に対し神は現れた。

 それも厄介な神である。ソレを神と呼ぶべきか、スタンドと呼ぶべきかは曖昧だが。

 

 黒い犬のようなものは影から現れた。

 

 ()()()()()()()()()()

 

 

『……犬?』

 

 

 ここで留意すべきは、川尻浩作が吉良のスタンドであるキラークイーンを見ることができたことだ。

 

 彼は片桐安十郎が放った「矢」に射抜かれてはいない。

 スタンドが見えたのも、墓参り中の吉良と出会った時が初めてだった。

 

 その時は見たらアカンものだとすぐに思考の外へ追いやったが。

 

 

 イリガミ──即ち『影犬』に憑かれた場合、人は自動的にスタンド使いとなる。

 

 これはジョナサンの身体を奪ったDIOがスタンドに目覚めた後、能力を得ることになった承太郎やジョセフが参考になる。

 彼らは先祖(ジョースター)の繋がりによって、スタンド能力を開花させた。

 

 スタンド使いである一方が、もう一方の精神や肉体に影響をもたらす。

 影犬もこれと同じ原理だ。

 

 強制的にリンクが繋がれたことで、川尻はスタンドを知覚できるようになった。

 ただ「入神島」の人間ではない彼では、影犬は取り憑けないはずだった。

 

 しかし川尻浩作が「中村唯」に好意を抱いていたのが影響したのか、移植された他人の臓器のように、拒絶反応が起こることはなかった。

 

 

 

 それにしてもいったい、『イリガミ』はどこから来たのだろうか?

 それについては、川尻に取り憑いた犬自身が語った。

 

 犬は彼の夢の中に現れ、かつての話をした。最初は黒い大型犬の姿だったが都合がいいのか、途中から中村唯の姿に変わった。

 

『ッ……!!』

 

 川尻ははじめ混乱したが、少女の口角が上がった瞬間、()()()()()と理解できた。

 中村唯という少女はどこまでも無表情で、静寂な水面のごとき人物だった。

 誰かに笑いかけるなど、決してなかった。

 

 

『ボク ナカムラユイのなかにいた ナカムラユイは ボクのママだった ほかにもたくさん ママがいた』

 

『ママ?中村さんの……?』

 

『ボクは ねがいをかなえる にんげんのねがいを』

 

『…中村さんは、何か願ったのか?だからオレにお前は取り憑いたのか?』

 

『ナカムラユイ ねがった ボクに しぬときねがった』

 

 

 ────みんな、死ね。

 

 

 そう願われたイリガミだったが、まさか一人の命を代償にして叶えられる願いではない。

 

 1980年代初頭の世界人口である約40億人と、一人の命が釣り合うわけがないのだから。

 

 元々イリガミは嵐が来た際に女たちを守るなど、「願い」で誰かを殺したことはなかった。

 

 遊女たちが始末されようとしたあの時は、イリガミ自身がママ(女たち)を守るために殺したのだ。それに女たちもまた、神聖な存在を穢すような願いをしなかった。

 

 イリガミにとってのバグはそれだけではない。

 

 中村唯に憑く前の人間、即ち唯の母親に憑いていた時だ。

 女は海に落ちながら、イリガミに願った。

 

 

 ────わっちたちと御主の繋がりを、切ってくんなまし 。

 

 

 それは女の命を奪うことを代償とし、果たされた。

 その願いは“愛”する心を奪われた女の、村に対する復讐だったのかもしれない。

 

 母の母胎から切り離す時、へその緒を切るがごとく。イリガミは自由を手に入れた。

 

 

 この時点で入神島の女たちと関係のなくなったイリガミは、()()()()()()()()()()()存在へと変化した。

 

 憑く対象は老若男女問わない。その代わり憑いた人間が心から願うことがなければ、姿を認識されない事態が起こった。

 

 それも中村唯のように、心の底から絶叫するレベルでなければならない。

 人間の業は尽きることがないゆえに組み込まれた、選別方法なのだろう。

 

 同時にイリガミは人の「願」を叶えその代償を得なければ、存在することができなくなってしまった。

 

 

 しかもだ。中村唯はイリガミに叶えられない願いを残して死んでいった。

 

 この時点で弱体化もいいところなイリガミ──否、『影犬』は、仕方なく近くにいた川尻浩作の影へと逃げた。

 

 そして宿主を変える力もなく、長らく存在を認識されなかった影犬に、ようやくチャンスが回ってきた。

 

 

 

 

 

『たすけてほしいんだね カワジリコウサク』

 

『…!』

 

 

 そう、川尻は祈ったのだ。助けて欲しい──と。

 

 深すぎる罪悪感に耐えられなくなった。中村唯が死んだ時は、祈る前に川尻の心が壊れてしまった。

 しかし今の彼は壊れることができない。なぜなら愛する妻と子がいるからだ。

 

 だから、祈るしかなかった。

 

 

『助けて、くれるのか?本当に……?』

 

『ボクは「かげいぬ」 ひとのねがい かなえるそんざい さぁ いのって ボクにいのって ねがいをかなえる カワジリコウサクのねがい』

 

『ッ……頼む、オレを……助けてくれ……!!』

 

 

 それに影犬は、中村唯の姿で優しく笑った。

 

 過去の罪悪感だとか、しのぶへの想いだとか。そんな全てを吹き飛ばしてしまう妖しい何かが、そこにはあった。

 

 深淵を宿す瞳の奥には果てがない。

 それに吸い込まれるような感覚がした直後、川尻は目を覚ました。

 

 

 

 

 

 以後、川尻の中で罪悪感は見る()もなくなった。

 単にそれは影犬がその感情を引き受けたというのが、夢で聞いた説明である。

 

 だが忘れてはならない。「願」とは等価交換であることを。

 

 

 影犬はいったい彼の願いに対して、何を代価としてもらったのか。それは、川尻の付けていた日記を見ればわかる。

 

 初めは些細な変化だ。朝起きて歯を磨いていたはずが、いつの間にかキッチンにいて、嫌いなはずの椎茸を食べていた。しのぶが「皿を間違えているわ」と慌てて変えたのが始まりである。

 

 それから気づけば、一瞬のうちに周囲の状況が変化していることが増えた。

 影犬にこの異変を伝えれども、中村唯の姿をした存在は不思議そうな顔をして、「わからない」と言う。

 

 

 そう、()()()()()のだ。影犬からしてみれば。

 

 

 もちろん川尻の異変はこの犬の仕業だった。仕業とはいっても、影犬は自分の行いが“悪い”と認識していない。

 

「願」の代価として起こっていることになぜ人間が焦るのか、()()()()()()()

 

 

 時間が経つほど、川尻に()()()()()が増えていく。

 

 その間の彼は“川尻浩作”でありながら川尻浩作ではない存在になっていて、妻には冷たい態度を取られることが多くなった。

 同僚には、「最近おまえ大丈夫か?」と心配されることが増えた。

 

 最終的には一日の、ほんの少ししか意識を保っていられなくなった。

 

 何故だ、何が起こっている。相談しようにも妻や息子を巻き込むわけにはいかない。

 

 

 川尻はそして意識のある僅かな時間を使い、己の異変を日記に書き留めた。

 

 一日の空白の時間をこと細かに書く。これを持って精神科にも訪れたが、検査結果は異常なし。

 それはそうだ。影犬が彼のストレスを背負ってくれているのだから。

 

 

 それだけでなく、()()()()()()、背負ってくれているのだから。

 

 

 川尻浩作の代価として、影犬は彼の存在そのものをいただいた。少しずつ、少しずつ。

 

 そして最終的に、影犬が「川尻浩作」になる。

 肉体さえ手に入れば、影犬という存在はより強固なものになる。曖昧な存在ではなくなるからだ。さらに人の願いも叶えやすくなる。

 

 ここにきて、影犬はさらなる変化を遂げた。

 

 

 身体が手に入り、()()()へと変わったのである。

 

 これにより複数の人間の願いを、等価交換ありきで行えるようになった。

 要はワンコ版キュウべえの誕生である。

 

 そしてその願いの代価に、影犬は人間の生命エネルギーを得ることとなった。

 

 川尻浩作に成り代わった()()は、元の人間の情報を本体から得て、それに基づき行動する。まるでプログラミングされた機械のように。

 

 

 この時点で「川尻浩作」の人格は消えていた。

 

 

 しかし彼は「日記」だけは守り通した。影犬の意識がある時に見つからないよう、細心の注意を払って。最後の方は、マトモに書くことさえできなかったのだが。

 

 川尻はどうすれば助かったのだろうか。

 犬に取り憑かれたのだと騒げば、きっと異常者扱いされて終わりだった。

 まぁもう、すべてが遅い。

 

 

 すでに川尻浩作はいないのだから。

 

 あるのは彼の最後の「願い」が残された、日記だけ。

 

 

 

 ────オレを、ころしてくれ

 

 

 

 この最後のミミズ文字を見た時、殺人鬼の性を持つ男はいったい何を思い、そして感じたのだろう。

 

 答えは簡単だ。

 

 吉良吉影は平穏に、普通に暮らしたい。

 しかし禍根がある以上、平穏に暮らすことはできない。

 

 

「では、殺そうじゃないか」

 

 

 吉良は()()()()()()()()()()()()

 

 逆に言えば、自分が殺さないなら他人を利用して殺してもいいと考えている。

 

 川尻浩作の姿をしたソレは人間の姿をしているが、中身たる精神がない以上、人間ではない。

 

 だが川尻浩作の精神がまだ残っている可能性もある。

 それらの考察を深める上で日記を見た吉良は、『イリガミ』の件を調べた。

 

 

 

 

 

 つまるところ吉良の犬神探しは、大義名分を得る旅だった。

 

「川尻浩作を殺してもいい」という、大義名分。

 

 川尻浩作の精神は既になくなったのか。

 犬神とはその人間の精神を乗っ取ってしまうほどの脅威があるのか。

 そして犬に乗っ取られた今の川尻浩作は、自分の平穏を害する存在であるのか────。

 

 それらを含めいっときの平穏を犠牲にし、らしくもないことをしてまで調べた。

 

 そして杜王町へ戻ってきた吉良吉影は、最後の答えを出す。

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